上 下
25 / 72
一年:冬休み

第二十一話

しおりを挟む
 期末考査後の残りカスみたいな授業が終わった。明日から冬休みだ。

「りーくっ」
「ひぅっ……!」

 放課後、凪に声をかけられて、俺は大げさにのけぞった。
 風邪を引いたあの日から、凪に対して過剰に反応してしまう。あいつに声をかけられるだけで心臓はバクバクするわ、顔が赤くなるわでたまったものじゃない。

「今日理玖んち行くからよろしく!」
「ハ、ハイッ……」

 あの日以来、はじめて凪がうちに来る。一緒にゲームして、一緒にメシ食って、一緒に……

「アババババ……」

 凪とキスしたりちんこしごき合ったりしているところを想像して、一人でテンパッてしまった。はたから見ていたらさぞ滑稽だったに違いない。

 クソッ、あの日からなんか変だ。俺がいつも以上にキモい。
 大慌てで買い物に行って、凪の好物であるハンバーグをこねこねこね出した俺がキモい。
 必要以上に掃除して、ベッドとソファにファブリーズをふりまくっている俺がキモい。
 歯磨き五回くらいしている俺がキモい。必死にちんこ洗っている俺がキモい。

「何してんの俺!?」

 全てを済ませてから、俺は壁に頭を打ち付けた。
 これじゃあまるで、彼氏を待っている彼女みたいじゃねえか……!! えっ、キモォ……!!

 自分のキモさに恐れおののいているときに、インターフォンが鳴った。

「ヒェゥッ」

 なんで? なんでこんな緊張すんの!? 今までも幾度となく招いてきたじゃねえか!!
 凪にこのテンパり具合がバレないよう、冷静を装って玄関のドアを開けた。

「ただいまぁ~!」
「お、おかえり。……いや、ここはお前の家じゃない……」
「ん~、理玖~~~」

 凪は満面の笑みで俺を抱きしめ、「んーーまっ」という効果音がぴったりの、甘ったるくもふざけたようなキスをしてきた。
 こいつは俺の気も知らずに通常運転だな……。腹が立つぜ。

「おっ! 良いにおいする! もしかしてハンバーグ!?」
「あたり。いっぱい作ったから好きなだけ食っていいぞ」
「おわー! 最高! 腹減ってたんだよぉ~!!」
「……」

 凪といたら変な気持ちになる。
 なんか、俺までキラキラしてくるような感覚。
 鬱々としていた日常が、まるで小学生が描いた空みたいな、単純に明るくて能天気な景色に見えてくるような。

「理玖! このハンバーグめっちゃ美味い!」
「当たり前だろ。俺が作ったんだから。……ってもう一個食ったの!?」
「おかわり!!」

 こいつといたら俺まで自然と笑顔になる。
 なんだ、俺ってこんな風に笑えんだって、自分でもちょっとびっくりした。

 メシとシャワーを済ませた俺たちは、いつものようにゲームをしていた。
 そんなとき、凪がモニターを見つめたまま尋ねてきた。

「理玖さ、俺以外に仲良い人、ほんとにいないの?」
「いないよ。見て分かんだろ」
「高校にはいなくても、中学校とか小学校の友だちとか……」
「残念ながらいません。誰一人として」
「そっかあ。よかったー」

 よかったってなんだよ。よくねえわ全く。

「理玖さ、あれからあの服着てないよな?」
「あー博物館行った時の服? 着てないけど」
「ほんとに? 俺に隠れて着てたりしない?」
「着てない。着れるかよお前の精液ぶっかけられた服なんて」
「そっかあ。よかったー」

 さっきからなんなんだこいつは。

「理玖さ、俺以外の人の前で前髪上げたりしてない?」
「してない」
「ほんとに?」
「ほんとほんと」
「そっかあ。よかったー」
「なあ、さっきから何? この不毛な問答は」

 正直言ってめんどくさいんだが。

 凪は「あっ……」と頬を赤らめ、俺から目を逸らした。

「い、いや。別に」
「そ」
「でさ、理玖はさ――」
「は? まだ続けんの?」
「――好きな人とか、いる?」
「え」

 今度は俺が頬を赤らめる番だった。いや、なんで頬なんて赤らめているんだ俺は気持ち悪い。
 好きな人、と訊かれて、ぱっと思い浮かんだのが凪だったなんて言ったら、こいつはドン引きするだろう。

 ~~いや、そういう好きじゃない! 恋愛的な好きじゃないんだがな!?
 友だちとして! そう! 友だちとして好きだ、こいつのことは!!

 頬が赤らんだのは、この前の看病のことで頭がふわふわしていただけでだな!!
 決して! 俺は決して! こいつのことを恋愛対象として見てはいない!!
 友だちとキスしたりちんこいじり合ったりするのも、性欲真っ盛りの男子高生にはよくあることだろう!! な! 俺はよく知らないけど、そういうもんだろ!!

「……もしかして、理玖、好きな人――」
「いない!! いるわけない!! 絶対いない!!」

 俺の力強い返答に、凪は安堵の表情を浮かべた。

「そっかあ。よかったー」
「あ……」

 そっか。そういうことか。
 凪、俺に惚れられてんじゃないかって心配だったんだな。
 ……そりゃ、こんな俺に惚れられたらかなわないよな。
 俺、童貞で恋愛経験もないから、ちょっとキスされたりちんこいじられたりしただけで勘違いするんじゃないかって、心配だったんだろうな。

 安心しろ。お前が心配するようなことにはならないから。
 ……ならないように、ちゃんと気を付けるから。

 凪はへにゃんと顔をほころばせた。

「よかったあ。ちょっと心配だったんだ」
「……おう。大丈夫だ、俺は」
「そっかそっか。うん、よかった」
「……おう」

 ふと、キスしたいと思ったのだろう。
 凪はコントローラーを持ったまま、俺の唇を奪った。
 こいつはちょっと、残酷だ。
 遠回しに惚れるなって言いながら、こんなことをしてくるんだから。

 能天気な空が描かれていた俺の脳みそが、真っ黒に塗りつぶされた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

変態村♂〜俺、やられます!〜

ゆきみまんじゅう
BL
地図から消えた村。 そこに肝試しに行った翔馬たち男3人。 暗闇から聞こえる不気味な足音、遠くから聞こえる笑い声。 必死に逃げる翔馬たちを救った村人に案内され、ある村へたどり着く。 その村は男しかおらず、翔馬たちが異変に気づく頃には、すでに囚われの身になってしまう。 果たして翔馬たちは、抱かれてしまう前に、村から脱出できるのだろうか?

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

【R18BL】世界最弱の俺、なぜか神様に溺愛されているんだが

ちゃっぷす
BL
経験値が普通の人の千分の一しか得られない不憫なスキルを十歳のときに解放してしまった少年、エイベル。 努力するもレベルが上がらず、気付けば世界最弱の十八歳になってしまった。 そんな折、万能神ヴラスがエイベルの前に姿を現した。 神はある条件の元、エイベルに救いの手を差し伸べるという。しかしその条件とは――!?

【完結】【番外編】ナストくんの淫らな非日常【R18BL】

ちゃっぷす
BL
『清らかになるために司祭様に犯されています』の番外編です。 ※きれいに終わらせたい方は本編までで留めておくことを強くオススメいたします※ エロのみで構成されているためストーリー性はありません。 ゆっくり更新となります。 【注意点】 こちらは本編のパラレルワールド短編集となる予定です。 本編と矛盾が生じる場合があります。 ※この世界では「ヴァルア以外とセックスしない」という約束が存在していません※ ※ナストがヴァルア以外の人と儀式をすることがあります※ 番外編は本編がベースになっていますが、本編と番外編は繋がっておりません。 ※だからナストが別の人と儀式をしても許してあげてください※ ※既出の登場キャラのイメージが壊れる可能性があります※ ★ナストが作者のおもちゃにされています★ ★きれいに終わらせたい方は本編までで留めておくことを強くオススメいたします★ ※基本的に全キャラ倫理観が欠如してます※ ※頭おかしいキャラが複数います※ ※主人公貞操観念皆無※ 【ナストと非日常を過ごすキャラ】(随時更新します) ・リング ・医者 ・フラスト、触手系魔物、モブおじ2人(うち一人は比較的若め) ・ヴァルア 【以下登場性癖】(随時更新します) ・【ナストとリング】ショタおに、覗き見オナニー ・【ナストとお医者さん】診察と嘯かれ医者に犯されるナスト ・【ナストとフラスト】触手責め、モブおじと3P、恋人の兄とセックス ・【ナストとフラストとヴァルア】浮気、兄弟×主人公(3P) ・【ナストとヴァルア】公開オナニー

敵国軍人に惚れられたんだけど、女装がばれたらやばい。

水瀬かずか
BL
ルカは、革命軍を支援していた父親が軍に捕まったせいで、軍から逃亡・潜伏中だった。 どうやって潜伏するかって? 女装である。 そしたら女装が美人過ぎて、イケオジの大佐にめちゃくちゃ口説かれるはめになった。 これってさぁ……、女装がバレたら、ヤバくない……? ムーンライトノベルズさまにて公開中の物の加筆修正版(ただし性行為抜き)です。 表紙にR18表記がされていますが、作品はR15です。 illustration 吉杜玖美さま

僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした

なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。 「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」 高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。 そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに… その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。 ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。 かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで… ハッピーエンドです。 R18の場面には※をつけます。

【完結】【R18BL】異世界転移したオメガ、貴族兄弟に飼われることになりました

ちゃっぷす
BL
Ωである高戸圭吾はある日ストーカーだったβに殺されてしまう。目覚めたそこはαとβしか存在しない異世界だった。Ωの甘い香りに戸惑う無自覚αに圭吾は襲われる。そこへ駆けつけた貴族の兄弟、βエドガー、αスルトに拾われた圭吾は…。 「異世界転移したオメガ、貴族兄弟に飼われることになりました」の本編です。 アカウント移行のため再投稿しました。 ベースそのままに加筆修正入っています。 ※イチャラブ、3P、レイプ、♂×♀など、歪んだ性癖爆発してる作品です※ ※倫理観など一切なし※ ※アホエロ※ ※ひたすら頭悪い※ ※色気のないセックス描写※ ※とんでも展開※ ※それでもOKという許容範囲ガバガバの方はどうぞおいでくださいませ※ 【圭吾シリーズ】 「異世界転移したオメガ、貴族兄弟に飼われることになりました」(本編)←イマココ 「極上オメガ、前世の恋人2人に今世も溺愛されています」(転生編) 「極上オメガ、いろいろあるけどなんだかんだで毎日楽しく過ごしてます」(イベントストーリー編)

配信ボタン切り忘れて…苦手だった歌い手に囲われました!?お、俺は彼女が欲しいかな!!

ふわりんしず。
BL
晒し系配信者が配信ボタンを切り忘れて 素の性格がリスナー全員にバレてしまう しかも苦手な歌い手に外堀を埋められて… ■ □ ■ 歌い手配信者(中身は腹黒) × 晒し系配信者(中身は不憫系男子) 保険でR15付けてます

処理中です...