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一年:冬休み
第二十一話
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期末考査後の残りカスみたいな授業が終わった。明日から冬休みだ。
「りーくっ」
「ひぅっ……!」
放課後、凪に声をかけられて、俺は大げさにのけぞった。
風邪を引いたあの日から、凪に対して過剰に反応してしまう。あいつに声をかけられるだけで心臓はバクバクするわ、顔が赤くなるわでたまったものじゃない。
「今日理玖んち行くからよろしく!」
「ハ、ハイッ……」
あの日以来、はじめて凪がうちに来る。一緒にゲームして、一緒にメシ食って、一緒に……
「アババババ……」
凪とキスしたりちんこしごき合ったりしているところを想像して、一人でテンパッてしまった。はたから見ていたらさぞ滑稽だったに違いない。
クソッ、あの日からなんか変だ。俺がいつも以上にキモい。
大慌てで買い物に行って、凪の好物であるハンバーグをこねこねこね出した俺がキモい。
必要以上に掃除して、ベッドとソファにファブリーズをふりまくっている俺がキモい。
歯磨き五回くらいしている俺がキモい。必死にちんこ洗っている俺がキモい。
「何してんの俺!?」
全てを済ませてから、俺は壁に頭を打ち付けた。
これじゃあまるで、彼氏を待っている彼女みたいじゃねえか……!! えっ、キモォ……!!
自分のキモさに恐れおののいているときに、インターフォンが鳴った。
「ヒェゥッ」
なんで? なんでこんな緊張すんの!? 今までも幾度となく招いてきたじゃねえか!!
凪にこのテンパり具合がバレないよう、冷静を装って玄関のドアを開けた。
「ただいまぁ~!」
「お、おかえり。……いや、ここはお前の家じゃない……」
「ん~、理玖~~~」
凪は満面の笑みで俺を抱きしめ、「んーーまっ」という効果音がぴったりの、甘ったるくもふざけたようなキスをしてきた。
こいつは俺の気も知らずに通常運転だな……。腹が立つぜ。
「おっ! 良いにおいする! もしかしてハンバーグ!?」
「あたり。いっぱい作ったから好きなだけ食っていいぞ」
「おわー! 最高! 腹減ってたんだよぉ~!!」
「……」
凪といたら変な気持ちになる。
なんか、俺までキラキラしてくるような感覚。
鬱々としていた日常が、まるで小学生が描いた空みたいな、単純に明るくて能天気な景色に見えてくるような。
「理玖! このハンバーグめっちゃ美味い!」
「当たり前だろ。俺が作ったんだから。……ってもう一個食ったの!?」
「おかわり!!」
こいつといたら俺まで自然と笑顔になる。
なんだ、俺ってこんな風に笑えんだって、自分でもちょっとびっくりした。
メシとシャワーを済ませた俺たちは、いつものようにゲームをしていた。
そんなとき、凪がモニターを見つめたまま尋ねてきた。
「理玖さ、俺以外に仲良い人、ほんとにいないの?」
「いないよ。見て分かんだろ」
「高校にはいなくても、中学校とか小学校の友だちとか……」
「残念ながらいません。誰一人として」
「そっかあ。よかったー」
よかったってなんだよ。よくねえわ全く。
「理玖さ、あれからあの服着てないよな?」
「あー博物館行った時の服? 着てないけど」
「ほんとに? 俺に隠れて着てたりしない?」
「着てない。着れるかよお前の精液ぶっかけられた服なんて」
「そっかあ。よかったー」
さっきからなんなんだこいつは。
「理玖さ、俺以外の人の前で前髪上げたりしてない?」
「してない」
「ほんとに?」
「ほんとほんと」
「そっかあ。よかったー」
「なあ、さっきから何? この不毛な問答は」
正直言ってめんどくさいんだが。
凪は「あっ……」と頬を赤らめ、俺から目を逸らした。
「い、いや。別に」
「そ」
「でさ、理玖はさ――」
「は? まだ続けんの?」
「――好きな人とか、いる?」
「え」
今度は俺が頬を赤らめる番だった。いや、なんで頬なんて赤らめているんだ俺は気持ち悪い。
好きな人、と訊かれて、ぱっと思い浮かんだのが凪だったなんて言ったら、こいつはドン引きするだろう。
~~いや、そういう好きじゃない! 恋愛的な好きじゃないんだがな!?
