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執事にオメガだとバレました

第十四話

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 その日の夜、執事が再び僕の部屋を訪れた。

「調子はどうですか?」
「あ、はい……。おかげさまで治まりました……」
「そうですか。なによりです」
「……」
「……」

 き、気まずい。
 僕はこっそり執事を窺い見て、顔を真っ赤にした。
 ぼ、僕。僕、この人のペニスを、自分のおしりの中に……

「ふぃぃぃ……っ」
「急にどうしましたか。変な声を出して」
「しっ、執事さんは何とも思わないんですか……!? 僕とあなたは、今朝、今朝ぁぁぁ……っ」
「性交をしましたね」
「ふぃぃぃぃ……っ」

 そのことなのですが、と執事が話を切り出した。

「先に言っておきます。私はベータなので、あなたに妊娠のおそれはありません。その点はご安心下しさい」
「は、はい……」
「それでは、ひとつずつ話を整理していきましょう。あなたはオメガ、間違いないですか?」
「は、はい……」
「なぜ今まで隠せていたんでしょうか。ローラン様はオメガのフェロモンに敏感な方ですのに」
「く、薬を呑んでいました。フェロモンを抑える薬です……」
「なるほど……」

 執事が少し冷たい目で僕を見る。

「なぜ、ベータと嘘をついてまでここで働こうと思ったのですか? まさかあなたもローラン様の子を……」
「違います! 実は――」

 僕は多額の借金があることや、今月中に延滞分の借金を返せなければ家族ともども売り飛ばされてしまうことを説明した。

「あなたにそんな事情があったなんて……」
「は、はい……。だから、解雇だけはどうか……。か、家族が……」
「……」
「お願いします……どうか……」

 執事はため息を吐く。

「……今月分に必要なお金は金貨百枚ですね。すぐに用意して、あなたのご自宅にお送りします」
「あ……ありがとうございます……!!」
「いえ。元々お支払いするものでしたから。お礼を言われることではありません」

 それから……と執事が言葉を続ける。

「今後の借金返済と、あなたのご家族の生活も保障します」
「えっ……。そ、そこまでしていただけるんですか……?」
「ええ。元々昇給する予定でしたし。毎月金貨三十枚あれば、まかなえるでしょう?」
「はい……! 充分です……!」

 オメガと偽って転がり込んできた僕を、執事はどうしてここまで気遣ってくれるんだろう。
 その質問をすると、執事は慎重に言葉を選びながら言った。

「ローラン様があなたを信頼しているのです。好意すら抱いている。そんな人、今後一生めぐり合うことはできないかもしれませんから、私としてもあなたを手放すわけにはいかないのです」

 ローラン様、ありがとう……! ローラン様のおかげで僕は解雇されずに済みました……!!

「ただ……。そうなると、あなたの発情期を毎回どうにかしないといけないわけで……」
「ふぇっ……」
「つまり……分かりますか。毎月、あなたは私と性交することになります」
「……」
「それはよろしいのでしょうか」
「……し、執事さんは、いいんですか……? 僕なんかと……その……」
「私はかまいませんよ。むしろ……」

 執事はぽっと頬を赤らめ、慌てて口元を隠した。

「正直言いますと、したいですね」
「ぶっ!!」
「あなた、かなり体の具合がいいですよ。さすがはオメガですね」
「な、な、な……!?」
「愛液で濡れたアナル……私のペニスに吸い付いて離れない腸……精液を飲み干そうとのたうつ体内……」
「うわぁぁぁっ!! 反芻するのをやめてくださいぃぃぃっ!!」
「快感に溺れているあなたの表情も、普段からは想像もつかないほどの甘い声も……」
「ひぅぁぁぁあっ!! 思い出したくないぃぃぃぃっ!!」
「ぶっちゃけますと、かなり興奮しました」

 僕は口をパクパクしながら、後ずさる。

「執事さん、性欲あったんですね……?」
「ありますよ、そりゃ。男なのですから」
「だ、だって、ローラン様に全く興奮しないし……。ローラン様が……あなたのことを、不能なんだろうとおっしゃっていましたし……」
「ええ。ローラン様はそう思っていますね。とんでもない」

 執事はクスクス笑い、衝撃の事実を打ち明けた。

「あなたにはまだ伝えていませんでしたが、私は一週間に一度、ローラン様の自慰行為をお手伝いしているのですが」
「……え?」
「私の体がぴくりとも反応しないように、精液が枯れ果てるまでメイドと性交してから、ローラン様のお世話をしに行っているのですよ」
「……は?」
「そうでもしないと、ローラン様のペニスを咥えるなんてそのようなことをしては、やはり反応してしまいますから」
「……」

 待って。情報量が多すぎる。
 硬直している僕を、執事が抱き寄せる。

「ひっ……」
「しかし最近困っていましてね。長年そんな荒治療をしていたからか、体と頭がバカになってしまいましてね。最近はメイドの裸を見ても勃たなくなっていたんですよ。メイドのことを、ただの無理やり精液を吐き出すための、がらんどうの穴としか思えなくなってしまって。私、本当に不能になりそうだったのです」

 あ。この人やばい人かもしれない。

「それが……今朝はひどく興奮しましてね。ええ。あなたです。あなたに興奮したのですよ、私は」
「ひ、ひぃ……」
「ほら。こうして抱き寄せているだけで、少し勃ちました」
「う、うわぁぁぁっ! なんだこの変態はぁぁぁっ!!」
「女オメガではもう興奮しません。ローラン様か男オメガ。もう私はそれでしか興奮できないのですね。悲しいです」
「知るかぁぁぁっ!!」

 離れようとしても、逆に強く抱きしめられた。
 シャツの中に手を差し込まれ、背中をすっと撫でられる。

「ひぅぅぅっ……」
「そういうわけで、私には滾るほどの性欲があります。あなたに限って、ですがね」
「あっ、あなた! さっきから話を聞いていれば……!! ローラン様がどうのというのは建前で、ほんとはあなたが男オメガの僕を手放したくないだけなのでは!?」
「いやですね。完全には否定できませんが、やはりローラン様のことを一番に考えておりますよ、私は。ローラン様があなたを解雇しろと言えば、私は迷わずあなたをこの屋敷から追い出します」
「ぐぬぬ……」
「さて。話が逸れていますよ。あなたはどうです? 私と性交してでも、ここで働きたいですか?」

 こんなヤバい執事に抱かれてでも、本当に僕はここで働きたいのか……!?

 耳元で、執事の悪魔のささやきが聞こえる。

「明日には、延滞分の借金を返せます」
「……」
「毎月、充分なお金を実家にお送りします」
「……」
「さらに発情期以外でも私のお相手をしてくださるのなら、私のポケットマネーからもいくらか上乗せいたしますよ」
「……」
「大切なご家族を、毎日おなかいっぱいにしてあげられます。今まで我慢させていたお洋服も、好きなおもちゃも、買ってあげられますよ」
「……っ」
「それに……」

 執事が僕の頬にキスをする。

「うっ……」
「私はひどい抱き方などしません。借金取りに紹介されるような、悪い男たちのようにはね」
「……」

 僕は、執事の手を取り、自分の股間に触れさせた。

「……執事さん。僕、あなたが気持ち悪いです」
「ふふ。そうでしょうね」
「でも……見てください。それなのに、体が反応しています」
「そうですね」
「……今朝、僕も気持ちよくて」
「ええ」
「今まで発情期のときは、五日間一人で我慢するしかなくて。……ほんとは、ずっと、誰かにああしてほしかったんです。恥ずかしいですけど、それが本音です」

 執事は目尻を下げ、僕の頭を撫でた。

「ひとつも恥ずかしいことではありませんよ。よく今まで我慢してきましたね」
「……」
「あなたはえらいです。これからは、そんな我慢はさせません。我慢しなくていいんです」
「~~……」

 ずっとオメガであることを隠してきた。こういうことを求めることは、いけないことだと思っていた。
 それがほんとは、ずっとずっと、辛かった。苦しかった。

「僕、我慢しなくていいんですか……?」
「ええ。私のことは、いくらでも求めてくださってかまいません。その方が私もありがたいですし」
「いくらでも……?」
「これでも体力おばけなんですよ、私。だいたい私の相手をしたメイドは事後失神を――」
「あ、もういいです」
「はい」

 僕は目をこすり、一度だけ小さく頷いた。

「じゃあ……よろしくお願いします、執事さん……」
「はい。こちらこそよろしくお願いします」

 それから執事は、困ったような顔で微笑んだ。

「ローラン様も、あなたのように自分の体に素直な方であればよかったのですが」
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