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エピローグ
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十年後――
毎朝僕を起こすのは、小鳥のさえずりではなく弟妹たちの元気な叫び声だ。
「お兄ちゃんー! ごはんできたよー!!」
「お兄ちゃん早く起きて! いつまで寝てんのよもう!」
「お兄ちゃん、まだ寝てるのぉ~! じゃあ僕も一緒に寝~ちゃおっ!」
……と、こんな感じで。
「みんなおはよ……。ちょっと待ってね……。今ごはんの用意するから……」
そう言ったものの、体がだるくてなかなか起き上がる気になれない。
ベッドに潜り込んできたマルコに抱きつかれたまま、僕は再び目を閉じた。
しかし――
「おいマルコ! エディにくっつくなと何度言ったら分かるんだ! 弟だとしても許さないぞ!」
「ばかローラン! 番だからってお兄ちゃん独り占めするな!!」
「なっ……、今僕のことをバカと言ったか!?」
「バーカバーカ! バカローラン!!」
両サイドから叫ばれ、眠気が一気に吹き飛んだ。
僕はのろのろと体を起こし、ローランにキスをする。
「おはようローラン。元気だね……(朝方までしていたのに)」
「エディは疲れた顔をしているな。体調が悪いのか?」
「……(君のせいだよ)」
あれから十年の月日が経った。今思えばあっという間だったけれど、いろんなことがあった。
たとえば、ローランがセドラン侯爵家と縁を切ったり。
ローランのお父さまは、アルファのローランを跡継ぎにしたがっていた。しかしローランは長男を差し置いて自分が跡継ぎになることがたまらなく嫌だった。
「お兄さまはベータだけど、僕よりずっと優秀だ。セドラン家を継ぐのは彼をおいて他にいない」
ローランのお兄さまは、ローランが生まれるまで跡継ぎになるための教育を受けてきた。セドラン家の長男である自分に誇りと責任を持ち、ずっと頑張ってきたのだ。
それなのに、ローランというアルファの弟ができた日から、彼は不必要な存在として扱われるようになった。
それでも彼は腐らずに、跡取りになるべく努力を続けてきたそうだ。
「お兄さまは立派な人だよ。僕のせいで人生がめちゃくちゃになったはずなのに、僕に恨み言を言ったこともない。それどころか……家族の中で一番僕をまっすぐ愛してくれていたのは、彼だったよ」
長男に跡継ぎの座を譲りたかったという理由の他にも、ローランがセドラン家から出て行った大きな理由がある。
それは……実の父親だ。
ローランの父親は、あまりに美しい息子を、ただの息子として愛することができなかった。
鑑賞物。性的欲求を満たすための存在――……
僕はあとから知ったのだが、ローランは幼少時代から父親に性的虐待を受けていたそうだ。
当主であり、実の父親であるせいで、ロジェでさえそれを止めることはできなかった。
ローランの父親は、定期的に発情したオメガをローランの部屋に連れて行っていた。そして、ラットになったローラン様が性交しているところを鑑賞するのだ。そしてそのあとは……あまりに可哀想で、言葉にできない。
ローランが僕と恋仲になってからは、ロジェがのらりくらりとごまかして父親の鑑賞会を遠ざけていたらしい。だが、三カ月目にして父親の我慢が限界に達し、オメガの使用人を薬で強制的に発情させて、ローランの部屋を訪れた。
その日、僕もローランのベッドで眠っていたからよく覚えている。
発情したオメガがローランに覆いかぶさり、めいいっぱいオメガのフェロモンを吸わせた。
しかし、ローランはラットにならなかった。それどころか、軽蔑たっぷりの目で笑ってみせた。
「お父さま。僕はもうそこらへんのオメガではラットになりませんよ」
ローランがすぐラットになっていたのは、それまで頑なにアルファとしての欲求を満たそうとしなかったからだった。それと、強制的にラットにされたあとの耐えがたい行為から目を背けるためでもあった。
僕と毎晩繋がり、僕の発情期にほどよいラットになっていたローランは、適切に性欲とアルファ性を発散できるようになっていた。
だから望まない相手であれば、たとえ発情中のオメガだったとしてもラットにならずに済んだのだ。
ラットにならないローランに対して、父親は激怒した。アルファ性が薄まっているかもしれないから体を診なくてはいけないなどと理由を付けて、ローランの体に触れようとした。
ローランは拒絶し、父親に僕のことを説明した。僕がオメガであることと、将来的には番になることを考えているということを。
それを聞いた父親は、ローランと僕が番になることを反対した。建前では「跡取りは貴族の令嬢と結婚しなければならないから」など当たり障りのないことを言っていたが、本音は男オメガの僕を父親も抱きたかっただけに過ぎない。
父親はローランと僕の性交を見せろとせがんできた。それだけじゃない。三人でしようとも言われた。もちろん僕たちは断ったが……
翌日、僕は嘘の用事でお客用寝室に呼び出され、ローランの父親に襲われた。
それを知り、ローランの堪忍袋の緒が切れたのだ。
「もうたくさんだ。ロジェ。僕はこの家を出て行く」
「はい。どこまでもお供いたします」
当然、ローランが家を出ることに父親は反対した。それなのに、ある日を境に態度がコロッと変わり、ローランを引き留めなくなった。
これは憶測でしかないけれど、たぶんロジェが脅……説得してくれたんだと思う。
こうして僕たちは、今から九年前にセドラン侯爵家を出て、僕の実家に暮らすことになった。
僕が帰ってきて兄弟は大喜び。恩人であるローランのことも、みんな歓迎してくれた。
ちなみにロジェは向かいの空き家を買い取り、そこで暮らしている。
ローランと兄弟の仲は良好だ。
マルコとローランは僕を巡ってよく言い争いをしているけれど、なんだかんだ言って一番の仲良しなんじゃないかと思っている。アルファ同士だしね。
キッチンには、三男のレオンと次女のアンナが待っていた。
「遅いよ! せっかくの料理が冷めちゃうじゃないか!!」
十八歳になったレオンは、今は近所の居酒屋で働いている。レオンの作る料理は美味しいのだと近所では評判だ。
「マルコ! 今日はクエストの日よ。忘れてないでしょうね?」
「忘れてないよ! ちゃんと武器も磨いたし!」
十五歳になったアンナは、十三歳になったマルコと一緒に冒険者として頑張っている。
アンナが十三歳になったとき、突然「冒険者になりたい!」と言い出した。なんでも、誰かに「一番稼げるのは冒険者」という話を聞いたらしい。
危険だからやめなさいと言っても、頑固なアンナは聞かなかった。さらにマルコまで「僕も冒険者になるー!」なんて言い出すからヒヤヒヤしたものだ。(マルコはアンナの真似ばかりしたがるから……)
そんな彼女たちに武器の扱い方を教えてくれたのは、ロジェだ。それだけじゃない。アンナたちがクエストに行くときは、ロジェがついて行ってくれる。
「エディの大切な家族になにかあればいけませんから」
ロジェという心強い保護者のおかげで、アンナとマルコはかすり傷程度のケガしかしたことがない。
ちなみにロジェは、クエストに付き合っていないとき、向かいの家からじーっと僕たちを見守ってくれている。といっても、夜はいつも一緒にごはんを食べているんだけど。
残りのきょうだい――次男のモーリスと長女のセリーヌは、もうここにはいない。
モーリスは五年前に幼馴染と結婚して、小さな家を建てた。この家からそう遠くない場所だから、ときどき遊びに来てくれる。
セリーヌも二年前に結婚した。なんでも、薬を買いに来た冒険者にひとめぼれされて猛アタックを受けたとか。
先日、かわいい女の子が生まれたと手紙をもらった。近いうちに家族でお祝いに行く予定だ。
そして僕とローランは、二人で薬屋を営んでいる。
ローランはすごく頭が良いから、一度教えたことはすぐに覚えてくれる。それに手先が器用で作業も丁寧だから、薬の調合も上手だ。
警戒心たっぷりの横柄な態度を取ってしまうから売り子には向いていないけれど……そこは僕がカバーしている。
