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執事にオメガだとバレました
第十六話
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一度目の発情期を乗り切ってからは、(ロジェと変なことをするようになったとはいえ)平和な毎日を過ごしていた。
ローラン様の僕に対する信頼度も少しずつ上がっているように思うし、今も口調はきついけれど、態度は角が取れてきた気がする。
そして、二度目の発情期が訪れる五日前の夜に、あの出来事は起こった。
その日、夜になってもロジェは戻って来なかった。
久しぶりに一人で広いベッドで眠れる。嬉しいな~と思いながら、僕はベッドでごろごろしていた。
「……」
しかし、どうも眠れない。
二人で寝ることに慣れてしまったせいだろうか。
それとも……
寝る前に性交をすることに、慣れてしまったせいだろうか。
「~~……」
情けないよ、僕。
やっぱりオメガは性質的に依存性が高いんだ。
一度そういうことに慣らされてしまったら、一人では生きていけなくなるんだろうか。
それは嫌だな……。ちゃんと、一人でも生きていけるような体でいたい。
ベッドで寝転がっていると、いろいろと考えてしまって余計に眠れなくなった。
僕は気分転換に、厨房に夜食を探しに行った。
(ローラン様も、ちゃんと眠れているかな)
ローラン様は、三日前にショックを起こした。
僕が薬を処方して、すぐによくなったみたいだけれど……
このまま毎月ショックを起こしていたら、本当に危険だと思うんだ……
そこで僕はハッと気づいた。
ロジェは、定期的にローラン様の自慰をお手伝いしていると言っていた。
実際、それを手伝う日は今までも何度かあった。そんな日は今日みたいに、夜遅くにならないと戻って来ない。
(もしかして……今日も……?)
それは、ちょっとした好奇心だった。
ローラン様の自慰をお手伝いしているときのロジェってどんな感じなんだろう、とか……
ロジェに舐められているときのローラン様ってどんな感じなんだろう、とか……
(前者はまだ許せるけど、後者は考えちゃいけないことでしょ……!)
自責しながらも、僕の足は勝手にローラン様の部屋へ向かった。
ドキドキしながらドアの前で聞き耳を立てた僕は、思わず「え……?」と声を漏らした。
「やめろっ!! 触るなっ!! 触るなぁぁっ!! 離れろっ、離れろぉぉっ!!」
ロ、ローラン様……
自慰だけで、こ、こんなに、嫌がるの?
こんなに嫌がっているのに、無理やり自慰させているの……?
続いて、部屋の中から女の声が聞こえた。
「ローラン様っ……あっ、ああぁっ……」
血の気が引いた。あの声の出し方……性交しているときの僕みたいだ。
(待って……。じゃあ、今ローラン様がしていることって……)
ローラン様の悲痛な叫び声が響く。
「ロジェッ……!! ロジェ、助けて……っ!! いやだっ、いやだぁぁっ!!」
僕は胸が苦しくなって、耐えられずに勢いよくドアを開けた。
「もうやめてあげてくださいっ!!」
そして僕はベッドに駆け寄り、ローラン様の上に乗っている女の人を突き飛ばした。
「……エディ……?」
ローラン様のか細い声。僕が抱き寄せると、しっかりとしがみついた。とても震えている。
僕は女の人に、厳しい口調で言い放つ。
「ローラン様が怯えています!! ここから出て行ってください!!」
「え……で、でも、わ、私は……」
「こんなことして!! 執事さんに言いつけますよ!!」
「い、いえ……私は、その……執事さんに仰せつかり……」
「……え……?」
そのとき、部屋の隅から聞きなれた靴音が聞こえた。こちらに近づいてくる。
「エディ……」
「執事さん……? え……? 見てたんですか……?」
「……ええ」
「ローラン様が襲われているところを? 見ていたのに、止めなかったんですか……?」
「……エディも分かっているでしょう……。ローラン様は、そういうことを極度に嫌うせいで度々ショックを起こされます」
「……」
「だから……お辛いでしょうが、このように、月に一度は……」
僕は怒りでわなわな震えた。
「だからって……あ、あんなに嫌がっていたのに……無理やりさせるなんて……っ、あ、あなた、それでもローラン様の執事ですか……?」
「執事だからこその選択です。全てはローラン様のため……」
「これのどこがローラン様のためなんだ!?」
普段はちょっと触れられても嫌がるようなローラン様が、こんなに僕にしがみつくほど怖い思いをしていたのに。何がローラン様のためなんだ!!
「あなたがこんなことをさせるから!! もっともっとローラン様がそういう行為を嫌うんじゃないんですか!?」
「っ……」
「確かにショックは危険です……! あなたのローラン様を心配する気持ちも痛いほど分かります……!! でも……っ。こんなの、あんまりだ……!!」
どうしてローラン様の口癖が、「やめろ」「触るな」「あっち行け」なのが、このときやっと分かった。
きっとローラン様は……精通を迎えてから今までずっと、こんなことをさせられてきたんだ……!
「ローラン様はアルファですが……っ、その前に一人の人間ですよ……っ!! それなのに、こんな……!!」
ロジェは小さくため息を吐き、メイドに声をかけた。
「……今日はもう帰りなさい」
「は、はい……。し、失礼いたします……」
そして、僕に向き直る。
「エディ」
「……」
「あなたの言うことは理解できます。それでも……私は、この選択が誤っていたとは……思えません」
「……」
「きれいごとで命は救えません。ローラン様の命を守るためならば、私は悪魔にでも魂を売りますよ」
そう言い残し、ロジェはローラン様の部屋を去った。
ローラン様の僕に対する信頼度も少しずつ上がっているように思うし、今も口調はきついけれど、態度は角が取れてきた気がする。
そして、二度目の発情期が訪れる五日前の夜に、あの出来事は起こった。
その日、夜になってもロジェは戻って来なかった。
久しぶりに一人で広いベッドで眠れる。嬉しいな~と思いながら、僕はベッドでごろごろしていた。
「……」
しかし、どうも眠れない。
二人で寝ることに慣れてしまったせいだろうか。
それとも……
寝る前に性交をすることに、慣れてしまったせいだろうか。
「~~……」
情けないよ、僕。
やっぱりオメガは性質的に依存性が高いんだ。
一度そういうことに慣らされてしまったら、一人では生きていけなくなるんだろうか。
それは嫌だな……。ちゃんと、一人でも生きていけるような体でいたい。
ベッドで寝転がっていると、いろいろと考えてしまって余計に眠れなくなった。
僕は気分転換に、厨房に夜食を探しに行った。
(ローラン様も、ちゃんと眠れているかな)
ローラン様は、三日前にショックを起こした。
僕が薬を処方して、すぐによくなったみたいだけれど……
このまま毎月ショックを起こしていたら、本当に危険だと思うんだ……
そこで僕はハッと気づいた。
ロジェは、定期的にローラン様の自慰をお手伝いしていると言っていた。
実際、それを手伝う日は今までも何度かあった。そんな日は今日みたいに、夜遅くにならないと戻って来ない。
(もしかして……今日も……?)
それは、ちょっとした好奇心だった。
ローラン様の自慰をお手伝いしているときのロジェってどんな感じなんだろう、とか……
ロジェに舐められているときのローラン様ってどんな感じなんだろう、とか……
(前者はまだ許せるけど、後者は考えちゃいけないことでしょ……!)
自責しながらも、僕の足は勝手にローラン様の部屋へ向かった。
ドキドキしながらドアの前で聞き耳を立てた僕は、思わず「え……?」と声を漏らした。
「やめろっ!! 触るなっ!! 触るなぁぁっ!! 離れろっ、離れろぉぉっ!!」
ロ、ローラン様……
自慰だけで、こ、こんなに、嫌がるの?
こんなに嫌がっているのに、無理やり自慰させているの……?
続いて、部屋の中から女の声が聞こえた。
「ローラン様っ……あっ、ああぁっ……」
血の気が引いた。あの声の出し方……性交しているときの僕みたいだ。
(待って……。じゃあ、今ローラン様がしていることって……)
ローラン様の悲痛な叫び声が響く。
「ロジェッ……!! ロジェ、助けて……っ!! いやだっ、いやだぁぁっ!!」
僕は胸が苦しくなって、耐えられずに勢いよくドアを開けた。
「もうやめてあげてくださいっ!!」
そして僕はベッドに駆け寄り、ローラン様の上に乗っている女の人を突き飛ばした。
「……エディ……?」
ローラン様のか細い声。僕が抱き寄せると、しっかりとしがみついた。とても震えている。
僕は女の人に、厳しい口調で言い放つ。
「ローラン様が怯えています!! ここから出て行ってください!!」
「え……で、でも、わ、私は……」
「こんなことして!! 執事さんに言いつけますよ!!」
「い、いえ……私は、その……執事さんに仰せつかり……」
「……え……?」
そのとき、部屋の隅から聞きなれた靴音が聞こえた。こちらに近づいてくる。
「エディ……」
「執事さん……? え……? 見てたんですか……?」
「……ええ」
「ローラン様が襲われているところを? 見ていたのに、止めなかったんですか……?」
「……エディも分かっているでしょう……。ローラン様は、そういうことを極度に嫌うせいで度々ショックを起こされます」
「……」
「だから……お辛いでしょうが、このように、月に一度は……」
僕は怒りでわなわな震えた。
「だからって……あ、あんなに嫌がっていたのに……無理やりさせるなんて……っ、あ、あなた、それでもローラン様の執事ですか……?」
「執事だからこその選択です。全てはローラン様のため……」
「これのどこがローラン様のためなんだ!?」
普段はちょっと触れられても嫌がるようなローラン様が、こんなに僕にしがみつくほど怖い思いをしていたのに。何がローラン様のためなんだ!!
「あなたがこんなことをさせるから!! もっともっとローラン様がそういう行為を嫌うんじゃないんですか!?」
「っ……」
「確かにショックは危険です……! あなたのローラン様を心配する気持ちも痛いほど分かります……!! でも……っ。こんなの、あんまりだ……!!」
どうしてローラン様の口癖が、「やめろ」「触るな」「あっち行け」なのが、このときやっと分かった。
きっとローラン様は……精通を迎えてから今までずっと、こんなことをさせられてきたんだ……!
「ローラン様はアルファですが……っ、その前に一人の人間ですよ……っ!! それなのに、こんな……!!」
ロジェは小さくため息を吐き、メイドに声をかけた。
「……今日はもう帰りなさい」
「は、はい……。し、失礼いたします……」
そして、僕に向き直る。
「エディ」
「……」
「あなたの言うことは理解できます。それでも……私は、この選択が誤っていたとは……思えません」
「……」
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