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一年:二学期中間考査~期末考査

第三話

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 ある日の風呂上がり。髪を乾かしているとき、突然凪が俺の顔を覗き込んだ。

「ぉわっ! なんだよ急に!!」
「いやさあ。ずっと思ってたんだけど、理玖って……」

 凪は俺の顔をまじまじと見る。

「風呂前と風呂後で雰囲気変わるよね」
「そ、そうか?」
「うん。それに――」

 それから、俺の前髪をかき上げた。

「意外も意外」
「なにがだよっ」
「きれいな顔してんだよなぁ」
「はぁ!?」

 なに言ってんだこいつ!! 意味が分からん!!

「普段は眼鏡と髪型のせいで全然分からないんだけどさ。口の悪さからは想像できないくらい、顔立ちが――」
「顔と口は関係ないだろぉ!?」
「――女の子みたいな顔してるんだよなあ」
「女みたいって言うな!!」

 こいつ……ズカズカと人が気にしていること口にしやがって!!
 俺がどうしてこんな恰好していると思っているんだ。昔そのせいでイジめられてたからだぞ!!

「もっと身だしなみ整えたら、すぐに友だちできると思うんだけどな……」
「……見た目で判断するやつとなんて仲良くなりたくない」

 女みたいな顔、女みたいな体つき。
 みんな見た目で判断する。

「理玖?」
「っ」

 我に返ると、心配そうにこっちを見ている凪と目が合った。

「わ、悪い。考え事してた」
「いや、こっちこそ……ごめん。気にしてたことだった?」
「まあな」
「ごめん」
「別に。気にすんな」
「うん……」

 しおらしく振舞っているように見えるが、凪は今もずっと無遠慮に俺の顔を見つめている。

「……理玖、前髪切る気ない?」
「ない!! しつこい!!」
「コンタクトにする気は?」
「お前ほんとに反省してる!?」

 その日からというもの、凪が風呂上がりの俺をじっと見つめるようになった。


 ◆◆◆
(凪side)


 面白半分に持ち掛けた勝負から、まさかこんなことになるなんて。
 こんなこと誰にも言えないけれど……
 彼女やいつもの友だちと一緒にいるより、理玖と一緒にいる方が居心地がいい。

 それは、理玖には気を遣う必要がないからなのだと思う。

 他の人と話すときは、やっぱり気を遣う。いつも笑っていなきゃって思うし、場を盛り上げようとか、楽しませようとか、そんなことばかり考えているから。
 もちろん彼らといるのも楽しいし、ここでしか満たされない部分もある。俺にとって大事なものには変わりない。

 でも、やっぱりちょっと疲れるんだと思う。与えられる楽しさと同じくらい。

「凪く~ん! 今日、凪くんのおうち行ってもいい~?」
「部活終わってからだったらいいよ」
「やった! じゃあまた連絡ちょうだい!」

 女子の中から特別な子を一人選んで、一定期間その子とセックスをする。それ以外は他の女子と変わりない。

「あっ、あぁっ、凪くんっ、きもちいっ、あぁっ」
「あっ、イク……っ!」
「あぁぁぁっ……!」

 俺とセックスをしたらみんな嬉しそうな顔をする。そんなに俺のペニスって良いものなんだろうか。そうは思えないけど。別に普通なのにな。

 セックスをしたあと、俺は彼女に言った。

「そろそろ別れようか」
「えっ」
「今までありがとう」
「えっ、ちょっ、ちょっと待って、どうして? わたしなにか悪いことした……?」
「ううん、別に何も」
「えっ……? じゃあなんで……」
「別れたくなったから」

 どんな女子と付き合っても、いつもふとそう思う日がくる。
 その子を嫌いになったわけじゃない。むしろ、今までと少しも気持ちは変わっていない。
 今日もセックスのあと、ふと「別れよう」と思った。

「好きな子でもできた……?」
「ううん? できてないけど」

 そのとき、これまたふと、理玖の風呂上がりの顔が思い浮かんだ。なんの脈略もない脳内の映像に、俺は少し狼狽えた。

「~~……凪くんのバカァァァァ!!」
「ぶぁ……っ!」

 盛大にビンタをくらい、意識が飛びそうになった。

「せめてセックスする前にフれば!? ヤリ捨てなんて……最っ低!!」

 俺がフッた女子たちは、別れた瞬間はみんなこうして激怒する。
 それなのに、不思議なことに一カ月経てばまたいつも通りになる。懲りずに「やり直したい」「付き合いたい」とメッセージを送ってくるのだ。

 翌日には、なぜかみんな俺が彼女と別れたことを知っていた。
 体育の授業前、噂を聞きつけたクラスメイトの友だちが早速俺に事実確認をしてくる。

「えーっ、お前また彼女と別れたのかよぉ~」

 俺は体操着に着替えながら返事をした。

「うん。別れた」
「で、次は誰と付き合うんだ?」
「んー……」

 悩んでいる俺に、友だちが不思議そうに尋ねる。

「え? 候補いねえの?」
「んー……付き合ってほしいって言ってる子は何人かいるんだけど……」
「むかつくわー……」
「なんかしっくりこないんだよなー」

 無意識に、理玖に視線がいった。理玖はちょうど制服を脱いだところだった。

「……」

 下着だけになった理玖の後ろ姿は――これを本人に言ったら絶対に怒るから言わないけれど――ほんとに女の子みたいだった。筋肉が薄くて細い全身。背骨がすらっと浮き出ている。腰がびっくりするくらい細くて、それなのにお尻と太ももだけ柔らかそうな肉がほんの少しついている。

 よく見たらやっぱり男の体なんだけど、このむさくるしい男の半裸に囲まれた中では、ちょっと錯覚してしまった。

「あっ、やべ」

 そんなことを考えていたせいで、ちょっとちんこが反応してしまった。
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