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第三章
春雨入りのゲロ
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「それで? これ、どういうこと」
ベッドに座っているマリカちゃんと、床で居心地悪そうにあぐらをかいている大地に向けて、俺は低い声で唸った。
マリカちゃんは笑顔を崩さないまま、大地に目を向ける。
「はい、じゃあ大地君、説明よろしくねっ」
「え、俺……?」
「そりゃそうでしょー。この際だから全部打ち明けたらぁ? どうせ話さなくたって、今日で爽君と大地君との信頼関係はコナゴナになったんだから」
「……そう、だな……」
大地はため息をつき、俯き加減に俺をちらりと見る。
「爽……。ごめん」
「謝る前に、事情を説明してくれるか?」
「おう……」
「さっきの様子からして、今日が初めてってわけじゃなさそうだな。いつから? チカはどうした? 俺の彼女だって分かってなんでそんなことした」
やばい。言葉にしていたらだんだんと腹が立ってきた。
「お前、よくこんなことしてて平気で俺と顔合わせられてたな。いつもどんな気持ちで俺とメシ食ってたんだ? どんな気持ちで――」
――どんな気持ちで、俺の体に触れてたんだ。
思わず涙がこぼれた。くそっ。こんなヤツらに泣き顔みられるなんて最悪だ。こんな惨めなことってない。
「……親友だと思ってたのに……。お前を疑ったことなんか一度もなかったのに……」
俺の言葉を聞いた大地は、この世の終わりみたいな顔をして目に涙を浮かべていた。
大地は震える声で何度も謝る。
「爽……ごめん……。本当にごめん……」
「俺、バカみてぇ……」
「お前はバカじゃない。バカなのは俺だ……」
出口のないやりとりに飽き飽きしたのか、マリカちゃんが退屈そうに足をプラプラ揺らす。
「大地君、早く爽君の質問に答えてあげなよー」
「……」
大地は小さく頷き、何度か深呼吸をしてから口を開いた。
「爽……。俺、マリカちゃんと浮気してた。お前がマリカちゃんと付き合い始めて一カ月経ったあたりから……つまり……半年くらいの間」
半年。半年もの間、俺はこいつとマリカちゃんに騙されていたのか。
「チカちゃん……のことも知ってたのか……? チカちゃんとは別れた……別に付き合ってもなかったけど。別れて、マリカちゃんと関係を持つようになった」
大地はもじもじと体を揺らし、ほとんど口を動かさずに続ける。
「……お前の彼女だったから、こんなことした」
「は……?」
泣くのを必死にこらえているのか、大地の声が震えている。
「マリカちゃんだけじゃない……。チカちゃんも、その前の爽の彼女も……お前が初めてできた彼女から……、お前の彼女全員と、俺は関係を持ってた」
信じられない告白に言葉が出てこなかった。
「お前の彼女の浮気相手、全部俺なんだ」
突然襲った吐き気に、俺は口を押えてトイレに駆け込んだ。さっき食べた春雨が全部、きったねえ黄土色のドロドロした液体と一緒に口から飛び出した。
「うぇっ……うぅ……うぅぅぅー……っ」
親友と思っていた男が寝取った彼女の部屋の便器に顔を突っ込んで泣き崩れる俺。客観的に見ても惨めすぎるだろ。
この空間、気持ちわりい。ゲロでまみれてやがる。
トイレの入り口に人の気配を感じた。影の形からして大地だろう。
俺は便器に顔をうずめたまま口を開く。
「そういやお前……今までの彼女の……名前も顔も……なんも教えてくれなかったな……」
「……」
「全員俺の彼女なんだったら、そりゃ言えねえわな……」
「ごめん……」
「お前……そんなに俺のこと嫌いだったの……? 俺の彼女全員寝取るくらい……。俺、お前にそんな憎まれることしてた……?」
「違う……お前のこと……俺が憎むわけないだろ……」
「じゃあなんでっ……! なんでそんなことしてたんだよ!!」
ゲロを撒き散らかして怒鳴る俺を大地が見下ろす。なんでお前が泣いてんだよ。そんな、人殺しちまったときくらい思いつめた顔をするくらいなら、はじめからこんなことするな。
嗚咽を漏らしていた大地は、なんとか言葉を絞り出す。
「お前を……誰にも渡したくなくて……」
「は……?」
「俺の知らないお前が……増えていくことが耐え切れなくて……っ」
予想だにしていなかった言葉に俺は唖然とした。
ゲロを垂らした口をアホみたいにあんぐり開けている俺の前で、大地が泣き崩れる。
「本当にごめん、爽……っ。俺、今までずっと自分のエゴに……ずっと、ずっと、お前を巻き込んで……っ」
「いやちょっと待って。意味が分からなさすぎて冷静になったわ。なに? どういうこと? は?」
大地はカタカタ震えながら、少しずつ言葉を紡ぐ。
「俺、さ……。物心ついたときから……お前のこと、好きだったんだ……」
「はっ?」
「中学生の時には、お前のことを性的な目で見てたし……」
「???」
「シコるときは……いつもお前のこと想像してた……っ」
大地のやつ、浮気がバレて気でもおかしくなったのか?
こう言えば俺が許すと思って演技しているとか? いや、演技にしては迫真すぎるけど……。
「大地、お前、自分で何言ってるか分かってんの? お前もちょっと冷静になれ? たぶん主語と述語むちゃくちゃになってると思うから……」
「なってない……っ。特訓だって、お前の早漏治すためってのは建前で……っ、俺はただ、お前に触れたかっただけなんだ……っ。女しか見たことねえお前の顔を……俺も見たかっただけなんだよ……っ」
「……」
ダメだ。もう何が本当で何が嘘か分かんねえ。一度に色々起きすぎなんだよ。もうちょっと俺に一人で泣く時間をくれよぉ……。お前がボロ泣きしながら意味不明のこと言うから、涙引っ込んじまったじゃねえか……。
ベッドに座っているマリカちゃんと、床で居心地悪そうにあぐらをかいている大地に向けて、俺は低い声で唸った。
マリカちゃんは笑顔を崩さないまま、大地に目を向ける。
「はい、じゃあ大地君、説明よろしくねっ」
「え、俺……?」
「そりゃそうでしょー。この際だから全部打ち明けたらぁ? どうせ話さなくたって、今日で爽君と大地君との信頼関係はコナゴナになったんだから」
「……そう、だな……」
大地はため息をつき、俯き加減に俺をちらりと見る。
「爽……。ごめん」
「謝る前に、事情を説明してくれるか?」
「おう……」
「さっきの様子からして、今日が初めてってわけじゃなさそうだな。いつから? チカはどうした? 俺の彼女だって分かってなんでそんなことした」
やばい。言葉にしていたらだんだんと腹が立ってきた。
「お前、よくこんなことしてて平気で俺と顔合わせられてたな。いつもどんな気持ちで俺とメシ食ってたんだ? どんな気持ちで――」
――どんな気持ちで、俺の体に触れてたんだ。
思わず涙がこぼれた。くそっ。こんなヤツらに泣き顔みられるなんて最悪だ。こんな惨めなことってない。
「……親友だと思ってたのに……。お前を疑ったことなんか一度もなかったのに……」
俺の言葉を聞いた大地は、この世の終わりみたいな顔をして目に涙を浮かべていた。
大地は震える声で何度も謝る。
「爽……ごめん……。本当にごめん……」
「俺、バカみてぇ……」
「お前はバカじゃない。バカなのは俺だ……」
出口のないやりとりに飽き飽きしたのか、マリカちゃんが退屈そうに足をプラプラ揺らす。
「大地君、早く爽君の質問に答えてあげなよー」
「……」
大地は小さく頷き、何度か深呼吸をしてから口を開いた。
「爽……。俺、マリカちゃんと浮気してた。お前がマリカちゃんと付き合い始めて一カ月経ったあたりから……つまり……半年くらいの間」
半年。半年もの間、俺はこいつとマリカちゃんに騙されていたのか。
「チカちゃん……のことも知ってたのか……? チカちゃんとは別れた……別に付き合ってもなかったけど。別れて、マリカちゃんと関係を持つようになった」
大地はもじもじと体を揺らし、ほとんど口を動かさずに続ける。
「……お前の彼女だったから、こんなことした」
「は……?」
泣くのを必死にこらえているのか、大地の声が震えている。
「マリカちゃんだけじゃない……。チカちゃんも、その前の爽の彼女も……お前が初めてできた彼女から……、お前の彼女全員と、俺は関係を持ってた」
信じられない告白に言葉が出てこなかった。
「お前の彼女の浮気相手、全部俺なんだ」
突然襲った吐き気に、俺は口を押えてトイレに駆け込んだ。さっき食べた春雨が全部、きったねえ黄土色のドロドロした液体と一緒に口から飛び出した。
「うぇっ……うぅ……うぅぅぅー……っ」
親友と思っていた男が寝取った彼女の部屋の便器に顔を突っ込んで泣き崩れる俺。客観的に見ても惨めすぎるだろ。
この空間、気持ちわりい。ゲロでまみれてやがる。
トイレの入り口に人の気配を感じた。影の形からして大地だろう。
俺は便器に顔をうずめたまま口を開く。
「そういやお前……今までの彼女の……名前も顔も……なんも教えてくれなかったな……」
「……」
「全員俺の彼女なんだったら、そりゃ言えねえわな……」
「ごめん……」
「お前……そんなに俺のこと嫌いだったの……? 俺の彼女全員寝取るくらい……。俺、お前にそんな憎まれることしてた……?」
「違う……お前のこと……俺が憎むわけないだろ……」
「じゃあなんでっ……! なんでそんなことしてたんだよ!!」
ゲロを撒き散らかして怒鳴る俺を大地が見下ろす。なんでお前が泣いてんだよ。そんな、人殺しちまったときくらい思いつめた顔をするくらいなら、はじめからこんなことするな。
嗚咽を漏らしていた大地は、なんとか言葉を絞り出す。
「お前を……誰にも渡したくなくて……」
「は……?」
「俺の知らないお前が……増えていくことが耐え切れなくて……っ」
予想だにしていなかった言葉に俺は唖然とした。
ゲロを垂らした口をアホみたいにあんぐり開けている俺の前で、大地が泣き崩れる。
「本当にごめん、爽……っ。俺、今までずっと自分のエゴに……ずっと、ずっと、お前を巻き込んで……っ」
「いやちょっと待って。意味が分からなさすぎて冷静になったわ。なに? どういうこと? は?」
大地はカタカタ震えながら、少しずつ言葉を紡ぐ。
「俺、さ……。物心ついたときから……お前のこと、好きだったんだ……」
「はっ?」
「中学生の時には、お前のことを性的な目で見てたし……」
「???」
「シコるときは……いつもお前のこと想像してた……っ」
大地のやつ、浮気がバレて気でもおかしくなったのか?
こう言えば俺が許すと思って演技しているとか? いや、演技にしては迫真すぎるけど……。
「大地、お前、自分で何言ってるか分かってんの? お前もちょっと冷静になれ? たぶん主語と述語むちゃくちゃになってると思うから……」
「なってない……っ。特訓だって、お前の早漏治すためってのは建前で……っ、俺はただ、お前に触れたかっただけなんだ……っ。女しか見たことねえお前の顔を……俺も見たかっただけなんだよ……っ」
「……」
ダメだ。もう何が本当で何が嘘か分かんねえ。一度に色々起きすぎなんだよ。もうちょっと俺に一人で泣く時間をくれよぉ……。お前がボロ泣きしながら意味不明のこと言うから、涙引っ込んじまったじゃねえか……。
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