アンナとマルコが新鮮な薬草や珍しい植物、魔物の素材を採ってきてくれるおかげで、薬の品質もぐんと上がった。
さらにロジェが定期的に広報活動をしてくれているので、今ではなかなか繁盛している。
レオンとアンナ、マルコも家にお金を入れてくれるようになり、今ではちょっとだけゆとりのある生活ができるようになった。
「不思議だ」
夜、ベッドの中でローランが呟いた。
「贅沢なんてひとつもしていないはずなのに、もったいないほど贅沢に感じるときがある」
そして、僕を抱きしめる。
「ああ、ここに贅沢なものがひとつあった」
自然と僕たちの唇が重なる。もう何万回目かも分からないくらいキスしているはずなのに、いつもはじめてしたときと同じくらいドキドキする。
ローランの舌が僕のうなじに回る。歯形がついたそこにちゅっと吸い付いた。
「愛しい僕の番」
ローランと僕が番になったのは二年前だ。
薬屋の経営が軌道に乗り、やっと僕たちだけで家族を養えるようになってから。
(それまではロジェに支援してもらわないと生活が難しかった)
僕たちが番になるとき、ロジェに見守ってもらった。
番になった瞬間、僕よりもローランよりも、ロジェが号泣していたのをよく覚えている。
ロジェは相変わらずときどきとても気持ち悪いけれど(たまに僕たちの性交中にこっそり部屋に入ってきていたりするし、薬屋で働いているときにこっそり僕たちのベッドに潜り込んでいたりするし……)、僕とローランが最も信用している人であることは変わらない。
頼もしい父親のような、親身になってくれる兄のような、粘着質な恋人のような、そんなロジェ。
彼がいなければ今こうしてローランや家族とこんなに幸せな暮らしをできていなかったと思う。
「おい。何か考え事をしているだろう。僕と愛し合っているときに僕以外のことを考えるな」
「ご、ごめん……。でも、ロジェがまた部屋に入ってきたから……」
「はぁ……またか……」
「あら。気付かれてしまいましたか。こんばんは、私の愛する宝石たち。私に構わずどうぞ続けてください」
【『Ω嫌いのα侯爵令息にお仕えすることになりました~僕がΩだと絶対にバレてはいけません~』 end】
毎朝僕を起こすのは、小鳥のさえずりではなく弟妹たちの元気な叫び声だ。
「お兄ちゃんー! ごはんできたよー!!」
「お兄ちゃん早く起きて! いつまで寝てんのよもう!」
「お兄ちゃん、まだ寝てるのぉ~! じゃあ僕も一緒に寝~ちゃおっ!」
……と、こんな感じで。
「みんなおはよ……。ちょっと待ってね……。今ごはんの用意するから……」
そう言ったものの、体がだるくてなかなか起き上がる気になれない。
ベッドに潜り込んできたマルコに抱きつかれたまま、僕は再び目を閉じた。
しかし――
「おいマルコ! エディにくっつくなと何度言ったら分かるんだ! 弟だとしても許さないぞ!」
「ばかローラン! 番だからってお兄ちゃん独り占めするな!!」
「なっ……、今僕のことをバカと言ったか!?」
「バーカバーカ! バカローラン!!」
両サイドから叫ばれ、眠気が一気に吹き飛んだ。
僕はのろのろと体を起こし、ローランにキスをする。
「おはようローラン。元気だね……(朝方までしていたのに)」
「エディは疲れた顔をしているな。体調が悪いのか?」
「……(君のせいだよ)」
あれから十年の月日が経った。今思えばあっという間だったけれど、いろんなことがあった。
たとえば、ローランがセドラン侯爵家と縁を切ったり。
ローランのお父さまは、アルファのローランを跡継ぎにしたがっていた。しかしローランは長男を差し置いて自分が跡継ぎになることがたまらなく嫌だった。
「お兄さまはベータだけど、僕よりずっと優秀だ。セドラン家を継ぐのは彼をおいて他にいない」
ローランのお兄さまは、ローランが生まれるまで跡継ぎになるための教育を受けてきた。セドラン家の長男である自分に誇りと責任を持ち、ずっと頑張ってきたのだ。
それなのに、ローランというアルファの弟ができた日から、彼は不必要な存在として扱われるようになった。
それでも彼は腐らずに、跡取りになるべく努力を続けてきたそうだ。
「お兄さまは立派な人だよ。僕のせいで人生がめちゃくちゃになったはずなのに、僕に恨み言を言ったこともない。それどころか……家族の中で一番僕をまっすぐ愛してくれていたのは、彼だったよ」
長男に跡継ぎの座を譲りたかったという理由の他にも、ローランがセドラン家から出て行った大きな理由がある。
それは……実の父親だ。
ローランの父親は、あまりに美しい息子を、ただの息子として愛することができなかった。
鑑賞物。性的欲求を満たすための存在――……
僕はあとから知ったのだが、ローランは幼少時代から父親に性的虐待を受けていたそうだ。
当主であり、実の父親であるせいで、ロジェでさえそれを止めることはできなかった。
ローランの父親は、定期的に発情したオメガをローランの部屋に連れて行っていた。そして、ラットになったローラン様が性交しているところを鑑賞するのだ。そしてそのあとは……あまりに可哀想で、言葉にできない。
ローランが僕と恋仲になってからは、ロジェがのらりくらりとごまかして父親の鑑賞会を遠ざけていたらしい。だが、三カ月目にして父親の我慢が限界に達し、オメガの使用人を薬で強制的に発情させて、ローランの部屋を訪れた。
その日、僕もローランのベッドで眠っていたからよく覚えている。
発情したオメガがローランに覆いかぶさり、めいいっぱいオメガのフェロモンを吸わせた。
しかし、ローランはラットにならなかった。それどころか、軽蔑たっぷりの目で笑ってみせた。
「お父さま。僕はもうそこらへんのオメガではラットになりませんよ」
ローランがすぐラットになっていたのは、それまで頑なにアルファとしての欲求を満たそうとしなかったからだった。それと、強制的にラットにされたあとの耐えがたい行為から目を背けるためでもあった。
僕と毎晩繋がり、僕の発情期にほどよいラットになっていたローランは、適切に性欲とアルファ性を発散できるようになっていた。
だから望まない相手であれば、たとえ発情中のオメガだったとしてもラットにならずに済んだのだ。
ラットにならないローランに対して、父親は激怒した。アルファ性が薄まっているかもしれないから体を診なくてはいけないなどと理由を付けて、ローランの体に触れようとした。
ローランは拒絶し、父親に僕のことを説明した。僕がオメガであることと、将来的には番になることを考えているということを。
それを聞いた父親は、ローランと僕が番になることを反対した。建前では「跡取りは貴族の令嬢と結婚しなければならないから」など当たり障りのないことを言っていたが、本音は男オメガの僕を父親も抱きたかっただけに過ぎない。
父親はローランと僕の性交を見せろとせがんできた。それだけじゃない。三人でしようとも言われた。もちろん僕たちは断ったが……
翌日、僕は嘘の用事でお客用寝室に呼び出され、ローランの父親に襲われた。
それを知り、ローランの堪忍袋の緒が切れたのだ。
「もうたくさんだ。ロジェ。僕はこの家を出て行く」
「はい。どこまでもお供いたします」
当然、ローランが家を出ることに父親は反対した。それなのに、ある日を境に態度がコロッと変わり、ローランを引き留めなくなった。
これは憶測でしかないけれど、たぶんロジェが脅……説得してくれたんだと思う。
こうして僕たちは、今から九年前にセドラン侯爵家を出て、僕の実家に暮らすことになった。
僕が帰ってきて兄弟は大喜び。恩人であるローランのことも、みんな歓迎してくれた。
ちなみにロジェは向かいの空き家を買い取り、そこで暮らしている。
ローランと兄弟の仲は良好だ。
マルコとローランは僕を巡ってよく言い争いをしているけれど、なんだかんだ言って一番の仲良しなんじゃないかと思っている。アルファ同士だしね。
キッチンには、三男のレオンと次女のアンナが待っていた。
「遅いよ! せっかくの料理が冷めちゃうじゃないか!!」
十八歳になったレオンは、今は近所の居酒屋で働いている。レオンの作る料理は美味しいのだと近所では評判だ。
「マルコ! 今日はクエストの日よ。忘れてないでしょうね?」
「忘れてないよ! ちゃんと武器も磨いたし!」
十五歳になったアンナは、十三歳になったマルコと一緒に冒険者として頑張っている。
アンナが十三歳になったとき、突然「冒険者になりたい!」と言い出した。なんでも、誰かに「一番稼げるのは冒険者」という話を聞いたらしい。
危険だからやめなさいと言っても、頑固なアンナは聞かなかった。さらにマルコまで「僕も冒険者になるー!」なんて言い出すからヒヤヒヤしたものだ。(マルコはアンナの真似ばかりしたがるから……)
そんな彼女たちに武器の扱い方を教えてくれたのは、ロジェだ。それだけじゃない。アンナたちがクエストに行くときは、ロジェがついて行ってくれる。
「エディの大切な家族になにかあればいけませんから」
ロジェという心強い保護者のおかげで、アンナとマルコはかすり傷程度のケガしかしたことがない。
ちなみにロジェは、クエストに付き合っていないとき、向かいの家からじーっと僕たちを見守ってくれている。といっても、夜はいつも一緒にごはんを食べているんだけど。
残りのきょうだい――次男のモーリスと長女のセリーヌは、もうここにはいない。
モーリスは五年前に幼馴染と結婚して、小さな家を建てた。この家からそう遠くない場所だから、ときどき遊びに来てくれる。
セリーヌも二年前に結婚した。なんでも、薬を買いに来た冒険者にひとめぼれされて猛アタックを受けたとか。
先日、かわいい女の子が生まれたと手紙をもらった。近いうちに家族でお祝いに行く予定だ。
そして僕とローランは、二人で薬屋を営んでいる。
ローランはすごく頭が良いから、一度教えたことはすぐに覚えてくれる。それに手先が器用で作業も丁寧だから、薬の調合も上手だ。
警戒心たっぷりの横柄な態度を取ってしまうから売り子には向いていないけれど……そこは僕がカバーしている。
アンナとマルコが新鮮な薬草や珍しい植物、魔物の素材を採ってきてくれるおかげで、薬の品質もぐんと上がった。
さらにロジェが定期的に広報活動をしてくれているので、今ではなかなか繁盛している。
レオンとアンナ、マルコも家にお金を入れてくれるようになり、今ではちょっとだけゆとりのある生活ができるようになった。
「不思議だ」
夜、ベッドの中でローランが呟いた。
「贅沢なんてひとつもしていないはずなのに、もったいないほど贅沢に感じるときがある」
そして、僕を抱きしめる。
「ああ、ここに贅沢なものがひとつあった」
自然と僕たちの唇が重なる。もう何万回目かも分からないくらいキスしているはずなのに、いつもはじめてしたときと同じくらいドキドキする。
ローランの舌が僕のうなじに回る。歯形がついたそこにちゅっと吸い付いた。
「愛しい僕の番」
ローランと僕が番になったのは二年前だ。
薬屋の経営が軌道に乗り、やっと僕たちだけで家族を養えるようになってから。
(それまではロジェに支援してもらわないと生活が難しかった)
僕たちが番になるとき、ロジェに見守ってもらった。
番になった瞬間、僕よりもローランよりも、ロジェが号泣していたのをよく覚えている。
ロジェは相変わらずときどきとても気持ち悪いけれど(たまに僕たちの性交中にこっそり部屋に入ってきていたりするし、薬屋で働いているときにこっそり僕たちのベッドに潜り込んでいたりするし……)、僕とローランが最も信用している人であることは変わらない。
頼もしい父親のような、親身になってくれる兄のような、粘着質な恋人のような、そんなロジェ。
彼がいなければ今こうしてローランや家族とこんなに幸せな暮らしをできていなかったと思う。
「おい。何か考え事をしているだろう。僕と愛し合っているときに僕以外のことを考えるな」
「ご、ごめん……。でも、ロジェがまた部屋に入ってきたから……」
「はぁ……またか……」
「あら。気付かれてしまいましたか。こんばんは、私の愛する宝石たち。私に構わずどうぞ続けてください」
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