37 / 66
入ってきちゃいけません
第三十七話
しおりを挟む
「僕を……オメガの僕を、受け入れてくれるのですか……?」
僕の問いに、ローラン様が申し訳なさそうに笑う。
「それを聞きたいのは僕の方だ。あんなひどいことをした僕を……君は受け入れてくれるのか?」
ローラン様の瞳がかげる。
「僕は……ラットのときの僕が怖い。もしかしたら君に、また醜態を見せてしまうかもしれない。君にひどいことを言ってしまうかもしれない」
「あ……」
僕が大きな勘違いをしていたことに、そのときやっと気付いた。
ローラン様はオメガが嫌いなのではない。ラットになった自分が嫌いなのだ。
そう考えると、それまで抱いていた不安や恐れが共感に変わった。
「ローラン様……! そのお気持ち、分かります……! 僕も発情したときの自分がちょっと嫌ですもの……。いつもよりずっと、その……卑猥な言葉で頭がいっぱいになって……」
ローラン様の目からぶわっと涙が溢れた。
「まさかこの気持ちを誰かと共有できる日が来るなんて……っ」
「僕もですぅぅ……」
それから僕たちは、ラットのときの悩みや、発情による大変さなどを語らった。
以前よりも遠慮がちな距離感で話していたけれど、心の距離がぐっと縮まったような気がした。
ティーカップが空になった頃、ローラン様が呟いた。
「エディは神からの授かりものだ」
「えっ? これまた大げさなっ」
それからローラン様は、ぎこちなく両腕を広げる。
「いつも僕を守ってくれるエディ。僕の悩みに共感してくれるエディ。これからは僕も君を守れるように頑張るから。君の悩みに寄り添いたいから。だからまた、もう一度……僕の胸の中に戻ってきてくれる?」
僕はおそるおそる、ローラン様に抱きついた。
「これからは隠し事しません。だから、おそばにおいてください」
ローラン様は安堵の吐息をつき、強く僕を抱きしめる。
「ありがとう、エディ……」
しばらく抱き合っていると、ローラン様が舌打ちした。
「……エディからロジェの匂いがする」
「うっ……」
「エディ……。これからはロジェと触れ合わないでほしい……」
「はい……」
あの……と、僕は上目遣いでローラン様を見た。
「ローラン様も……ロジェさんに、その……舐めてもらうのを、やめてもらっていいですか……?」
「えっ」
「ぼ、僕がするので……その……僕がしたいです……」
ローラン様は顔を真っ赤にしてコクコク頷いた。
「ぼ、僕も、エディだけに触れられたい、から……」
そこでロジェが、しめたと言わんばかりに手を叩く。
「かしこまりましたローラン様! それでは今晩から、エディはあなたのベッドで寝ることにしますので!」
「ちょっと待てロジェ! 話が早すぎないか!」
「そんなことありませんよ。こちとらもうニカ月も待ちましたのでね! これ以上は待てません! それに――」
ロジェがニヤニヤとローラン様を見下ろす。
「いいのですか? 今、エディは私の部屋で寝起きしているのですよ?」
「よし。今すぐエディの荷物をここに移動しろ」
「かしこまりました」
そこでやっと、ローラン様が僕の意向を確かめる。
「いいか? エディ」
正直に言うと、まだ心の準備ができていない……!
つまり毎晩ローラン様と一緒に寝るってことでしょ!?
そんなの僕……我慢できるかちょっと不安だよ……!?
なかなか頷かない僕に、ローラン様が不機嫌そうな目を向ける。
「なんだ。僕よりロジェと同じ部屋の方がいいのか?」
「いいえ!? そんなはずありません!!」
「そうか。ロジェ、早速作業にかかれ」
「分かりました」
ロジェが部屋から出て行ったあと、ローラン様が背を向けたまま言った。
「同じベッドで寝るからといって焦る必要はない。ゆっくり僕たちのペースでやっていけばいいから……」
それが僕に向けた言葉なのか、ローラン様自身に言い聞かせるための言葉なのか、僕には分からなかった。
僕の問いに、ローラン様が申し訳なさそうに笑う。
「それを聞きたいのは僕の方だ。あんなひどいことをした僕を……君は受け入れてくれるのか?」
ローラン様の瞳がかげる。
「僕は……ラットのときの僕が怖い。もしかしたら君に、また醜態を見せてしまうかもしれない。君にひどいことを言ってしまうかもしれない」
「あ……」
僕が大きな勘違いをしていたことに、そのときやっと気付いた。
ローラン様はオメガが嫌いなのではない。ラットになった自分が嫌いなのだ。
そう考えると、それまで抱いていた不安や恐れが共感に変わった。
「ローラン様……! そのお気持ち、分かります……! 僕も発情したときの自分がちょっと嫌ですもの……。いつもよりずっと、その……卑猥な言葉で頭がいっぱいになって……」
ローラン様の目からぶわっと涙が溢れた。
「まさかこの気持ちを誰かと共有できる日が来るなんて……っ」
「僕もですぅぅ……」
それから僕たちは、ラットのときの悩みや、発情による大変さなどを語らった。
以前よりも遠慮がちな距離感で話していたけれど、心の距離がぐっと縮まったような気がした。
ティーカップが空になった頃、ローラン様が呟いた。
「エディは神からの授かりものだ」
「えっ? これまた大げさなっ」
それからローラン様は、ぎこちなく両腕を広げる。
「いつも僕を守ってくれるエディ。僕の悩みに共感してくれるエディ。これからは僕も君を守れるように頑張るから。君の悩みに寄り添いたいから。だからまた、もう一度……僕の胸の中に戻ってきてくれる?」
僕はおそるおそる、ローラン様に抱きついた。
「これからは隠し事しません。だから、おそばにおいてください」
ローラン様は安堵の吐息をつき、強く僕を抱きしめる。
「ありがとう、エディ……」
しばらく抱き合っていると、ローラン様が舌打ちした。
「……エディからロジェの匂いがする」
「うっ……」
「エディ……。これからはロジェと触れ合わないでほしい……」
「はい……」
あの……と、僕は上目遣いでローラン様を見た。
「ローラン様も……ロジェさんに、その……舐めてもらうのを、やめてもらっていいですか……?」
「えっ」
「ぼ、僕がするので……その……僕がしたいです……」
ローラン様は顔を真っ赤にしてコクコク頷いた。
「ぼ、僕も、エディだけに触れられたい、から……」
そこでロジェが、しめたと言わんばかりに手を叩く。
「かしこまりましたローラン様! それでは今晩から、エディはあなたのベッドで寝ることにしますので!」
「ちょっと待てロジェ! 話が早すぎないか!」
「そんなことありませんよ。こちとらもうニカ月も待ちましたのでね! これ以上は待てません! それに――」
ロジェがニヤニヤとローラン様を見下ろす。
「いいのですか? 今、エディは私の部屋で寝起きしているのですよ?」
「よし。今すぐエディの荷物をここに移動しろ」
「かしこまりました」
そこでやっと、ローラン様が僕の意向を確かめる。
「いいか? エディ」
正直に言うと、まだ心の準備ができていない……!
つまり毎晩ローラン様と一緒に寝るってことでしょ!?
そんなの僕……我慢できるかちょっと不安だよ……!?
なかなか頷かない僕に、ローラン様が不機嫌そうな目を向ける。
「なんだ。僕よりロジェと同じ部屋の方がいいのか?」
「いいえ!? そんなはずありません!!」
「そうか。ロジェ、早速作業にかかれ」
「分かりました」
ロジェが部屋から出て行ったあと、ローラン様が背を向けたまま言った。
「同じベッドで寝るからといって焦る必要はない。ゆっくり僕たちのペースでやっていけばいいから……」
それが僕に向けた言葉なのか、ローラン様自身に言い聞かせるための言葉なのか、僕には分からなかった。
264
お気に入りに追加
611
あなたにおすすめの小説
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる
風見鶏ーKazamidoriー
BL
秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。
ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。
※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる