【完結】【R18BL】Ω嫌いのα侯爵令息にお仕えすることになりました~僕がΩだと絶対にバレてはいけません~

ちゃっぷす

文字の大きさ
上 下
45 / 66
弟から手紙が届きました

第四十五話

しおりを挟む
 ◇◇◇

「ん……」

 硬い地面の上で目が覚めた。記憶が混濁していてしばらくぼうっとしていたが、だんだんと意識がはっきりしてくる。
 僕は気を失う直前のことを思い出し、顔を真っ青にして飛び起きた。

「っ……」

 あたりを見回すまでもなく、自分が置かれている状況を悟った。
 薄暗闇の中でかろうじて見える、目の前に広がる格子。砂埃の舞う地面には汚れた藁が敷かれている。格子の近くにある皿には、パンがひとかけら載っている。

 ――僕は今、檻の内側にいる。借金取りに捕まったんだ。

「目が覚めたか?」

 背後から聞きなれた声がして、僕は絶句した。
 振り返るとやはり――

「……ローラン様……」
「おはよう、エディ。良い夢は見れたか?」

 ローラン様も同じ檻の中に閉じ込められていた。乱暴をされたのか、頬が腫れている。
 僕はローラン様に駆け寄り、手を握った。

「ローラン様……! 申し訳ありません……! 僕のせいでこんな――」
「気にするな。誘拐されるのは初めてじゃない」

 ローラン様いわく、誘拐されたのはこれで三度目だという。どうりでやけに冷静なわけだ。

「安心しろ。借金取りは、エディに加え、僕という絶世の美少年を誘拐できて大喜びだったよ。だからモーリスたちにまでは手を伸ばさなかった。彼らは今のところ無事だ」
「モーリスたちが無事なのはほんとに嬉しいんですが、モーリス様をこんな目に合わせてしまっているので全く安心できません!」
「まあ、なんとかなるだろう。今までなんとかなってきたし」

 ローラン様はそう言って、まるで自分の部屋にいるときのようにくつろぎ始めた。
 かたや僕は、牢屋の隅で塞ぎこんでいる。そんな僕にローラン様が言った。

「エディ。後悔しても意味はない。そんなものでは、誰も助からない」
「……」
「今日、家の様子を見に行ってよかった。そうじゃなければ事態はもっと悪化していただろうな」
「はい……。でも……」

 セリーヌの体の傷は元には戻らない。モーリスも、他の子たちも、これまでたくさん苦しめてしまった。
 その上ローラン様をこんな目に遭わせてしまうなんて……
 今でも充分最悪の事態だ。このままでは、僕はおろかローラン様まで売り飛ばされてしまう。弟たちも助けられない。

 僕は……兄としても、ボーイとしても、失格だ。

 黙り込んでいる僕を、ローラン様は優しく抱きしめてくれた。

「かわいそうなエディ……。君は自分のことより、弟たちや僕のことばかり心配しているね」
「自分のことなんてどうでもいいです……。僕の身ひとつでどうにかなればいいんですけど……。せめてローラン様だけでもここから出さないと……」

 僕の言葉に、ローラン様が失笑する。

「それは難しいだろうな。君もとてもきれいだけれど、僕のほうが美しいから」
「それは分かってますけどぉ……! だから悩んでいるんですよ!! 借金取りがローラン様を手放すわけがないから……」
「僕のことは気にするな。むしろ僕は、僕とエディを拉致した借金取りが不憫でならないよ」
「……?」

 どうして? と聞こうとして口を開いたとき、借金取りがやってきた。
 借金取りは格子越しにニヤニヤしながら僕の顔を見る。

「おはようエディちゃん~。やっと会えたね~。探したんだよ? 今までどこ行ってたのー」
「……」
「なんか前よりもっときれいになったね~? こりゃあ値上げしてもよさそうだ。ヒヒッ」

 それから借金取りがローラン様を舐め回すように見る。

「この子、エディちゃんのお友だち? すんげぇ上玉じゃねえか。なあ?」

 ローラン様は退屈そうに受け答えした。

「ああ。よく言われる」
「ん~! 生意気なところも可愛いなあ~!! こりゃあびっくりするほどの値がつくぜぇ!」

 物怖じする様子もなく、ローラン様がニッと笑う。

「中途半端な値で売ろうものなら容赦しないぞ」
「ヘッヘ! なんだテメェたまんねえなあオイ!!」

 そこに、借金取りの親玉がやってきた。
 親玉は僕とローラン様をじろじろ見てから、鼻の下を伸ばす。

「へえ。お前どこでこんな良いモン拾ってきたんだ。どっちも高値で売れるなあ、オイ」
「ヘイ! こっちはずっと目ェ付けてたヤツですわ! で、こっちはオマケでついてきたんす!」
「豪華なオマケだなあ、オイ。……買い手は決まってんのか?」
「ヘイ! こっちは決まってます! オマケの方はまだですが……すぐ決まりますよ!」
「だろうなあ」

 ムキムキの大人二人に見下ろされ、気持ち悪い目つきで品定めされている。怖くて震えが止まらない。

「ヒヒッ。こっちのガキ、ブルブル震えてちびっちまいそうじゃねえか! 可愛いなあ~」
「ねぇ! 可愛いっすよねえ~! ヒヒッ」
「オマケのガキはずいぶん余裕だなあ。こういう強がったガキが泣くのが一番良いんだ」

 親玉が手下に耳打ちする。

「どうだ。売る前にいっぺん楽しんどかねえか」
「ヒヒッ! 良いんすかあ!?」
「おうよ。こんな上玉のガキなんざ次いつ手に入るか分かんねえしなあ」

 ゾッとした。この人たち、僕とローラン様を……

 僕はローラン様に飛びつき、借金取りから隠すように抱きしめた。

「ぼっ……ぼぼ、僕なら、いくら好きにしてもいいです……!! で、でで、でもっ、この方だけにはっ、手を出さないでくだ、ください!!」

 親玉がヒューと口笛を吹き、大声で笑う。

「たまらんなあ!! あんなにビビッてるくせに、いっちょまえに庇ってやがんぞ!!」
「ヘヘッ! エディはいつもそんなんですぁっ! ブルブル震えながら弟たち守って……それがもう可愛いのなんのって! 弟の次はオトモダチを守ってらぁ! かんわいいなあ~!」

 指を指されて笑われて。屈辱と恐怖に、涙がこぼれた。

「ひぅ……ひぅぅ……っ」

 胸元で、ローラン様が不機嫌そうな声を出す。

「おい……エディ。何を勝手なことを言っている」
「だ、大丈夫ですからね、ローラン様……っ。ロ、ロロ、ローラン様は、僕が、お、お守りします、から……!」
「ふざけるな。こんなヤツらにエディを好き勝手させてたまるか」

 ローラン様はそう言って、僕を突き飛ばした。
 そして立ち上がり、自ら格子の前まで歩いていく。

「ローラン様!? 下がってください!」
「うるさい。僕に命令するな」

 ローラン様は親玉を見据え、ハンッと鼻で笑った。

「お前たち、二人とも僕が相手してやる。その代わりエディには手を出すな」
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった

cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。 一途なシオンと、皇帝のお話。 ※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

弟が生まれて両親に売られたけど、売られた先で溺愛されました

にがり
BL
貴族の家に生まれたが、弟が生まれたことによって両親に売られた少年が、自分を溺愛している人と出会う話です

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

処理中です...