友だちとして! そう! 友だちとして好きだ、こいつのことは!!
頬が赤らんだのは、この前の看病のことで頭がふわふわしていただけでだな!!
決して! 俺は決して! こいつのことを恋愛対象として見てはいない!!
友だちとキスしたりちんこいじり合ったりするのも、性欲真っ盛りの男子高生にはよくあることだろう!! な! 俺はよく知らないけど、そういうもんだろ!!
「……もしかして、理玖、好きな人――」
「いない!! いるわけない!! 絶対いない!!」
俺の力強い返答に、凪は安堵の表情を浮かべた。
「そっかあ。よかったー」
「あ……」
そっか。そういうことか。
凪、俺に惚れられてんじゃないかって心配だったんだな。
……そりゃ、こんな俺に惚れられたらかなわないよな。
俺、童貞で恋愛経験もないから、ちょっとキスされたりちんこいじられたりしただけで勘違いするんじゃないかって、心配だったんだろうな。
安心しろ。お前が心配するようなことにはならないから。
……ならないように、ちゃんと気を付けるから。
凪はへにゃんと顔をほころばせた。
「よかったあ。ちょっと心配だったんだ」
「……おう。大丈夫だ、俺は」
「そっかそっか。うん、よかった」
「……おう」
ふと、キスしたいと思ったのだろう。
凪はコントローラーを持ったまま、俺の唇を奪った。
こいつはちょっと、残酷だ。
遠回しに惚れるなって言いながら、こんなことをしてくるんだから。
能天気な空が描かれていた俺の脳みそが、真っ黒に塗りつぶされた。
「りーくっ」
「ひぅっ……!」
放課後、凪に声をかけられて、俺は大げさにのけぞった。
風邪を引いたあの日から、凪に対して過剰に反応してしまう。あいつに声をかけられるだけで心臓はバクバクするわ、顔が赤くなるわでたまったものじゃない。
「今日理玖んち行くからよろしく!」
「ハ、ハイッ……」
あの日以来、はじめて凪がうちに来る。一緒にゲームして、一緒にメシ食って、一緒に……
「アババババ……」
凪とキスしたりちんこしごき合ったりしているところを想像して、一人でテンパッてしまった。はたから見ていたらさぞ滑稽だったに違いない。
クソッ、あの日からなんか変だ。俺がいつも以上にキモい。
大慌てで買い物に行って、凪の好物であるハンバーグをこねこねこね出した俺がキモい。
必要以上に掃除して、ベッドとソファにファブリーズをふりまくっている俺がキモい。
歯磨き五回くらいしている俺がキモい。必死にちんこ洗っている俺がキモい。
「何してんの俺!?」
全てを済ませてから、俺は壁に頭を打ち付けた。
これじゃあまるで、彼氏を待っている彼女みたいじゃねえか……!! えっ、キモォ……!!
自分のキモさに恐れおののいているときに、インターフォンが鳴った。
「ヒェゥッ」
なんで? なんでこんな緊張すんの!? 今までも幾度となく招いてきたじゃねえか!!
凪にこのテンパり具合がバレないよう、冷静を装って玄関のドアを開けた。
「ただいまぁ~!」
「お、おかえり。……いや、ここはお前の家じゃない……」
「ん~、理玖~~~」
凪は満面の笑みで俺を抱きしめ、「んーーまっ」という効果音がぴったりの、甘ったるくもふざけたようなキスをしてきた。
こいつは俺の気も知らずに通常運転だな……。腹が立つぜ。
「おっ! 良いにおいする! もしかしてハンバーグ!?」
「あたり。いっぱい作ったから好きなだけ食っていいぞ」
「おわー! 最高! 腹減ってたんだよぉ~!!」
「……」
凪といたら変な気持ちになる。
なんか、俺までキラキラしてくるような感覚。
鬱々としていた日常が、まるで小学生が描いた空みたいな、単純に明るくて能天気な景色に見えてくるような。
「理玖! このハンバーグめっちゃ美味い!」
「当たり前だろ。俺が作ったんだから。……ってもう一個食ったの!?」
「おかわり!!」
こいつといたら俺まで自然と笑顔になる。
なんだ、俺ってこんな風に笑えんだって、自分でもちょっとびっくりした。
メシとシャワーを済ませた俺たちは、いつものようにゲームをしていた。
そんなとき、凪がモニターを見つめたまま尋ねてきた。
「理玖さ、俺以外に仲良い人、ほんとにいないの?」
「いないよ。見て分かんだろ」
「高校にはいなくても、中学校とか小学校の友だちとか……」
「残念ながらいません。誰一人として」
「そっかあ。よかったー」
よかったってなんだよ。よくねえわ全く。
「理玖さ、あれからあの服着てないよな?」
「あー博物館行った時の服? 着てないけど」
「ほんとに? 俺に隠れて着てたりしない?」
「着てない。着れるかよお前の精液ぶっかけられた服なんて」
「そっかあ。よかったー」
さっきからなんなんだこいつは。
「理玖さ、俺以外の人の前で前髪上げたりしてない?」
「してない」
「ほんとに?」
「ほんとほんと」
「そっかあ。よかったー」
「なあ、さっきから何? この不毛な問答は」
正直言ってめんどくさいんだが。
凪は「あっ……」と頬を赤らめ、俺から目を逸らした。
「い、いや。別に」
「そ」
「でさ、理玖はさ――」
「は? まだ続けんの?」
「――好きな人とか、いる?」
「え」
今度は俺が頬を赤らめる番だった。いや、なんで頬なんて赤らめているんだ俺は気持ち悪い。
好きな人、と訊かれて、ぱっと思い浮かんだのが凪だったなんて言ったら、こいつはドン引きするだろう。
~~いや、そういう好きじゃない! 恋愛的な好きじゃないんだがな!?
友だちとして! そう! 友だちとして好きだ、こいつのことは!!
頬が赤らんだのは、この前の看病のことで頭がふわふわしていただけでだな!!
決して! 俺は決して! こいつのことを恋愛対象として見てはいない!!
友だちとキスしたりちんこいじり合ったりするのも、性欲真っ盛りの男子高生にはよくあることだろう!! な! 俺はよく知らないけど、そういうもんだろ!!
「……もしかして、理玖、好きな人――」
「いない!! いるわけない!! 絶対いない!!」
俺の力強い返答に、凪は安堵の表情を浮かべた。
「そっかあ。よかったー」
「あ……」
そっか。そういうことか。
凪、俺に惚れられてんじゃないかって心配だったんだな。
……そりゃ、こんな俺に惚れられたらかなわないよな。
俺、童貞で恋愛経験もないから、ちょっとキスされたりちんこいじられたりしただけで勘違いするんじゃないかって、心配だったんだろうな。
安心しろ。お前が心配するようなことにはならないから。
……ならないように、ちゃんと気を付けるから。
凪はへにゃんと顔をほころばせた。
「よかったあ。ちょっと心配だったんだ」
「……おう。大丈夫だ、俺は」
「そっかそっか。うん、よかった」
「……おう」
ふと、キスしたいと思ったのだろう。
凪はコントローラーを持ったまま、俺の唇を奪った。
こいつはちょっと、残酷だ。
遠回しに惚れるなって言いながら、こんなことをしてくるんだから。
能天気な空が描かれていた俺の脳みそが、真っ黒に塗りつぶされた。
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