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侯爵令息の様子がおかしいです
第二十三話
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アガパンサスの花言葉を知ったローラン様は、顔を真っ赤にして「気にするな」と言った。
実際、そんな意味合いで渡したわけではないだろうし、僕は極力気にしないことにした。
それでもときどき思い出して、鼓動が速くなってしまったけれど。
花園のあとは、大きな木の下でくつろいだ。
ローラン様は読書をして、僕はぼんやり景色を眺める。
「エディ。退屈じゃないか?」
「退屈じゃありませんよ。楽しいです」
「黙って座っているだけで、どうして楽しいんだ」
「風が気持ちいいなあとか、木の葉の揺れる音が聞こえるなあとか、そんなことを感じているだけで楽しいです」
「そうか」
ローラン様は本に目を落としたまま、僕の名前を呼んだ。
「はいっ」
「肩を」
「肩を……?」
「抱け」
お願いします。これは僕が悪いんですけど、「抱け」なんて言わないでください。思春期まっさかりの僕にはちょっと刺激が強すぎます。
心の中でそんな文句を漏らしながら、僕はローラン様の肩を抱いた。
ローラン様は本を閉じ、僕の肩に頭を乗せる。
……自分の心臓がうるさくて、木の葉の音なんて聞こえなくなった。
ローラン様が僕に体を預けているとき、起きているのか寝ているのかちょっと判断がつかないときがある。
寝たのかな、と思い顔を覗き込んだと同時に、ローラン様が口を開いた。
「……僕は」
「は、はいっ!」
「こんな日がやってくるなんて、思いもしなかった」
「こんな日とは……?」
ローラン様が僕の手をそっと握る。
「欲情とは無縁の場所で、ただただ穏やかに過ごす日……」
「……」
「木の下で読書をして、うたた寝をしそうなこの時間……。なんのしがらみもない、ただの少年になったような……」
「っ……」
たまらず、ローラン様を抱きしめた。
「あなたは……ただの少年ですよ……っ」
「……」
そう。ローラン様はただの少年だ。
繊細で、本当は甘えん坊で、外の世界に夢見るただの少年だ。
大人たちがそんな彼の心に目を背けて、エゴを押し付けるから……
彼はこんなに傷ついてしまった。部屋に閉じこもってしまった。
僕には大人の気持ちも都合も分からない。分かりたくもない。
ただ、ローラン様が笑顔でいられる日が少しでも増えれば、それでいい。
「エディ……」
「はい、なんでしょう?」
「ありがとう」
「……」
「今日、楽しかった」
また庭の散歩をしようと約束をして、僕たちは部屋に戻った。
夜、ロジェがローラン様の部屋を訪れるまで、僕たちは一緒にいた。
◆◆◆
(ローランside)
せっかくエディと穏やかな時間を過ごしていたのに、ロジェが僕の部屋に顔を出した。
週に一度の忌まわしい時間だ。
エディを帰らせたあと、僕はベッドに腰掛けた。
「全く。非情だな、お前は」
「どうしてです?」
「夢から醒めてしまったじゃないか。一転して地獄だ」
「ふふ、それはどうでしょうか」
ロジェが僕のペニスを咥える。気色の悪い感覚に、僕は顔をしかめた。
「ローラン様」
「なんだ」
「やはり、このお役目をエディに任せようかと思っているのですが」
「な、何を言っている……! 嫌だと言っただろう!」
「そうでしょうか。本当に嫌なのですか?」
「当たり前だ。そんなの嫌に――」
ロジェがこんな提案をしたせいだ。
ペニスを咥えているロジェの顔が、一瞬だけエディに見えた。
想像したくない。してはいけない。それなのに……
「んっ……」
「おや。ふふ」
ロジェは、急に溢れたカウパーをこれみよがしに舐めとる。
「ローラン様。目を閉じてください」
「なぜだ……?」
「その方が、私の顔が見えなくていいでしょう?」
僕は頑なに目を閉じようとしなかった。
「……強情な方ですねえ」
ロジェはため息を吐き、ネクタイを外した。
そして、そのネクタイで僕の目を覆った。
「おい! 何をする!」
「目を閉じる勇気がないあなたの手伝いをして差し上げようかと」
目隠しをされたまま、ロジェにペニスを舐められた。
「エディはどんなふうにローラン様のペニスを舐めてくれるのでしょうねえ」
「おい……やめろ……。エディの名前を出すな……」
「きっと優しくしてくれるのでしょうね」
「もっ……やめ……っ、ん……っ」
なぜだろう。エディが僕のペニスを舐める姿が容易に想像できてしまう。
僕を抱きしめるときのように、遠慮がちに舌を這わせるのだろう。
僕の体を気遣いながら、優しく包み込んでくれるのだろう。
「んっ……は……っ、んん……っ」
「ふふ。あなたのそんな声を聞いたのははじめてです。それに……こんなに大きくなったのも、はじめてですね」
僕は無意識に、ロジェの頭に手を乗せていた。
「エ……エディ……」
「……」
「んっ……!!」
射精した瞬間、得も言われぬ快感が僕を包み込んだ。
「……? ……?」
ロジェが、放心している僕から目隠しを外す。僕の顔を覗き込み、とても嬉しそうに目じりを下げた。
「はじめて気持ちよくできましたね」
「……ロ、ロジェ……何、これ……」
「これが本来の悦びです」
「僕……さっき、エディで……」
「ええ。それでいいんですよ」
いいわけがない。
「エディをこんなことに使うのは良くない……」
「どうしてです?」
「エディは僕にとって特別な人だ。大切に思っている。それなのに、こんな性欲の捌け口に使うなんて……誠実さに欠けているじゃないか……!」
「おやまあ。おかしなことをおっしゃる」
ロジェはわざとらしく驚き顔をした。
「本来、性行為は愛する者とするものです。特別な人、大切に思っている人……そういう人としたいと思うのが正常ですよ」
「……」
「特別な人と性交を望むのが誠実さに欠けているのではありません。特別な人でもないのに性交するのが不誠実なのですよ」
僕は失笑する。
「じゃあ、僕は今までずっと不誠実な行為をしていたということじゃないか」
「その通りです」
「……おい。誰のせいだと思っている……」
ロジェは肩をすくめた。
「だからお辛いんでしょう?」
「……」
「それともうひとつ」
ロジェは僕の服を整えながら、上機嫌でこう言った。
「あなたが嫌悪しているのは、性行為にではありません。今までの不誠実な行為にです」
「……」
「それだけは、お間違えのないよう」
実際、そんな意味合いで渡したわけではないだろうし、僕は極力気にしないことにした。
それでもときどき思い出して、鼓動が速くなってしまったけれど。
花園のあとは、大きな木の下でくつろいだ。
ローラン様は読書をして、僕はぼんやり景色を眺める。
「エディ。退屈じゃないか?」
「退屈じゃありませんよ。楽しいです」
「黙って座っているだけで、どうして楽しいんだ」
「風が気持ちいいなあとか、木の葉の揺れる音が聞こえるなあとか、そんなことを感じているだけで楽しいです」
「そうか」
ローラン様は本に目を落としたまま、僕の名前を呼んだ。
「はいっ」
「肩を」
「肩を……?」
「抱け」
お願いします。これは僕が悪いんですけど、「抱け」なんて言わないでください。思春期まっさかりの僕にはちょっと刺激が強すぎます。
心の中でそんな文句を漏らしながら、僕はローラン様の肩を抱いた。
ローラン様は本を閉じ、僕の肩に頭を乗せる。
……自分の心臓がうるさくて、木の葉の音なんて聞こえなくなった。
ローラン様が僕に体を預けているとき、起きているのか寝ているのかちょっと判断がつかないときがある。
寝たのかな、と思い顔を覗き込んだと同時に、ローラン様が口を開いた。
「……僕は」
「は、はいっ!」
「こんな日がやってくるなんて、思いもしなかった」
「こんな日とは……?」
ローラン様が僕の手をそっと握る。
「欲情とは無縁の場所で、ただただ穏やかに過ごす日……」
「……」
「木の下で読書をして、うたた寝をしそうなこの時間……。なんのしがらみもない、ただの少年になったような……」
「っ……」
たまらず、ローラン様を抱きしめた。
「あなたは……ただの少年ですよ……っ」
「……」
そう。ローラン様はただの少年だ。
繊細で、本当は甘えん坊で、外の世界に夢見るただの少年だ。
大人たちがそんな彼の心に目を背けて、エゴを押し付けるから……
彼はこんなに傷ついてしまった。部屋に閉じこもってしまった。
