【完結】【R18BL】Ω嫌いのα侯爵令息にお仕えすることになりました~僕がΩだと絶対にバレてはいけません~

ちゃっぷす

文字の大きさ
上 下
36 / 66
入ってきちゃいけません

第三十六話

しおりを挟む
 僕はロジェに背を向ける。

「そんな嘘……つかなくていいです」
「本当です。信じてください」

 ローラン様がまだ僕のことを大切な人だと思ってくれているなんて、そんなの信じられるわけないじゃないか。

 ロジェが僕をうしろから抱きしめる。

「あなたはいろいろと誤解しています。まあ、私が誤解させたんですけど」

 ロジェが背後でクスクス笑うのが聞こえた。

「ご機嫌のところ申し訳ないのですが、今の僕にはあなたの冗談に付き合えるほどの余裕はないので……」
「ふふ。感傷に浸っているところ申し訳ありませんが、そろそろお仕事の時間が始まりますよ」
「えっ……」

 お仕事って……ロジェの男娼としてのお仕事?

「あなた……昨晩あんなにしたのに、まだし足りないんですか!?」
「いやですねえ。何を言っているのやら」

 ロジェは大きく伸びをしてからベッドを出た。

「ボーイとしての仕事ですよ」


 ◇◇◇

 一時間後――

「いやですよ!! どんな顔してローラン様にお会いしたらいいんですか!!」

 僕はロジェに引きずられ、ローラン様の部屋まで向かっていた。

「わがまま言うんじゃありません。これ以上サボられたらたまったものじゃないです。お忘れですか? あなた、契約よりも一日多く休暇を取ったんですよ。今月のお給金から一日分引かせてもらいますからね」
「僕なんかが部屋に入ったら、ローラン様が嫌がりますよ!!」
「あなた……」

 ロジェは僕と目線を合わせ、ニッコリ笑った。

「ローラン様のことを何も理解していないのに、分かったようなクチをきくのはおやめなさいな」

 そして僕の腰を思いっきり蹴り飛ばした。

「ふぎゃっ!」

 蹴り飛ばされた僕は、ローラン様の部屋の中に倒れ込んだ。

 目の前に、すっと手を差し出される。ローラン様の手だ。

「あ……」

 顔を上げるのが怖い。
 ローラン様は今、どんな顔をしているのだろう。
 昨晩のような冷たい目を向けられていたらどうしよう。

 僕が動けないでいると、その手がすっと引っ込んだ。

「エディ……」
「っ……」

 ローラン様に名前を呼ばれ、思わず体が強張った。
 ローラン様はぎゅっと拳を握る。

「昨晩は……すまなかった」
「い、いえ……。僕のほうこそ、ずっと……その、隠してて……ごめんなさい」
「……」

 ローラン様が立ち上がる。

「エディ。君と話がしたい。いいか?」
「は、はい……」
「ソファに座ってくれ」

 解雇の話かな。ロジェが止めてくれると助かるんだけど、やっぱり難しいのかな……

 そんなことを考えながら、僕は指示された場所に座った。
 ローラン様は、僕と向かいのソファに腰掛ける。
 そんな小さなことに、ちょっと傷付いた。

「ロジェから聞いた。君はずっとフェロモンを抑える薬を呑んでいたって」
「……はい」
「副作用であんなに強い発情になるとか」
「はい……」
「だったら、これからは呑まなくていい」
「え……?」

 思わず顔を上げてしまった。
 ローラン様と目が合った。彼もそれに気付き、優しく微笑んだ。

「今まで無理をさせた。もう隠さなくていい」
「え……。え、え」
「実を言うと、そちらのほうが僕も助かるんだ。君のフェロモンの匂いに慣れておきたいし、薬を呑まないことで発情も弱くなるだろうから」
「? ……? ??」

 間抜けな顔で口をパクパクしている僕を見て、ロジェが噴き出した。

「ああ、面白い」

 僕はロジェのネクタイを引っ張り、耳を寄せる。

「ロジェさん! なんか思ってた感じじゃありません……!!」
「ええ、そうですよ。これが現実です。あなたの妄想とは似ても似つきません」
「ほんとにこれが現実なんですか!?」
「はい」
「嘘です! だって……だって……!!」

 そのとき、ローラン様が不機嫌そうにローテーブルを蹴った。

「ひっ!?」
「そういえばロジェ……。エディの発情が治まっているようだが……。お前、僕の言いつけを破ったな」

 睨みつけられているのに、ロジェは悪びれもせずにニコニコしながら頷いた。

「はい」
「躾のなっていない執事だな」
「ふふ。実を言いますと、私、少しあなたに怒っておりまして」
「……」
「ちょっとあなたに嫌がらせ……もとい、お仕置きを」
「はあ……」

 それに、とロジェが付け加える。

「これからもあなたがエディにひどいことをすれば、私は何度でもあなたの言いつけを破りますよ」

 そしてロジェは、ローラン様にも聞こえる声で僕に耳打ちする。

「エディ、聞いてくださいよ。ローラン様ったらとってもワガママなんですよ? あなたにあんな仕打ちをしたくせに、私にあなたを抱くなと言うのです。たとえ発情を治めるためだとしても、どうしても嫌だと言って聞かなくて」
「え、え……? え?」
「でも私、我慢できなくてあなたを抱いちゃいました。ふふ」

 ロジェは僕を抱き寄せ、横目でローラン様を見ながら言った。

「エディ。昨晩のあなた、とっても素敵でしたよ」

 ローラン様は聞こえないふりをしているけれど、額に青筋を立てている。

「私ともはじめてキッスをしてくださいましたね。またしましょうね。昨晩のような濃厚なキッスを」

 ローラン様が勢いよく立ち上がり、廊下を歩いていたメイドを呼び止めた。

「メイド」
「は、はいっ。どうされましたか、ローラン様」
「殺傷能力の高そうな鈍器を持ってきてくれ」
「はい……?」

 殺意を高めているローラン様を見て、ロジェは腹をかかえて笑った。

 さっきからのやり取りに、僕だけがついていけていない。どういう意味?

 ロジェは笑いすぎて出た涙を拭いながら、僕に話しかけた。

「もうお分かりですね、エディ?」
「いいえ? 全く?」
「ああ。なんて物わかりの悪い子なんでしょう」

 ひとしきり笑ってから、ロジェがローラン様に恭しく会釈をした。

「ローラン様。私の言葉ではエディは何も信じてくれません。どうかあなたの口から、あなたの言葉で」

 ローラン様はこくりと唾を呑み込み――
 僕の前で跪いた。

「エディ。昨晩のことは、本当にすまなかった。何度詫びても足りないほどに、君を傷付けたと思う」
「ローラン様! 僕に跪くなんて、そんなこと、しないでください……!」
「君がオメガだと知って、すごく驚いた」
「……」
「でも、それより驚いたことは――」

 ローラン様が僕の手を握る。

「発情しているにもかかわらず僕を拒絶して、僕を守ってくれたことだ」
「そんな……当然のことをしたまでです……」
「僕には分かる。二次性に抗う難しさがどれほどのものなのか。少なくとも僕は、今までできたことがない」

 ローラン様が僕を見上げた。その目には、慈しみと尊敬の気持ちが滲んでいた。

「二次性に呑み込まれることより、二次性に抗うことのほうが難しい。君はそれをやってのけた。僕のために……」

 ローラン様の手に力がこもっていく。

「エディ。僕は昨晩、そんな君に……強い心を持ったオメガの君に、二度目の恋をしたんだ」
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

嫁さんのいる俺はハイスペ男とヤレるジムに通うけど恋愛対象は女です

ルシーアンナ
BL
会員制ハッテンバ スポーツジムでハイスペ攻め漁りする既婚受けの話。 DD×リーマン リーマン×リーマン

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話

gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、 立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。 タイトルそのままですみません。

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...