上 下
31 / 39
第三章

春雨入りのゲロ

しおりを挟む
「それで? これ、どういうこと」

ベッドに座っているマリカちゃんと、床で居心地悪そうにあぐらをかいている大地に向けて、俺は低い声で唸った。
マリカちゃんは笑顔を崩さないまま、大地に目を向ける。

「はい、じゃあ大地君、説明よろしくねっ」
「え、俺……?」
「そりゃそうでしょー。この際だから全部打ち明けたらぁ? どうせ話さなくたって、今日で爽君と大地君との信頼関係はコナゴナになったんだから」
「……そう、だな……」

大地はため息をつき、俯き加減に俺をちらりと見る。

「爽……。ごめん」
「謝る前に、事情を説明してくれるか?」
「おう……」
「さっきの様子からして、今日が初めてってわけじゃなさそうだな。いつから? チカはどうした? 俺の彼女だって分かってなんでそんなことした」

やばい。言葉にしていたらだんだんと腹が立ってきた。

「お前、よくこんなことしてて平気で俺と顔合わせられてたな。いつもどんな気持ちで俺とメシ食ってたんだ? どんな気持ちで――」

――どんな気持ちで、俺の体に触れてたんだ。

思わず涙がこぼれた。くそっ。こんなヤツらに泣き顔みられるなんて最悪だ。こんな惨めなことってない。

「……親友だと思ってたのに……。お前を疑ったことなんか一度もなかったのに……」

俺の言葉を聞いた大地は、この世の終わりみたいな顔をして目に涙を浮かべていた。
大地は震える声で何度も謝る。

「爽……ごめん……。本当にごめん……」
「俺、バカみてぇ……」
「お前はバカじゃない。バカなのは俺だ……」

出口のないやりとりに飽き飽きしたのか、マリカちゃんが退屈そうに足をプラプラ揺らす。

「大地君、早く爽君の質問に答えてあげなよー」
「……」

大地は小さく頷き、何度か深呼吸をしてから口を開いた。

「爽……。俺、マリカちゃんと浮気してた。お前がマリカちゃんと付き合い始めて一カ月経ったあたりから……つまり……半年くらいの間」

半年。半年もの間、俺はこいつとマリカちゃんに騙されていたのか。

「チカちゃん……のことも知ってたのか……? チカちゃんとは別れた……別に付き合ってもなかったけど。別れて、マリカちゃんと関係を持つようになった」

大地はもじもじと体を揺らし、ほとんど口を動かさずに続ける。

「……お前の彼女だったから、こんなことした」
「は……?」

泣くのを必死にこらえているのか、大地の声が震えている。

「マリカちゃんだけじゃない……。チカちゃんも、その前の爽の彼女も……お前が初めてできた彼女から……、お前の彼女全員と、俺は関係を持ってた」

信じられない告白に言葉が出てこなかった。

「お前の彼女の浮気相手、全部俺なんだ」

突然襲った吐き気に、俺は口を押えてトイレに駆け込んだ。さっき食べた春雨が全部、きったねえ黄土色のドロドロした液体と一緒に口から飛び出した。

「うぇっ……うぅ……うぅぅぅー……っ」

親友と思っていた男が寝取った彼女の部屋の便器に顔を突っ込んで泣き崩れる俺。客観的に見ても惨めすぎるだろ。
この空間、気持ちわりい。ゲロでまみれてやがる。

トイレの入り口に人の気配を感じた。影の形からして大地だろう。
俺は便器に顔をうずめたまま口を開く。

「そういやお前……今までの彼女の……名前も顔も……なんも教えてくれなかったな……」
「……」
「全員俺の彼女なんだったら、そりゃ言えねえわな……」
「ごめん……」
「お前……そんなに俺のこと嫌いだったの……? 俺の彼女全員寝取るくらい……。俺、お前にそんな憎まれることしてた……?」
「違う……お前のこと……俺が憎むわけないだろ……」
「じゃあなんでっ……! なんでそんなことしてたんだよ!!」

ゲロを撒き散らかして怒鳴る俺を大地が見下ろす。なんでお前が泣いてんだよ。そんな、人殺しちまったときくらい思いつめた顔をするくらいなら、はじめからこんなことするな。

嗚咽を漏らしていた大地は、なんとか言葉を絞り出す。

「お前を……誰にも渡したくなくて……」
「は……?」
「俺の知らないお前が……増えていくことが耐え切れなくて……っ」

予想だにしていなかった言葉に俺は唖然とした。
ゲロを垂らした口をアホみたいにあんぐり開けている俺の前で、大地が泣き崩れる。

「本当にごめん、爽……っ。俺、今までずっと自分のエゴに……ずっと、ずっと、お前を巻き込んで……っ」
「いやちょっと待って。意味が分からなさすぎて冷静になったわ。なに? どういうこと? は?」

大地はカタカタ震えながら、少しずつ言葉を紡ぐ。

「俺、さ……。物心ついたときから……お前のこと、好きだったんだ……」
「はっ?」
「中学生の時には、お前のことを性的な目で見てたし……」
「???」
「シコるときは……いつもお前のこと想像してた……っ」

大地のやつ、浮気がバレて気でもおかしくなったのか?
こう言えば俺が許すと思って演技しているとか? いや、演技にしては迫真すぎるけど……。

「大地、お前、自分で何言ってるか分かってんの? お前もちょっと冷静になれ? たぶん主語と述語むちゃくちゃになってると思うから……」
「なってない……っ。特訓だって、お前の早漏治すためってのは建前で……っ、俺はただ、お前に触れたかっただけなんだ……っ。女しか見たことねえお前の顔を……俺も見たかっただけなんだよ……っ」
「……」

ダメだ。もう何が本当で何が嘘か分かんねえ。一度に色々起きすぎなんだよ。もうちょっと俺に一人で泣く時間をくれよぉ……。お前がボロ泣きしながら意味不明のこと言うから、涙引っ込んじまったじゃねえか……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

変態村♂〜俺、やられます!〜

ゆきみまんじゅう
BL
地図から消えた村。 そこに肝試しに行った翔馬たち男3人。 暗闇から聞こえる不気味な足音、遠くから聞こえる笑い声。 必死に逃げる翔馬たちを救った村人に案内され、ある村へたどり着く。 その村は男しかおらず、翔馬たちが異変に気づく頃には、すでに囚われの身になってしまう。 果たして翔馬たちは、抱かれてしまう前に、村から脱出できるのだろうか?

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

少年ペット契約

眠りん
BL
※少年売買契約のスピンオフ作品です。 ↑上記作品を知らなくても読めます。  小山内文和は貧乏な家庭に育ち、教育上よろしくない環境にいながらも、幸せな生活を送っていた。  趣味は布団でゴロゴロする事。  ある日学校から帰ってくると、部屋はもぬけの殻、両親はいなくなっており、借金取りにやってきたヤクザの組員に人身売買で売られる事になってしまった。  文和を購入したのは堂島雪夜。四十二歳の優しい雰囲気のおじさんだ。  文和は雪夜の養子となり、学校に通ったり、本当の子供のように愛された。  文和同様人身売買で買われて、堂島の元で育ったアラサー家政婦の金井栞も、サバサバした性格だが、文和に親切だ。  三年程を堂島の家で、呑気に雪夜や栞とゴロゴロした生活を送っていたのだが、ある日雪夜が人身売買の罪で逮捕されてしまった。  文和はゴロゴロ生活を守る為、雪夜が出所するまでの間、ペットにしてくれる人を探す事にした。 ※前作と違い、エロは最初の頃少しだけで、あとはほぼないです。 ※前作がシリアスで暗かったので、今回は明るめでやってます。

強制結婚させられた相手がすきすぎる

よる
BL
ご感想をいただけたらめちゃくちゃ喜びます! ※妊娠表現、性行為の描写を含みます。

ある少年の体調不良について

雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。 BLもしくはブロマンス小説。 体調不良描写があります。

やめて抱っこしないで!過保護なメンズに囲まれる!?〜異世界転生した俺は死にそうな最弱プリンスだけど最強冒険者〜

ゆきぶた
BL
異世界転生したからハーレムだ!と、思ったら男のハーレムが出来上がるBLです。主人公総受ですがエロなしのギャグ寄りです。 短編用に登場人物紹介を追加します。 ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎ あらすじ 前世を思い出した第5王子のイルレイン(通称イル)はある日、謎の呪いで倒れてしまう。 20歳までに死ぬと言われたイルは禁呪に手を出し、呪いを解く素材を集めるため、セイと名乗り冒険者になる。 そして気がつけば、最強の冒険者の一人になっていた。 普段は病弱ながらも執事(スライム)に甘やかされ、冒険者として仲間達に甘やかされ、たまに兄達にも甘やかされる。 そして思ったハーレムとは違うハーレムを作りつつも、最強冒険者なのにいつも抱っこされてしまうイルは、自分の呪いを解くことが出来るのか?? ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎ お相手は人外(人型スライム)、冒険者(鍛冶屋)、錬金術師、兄王子達など。なにより皆、過保護です。 前半はギャグ多め、後半は恋愛思考が始まりラストはシリアスになります。 文章能力が低いので読みにくかったらすみません。 ※一瞬でもhotランキング10位まで行けたのは皆様のおかげでございます。お気に入り1000嬉しいです。ありがとうございました! 本編は完結しましたが、暫く不定期ですがオマケを更新します!

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

食事届いたけど配達員のほうを食べました

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
なぜ自転車に乗る人はピチピチのエロい服を着ているのか? そう思っていたところに、食事を届けにきたデリバリー配達員の男子大学生がピチピチのサイクルウェアを着ていた。イケメンな上に筋肉質でエロかったので、追加料金を払って、メシではなく彼を食べることにした。

処理中です...