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10歳の冬

ドッジボール(書き下ろし)

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「けーご!すいと!ドッジボールしようぜ!」

お昼休み、昼食を食べ終えた男の子たちが僕たちに声をかけた。ごはん食べた一気によく運動しようと思うよね…。しかもあと20分で授業始まるよ?元気すぎるでしょ子どもこわ…。

「え、むり」

「はぁー?!けーごおまえそんなんだからヒョロヒョロなんだぞ!おんなみたいな体つきして!」

「はぁ?!」

「そんなんだから先生にいやらしー目で見られるんだぞ!」

「それ関係なくない?!」

「いや、関係あるかもしれん」

隣で黙って話を聞いてたスルトがボソっと呟いた。真剣な目で僕を見ながらアホみたいなことを言う。

「ケーゴ、お前、運動不足で匂いが濃くなっているんじゃないのか?ほら、運動しなかったら汗のにおいがくさくなるのと同じように…」

「スルトまでなに言っちゃってんの?!てか汗とΩ臭一緒にしないでくれない?!」

「いやしかし」

「すいとの言う通りだぞ!けーご運動しないから甘いにおいするんだー!」

「おれたちとドッジボールしてムキムキになろうぜー!」

「ドッジでムキムキになんてならないよ?!」

「うだうだ言わずに運動をするぞケーゴ。それに俺はケーゴに気があるこいつらに思いっきりボールを投げつけたい」

「うわぁ…」

やる気になってしまったスルトに引きずられて僕たちは運動場へ行った。ドッジに参加した子は8人で、4人ずつに分かれた。グループ分けするとき、当然のようにスルトが僕と同じグループに入ろうとしたが、子どもたちが「ふこうへいだー!!」と喚き散らしたので結局グッパーで決めることになった。そして見事に違うグループになり、スルトがものすごく不機嫌になった。ほんとに子どもみたいで笑える。

「じゃあいくぞー!よーい、すたーと!」

スルトグループの男の子がボールを投げる。狙いはもちろん一番よわっちょろい僕。

「ぎゃーーー!!やめてこっち投げんなぁあっ!!いだいっ!!」

バチィィィンと派手な音を立てて僕の脚にボールが当たる。なんなのこの野蛮なゲーム!!

「やったー!!」

「おい貴様ぁぁぁっ!!!」

「ひぃぃっ?!」

スルトは僕にボールを当てた子の胸ぐらをつかみながら大声で叫んだ。

「俺のケーゴにボールを当てるとはいい度胸だなぁ?!貴様死にたいらしいな!!」

「ひぃぃっ!!!」

「ちょっとスルト!!そういう遊びなんだから怒っちゃだめでしょ!!」

「しかしケーゴ!お前の美しい足にボールの跡が!!」

「こんなのすぐなくなるから!!ほら!離してあげて!!」

「むぅ…!」

スルトはむすっとしながら手を離した。はじめはビビッてギクシャクしてた子たちも、ドッジをしていくうちにまた楽し気にボールを当て合っていた。スルトもいつの間にかめちゃくちゃ楽しんで汗めっちゃかいて笑ってるじゃん。かわいいなくそー。まあみんな楽しそうでよかったー…。

「けーご!!チャンスボールだ!当てろー!!」

外野にいた僕にボールがパスされる。相手チームは逃げ回っていたせいかみんな動きが鈍い。僕の射程圏内にいたのはスルト。僕がニヤッと笑うと、スルトも挑発的な目で僕を見た。

「ほうケーゴ。俺とやりあうつもりか?」

「前世と今世、さんざん僕を好き勝手してくれたねスルト。これはその…おかえしだぁぁぁっ!!!」

僕はかっこいいセリフを言いながら全力でボールを投げた。結構速い球投げれた!!よしっ!!

パシッ

「……」

「……」

…そんな球を、スルトは余裕で受け止めた。しかも片手で。僕は口をぽかんとあけてそんなスルトを見た。スルトもアホみたいな顔でこっちを見てる。

「……」

「…その、すまん」

「……」

「思っていた以上に筋力ないんだな、お前…」

「……」

「ヒョロヒョロボールすぎて止まって見えたぞ」

「それ以上言うなぁぁぁあっっ!!!!」

あんなセリフ吐いたのに!!みんなも僕のボールがへっぽこすぎてかたまってるじゃん!!やだなにこの公開処刑!!僕は顔を真っ赤にしてしゃがみこんだ。

「け、けーご、うでの骨折れてんのか…?だいじょうぶか?」

「あれだよな、つまずいちゃったんだよなっ?」

「すいとだから手加減したんだよなっ?」

「全力でやってあれだよバカぁぁあっ!!!」

僕のことがいたたまれなくて、仲間どころか相手チームまで僕を慰めてくれた。それが余計つらかったです。スルトはその様子みて顔隠してプルプル震えてるし。絶対笑いこらえてるじゃん!

そんな僕が相手にボールを当てられるはずもなく、はじめっから最後までずっと外野でいるはめになった。でも一緒に遊んでた子たちみんな優しくて、ヒョロボールしか打てない僕にでもパスしてボール投げさせてくれた。子どものやさしさにちょっと感動した。

「はー!たのしかったー!!けーご、すいと!またやろうなー!!」

「ああ、また誘ってくれ」

「え?僕も誘ってくれるの?」

「あたりまえだろ!!みんなでやったほうが楽しいんだから」

「わ…、なんでだろう泣きそう」

「あはは!!じゅぎょうはじまるから教室もどろうぜ!!」

「うん!」

僕たちはパタパタ走って教室へ戻った。子どもたちが階段を駆け上がっている中、僕たちはゆっくりと歩いてのぼる。ふたりっきりになったとき、スルトが僕の腰に腕をまわして耳元で囁いた。

「ケーゴ、お前はドッジボールは下手だが、セックスは誰よりも上手だぞ」

「え、なにその気持ち悪い励ましのことば。子どもたちを見習ってください」

「っ!ケーゴぉ!お前帰ったら覚えていろよ…!」

「ひぃぃ…」
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