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一年:三学期~学年末考査

第四十二話

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 授業終わりのチャイムが鳴ると同時に、凪が保健室に飛び込んできた。

「理玖! 大丈夫!?」
「あー……大丈夫」
「ごめんなあ……! 理玖が体調悪くなったの、絶対昨晩の中出s――」
「ちょっ……」

 俺は顔面を殴る勢いで凪の口を塞いだ。

「おまっ……お前っ、お前バカなのぉ!? なんでボロボロそういうこと口から出んのぉ!?」

 そのせいで高梨先生に目ぇ付けられてケツとちんこいじられたんだぞ分かってんのお前!!

「ご、ごめん!」
「ほんとに気を付けろよお前!!」
「はいっ!」

 あー。保健室でいるときだけは、こいつと一緒にいるのがめちゃくちゃ疲れる。

 そしていつものようにタイミング良く(今回も聞き耳立てていたんだろうなあ!)、高梨先生がカーテンを開けた。

「鳥次くん、体調はどうだい?」
「はあ。だいぶ良くなりました」
「だろうね。ふふん」
「きっしょ……」

 得意げな顔すんな。お前は面白半分に俺のケツとちんこいじっていただけだろうが。

「またいつでもおいで、鳥次くん」
「いえ二度と来ませんよこんなとこ」
「ははは。そうやってツンツンしている子ほど来るんだよねえ」
「ふざけんなっ。このクソ教諭がっ」

 俺は鼻息荒く保健室をあとにした。うしろから凪が追いかけてくる。不思議そうな顔をしている。

「理玖。高梨先生となんかあった?」
「べっ……別に! なんにもないけど!!」
「……ふーん」

 凪は振り返り、保健室のドアに目を向ける。

「……理玖が俺以外の人の前で素を出して話してるの初めて見た」
「そうかあ?」
「そうだよ。いつもだんまりじゃん。なんで? 高梨先生と仲良いの?」
「むしろ逆!! めっちゃくちゃ嫌い!!」
「……ふーん」

 一時間前までそんな素振り見せてなかったのに、と凪が呟いた。

「ほんとに高梨先生となんもなかった?」
「なんもなかった! しつこい!」
「ふーん」

 この日の夜、久しぶりに凪から手を出してきた。

 でもいつもとちょっと様子が違って、なんか不気味だった。
 全身を隅々まで観察するように見つめられた。腋の下とか、うち太ももとか、そんな普段見ないようなところまでじっくり。まるでなにかの痕跡を探しているかのようだった。

 ケツ穴に指を差し込んだとき、凪が「ん……?」と低い声を漏らした。

「……なんかゆるくない?」
「そ、そうか……? いつもこんなもんだろ」
「そうかな……」

 俺が射精したときもちょっと怖かった。
 俺の精液を指ですくい、疑わしい目で俺を一瞥する。

「なんかいつもより量少なくない?」
「そ、そうか……? 俺には分かんないけど……」
「ふーん」

 凪は無言でちんこを一気に奥まで押し込んだ。(今日はコンドームをちゃんと付けている)
 そして、俺を冷たい目で見下ろす。

「いつもより反応悪いよな」
「そ……そんなこと……」
「それにやっぱゆるい」
「べ、別に……」

 凪は俺を黙らせるように、激しい一突きを食らわせた。

「あぅっ……!」
「なあ、理玖」

 凪が顔を近づける。キスされると思って目を閉じたが、キスではなく両頬を乱暴に掴まれた。

「うっ……」
「怒らないから正直に言って」
「……」

 もう怒ってるじゃん……

「高梨先生となんかした?」
「……」
「なあ。なんか言って」

 怖い。
 凪の目がギラギラしている。殺意高め。
 正弥に向けていたみたいな目を俺に向けるな。怖いです本当に。

「なんも言わないの?」
「……た」
「聞こえない」
「……しました」

 正直に言わないと殺される。正直に言っても殺されそうだけど。

 凪の手の力が強くなった。あごの骨が砕けそうだ。

「ちがう……聞いて……」
「……」
「説明するから……」
「……」
「う……凪、痛い……」
「っ……」

 少し凪の手が緩んだ。
 俺はとつとつと白状する。
 中出しセックスが原因で腹を壊した俺のケツから、先生が精液を掻き出してくれたこと。それと、ついでに勃起したちんこを鎮めてもらったこと。

 それを聞いた凪は、ケツからちんこを引き抜いた。

「凪……」

 俺のこと嫌になったか……?

「……ごめん。俺のせいなのに、あんな怒り方して」
「いや、俺の方こそ、嘘ついてごめん……」
「ううん。そもそも俺が怒るのおかしいし」
「……」

 でも……と言って、凪が腰を上げた。そして俺の胸の上に座り込む。

「……?」

 今から俺は何をされるのだろうか。

「ごめん。ちょっと……抑えらんない。許して」
「……? ……!?」

 おもむろに、凪はコンドームを外し、ちんこをシゴきはじめた。
 こんなドアップでオナニーしているところははじめて見た。くちくちやらしい音鳴らしやがって。そういう雰囲気じゃないって分かっているのに、目の前の光景に興奮してしまう。

 我慢汁が俺の首元に落ちる。なにこれ。ちょっと……良い。

「……っ、んっ……!!」
「っ……。!?!?」

 射精する直前、凪が腰を上げた。そして俺の顔面に向けて、精液を飛び散らせる。

 ――顔射だ。顔射された。

「――……っ」

 なんか、凪のものにされた気分。

 忌まわしいことに、顔射されるのははじめてではない。
 でも、芽生えた感情は正反対だった。

 凪が幼稚な支配欲を晒したように思えた。
 それがとてつもなく……嬉しかった。

 さらに凪は、その精液を指で塗り込むようなしぐさをした。
 なに、お前。なにやってんの、それ。
 そんなことしなくても、俺、どこもいかねえよ?

 やりたいことをやるだけやって、やっと凪が正気に戻った。

「理玖……ごめん……俺、またやっちゃった……」
「別にいいよ」
「はあ……俺まじ最低……」

 なんだろ。ダイエット中の人が暴飲暴食したあとに落ち込む姿を見ているようだ。
 すっきりしたあとしか自戒できないヤツ。
 別に無理に変わろうとしなくてもいいのにな? なんでか理想を追い求めて無理しようとするんだよ。誰もそんなこと望んでいないのに。そのままでいいのに。

 凪が落ち込みすぎて布団にくるまって出てこなくなった。
 俺は布団越しに凪を抱きしめる。

「俺、先生のことなんとも思ってねえよ?」
「……」
「あと、さっきのことも別になんとも」
「……」
「そんな落ち込むなよ。な?」

 凪は布団からひょこっと顔を出した。涙目になっている。

「俺……理玖に絶対したらダメなことした……」
「別にしていいってば」
「俺、やっぱりあいつと同じだぁ……」
「あいつとお前を一緒にすんな。全然違ぇよ」

 本気で落ち込んでいる凪には申し訳ないけど、いつも明るい凪が泣きそうになりながら自分を責めているのが可愛くてしょうがなかった。ギャップ萌えというやつだろうか。

 いや、たぶん俺、こいつならなんでもいいんだ。
 明るくても暗くても、ポジティブでもネガティブでも。
 中出しされても、顔射されても。
 それが凪なら、なんだって許せてしまう。
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