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一年:冬休み

第二十八話

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 エロいことをしたあと、俺たちはベッドでぼうっとしていた。
 一人でなにか考えていたのだろう。凪がクスクス笑った。

「それにしても意外。理玖、今日がクリスマスイヴだって知ってたんだ」
「知らなかったんだけどな! テレビ見て気付いた」
「で、今日は一日何してたの? 誰かと会ったりしてないよな?」
「してるわけねえだろ。勉強してた」
「わー、通常運転。……そっかあ、よかったー」

 それから凪がずいと俺に顔を寄せる。

「じゃあ理玖はクリスマスイヴらしいこと何もしてないんだ?」
「してないなー」

 クリスマスイヴらしいことをしたことが人生で一度もないわ。

「だったらさ、一緒にケーキ食べようよ」
「は? 今から?」
「うん。コンビニで売ってるだろ」

 クリスマスイヴに凪とケーキ……

「……い、いいの?」
「なにが?」
「お、俺なんかと一緒にケーキ食って……」
「うん。理玖とケーキ食べたい」
「……分かった。行こ」

 俺たちはコンビニで小さなホールケーキを買った。
 皿に載ったケーキを眺め、俺はフリーズしていた。

 家族以外の人と一緒にケーキ食べるの、はじめてだ。
 しかもクリスマスイヴに、凪と一緒になんて。

「理玖? 食べよ」
「お、おう」

 こんな夜中に甘ったるいものを食べるなんて。胃もたれしそう。
 だけどその背徳感もちょっと良い。
 凪のクリスマスイヴの夜を奪った罪悪感も相まって、俺がものすごく悪いヤツに思えてくる。それと同時に、ちょっとした優越感が俺のまわりをふわふわと漂う。

 クリスマスイヴの夜に、凪が俺とケーキを食べている。たぶんこのあと凪は俺のベッドで寝るのだろう。……俺と一緒に。

「……」

 こいつと勝負を始めてからなんか変だ。
 それまで勉強しかすることがなかったのに、他にすることがたくさん増えた。
 勉強のことしか頭になかったのに、最近は別のことに半分くらい脳の容量を割かれている気もする。

 ずっとボッチだったのに、隣にこいつがいることが当たり前になりつつある。
 孤独な時間が寂しいと感じるようにまでなってきた。

「理玖、美味しいな!」
「おう、美味い」
「もっと大きいの買ってくればよかったなー!」
「そうか? このくらいがちょうどいいよ」

 凪は俺の、はじめてできた友だちだ。
 はじめて一緒にゲームをしてくれた。
 はじめて一緒にケーキを食べてくれた。
 友だちという概念が、こいつのおかげでどんどんアップデートされていく。それがなんだか嬉しい。

「凪、ありがとな」
「ん?」

 このときの俺は、ちょっとしたトランス状態に陥っていたんだと思う。
 だからあんなことを口走ってしまったんだ。

「お前がいてくれてよかった」
「えっ? なんだよ急に。照れるじゃん」
「俺、お前のこと好き」
「えっ……」
「……」
「……」
「!?」

 俺今なんて言った!?

「……理玖、今なんて言った……?」

 ほらみろ凪もドン引きしてる!!
 俺は動揺したあまり勢いよく立ち上がった。

「とっ、友だちとしてな!? 変な勘違いすんなよ!?」
「あっ……」

 凪は困惑した表情を浮かべていた。それから顔を真っ赤にして、ごまかすように笑う。

「あっ、あはは。わ、分かってるって!!」
「そ、そうだよ!!」
「そ、そうだよなっ。あはは。あー、びっくりしたー。はは……」

 凪の作り笑顔がだんだんくすんでいく。
 ごめんって。そんな顔すんなよ。悪かったってば。

 こんなこと言われたら困るよな。
 友だちだもんな、俺ら。俺にとってもお前はちゃんと友だちだ。
 だからそんな顔しないでくれよ。

 せっかくできた友だちを、うっかり発した一言で失ってしまうところだった。
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