僕には大人の気持ちも都合も分からない。分かりたくもない。
ただ、ローラン様が笑顔でいられる日が少しでも増えれば、それでいい。
「エディ……」
「はい、なんでしょう?」
「ありがとう」
「……」
「今日、楽しかった」
また庭の散歩をしようと約束をして、僕たちは部屋に戻った。
夜、ロジェがローラン様の部屋を訪れるまで、僕たちは一緒にいた。
◆◆◆
(ローランside)
せっかくエディと穏やかな時間を過ごしていたのに、ロジェが僕の部屋に顔を出した。
週に一度の忌まわしい時間だ。
エディを帰らせたあと、僕はベッドに腰掛けた。
「全く。非情だな、お前は」
「どうしてです?」
「夢から醒めてしまったじゃないか。一転して地獄だ」
「ふふ、それはどうでしょうか」
ロジェが僕のペニスを咥える。気色の悪い感覚に、僕は顔をしかめた。
「ローラン様」
「なんだ」
「やはり、このお役目をエディに任せようかと思っているのですが」
「な、何を言っている……! 嫌だと言っただろう!」
「そうでしょうか。本当に嫌なのですか?」
「当たり前だ。そんなの嫌に――」
ロジェがこんな提案をしたせいだ。
ペニスを咥えているロジェの顔が、一瞬だけエディに見えた。
想像したくない。してはいけない。それなのに……
「んっ……」
「おや。ふふ」
ロジェは、急に溢れたカウパーをこれみよがしに舐めとる。
「ローラン様。目を閉じてください」
「なぜだ……?」
「その方が、私の顔が見えなくていいでしょう?」
僕は頑なに目を閉じようとしなかった。
「……強情な方ですねえ」
ロジェはため息を吐き、ネクタイを外した。
そして、そのネクタイで僕の目を覆った。
「おい! 何をする!」
「目を閉じる勇気がないあなたの手伝いをして差し上げようかと」
目隠しをされたまま、ロジェにペニスを舐められた。
「エディはどんなふうにローラン様のペニスを舐めてくれるのでしょうねえ」
「おい……やめろ……。エディの名前を出すな……」
「きっと優しくしてくれるのでしょうね」
「もっ……やめ……っ、ん……っ」
なぜだろう。エディが僕のペニスを舐める姿が容易に想像できてしまう。
僕を抱きしめるときのように、遠慮がちに舌を這わせるのだろう。
僕の体を気遣いながら、優しく包み込んでくれるのだろう。
「んっ……は……っ、んん……っ」
「ふふ。あなたのそんな声を聞いたのははじめてです。それに……こんなに大きくなったのも、はじめてですね」
僕は無意識に、ロジェの頭に手を乗せていた。
「エ……エディ……」
「……」
「んっ……!!」
射精した瞬間、得も言われぬ快感が僕を包み込んだ。
「……? ……?」
ロジェが、放心している僕から目隠しを外す。僕の顔を覗き込み、とても嬉しそうに目じりを下げた。
「はじめて気持ちよくできましたね」
「……ロ、ロジェ……何、これ……」
「これが本来の悦びです」
「僕……さっき、エディで……」
「ええ。それでいいんですよ」
いいわけがない。
「エディをこんなことに使うのは良くない……」
「どうしてです?」
「エディは僕にとって特別な人だ。大切に思っている。それなのに、こんな性欲の捌け口に使うなんて……誠実さに欠けているじゃないか……!」
「おやまあ。おかしなことをおっしゃる」
ロジェはわざとらしく驚き顔をした。
「本来、性行為は愛する者とするものです。特別な人、大切に思っている人……そういう人としたいと思うのが正常ですよ」
「……」
「特別な人と性交を望むのが誠実さに欠けているのではありません。特別な人でもないのに性交するのが不誠実なのですよ」
僕は失笑する。
「じゃあ、僕は今までずっと不誠実な行為をしていたということじゃないか」
「その通りです」
「……おい。誰のせいだと思っている……」
ロジェは肩をすくめた。
「だからお辛いんでしょう?」
「……」
「それともうひとつ」
ロジェは僕の服を整えながら、上機嫌でこう言った。
「あなたが嫌悪しているのは、性行為にではありません。今までの不誠実な行為にです」
「……」
「それだけは、お間違えのないよう」
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