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弟から手紙が届きました

第五十五話

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 ロジェはぼんやりと虚空を眺めた。

「私は夢でも見ているのでしょうか」
「現実だ。するなら早くしろ」

 ロジェがいなければ、きっと僕の体は今よりもっと汚れていただろう。
 昨日なんて、殺されていたか、もしくはどこぞの金持ちに買われて性奴隷にされていたに違いない。

 それに、ロジェがいなければ……
 エディとだって、結ばれることはなかっただろう。

 口には出さないが、ロジェには感謝しきれないほどの恩を感じている。
 昨日のことで、よりそれを実感した。
 だから僕は一度だけ、ロジェが一番欲しがっているものをあげたいと思った。

 ロジェはクスッと笑い、僕の脚を閉じさせる。

「ローラン様……。あなたはやはり、少し勘違いをされていらっしゃる」
「なんだ。僕を抱きたくないのか」
「そういうわけではありませんが」

 そしてロジェは僕の手を取り、手の甲にキスをした。

「私は、あなたを犯したいと思ったことは一度もありませんよ」
「そうだったのか。じゃあ今の話はなしで――」
「ちょっと待ってください。話を最後まで聞いてください」

 服を着ようとする僕を、ロジェが抱きしめる。

「でも、一度だけでも私に体を許してもいいと思ってくださったことが、何よりも嬉しいです」
「……そうか」
「いいですか。あなたを抱けることに喜んでいるのではないのです。あなたに許されたことが、嬉しいのです」
「そうか。分かった。じゃあ服を着ていいか?」
「ダメです」

 なんなんだこいつは……。
 少しイラッとしていると、ロジェに押し倒された。
 僕は無表情でロジェを見つめる。

「なんだ。結局抱くのか」
「はい。抱かせてください」
「さっきのやりとりに意味はあったのか?」
「はい。とても大事なことですので」
「そうか……?」

 ロジェが僕を見つめる。うっとりした表情で、僕の頬をさすりながら。

「ああ……夢のようです。まさかこんな日が来るとは」
「……一度だけだぞ」
「はい。分かっています」

 そしてロジェがねっとりと目じりを下げる。

「ローラン様。言っておきますが、私はあなたと違ってなかなか射精しませんよ」
「……」
「最後までお付き合いくださいね」

 もしかしたら僕は、とんでもないことを許してしまったのではないか。

「あー……ロジェ。やっぱりなしで……」
「今さらそれはひどいですローラン様。私、もうその気になってしまいました」
「……」
「大丈夫です。決してひどくはしませんから」
「絶対に……一回だけだぞ……」
「はい。約束は必ず守ります」

 ロジェの顔が近づいてくる。無意識に目をつむっているうちに、唇を奪われた。

「ん……っ」

 エディとは違う感触や熱に戸惑いつつ、なされるがまま舌を絡める。

「ん、んっ……」

 激しい。いつもエディとしているゆったりとしたキスと全然違う。強制的に脳が興奮状態にさせられるような官能的なキス。うまく息ができなくて酸欠になりそうだ。

「ふっ……!?」

 キスをしたまま、ロジェの指が僕のアナルを押し広げる。徐々に奥まで差し込まれるのを感じた。
 その指は何度かゆっくり出し入れされ、そして――

「うっ……!」

 ある場所を押し上げた。
 触れられてはいけないところを触れられたように感じた。

「ロジェ……ッ、そこ、やめろ……」
「いいえ。やめませんよ」
「おい……っ、そこはダメだ……っ、なんか……っ」
「ふふ。何度も経験があるはずなのに、まるで処女のような反応をなさる」

 散々アナルを指で弄び、体に舌を這わせてから、ロジェがペニスを僕に向けた。

「ローラン様」
「……」
「いただいた贈り物、大切にさせていただきます」
「んっ……」

 再びロジェのペニスが中に入ってきた。指でほぐされたせいで、先ほどよりもすんなりとペニスを呑み込んだ。

「あ……あ……」
「ローラン様……奥まで入りました」
「う……ん……」

 ロジェは挿入したまま僕を抱きしめ、キスをしてきた。

「はあ……」

 キスののち、ロジェが噛みしめるような吐息をつく。

「ああ……。どうしましょう、私……。もう……」
「おい……。性交中に泣くやつがあるか」
「だって私……もう……幸せで……いつ死んでも……」
「お前が死んだら誰が僕を守るんだ」
「ふふ。そうでしたね。あなたの最期を見届けるまで私は生きなければ」
「そうだ。絶対に、僕より先に死ぬな」
「はい」

