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第一章

第二話

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 俺の鑑定が終わり、牧師さんがルカを手招きする。

「ルカ。次は君の番じゃ。おいでなさい」

 ルカはおずおずと牧師さんに近寄ったが、視線は俺に向けられたままだ。

「エイベルがダメなら僕もダメに決まってる……。だから鑑定なんてしなくていいです……」
「見てみんと分からんよ」

 牧師さんが詠唱を始めた。その間もずっと、ルカは俺を見つめている。
 俺は思いっきり目を瞑り、出そうになる涙を必死に引っ込める。それから頑張って笑顔を作った。

「ルーカ! 大丈夫だ! 俺はちょーっと運が悪かっただけ! お前は大丈夫!」
「エイベル……。僕、エイベルが村から出ないなら――」

 ルカの言葉の途中で、牧師さんがステータスパネルをルカに見せた。

「ルカ……! なんということだ、これは……!!」

 牧師さんが興奮するほどのステータスが気になって、俺もパネルを覗き込む。


 -------------------
 名前:ルカ
 レベル:17
 体力:70
 知力:200
 魔力:220
 攻撃力:50
 防御力:50
 -------------------

 正直に言うとショックだった。
 俺のほうが高いと思っていた体力も攻撃力も防御力も、全部ルカの方が上だった。

 さらに、牧師さんの次の言葉でショックが大きくなった。

「体力、攻撃力、防御力は平均的だが、知力と魔力が素晴らしい! その年齢で二百を超える能力を二つも有しているとは……」

 これで平均なのか……。じゃあ俺のステータスってやっぱりカスなんだな……。

「さらにスキルが三つも解放されている……! しかもとんでもなく珍しいスキルじゃ……!」

 -------------------
 スキル1:「ヴラス神の牽制lv.1」
 知識欲が大幅にアップする。知識欲を満たしているときは大量の経験値を得られ、魔法技術習得率大幅アップ。
 ただし、睡眠欲、食欲、性欲が大幅に減少する。

 スキル2:「ヴラス神の監視lv.1」
 善行を行えば知力と魔力のステータスが+1、悪行を行えば全ステータスが-1。
 ただし、善行か悪行かはヴラス神の御心に依る。

 スキル3:「ペト神の恩情lv.1」
 運・回避率・クリティカル率が+30%
 ただし、神から与えられた運命には抗えない。
 -------------------

 俺は唾を呑み込んだ。

「全部〝〇〇神の〟って付いてる……。これってもしかして……」
「そうじゃ……! ルカは三つもの神の加護スキルを持っているということ……!」
「牧師さん、神の加護スキルってものすごいレアなものなんでしょ……!?」
「エイベルの言う通りじゃ。一生かかって一つも得られない者が大半じゃ。それも万能神ヴラス様の加護なんぞなおさら……! こんなもの、一つ持っておるだけで国からお声がかかるほど希少なものじゃ……!」
「へぇぇぇ! すごいじゃん、ルカ!! お前ってやっぱすごかったんだなあ!!」

 ルカは小柄で気弱だし、ケンカには弱いけど、すごく賢いヤツだっていうのは俺が一番知っているつもりだ。それにルカは村で……いや世界で一番優しくて善良なヤツだってことも。
 だからルカが神さまの加護を三つも持っていると知っても、俺は驚かなかった。

「神さまはずっとルカのことを見守ってくれてたんだ! それで、ルカがあんまり良いヤツだから思わず三つも加護を与えちゃったんだな! 分かる! 俺も神さまだったらルカにいっぱい加護あげたいもん!!」
「エイベル……」

 当のルカは全然嬉しくなさそうだ。それどころか沈んだ顔をしている。
 俺はすぐに、なぜルカがそんな表情を浮かべているのか分かった。

「ルカ。俺のスキルがクソだったことと、お前のスキルがすごいことは別物だろ? 俺のこと気遣ってくれてんのは嬉しいけど、その前にちゃんと自分のこと喜ばなきゃ!」
「……」
「俺は嬉しいぞ? 親友のルカがすげーヤツだったなんてさ! ま、俺ははじめっから分かってたけどねー!」

 やっぱりルカは良いヤツだ。
 もし俺とルカの立場が逆だったら、俺はルカの気持ちなんてお構いなしに大喜びしていたに違いない。人のことを考えられなくなるほどすごいことだと思うんだ、これは。
 それなのに、ルカは最後まで笑うこともしなかった。

 ルカは俺から目を逸らし、ステータスパネルを指でなぞる。

「牧師さん……。このスキルがどれもすごいことは分かりました。でも一つ気になることが……」
「なんじゃ?」
「ペト神の〝恩情〟はともかく、ヴラス神の〝牽制〟〝監視〟……。加護という割には、スキル名が不穏な感じがして……」
「ふむ……」
「これは本当に〝加護〟なのでしょうか」

 細かいところを気にするのはルカの癖だ。スキル名がどうであれ、スキル内容がすごいんだからそれでいいじゃないか。
 牧師さんも俺と同じことを思ったようで、ルカをなだめていた。

「確かに少し気になるスキル名ではあるが、あまり気にすることもあるまい。とにかく、ルカは文句なしに一人前の大人じゃ。おめでとう」
「……」
「して、どうするのじゃ? 村を出て冒険に出ると言っておったが」

 ルカは大きく首を振り、そっと俺の腕にしがみついた。

「エイベルが村から出られないなら、僕も村から出ません」
「いやしかし、このステータスとスキルを持っておきながら、こんな小さな田舎村で腐るのはもったいない。ルカは今すぐ村を出て、王城に向かうべきじゃ」
「いやです。エイベルと離れ離れになるのはいや……」
「うぅぅん……」

 牧師さんがいくら説得しても、ルカは「村を出て行かない」の一点張りだった。
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