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侯爵令息の様子がおかしいです

第二十四話

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 ◇◇◇

 翌朝、ローラン様の部屋を訪れたのだけど……
 ローラン様の様子が変だ。

「ローラン様、おはようございます。モーニングティーをお持ちしました」
「エッ、エディッ……!」
「はい。エディです。おはようございます」
「お、おは、おはよう」

 落ち着きがないし、どうも僕と目を合わせようとしない。
 僕はローラン様の顔を覗き込んだ。

「ローラン様?」
「わっ……! お、おいっ、突然顔を近づけるな!!」

 久しぶりに「顔を近づけるな」と言われた……。ちょっと悲しい。

「どうしたんですか、ローラン様? 様子がおかしいです」
「そんなことはない! いつも通りだ!」
「そうですか? 顔も赤いですけど……熱でもあるのかな……」

 僕はローラン様の額に手を当て、熱がないか確かめた。ちょっといつもより高い気がする。

「わ、わ……」
「脈も計っておきますね」
「は、計らなくていい!」
「いいえ。計りますよ。ローラン様のお体に何かあってはいけませんから」

 ローラン様の手首に指を当てると、「ドドドドドド」ととんでもなく速く脈打っていた。

「こっ……これは異常です……!! ローラン様!? 何か体に不調はありませんか!?」
「ないっ! ないからそれ以上僕を辱めるのをやめろぉっ!!」
「とりあえずロジェさんに報告を……!!」
「やめろロジェには言うな!! 笑われるだけだから!!」
「笑うわけありません! ローラン様のお体を一番心配しているのはロジェさんなんですから!!」

 ローラン様は「くそっ……!!」と悪態をつき、僕の手をローラン様の胸に当てた。

「このっ、鼓動の高鳴りは……っ、お、お前が僕を抱きしめるときに高鳴る理由と同じだ……!!」
「へっ……!?」
「ただそれだけだから、たいしたことないんだ!! 分かったな!!」
「は、はいっ……!」

 一応返事はしたけれど、それって僕にとってはものすごくたいしたことがあるんだけど……!

 僕とローラン様は頬を赤く染め、お互いちょっと顔を逸らした。

「エ、エディ」
「は、はいっ」
「……僕にこんな気持ちを抱かれるのは、迷惑か?」

 不安そうな声に、きゅぅぅぅぅん……と心臓が締め付けられる。

「まさか……っ、そんなわけないです……っ!」
「本当にか?」
「本当です……!!」

 ローラン様は表情を緩め、「そうか」と言った。

「エディ」
「は、はい……」
「僕の隣に」

 ドキドキしながらローラン様の隣に座る。するとローラン様が、僕をそっと抱きしめた。

「ふぁっ……」

 僕から抱きしめたことは何度もあったけれど、ローラン様に抱きしめられるのははじめてだ。

「……」
「……」

 ローラン様の心音が聞こえる。ローラン様も、すごくドキドキしている。

「どうしてだろう」

 ローラン様がぼそっと呟く。

「いつもはこうしていたら落ち着くのに、今日は全く落ち着かない……」
「い、いつもは僕から抱きしめているからかもしれません。やってみますか?」
「そうだな」

 今度は僕から抱きしめた。

「ど、どうでしょう」
「ふむ。全く落ち着かないな」
「あら……」
「……エディの心音がものすごいことになっている」
「うぅぅ……なんだか今日はいつも以上にドキドキします……」
「僕もだ。でも……不思議と嫌じゃない」

 僕の胸に耳を当てていたローラン様が顔を上げた。僕の頬に手を添え、顔をじっと見つめる。
 こんな間近に見つめ合ったのがはじめてで、心臓が飛び出そうになった。

「エディ。君の瞳は澄んでいてきれいだな」
「ロ、ローラン様の瞳こそ……宝石みたいにきれいです……」
「ふふ。これじゃあお互いが口説き合っているみたいだな」

 あ。笑った。なんて優しい表情をするんだろう。

 僕たちはしばらく見つめ合った。それだけのことで、体が少しずつ熱くなっていく。
 ローラン様の瞳も徐々に熱を帯びていく。いつもよりとろんと瞼を閉じ、そして――

「っ……」

 僕たちの唇が、触れ合った。
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