 ロジェは涙を落としながら、ゆっくりと動いた。やはり僕を傷つけないよう、優しく、丁寧に。
 こんなにのろのろと腰を振られたのは初めてだ。痛みを感じないのも、初めてだ。

「ローラン様。痛みませんか?」
「痛くない……っ、ん……それより……長い……っ」
「あら。まだまだ続きますよ」

 長時間それを続けられていくうちに、どんどんと感じたくもない快感がじんわりと体に広がっていく。
 早く終わってほしい。そうじゃないと、僕が僕じゃなくなってしまう気がした。

「おい……ロジェ……ッ、いい加減、もう……」

 音を上げた僕にロジェは微笑を返し――

「あっ!?」

 ――また、触れてはいけないところを押し上げた。

「あっ……あっ……!」

 指でされていたときよりも、妙な感覚が快感に近づいている。
 ロジェは何度もそこにペニスを擦り付ける。

「やっ……ロジェ……っ、そこ、だめだっ……なんかっ……」

 止めろと言っても、ロジェはそこばかりをしつこく擦る。
 じわじわと込み上げる快感と口から漏れそうになる嬌声に嫌気がさし、僕は手で口を押さえた。

「っ、っ……、っ……」

 それに気付いたロジェが、興奮ぎみに頬を緩める。

「あらあら。声を出すのが恥ずかしいのですか? おしりで気持ち良くなるのが恥ずかしいのですか?」
「っ……、っ……、っ、っ~~……」
「いくら声を抑えたって、そんなにトロトロのお顔をしていては隠しようがないですがね」
「あっ……!!」

 ロジェに手首を掴まれた。塞ぐものがなくなった口からは、そこを突かれる度に高い声が漏れてしまう。

「ローラン様。あなたはアルファなので、オメガに比べたらここの快感なんてたかが知れています。エディはきっとあなたの何十倍もの快感を得られるのでしょう」
「んっ……あっ……やめっ……やめろ、そこっ……!」
「覚えておいてください、ローラン様。ここの感覚を。そしてエディに与えてあげてください」
「あっ……あぁっ……」
「そしてあなたは覚えておいてください。あなたがエディにどれほどの快感を与えているのかを……っ!」
「あぁぁっ!?」

 勢いよくそこを突き上げられ、全身に雷が走った。
 それと同時に僕のペニスから勢いよく精液が噴き出した。

「あっ……あぁぁっ……」

 ロジェはそんな僕をじっと見つめてから、低い声で呟く。

「それはいけませんよ、ローラン様。そんなものを見せられては……」
「あぁぁぁっ!!」

 今度は勢いよく奥を突き上げられた。

「我慢できるものもできなくなります」

 それからロジェは激しく腰を振り始める。
 乱暴にされているのに、僕が感じたものは痛みや嫌悪感ではなかった。
 ロジェが動くたびに口からは甘い声が漏れ、キスをされたらしがみつくように舌を絡める。ときに全身が痙攣し、意識が飛びそうになった。

「ローラン様……っ、今このときだけ、あなたを私だけのものにさせてください……っ」
「あっ、あぁっ! あぁぁっ!! ――あぁぁっ!?」

 ドクン、とロジェのペニスが脈打った。その瞬間、中が熱いもので満たされる。

「――……っ、っ、っ……」

 射精を終えたロジェが顔を上げ、縋りつくように僕に最後のキスをした。

「ローラン様。愛しています。誰よりも、何よりも。だから……幸せになってください。いつまでも、私がお守りいたしますから」
「……ああ」

 ロジェとの最初で最後の性交には、ロジェの僕への想い全てが詰まっていた。
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