24 / 72
一年:二学期期末考査~二学期最終日
第二十話
しおりを挟む
◆◆◆
(凪side)
鳴りやまない通知音。山ほどの着信履歴。
毎年冬になるといつも以上にこれが増える。
今まではこれで気分を紛らせていた部分もあった。誰かに求められていることに、どこか満たされていたんだ。
だからそんなに迷惑にも感じていなかったんだけど……。
今はちょっと、疎ましい。
昼休み、おなじみの友人たちとごはんを食べていたとき、友人Aに話をふられた。
「凪、最近お前ため息ばっか吐いてんな」
「えっ」
「なんかあった?」
まずい。心配されてんじゃん、俺。
「ごめんごめん! なんもねえから!」
「そうかー? そうは思えねえけど」
「えー? 考えすぎだって」
友人たちが顔を見合わせ、心配そうな表情を浮かべる。
「だって凪、お前最近ちょっと変だぞ?」
「変? なんで?」
「最近ちょっと付き合い悪いし。彼女も作らねえし……」
うっ……。確かにちょっと友だちとの付き合いサボッていたかも。
「……でも、彼女作らないのは別に変なことじゃなくない? だってお前らだっていないじゃん」
「うるせえわ!!」
友人Aが俺をゲシゲシ蹴りながら言った。
「お前だから変なんだよ! 入学してから今まで彼女途切れたことなかったのに!」
友人Bがそれに乗っかる。
「今でもお前と付き合いたいって言ってる女子いっぱいいるだろ~?」
「まあ……それは……そうだけど」
なーんか彼女作る気になれないんだよなあ……。
友人Aが俺に詰め寄った。
「もしかして、お前本命でもできた?」
「本命? 別にできてないけど」
「ほんとかあ?」
「ほんとほんと」
そのとき、ふと理玖の顔が思い浮かんだ。またよく分からないタイミングで出てきたな。
「あ、でも……。自分からキスしたいって思う子はできたよ」
「おっ?」
友人たちの興味度がぐんと高まったのを感じた。
「誰?」
「教えなーい」
理玖に口止めされてるからね。理玖が約束守ってくれているんだから、俺もちゃんと守らないと。
「付き合ってねえの?」
「付き合う? いや、そういうのじゃないし」
「どういうこと? だってお前、好きなんだろ?」
「え? んー?」
好き……? 好きだけど。
「好きなのと付き合うのって、なんか関係ある?」
「お前何言ってんの? 普通好きだから付き合うもんだろ……」
「そうなの?」
「お前今までどういう気持ちで付き合ってきたんだよ……」
「んー」
思い返すと、告白されて、別にいいかなーって思ったら付き合っていた。
好きとか嫌いとか、そんなこと考えたこともなかった。いけるかいけないかでしか判断していなかった。
「そういえば、俺ってどういう基準でいけるかいけないかを判断してたんだろ」
「好きかどうかなんじゃねえの……?」
「んー……。違うなあ……」
「うわぁ……」
そんなことじっくり考えたこともなかった。
よくよく考えてみれば、俺の判断基準は「その子とセックスできるかどうか」だったかもしれない。
あれ? その論理で言えば……なんで俺、理玖と付き合っていないんだろう。付き合っていないのに、どうしてあんなことしているんだろう。
「んー……? よく分かんなくなってきたぞ……」
「俺もお前のことがよく分かんなくなってきたぞ……」
どうやら友だちに引かれてしまったみたいだ。
「っていうか俺、別にその子と付き合いたいとか思ってないし……」
でも付き合っているみたいなことしているの、なんか変だなあ……。
「じゃあさ、その子が他の男と付き合っても別に構わないわけ?」
「えっ……」
友人Cの言葉に背筋が凍った。
「お前が好きになるってことは相当可愛いんだろ。モテるんじゃね?」
確かに理玖は可愛い。相当可愛い。
「お前がのろのろしてる間に他の男に取られるかもよ? それでもいいんだ?」
「……」
理玖が俺以外の男とキスしているところを想像してみた。それだけで腹が立って、唇がわなわなと震えた。
「え。嫌なんだけど」
「だったらさっさと付き合わねえと」
「そういうもん?」
そうなんだ。付き合うって、他人に取られないように、相手に首輪付けるようなことだったんだ。
「付き合う、ね……」
にしてもゆるゆるの首輪だな。「付き合う」なんてただの口約束だ。強制力なんてあってないようなもの。相手の気持ちひとつですぐに別れられるじゃん。自分で簡単に外せる首輪なんて、そんなのあんまり意味がないような気がする。
それだったらいっそ、俺以外の男を見るなって理玖に命令すれば――
……いや、いやいや……。さすがにそれはナシだよな。俺、何考えてんだろ。
わりと最低なこと考えていたよな、今。
あー。でも、そうしたいくらいには、理玖が他の男とキスしているところを見たくない。
「はあ……どうしたらいいんだろ」
こんな気持ちになったのははじめてだ。
誰でもいい。誰かに求められたい。俺を一番求めてくれる人なら、ほとんど誰だってよかった。
それなのに今の俺は、俺を求めている人たちに背を向けて、たった一人を求めている。
考え込んでいる俺を、友人Bが興味深そうに観察していた。
「お前でも片想いするんだな」
「これって片想い? 俺、今片想いしてんの?」
「そうなんじゃね? で、脈はあんの?」
「脈かー。なさそう」
理玖は俺の命令に従っているだけだろうからなあ……。
(あれ……?)
