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最終章 25歳の春

ウェディングドレス

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「ケーゴ!このドレスはどうだ。絶対お前に似合うぞ」

「いや、こっちのドレスの方が似合うと思うよ」

「いや、だからさ…」

「「??」」

「僕はタキシード着るって言ってるでしょ?!僕、男なの!!分かる!?ちんこついてんの!!」

僕たちが大学を卒業して3年が経った。この3年で結婚資金を貯めて(エドガーが一人で用意してくれるって言ってくれてたんだけど、僕のわがままで結婚資金は3人で割って出すことにした)、やっと結婚式を挙げられる目途が立った。もうみんなのご両親と顔合わせや結納式も済ませ、結婚式は3か月後に迫っていた。

で、今結婚式の衣装を選んでるんだけど、スルトとエドガーが僕の衣装として持ってくるのが全部ウェディングドレスなんだ…。何回タキシード着るって言ってもめげずにドレスを持ってくる。はらたつわぁ…。

「ちんこがついていたらウェディングドレスを着てはいけないのか?!そんな決まりはない!好きなものを着ていいんだぞケーゴ!!」

「そうだよケーゴ。遠慮しないで。で、このドレス試着してみてくれないかな?」

「僕はタキシードが着たいんだよ!!なんで僕がウェディングドレス着たいと思ってるていで話が進んでるの?!なんとか言ってよピーター!!!」

「…とりあえず一回着てみないかケイゴ?」

「僕の!味方!!どこ!!!」

「俺の両親もケーゴのウェディングドレス姿楽しみにしているんだがな。…お前の職場の社長がな」

「僕の両親も楽しみにしているんだけどなあ」

「ちなみに俺の両親も楽しみにしているぞ」

「なんでピーターのご両親まで楽しみにしてるんだよ!!!」

「あとお前の両親だって楽しみにしてるぞ」

「なんでそれを知ってるのスルト?!」

「なんでって。俺に毎日のようにLINE送ってくるからな。お前の母さん。ケーゴにウェディングドレス着るように説得してくれって」

「なんでだよ!!!なんでだよおおお!!!」

「あ、あのぉ…」

僕たちが口論をしてると、店員さんがおそるおそる声をかけた。

「それなら、パンツスタイルのウェディングドレスにしたらいかかでしょうか?」

店員さんの提案に全員が固まった。頭の中で必死に思考を巡らせる。

(僕以外全員ウェディングドレスをご所望…タキシードで許される確率はほぼ0。だったら…)

(ケーゴは絶対嫌なことは断固として首を縦に振らん。このままではタキシードで押し切られてしまう。それよりは…)

(パンツスタイルのウェディングドレス?なんだそれ最高に興奮する。それに普通のウェディングドレスはこっそり買っといて家で着てもらえばいいし…)

(へー、パンツスタイルのウェディングドレスとかあるんだ。ケイゴ似合いそうだなあ。きっと普通のウェディングドレスはエドガー様がこっそり買って家で着せると思うし…)

「「「「それでいきましょう」」」」

「かしこまりました!では高戸様、こちらへどうぞ」

「はい。お願いします」

店員さんに案内してもらったスペースには、数種類のパンツスタイルのウェディングドレスがあった。普通のものより種類は少ないけど、絶対この中で決める。ドレスなんて絶対いやだ…!!

「パンツドレスにも種類がございまして。細見パンツ、ワイドパンツ、スカート+パンツがございます」

「パンツでお願いします!」

「かしこまりました。…高戸様、きっとオフショルや透け透けレースが似合うと思うんですけど…」

げ?!店員さんまで何を言い出してんの?!ああ、だめだこの人もあっち側の人間だな?!すごく興奮した顔でどえらいすっけすけのドレス持ってきたぞ?!

「あと…ショートパンツスタイルのもございましてですね…。きっとお似合いになるかと…」

「えーっと!!あ!!これいいなあ!!これにしようかなあ!!」

僕は咄嗟に近くにあった、首までかっちり襟があるシンプルなパンツドレスを引っ掴んだ。店員さんはあからさまにガッカリした顔をしている。

「ああ…それもいいですよね。きっと高戸様に似合うと思います…。でも、やっぱり…」

「いえ!!これでいきます!!これがいい!絶対に!!」

「…分かりました。ですが高戸様!パンツスタイルと言ってもこれはドレス!!ピンヒールは絶対に外さないでくださいね!!あとドレスがシンプルな分ヴェールはゴージャスにいたしましょう!!」

「めっちゃグイグイ来ますねあなた?!」

「もちろんですとも!!高戸様のような美しい方のドレス!!気合が入らないわけがございません!!お顔は言うまでもなく、陶器のような肌!!彫刻のような美しい体型!!生半可な気持ちでおりましたらドレスが負けてしまいます!!!」

「何言ってんのこの人ぉ!!」

「さあ、高戸様!!どうぞご試着を!!」

店員さんは僕を試着室へ押し込み、パンツドレスとやたらとゴージャスなヴェール、白いレースがあしらわれたピンヒールを持って彼女も更衣室へ入ってきた。僕のシャツのボタンを外してはぎとる。びっくりした僕は両手で胸を隠した。

「なっ、なに?!え?!僕もしかして襲われてる?!」

「まさかそんな!!私のような凡人があなたに手を出すなどおこがましいことなど致しません!!さあ、早くドレスを着てくださいませ!!」

「ひいいい!!!」

◇◇◇
「ん?今ケーゴの叫び声が聞こえなかったか?」

「聞こえたね。まさかあの店員さんに襲われているのかな?」

「心配ですね。行きましょう」

3人は圭吾が案内された場所へ走った。試着室でぎゃーぎゃー騒いでいる圭吾の声と、それと同じくらいの声量できゃーきゃー喜んでいる店員の声が聞こえる。スルトは「ケーゴ大丈夫かあああ!!」と叫びながら試着室のカーテンを開けた。

「あ…スルト…」

「っ…!」

白く品のあるパンツドレス、艶やかなヴェールとピンヒールを身に纏った圭吾が顔を真っ赤にして立っている。店員は満足げに自分の額を拭っていた。

「いかがでしょうか?」

「……」

スルト、エドガー、ピーターは圭吾の姿を呆けた顔で見惚れている。圭吾は恥ずかしそうに顔を背けた。

「こ、これ以上は女の子の恰好しないから」

「……」

「…ねえ、なんか言ってよ!!黙って見つめられると恥ずかしくて死にそうだから!!!」

「あ、ああ…」

◇◇◇
そんなじっと見るなあ…。スルトは「ああ」って言ったあと黙ってるし。エドガーは呆けたまんま泣いてるし。ピーターも喋らずに合掌してるだけだし。まあ、この反応を見ると気に入ってもらえたみたいだけど。

「ねえ、これでいい?!これ以上は譲歩しないよ?」

「ま、まて。両親にLINEする」

「あ、僕も」

「俺もします」

「はいはい。どうぞしてください」

3人は震える手でスマホを持ち、パンツドレス姿の僕を写真に撮った(20枚ほど)。それを両親に送ると早速返事が来たようだ。

「…俺の親が、興奮しすぎて発狂した」

「僕の親は興奮しすぎて死にかけてる」

「俺の親は興奮しすぎて泣いてます」

「さすがあなたたちのご両親ですね」

みんなにご満足いただけたみたいで、結婚式に僕がこのパンツドレスを着ることが決定した。結婚式まであと3か月。ちょっと楽しみだったりする。
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