【完結】【R18BL】Ω嫌いのα侯爵令息にお仕えすることになりました~僕がΩだと絶対にバレてはいけません~

ちゃっぷす

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侯爵令息の様子がおかしいです

第二十三話

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 アガパンサスの花言葉を知ったローラン様は、顔を真っ赤にして「気にするな」と言った。
 実際、そんな意味合いで渡したわけではないだろうし、僕は極力気にしないことにした。
 それでもときどき思い出して、鼓動が速くなってしまったけれど。

 花園のあとは、大きな木の下でくつろいだ。
 ローラン様は読書をして、僕はぼんやり景色を眺める。

「エディ。退屈じゃないか?」
「退屈じゃありませんよ。楽しいです」
「黙って座っているだけで、どうして楽しいんだ」
「風が気持ちいいなあとか、木の葉の揺れる音が聞こえるなあとか、そんなことを感じているだけで楽しいです」
「そうか」

 ローラン様は本に目を落としたまま、僕の名前を呼んだ。

「はいっ」
「肩を」
「肩を……?」
「抱け」

 お願いします。これは僕が悪いんですけど、「抱け」なんて言わないでください。思春期まっさかりの僕にはちょっと刺激が強すぎます。

 心の中でそんな文句を漏らしながら、僕はローラン様の肩を抱いた。
 ローラン様は本を閉じ、僕の肩に頭を乗せる。

 ……自分の心臓がうるさくて、木の葉の音なんて聞こえなくなった。

 ローラン様が僕に体を預けているとき、起きているのか寝ているのかちょっと判断がつかないときがある。
 寝たのかな、と思い顔を覗き込んだと同時に、ローラン様が口を開いた。

「……僕は」
「は、はいっ!」
「こんな日がやってくるなんて、思いもしなかった」
「こんな日とは……?」

 ローラン様が僕の手をそっと握る。

「欲情とは無縁の場所で、ただただ穏やかに過ごす日……」
「……」
「木の下で読書をして、うたた寝をしそうなこの時間……。なんのしがらみもない、ただの少年になったような……」
「っ……」

 たまらず、ローラン様を抱きしめた。

「あなたは……ただの少年ですよ……っ」
「……」

 そう。ローラン様はただの少年だ。
 繊細で、本当は甘えん坊で、外の世界に夢見るただの少年だ。
 大人たちがそんな彼の心に目を背けて、エゴを押し付けるから……
 彼はこんなに傷ついてしまった。部屋に閉じこもってしまった。

 僕には大人の気持ちも都合も分からない。分かりたくもない。
 ただ、ローラン様が笑顔でいられる日が少しでも増えれば、それでいい。

「エディ……」
「はい、なんでしょう?」
「ありがとう」
「……」
「今日、楽しかった」

 また庭の散歩をしようと約束をして、僕たちは部屋に戻った。
 夜、ロジェがローラン様の部屋を訪れるまで、僕たちは一緒にいた。


 ◆◆◆
(ローランside)

 せっかくエディと穏やかな時間を過ごしていたのに、ロジェが僕の部屋に顔を出した。
 週に一度の忌まわしい時間だ。

 エディを帰らせたあと、僕はベッドに腰掛けた。

「全く。非情だな、お前は」
「どうしてです?」
「夢から醒めてしまったじゃないか。一転して地獄だ」
「ふふ、それはどうでしょうか」

 ロジェが僕のペニスを咥える。気色の悪い感覚に、僕は顔をしかめた。

「ローラン様」
「なんだ」
「やはり、このお役目をエディに任せようかと思っているのですが」
「な、何を言っている……! 嫌だと言っただろう!」
「そうでしょうか。本当に嫌なのですか?」
「当たり前だ。そんなの嫌に――」

 ロジェがこんな提案をしたせいだ。
 ペニスを咥えているロジェの顔が、一瞬だけエディに見えた。
 想像したくない。してはいけない。それなのに……

「んっ……」
「おや。ふふ」

 ロジェは、急に溢れたカウパーをこれみよがしに舐めとる。

「ローラン様。目を閉じてください」
「なぜだ……?」
「その方が、私の顔が見えなくていいでしょう?」

 僕は頑なに目を閉じようとしなかった。

「……強情な方ですねえ」

 ロジェはため息を吐き、ネクタイを外した。
 そして、そのネクタイで僕の目を覆った。

「おい! 何をする!」
「目を閉じる勇気がないあなたの手伝いをして差し上げようかと」

 目隠しをされたまま、ロジェにペニスを舐められた。

「エディはどんなふうにローラン様のペニスを舐めてくれるのでしょうねえ」
「おい……やめろ……。エディの名前を出すな……」
「きっと優しくしてくれるのでしょうね」
「もっ……やめ……っ、ん……っ」

 なぜだろう。エディが僕のペニスを舐める姿が容易に想像できてしまう。
 僕を抱きしめるときのように、遠慮がちに舌を這わせるのだろう。
 僕の体を気遣いながら、優しく包み込んでくれるのだろう。

「んっ……は……っ、んん……っ」
「ふふ。あなたのそんな声を聞いたのははじめてです。それに……こんなに大きくなったのも、はじめてですね」

 僕は無意識に、ロジェの頭に手を乗せていた。

「エ……エディ……」
「……」
「んっ……!!」

 射精した瞬間、得も言われぬ快感が僕を包み込んだ。

「……? ……?」

 ロジェが、放心している僕から目隠しを外す。僕の顔を覗き込み、とても嬉しそうに目じりを下げた。

「はじめて気持ちよくできましたね」
「……ロ、ロジェ……何、これ……」
「これが本来の悦びです」
「僕……さっき、エディで……」
「ええ。それでいいんですよ」

 いいわけがない。

「エディをこんなことに使うのは良くない……」
「どうしてです?」
「エディは僕にとって特別な人だ。大切に思っている。それなのに、こんな性欲の捌け口に使うなんて……誠実さに欠けているじゃないか……!」
「おやまあ。おかしなことをおっしゃる」

 ロジェはわざとらしく驚き顔をした。

「本来、性行為は愛する者とするものです。特別な人、大切に思っている人……そういう人としたいと思うのが正常ですよ」
「……」
「特別な人と性交を望むのが誠実さに欠けているのではありません。特別な人でもないのに性交するのが不誠実なのですよ」

 僕は失笑する。

「じゃあ、僕は今までずっと不誠実な行為をしていたということじゃないか」
「その通りです」
「……おい。誰のせいだと思っている……」

 ロジェは肩をすくめた。

「だからお辛いんでしょう?」
「……」
「それともうひとつ」

 ロジェは僕の服を整えながら、上機嫌でこう言った。

「あなたが嫌悪しているのは、性行為にではありません。今までの不誠実な行為にです」
「……」
「それだけは、お間違えのないよう」
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