そう考えたとたん、心臓がきゅっと押しつぶされたみたいに苦しくなった。
(凪side)
鳴りやまない通知音。山ほどの着信履歴。
毎年冬になるといつも以上にこれが増える。
今まではこれで気分を紛らせていた部分もあった。誰かに求められていることに、どこか満たされていたんだ。
だからそんなに迷惑にも感じていなかったんだけど……。
今はちょっと、疎ましい。
昼休み、おなじみの友人たちとごはんを食べていたとき、友人Aに話をふられた。
「凪、最近お前ため息ばっか吐いてんな」
「えっ」
「なんかあった?」
まずい。心配されてんじゃん、俺。
「ごめんごめん! なんもねえから!」
「そうかー? そうは思えねえけど」
「えー? 考えすぎだって」
友人たちが顔を見合わせ、心配そうな表情を浮かべる。
「だって凪、お前最近ちょっと変だぞ?」
「変? なんで?」
「最近ちょっと付き合い悪いし。彼女も作らねえし……」
うっ……。確かにちょっと友だちとの付き合いサボッていたかも。
「……でも、彼女作らないのは別に変なことじゃなくない? だってお前らだっていないじゃん」
「うるせえわ!!」
友人Aが俺をゲシゲシ蹴りながら言った。
「お前だから変なんだよ! 入学してから今まで彼女途切れたことなかったのに!」
友人Bがそれに乗っかる。
「今でもお前と付き合いたいって言ってる女子いっぱいいるだろ~?」
「まあ……それは……そうだけど」
なーんか彼女作る気になれないんだよなあ……。
友人Aが俺に詰め寄った。
「もしかして、お前本命でもできた?」
「本命? 別にできてないけど」
「ほんとかあ?」
「ほんとほんと」
そのとき、ふと理玖の顔が思い浮かんだ。またよく分からないタイミングで出てきたな。
「あ、でも……。自分からキスしたいって思う子はできたよ」
「おっ?」
友人たちの興味度がぐんと高まったのを感じた。
「誰?」
「教えなーい」
理玖に口止めされてるからね。理玖が約束守ってくれているんだから、俺もちゃんと守らないと。
「付き合ってねえの?」
「付き合う? いや、そういうのじゃないし」
「どういうこと? だってお前、好きなんだろ?」
「え? んー?」
好き……? 好きだけど。
「好きなのと付き合うのって、なんか関係ある?」
「お前何言ってんの? 普通好きだから付き合うもんだろ……」
「そうなの?」
「お前今までどういう気持ちで付き合ってきたんだよ……」
「んー」
思い返すと、告白されて、別にいいかなーって思ったら付き合っていた。
好きとか嫌いとか、そんなこと考えたこともなかった。いけるかいけないかでしか判断していなかった。
「そういえば、俺ってどういう基準でいけるかいけないかを判断してたんだろ」
「好きかどうかなんじゃねえの……?」
「んー……。違うなあ……」
「うわぁ……」
そんなことじっくり考えたこともなかった。
よくよく考えてみれば、俺の判断基準は「その子とセックスできるかどうか」だったかもしれない。
あれ? その論理で言えば……なんで俺、理玖と付き合っていないんだろう。付き合っていないのに、どうしてあんなことしているんだろう。
「んー……? よく分かんなくなってきたぞ……」
「俺もお前のことがよく分かんなくなってきたぞ……」
どうやら友だちに引かれてしまったみたいだ。
「っていうか俺、別にその子と付き合いたいとか思ってないし……」
でも付き合っているみたいなことしているの、なんか変だなあ……。
「じゃあさ、その子が他の男と付き合っても別に構わないわけ?」
「えっ……」
友人Cの言葉に背筋が凍った。
「お前が好きになるってことは相当可愛いんだろ。モテるんじゃね?」
確かに理玖は可愛い。相当可愛い。
「お前がのろのろしてる間に他の男に取られるかもよ? それでもいいんだ?」
「……」
理玖が俺以外の男とキスしているところを想像してみた。それだけで腹が立って、唇がわなわなと震えた。
「え。嫌なんだけど」
「だったらさっさと付き合わねえと」
「そういうもん?」
そうなんだ。付き合うって、他人に取られないように、相手に首輪付けるようなことだったんだ。
「付き合う、ね……」
にしてもゆるゆるの首輪だな。「付き合う」なんてただの口約束だ。強制力なんてあってないようなもの。相手の気持ちひとつですぐに別れられるじゃん。自分で簡単に外せる首輪なんて、そんなのあんまり意味がないような気がする。
それだったらいっそ、俺以外の男を見るなって理玖に命令すれば――
……いや、いやいや……。さすがにそれはナシだよな。俺、何考えてんだろ。
わりと最低なこと考えていたよな、今。
あー。でも、そうしたいくらいには、理玖が他の男とキスしているところを見たくない。
「はあ……どうしたらいいんだろ」
こんな気持ちになったのははじめてだ。
誰でもいい。誰かに求められたい。俺を一番求めてくれる人なら、ほとんど誰だってよかった。
それなのに今の俺は、俺を求めている人たちに背を向けて、たった一人を求めている。
考え込んでいる俺を、友人Bが興味深そうに観察していた。
「お前でも片想いするんだな」
「これって片想い? 俺、今片想いしてんの?」
「そうなんじゃね? で、脈はあんの?」
「脈かー。なさそう」
理玖は俺の命令に従っているだけだろうからなあ……。
(あれ……?)
そう考えたとたん、心臓がきゅっと押しつぶされたみたいに苦しくなった。
377
お気に入りに追加
744
あなたにおすすめの小説
変態村♂〜俺、やられます!〜
ゆきみまんじゅう
BL
地図から消えた村。
そこに肝試しに行った翔馬たち男3人。
暗闇から聞こえる不気味な足音、遠くから聞こえる笑い声。
必死に逃げる翔馬たちを救った村人に案内され、ある村へたどり着く。
その村は男しかおらず、翔馬たちが異変に気づく頃には、すでに囚われの身になってしまう。
果たして翔馬たちは、抱かれてしまう前に、村から脱出できるのだろうか?
配信ボタン切り忘れて…苦手だった歌い手に囲われました!?お、俺は彼女が欲しいかな!!
ふわりんしず。
BL
晒し系配信者が配信ボタンを切り忘れて
素の性格がリスナー全員にバレてしまう
しかも苦手な歌い手に外堀を埋められて…
■
□
■
歌い手配信者(中身は腹黒)
×
晒し系配信者(中身は不憫系男子)
保険でR15付けてます
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
【完結】【番外編】ナストくんの淫らな非日常【R18BL】
ちゃっぷす
BL
『清らかになるために司祭様に犯されています』の番外編です。
※きれいに終わらせたい方は本編までで留めておくことを強くオススメいたします※
エロのみで構成されているためストーリー性はありません。
ゆっくり更新となります。
【注意点】
こちらは本編のパラレルワールド短編集となる予定です。
本編と矛盾が生じる場合があります。
※この世界では「ヴァルア以外とセックスしない」という約束が存在していません※
※ナストがヴァルア以外の人と儀式をすることがあります※
番外編は本編がベースになっていますが、本編と番外編は繋がっておりません。
※だからナストが別の人と儀式をしても許してあげてください※
※既出の登場キャラのイメージが壊れる可能性があります※
★ナストが作者のおもちゃにされています★
★きれいに終わらせたい方は本編までで留めておくことを強くオススメいたします★
※基本的に全キャラ倫理観が欠如してます※
※頭おかしいキャラが複数います※
※主人公貞操観念皆無※
【ナストと非日常を過ごすキャラ】(随時更新します)
・リング
・医者
・フラスト、触手系魔物、モブおじ2人(うち一人は比較的若め)
・ヴァルア
【以下登場性癖】(随時更新します)
・【ナストとリング】ショタおに、覗き見オナニー
・【ナストとお医者さん】診察と嘯かれ医者に犯されるナスト
・【ナストとフラスト】触手責め、モブおじと3P、恋人の兄とセックス
・【ナストとフラストとヴァルア】浮気、兄弟×主人公(3P)
・【ナストとヴァルア】公開オナニー
童貞が建設会社に就職したらメスにされちゃった
なる
BL
主人公の高梨優(男)は18歳で高校卒業後、小さな建設会社に就職した。しかし、そこはおじさんばかりの職場だった。
ストレスや性欲が溜まったおじさん達は、優にエッチな視線を浴びせ…
【完】ゲームの世界で美人すぎる兄が狙われているが
咲
BL
俺には大好きな兄がいる。3つ年上の高校生の兄。美人で優しいけどおっちょこちょいな可愛い兄だ。
ある日、そんな兄に話題のゲームを進めるとありえない事が起こった。
「あれ?ここってまさか……ゲームの中!?」
モンスターが闊歩する森の中で出会った警備隊に保護されたが、そいつは兄を狙っていたようで………?
重度のブラコン弟が兄を守ろうとしたり、壊れたブラコンの兄が一線越えちゃったりします。高確率でえろです。
※近親相姦です。バッチリ血の繋がった兄弟です。
※第三者×兄(弟)描写があります。
※ヤンデレの闇属性でビッチです。
※兄の方が優位です。
※男性向けの表現を含みます。
※左右非固定なのでコロコロ変わります。固定厨の方は推奨しません。
お気に入り登録、感想などはお気軽にしていただけると嬉しいです!
【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成)
エロなし。騎士×妖精
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
いいねありがとうございます!励みになります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる