52 / 66
弟から手紙が届きました
第五十一話
しおりを挟む
家に着くなり、僕は馬車を飛び出した。
「モーリス!!」
階段を駆け上がると、泣いているモーリスと、そんな彼を慰めているセリーヌがいた。
彼らは僕の顔を見るなり、子供のように泣きじゃくりながら僕に抱きついた。
「「エディ……!!」」
「心配させてごめんね……っ!! 辛い思いさせてごめんね……っ!!」
モーリスの顔には痣が増えていた。おそらく、僕とローラン様が拉致されたときに抵抗して殴られたのだろう。
セリーヌは……顔に傷こそなかったけれど、疲れ切った顔をしていた。
僕は二人に、ロジェとローラン様が助けてくれたことと、借金を返さなくてもよくなったことを話した。
それからセリーヌの手を握り、そっと撫でる。
「だから……もうしたくもない仕事をしなくてもいいんだよ、セリーヌ。ごめんね。ごめんね……」
セリーヌは安堵の表情を浮かべつつも気丈に振舞う。
「あなたが謝ることないわ。私が選んだことなんだから。なんでも自分のせいにしないで」
「うん……。でも……」
「……私だって、家族を守りたかったの」
喉に熱いものがこみ上げた。
自分の身を犠牲にしてでも家族を守りたいという気持ちは、僕にも痛いほど分かる。
守りたいものを守れない悔しさも、守るよりも守られる方が辛いこともあるということも、さっき知った。
もしかしたらセリーヌとモーリスも、そう思っていたのかもしれない。
「モーリス。セリーヌ。僕と弟たちを守ってくれて、ありがとう」
僕の言葉に、モーリスとセリーヌは泣きながら微笑んだ。
「それで……これからどうしようか……」
僕は周囲を見回した。空き家同然の空っぽ具合で、とてもじゃないが住める環境じゃない。今までどうやって生活していたのかと考えると顔が青ざめるくらいだ。
「僕のお給金は来月だし……。貯金も当然ない、よね……?」
それに答えたのはセリーヌだ。
「貯金はないけど、昨晩稼いだお金はあるわ。大銀貨五枚だけだけど……」
以前冒険者ギルドで聞いた報酬額より少ないのは、借金取り経由で仕事をとっていたからだろう。
たった大銀貨五枚のためにセリーヌは……と考えて頭に血が昇ったけれど、ぐっと堪えた。
大銀貨五枚。一週間分の食費としてはまあまあな額だけど、家具なんてひとつも買えない。
モーリスも苦しい声を出す。
「店の家具も商品も、調合道具も材料も取られちゃったから、薬屋も経営できないんだ……」
「どうしよう……」
そこに、先ほどまで一階にいたローラン様がやってきた。
「はじめまして。僕はセドラン侯爵家の四男、セドラン・フォン・ローランと申します」
「きゃっ!」
優雅な所作で挨拶をするローラン様を前にして、セリーヌが変な声を出した。それからサッと僕の背中に隠れる。
「セリーヌ? どうしたの?」
振り向いてセリーヌの様子を見て、僕まで慌ててしまった。セリーヌが顔を真っ赤にして、さらに乙女の表情を浮かべていたからだ。
「セリーヌ……?」
「エ、エディ……!? あのローラン様だわっ! 本物だわっ!! すごい! 眩しすぎて目が潰れちゃう!」
「セ、セリーヌ……落ち着いて……」
「かっこいい……いえ、美しいわ……! あぁぁ……すごい……」
僕はおろおろしてローラン様に弁解した。
「ローラン様、失礼をすみません……。普段はこんな子じゃないんです……本当はもっとしっかり者で……」
しかしローラン様は全く気にしていないようだった。
「かまわない。だいたい僕に初めて会った人はそういう反応をする」
「そ、そうなんですね……」
「ところでエディ。少し相談なんだが」
「は、はいっ。なんでしょうっ」
ローラン様は家を見渡しつつ、こう言った。
「侯爵家には使わなくなった古い家具がたくさんあるんだ。捨てるには惜しいが、屋敷では使い道がない。よかったらここで使ってくれないか?」
「えぇ!? そんなのいただいていいんでしょうか!? お屋敷にあるものなんて、高級品しかないでしょう……!」
「むしろ引き取ってほしいんだ。このままだと物置部屋が窮屈でたまらないのだと、ロジェが言っている」
きっとこれは、ローラン様とロジェの粋なはからいだ。
僕たちはありがたく、その好意に甘えることにした。
「でも……」
セリーヌが不思議そうに首を傾げる。
「どうしてそこまでしてくれるんですか?」
「そ、それは、その……」
珍しくローラン様が狼狽えている。ポッと頬を赤らめ、ちょっと後ずさった。
ロジェに目で合図されたローラン様は、咳払いをしてから口を開いた。
「エ、エディは、僕にとって大切な人だからだ」
「まあ……。ローラン様は使用人のことを大事にしているんですね」
セリーヌがそう返すと、ローラン様が「そ、そうじゃなくてっ」とかぶりを振る。
「使用人だからではなくて、その、エディは僕の……その……」
「?」
「僕のっ、こっ、恋人だからだっ」
「「!?」」
「おいっ!? どうしてエディまで驚いている!?」
そりゃ驚くよ!? えっ、僕ってローラン様の恋人だったの!?
あわあわしていると、ローラン様に胸ぐらを掴まれた。
「エディ!? まさかそんなつもりはなかったとでも!? 僕を弄んでいたというのか!?」
「いいえ!? でっ、でもっ、びびび、びっくりしちゃって!!」
「なぜびっくりするんだ!?」
「だっ、だってっ! 今までそんなことハッキリ言ったことなかったじゃありませんか……!!」
「なっ……!?」
「モーリス!!」
階段を駆け上がると、泣いているモーリスと、そんな彼を慰めているセリーヌがいた。
彼らは僕の顔を見るなり、子供のように泣きじゃくりながら僕に抱きついた。
「「エディ……!!」」
「心配させてごめんね……っ!! 辛い思いさせてごめんね……っ!!」
モーリスの顔には痣が増えていた。おそらく、僕とローラン様が拉致されたときに抵抗して殴られたのだろう。
セリーヌは……顔に傷こそなかったけれど、疲れ切った顔をしていた。
僕は二人に、ロジェとローラン様が助けてくれたことと、借金を返さなくてもよくなったことを話した。
それからセリーヌの手を握り、そっと撫でる。
「だから……もうしたくもない仕事をしなくてもいいんだよ、セリーヌ。ごめんね。ごめんね……」
セリーヌは安堵の表情を浮かべつつも気丈に振舞う。
「あなたが謝ることないわ。私が選んだことなんだから。なんでも自分のせいにしないで」
「うん……。でも……」
「……私だって、家族を守りたかったの」
喉に熱いものがこみ上げた。
自分の身を犠牲にしてでも家族を守りたいという気持ちは、僕にも痛いほど分かる。
守りたいものを守れない悔しさも、守るよりも守られる方が辛いこともあるということも、さっき知った。
もしかしたらセリーヌとモーリスも、そう思っていたのかもしれない。
「モーリス。セリーヌ。僕と弟たちを守ってくれて、ありがとう」
僕の言葉に、モーリスとセリーヌは泣きながら微笑んだ。
「それで……これからどうしようか……」
僕は周囲を見回した。空き家同然の空っぽ具合で、とてもじゃないが住める環境じゃない。今までどうやって生活していたのかと考えると顔が青ざめるくらいだ。
「僕のお給金は来月だし……。貯金も当然ない、よね……?」
それに答えたのはセリーヌだ。
「貯金はないけど、昨晩稼いだお金はあるわ。大銀貨五枚だけだけど……」
以前冒険者ギルドで聞いた報酬額より少ないのは、借金取り経由で仕事をとっていたからだろう。
たった大銀貨五枚のためにセリーヌは……と考えて頭に血が昇ったけれど、ぐっと堪えた。
大銀貨五枚。一週間分の食費としてはまあまあな額だけど、家具なんてひとつも買えない。
モーリスも苦しい声を出す。
「店の家具も商品も、調合道具も材料も取られちゃったから、薬屋も経営できないんだ……」
「どうしよう……」
そこに、先ほどまで一階にいたローラン様がやってきた。
「はじめまして。僕はセドラン侯爵家の四男、セドラン・フォン・ローランと申します」
「きゃっ!」
優雅な所作で挨拶をするローラン様を前にして、セリーヌが変な声を出した。それからサッと僕の背中に隠れる。
「セリーヌ? どうしたの?」
振り向いてセリーヌの様子を見て、僕まで慌ててしまった。セリーヌが顔を真っ赤にして、さらに乙女の表情を浮かべていたからだ。
「セリーヌ……?」
「エ、エディ……!? あのローラン様だわっ! 本物だわっ!! すごい! 眩しすぎて目が潰れちゃう!」
「セ、セリーヌ……落ち着いて……」
「かっこいい……いえ、美しいわ……! あぁぁ……すごい……」
僕はおろおろしてローラン様に弁解した。
「ローラン様、失礼をすみません……。普段はこんな子じゃないんです……本当はもっとしっかり者で……」
しかしローラン様は全く気にしていないようだった。
「かまわない。だいたい僕に初めて会った人はそういう反応をする」
「そ、そうなんですね……」
「ところでエディ。少し相談なんだが」
「は、はいっ。なんでしょうっ」
ローラン様は家を見渡しつつ、こう言った。
「侯爵家には使わなくなった古い家具がたくさんあるんだ。捨てるには惜しいが、屋敷では使い道がない。よかったらここで使ってくれないか?」
「えぇ!? そんなのいただいていいんでしょうか!? お屋敷にあるものなんて、高級品しかないでしょう……!」
「むしろ引き取ってほしいんだ。このままだと物置部屋が窮屈でたまらないのだと、ロジェが言っている」
きっとこれは、ローラン様とロジェの粋なはからいだ。
僕たちはありがたく、その好意に甘えることにした。
「でも……」
セリーヌが不思議そうに首を傾げる。
「どうしてそこまでしてくれるんですか?」
「そ、それは、その……」
珍しくローラン様が狼狽えている。ポッと頬を赤らめ、ちょっと後ずさった。
ロジェに目で合図されたローラン様は、咳払いをしてから口を開いた。
「エ、エディは、僕にとって大切な人だからだ」
「まあ……。ローラン様は使用人のことを大事にしているんですね」
セリーヌがそう返すと、ローラン様が「そ、そうじゃなくてっ」とかぶりを振る。
「使用人だからではなくて、その、エディは僕の……その……」
「?」
「僕のっ、こっ、恋人だからだっ」
「「!?」」
「おいっ!? どうしてエディまで驚いている!?」
そりゃ驚くよ!? えっ、僕ってローラン様の恋人だったの!?
あわあわしていると、ローラン様に胸ぐらを掴まれた。
「エディ!? まさかそんなつもりはなかったとでも!? 僕を弄んでいたというのか!?」
「いいえ!? でっ、でもっ、びびび、びっくりしちゃって!!」
「なぜびっくりするんだ!?」
「だっ、だってっ! 今までそんなことハッキリ言ったことなかったじゃありませんか……!!」
「なっ……!?」
189
お気に入りに追加
610
あなたにおすすめの小説
クラスのボッチくんな僕が風邪をひいたら急激なモテ期が到来した件について。
とうふ
BL
題名そのままです。
クラスでボッチ陰キャな僕が風邪をひいた。友達もいないから、誰も心配してくれない。静かな部屋で落ち込んでいたが...モテ期の到来!?いつも無視してたクラスの人が、先生が、先輩が、部屋に押しかけてきた!あの、僕風邪なんですけど。
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
ヒロイン不在の異世界ハーレム
藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。
神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。
飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。
ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?
やめて抱っこしないで!過保護なメンズに囲まれる!?〜異世界転生した俺は死にそうな最弱プリンスだけど最強冒険者〜
ゆきぶた
BL
異世界転生したからハーレムだ!と、思ったら男のハーレムが出来上がるBLです。主人公総受ですがエロなしのギャグ寄りです。
短編用に登場人物紹介を追加します。
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
あらすじ
前世を思い出した第5王子のイルレイン(通称イル)はある日、謎の呪いで倒れてしまう。
20歳までに死ぬと言われたイルは禁呪に手を出し、呪いを解く素材を集めるため、セイと名乗り冒険者になる。
そして気がつけば、最強の冒険者の一人になっていた。
普段は病弱ながらも執事(スライム)に甘やかされ、冒険者として仲間達に甘やかされ、たまに兄達にも甘やかされる。
そして思ったハーレムとは違うハーレムを作りつつも、最強冒険者なのにいつも抱っこされてしまうイルは、自分の呪いを解くことが出来るのか??
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
お相手は人外(人型スライム)、冒険者(鍛冶屋)、錬金術師、兄王子達など。なにより皆、過保護です。
前半はギャグ多め、後半は恋愛思考が始まりラストはシリアスになります。
文章能力が低いので読みにくかったらすみません。
※一瞬でもhotランキング10位まで行けたのは皆様のおかげでございます。お気に入り1000嬉しいです。ありがとうございました!
本編は完結しましたが、暫く不定期ですがオマケを更新します!
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
兄に嫌われてる弟ですが誤解が解けたら十数年分溺愛されました(完)
みかん畑
BL
王位継承権の関係で嫌われていた弟が兄を庇って女体化の呪いにかかった後のお話です。
ハッピーエンド保証。ジャンルは分かりません。甘々の溺愛系です。
微エロあり、ご注意を。
9/12 恋愛⇒BLに移しておきます。TSモノのBLなので苦手な方は回避お願いします。
9/18 本編完結済みですがたまにチマチマ更新します。
普通の男の子がヤンデレや変態に愛されるだけの短編集、はじめました。
山田ハメ太郎
BL
タイトル通りです。
お話ごとに章分けしており、ひとつの章が大体1万文字以下のショート詰め合わせです。
サクッと読めますので、お好きなお話からどうぞ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる