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20歳の冬 就活(※)

就活

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「イソザキさん…だっけ。どうも」

《どうもこんにちは》

「うちのケーゴがとんだご迷惑をおかけしました」

"うちの"を強調するエドガーに磯崎は眉をひくつかせた。だがすぐに笑顔に戻り《いいえ》と答える。

《迷惑だなんてそんな。とても楽しい時間を過ごさせてもらっているよ》

「…今すぐケーゴを引き取りに行きますので、今いらっしゃる場所を教えていただけますか」

《迎えになんて来なくていいよ。圭吾くんはこのまま私が預かるから》

「いいえ。行きます」

《…君、βの子だよね。分からないかな。君じゃ圭吾くんをしあわせにできないよ。そちらのαの子でも、圭吾くんはもったいないくらいなんだから》

「それは体の相性のことを仰っているのでしょうか」

《そうだよ。この週末、何度も圭吾くんと体を重ねて思い知ったよ。私とこの子は運命の番なのだと、ね》

「……」

《圭吾くんも分かったと思うよ。私も、この子も、こんな快感は初めてだった。何度体を重ねても足りない。体が互いを求め合うんだ。今はあまりの快感に意識を失ってしまっているが、圭吾くんが目を覚ましたとき、おそらく選ぶのは君たちではなくて私だよ》

エドガーとスルトは深刻な表情で目を見合わせた。その様子に磯崎がクスっと笑い言葉を続ける。

《君たちは運命の番を引き離すのかい?自分たちの都合で?》

「…貴様、勘違いをしていないか?」

《?》

今まで黙っていたスルトが口を開いた。

「俺たちも、ケーゴも、体の相性だけで互いを選んだわけではない。俺たちはケーゴそのものを愛しているのだ」

《ほう、愛》

「確かにケーゴの体は最高だ。他のやつ相手に不能になってしまうほどにな。だがな、俺たちは、もしケーゴが今の体でなくとも…Ωでなくともケーゴを選んでいた」

《ふふ。口だけならなんだって言えるさ。それに私だって圭吾くんを愛しているよ。誰よりも、ね》

「お前はケーゴのことを何も知らないだろう。外面しか知らない」

《それはこれから知っていくさ。ゆっくりじっくり、時間をかけてね》

「話にならん。さっさと場所を教えろ」

《…まだ手放す気になれないか。まあそうだよね。こんなΩ他にはいないのだから》

「「「ケーゴをΩ呼ばわりするな!!!」」」

スルト、エドガー、ピーターが声を揃えて怒鳴った。磯崎はぽかんと口を開けている。なぜ怒鳴られたのか理解できないようだった。

《いや…だって彼、Ωじゃないか》

「さっきから聞いていたらオメガオメガとうるさいやつめ!!!ケーゴのことをただの極上Ωとしか認識していない貴様にケーゴを渡せるはずがあるか!!」

「スルト、もういいよ。こんなやつと話していたって時間の無駄だ。僕があいつの居場所を調べたほうが早い」

「そうですね。早く助けに行ってあげましょう。こんなやつに好き勝手されているケイゴがかわいそうです」

《…はあ、何を言っても無駄か》

「そうだ。必ずケーゴを取り戻すからな」

《分かったよ。では圭吾くん本人に選んでもらおうか。…君たちが来るまでのあいだ、ゆっくりと圭吾くんと楽しんでいるよ。もちろん居場所は教えない。…じゃあ、またね》

磯崎はカメラに映るように、意識を失っている圭吾と唇を重ねてから切電した。スルトはスマホを勢いよく床に投げつけた。スマホは粉々に割れてしまったが、誰もそれを咎めなかった。

しばらく沈黙が流れる。スルトは悔しさでボロボロと涙を流している。エドガーも目を擦っていたが、頬を手で叩いて立ちあがった。

「じゃあ、しばらく時間をもらうよ。イソザキの居場所を突き止める」

「できるのか?」

「うん。やってみる」

「…エドガー、頼んだぞ。俺にできることはあるか?」

「顔を洗って少し気持ちを落ち着かせておいて。…ごめん、時間が惜しいからもう行く」

「ああ…」

「エドガー様…」

「ピーター」

心配そうに二人の様子をうかがっていたピーターに、エドガーは優しい笑みを浮かべた。

「さっきはありがとう。僕たちは一瞬ケーゴを疑ってしまった。君がいてくれてよかった。本当に、本当にありがとう」

「はい…」

それからエドガーはネットワークを駆使して磯崎について調べ上げた。彼が、圭吾が金曜日に面接に行った会社の部長であることを知り、彼が週末に質の良いΩをホテルへ連れ込んで好き勝手しているという情報も得た。

「…くそっ。もっと早くイソザキについて調べておくべきだった…!そしたらケーゴはこんなことに巻き込まれなかったのに…!」

エドガーは更に磯崎について調べた。磯崎の体を知ってしまったΩはそのα性を忘れられず、恋人や配偶者と破局することがほとんどだということを知り、ギリギリと歯を鳴らす。

「ケーゴ…」

「余計な情報は見るなよエドガー」

「っ、スルト…」

いつの間にか背後に立っていたスルトがエドガーの肩に手を置いた。

「大丈夫だ。ケーゴは俺たちを選ぶ」

「…でも、僕はβだ…」

「おい…。言っておくがケーゴは俺よりもお前としているときの方が気持ちよさそうにしているんだぞ。なにが"僕はβだ"だ、ふざけるな。それだと俺がまるでセックスがへたくそなやつみたいではないか」

「まあ、君よりは上手な自信はあるけど…」

「おいぃぃ!元気づけてやろうと思ったのになんだその言い草は!」

「…ふふ。ありがとうスルト。ごめん、確かに少しネガティブになっていたみたいだ。…でも情報は揃ったよ。彼はいつもΩを決まったホテルに連れて行っている。都内のMホテルのスイートルーム。今もおそらくここだろうね」

「でかしたぞエドガー。ではさっさと行くぞ」

「うん。ピーターは?」

「もう靴を履いて待っているぞ」

エドガーはパソコンの電源を切り立ちあがった。スルトとエドガーは何も言わず抱き合った。お互い平常をなんとか保っているが、内心は気が狂ってしまいそうなほど感情がぐちゃぐちゃになっている。磯崎に対する怒り、圭吾に対する不安…。二人はおさえきれずに嗚咽を漏らした。

しばらく泣いたあと、スルトとエドガーは体を離し互いの顔を見た。二人とも目が真っ赤に充血していたのでクスリと笑う。

「…行くか」

「うん」
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