上 下
23 / 29
ナストとフラストとヴァルア

5話【ナストとフラストとヴァルア】

しおりを挟む
 ヴァルア様は僕を強く抱きしめてから、ベッドを出た。それからフラスト様を寝室に呼んだ。
 寝室にやって来たフラスト様はいつも以上に無表情だった。そんな彼に、ヴァルア様が言う。

「兄貴の処遇を考えた」
「そうか。どこが飛ぶのか楽しみだ」
「まさか。さすがに兄弟の体を欠けさせるような真似なんてしない。でも――」

 ヴァルア様は悪い笑みを浮かべ、フラスト様を挑発的に手招きした。

「体は使ってもらうよ」
「……なんだ。強制労働か」
「まあ、そんなところかな。端的に言う。俺が不在の間、一週間に一度、ナストの世話をしてやってほしい」
「世話ならアリスやリングがしているだろう」
「彼女たちができない世話……つまり、今日していたことをね」

 フラスト様は眉をひそめた。

「とうとう気がふれたか?」
「いいや。正気だよ」
「いや、そうじゃないとそのようなこと、俺に――」

 フラスト様の言葉を、ヴァルア様が遮る。

「俺はね、兄貴。お前のことが嫌いだが、誰よりも信用しているんだよ」
「……」
「それに、俺はお前たちの愛を深め合えなんて言っていない。お前に、ナストの〝排泄行為〟の手伝いをしろと言っているだけだ」
「ほう。それは……屈辱的だ」
「だろう? 良い罰だ」

 しばし二人は睨み合った。先に目を逸らしたのはフラスト様だった。

「後悔するなよ」
「しないさ」
「はっ。甘く見られたものだ」
「ナストを信じているだけだ」

 沈黙が流れる。痛いほど静かだった空間に、フラスト様の舌打ちの音が響いた。

「……気でも遣ったつもりか」
「さあ。なんのことだい?」
「……これが、自由に生きられない俺への労いとでも思っているのか」
「へえ。そんなに嬉しいのか。それならよかったよ」
「……チッ」

 フラスト様は僕に一度も視線を向けず、部屋を出て行った。
 二人きりになった部屋で、僕たちは見つめ合った。
 ヴァルア様がベッドに腰掛ける。また、僕を抱き寄せた。

「フラストはね、彼が言ったように、何一つ自由に生きてこられなかったんだ」
「そうなんですね」
「ああ。親父もフラストには厳しくてね。あいつの生き方は全部親父が決めた。俺が許されることでも許されないし、俺よりもずっと苦労してきた」
「だからあんな偏屈になったんですか」

 そう言うと、ヴァルア様は大声で笑った。

「その通りさ。幼いときはもっと明るくて、素直で、よく笑う人だった。それがいつしかあんなひねくれたぶっきらぼうになってしまった。あれは間違いなく親父と俺のせいだね」
「ヴァルア様のせいでもあるんですか?」
「まあ、間接的に。俺は親父の言うことをひとつも聞いてこなかったからね。それなのに可愛がられている俺を見ていたら……心を殺して親父に従っているあいつからしたら、面白くないよね」
「……どうして僕に、そんな話をするんですか?」
「さあ、どうしてだろう」

 ヴァルア様は「どうしてだろう」ともう一度呟き、僕の頭を撫でた。

「家族だからかな。分からない」

 その日、久しぶりにヴァルア様と夜を過ごした。ヴァルア様は、なぜかいつもより穏やかだった。

「あっ……」

 ヴァルア様は僕の奥までペニスを挿入したまま、僕を抱きしめた。そのまま動かず、静かな時を過ごす。

「俺の感覚、忘れないでね」
「忘れません。というか一週間に一度くらい帰ってきてください。寂しいです」
「あはは……ごめん」
「僕に愛を教えるのはあなたなんですよ。分かっているんですか」
「そうだね。ごめんね」
「……こんな僕で、ごめんなさい」
「いいんだよ。うん。いいんだ、これで。これが一番……」
「……」

 ヴァルア様は長い時間をかけて、僕の全身にヴァルア様の感覚をしっかり刻み付けるようなセックスをした。全身を撫で、全身を舐め、全身に精液を落とした。体の中も、口の中も、ヴァルア様のペニスの形と味を覚えさせるまで離させなかった。

 空が明るんだ頃には、僕の声と精液は枯れ果て、虚ろな目で脱力していた。
 ヴァルア様が掛け時計に目をやり、ため息を吐く。

「あと二時間でここを出なきゃいけない」
「そう、ですか……」

 僕と目が合ったヴァルア様は優しく微笑み、布団に潜り込んだ。僕を抱きしめ、頭にキスをする。

「それまではこうしていよう」
「はい」

 ヴァルア様の鼓動を聞きながら僕は眠りに落ちた。
 目が覚めたときには、もう彼の姿はなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

英雄の恋人(♂)を庇って死ぬモブキャラですが死にたくないので庇いませんでした

月歌(ツキウタ)
BL
自分が適当に書いたBL小説に転生してしまった男の話。男しか存在しないBL本の異世界に転生したモブキャラの俺。英雄の恋人(♂)である弟を庇って死ぬ運命だったけど、死にたくないから庇いませんでした。 (*´∀`)♪『嫌われ悪役令息は王子のベッドで前世を思い出す』の孕み子設定使ってますが、世界線は繋がりなしです。魔法あり、男性妊娠ありの世界です(*´∀`)♪

至る所であほえろイベントが起こる学校。

あたか
BL
高校一年生の遠野は男が大好きである。 下品な表現あり。アホエロBL注意。

ハイスペックストーカーに追われています

たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!! と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。 完結しました。

変態村♂〜俺、やられます!〜

ゆきみまんじゅう
BL
地図から消えた村。 そこに肝試しに行った翔馬たち男3人。 暗闇から聞こえる不気味な足音、遠くから聞こえる笑い声。 必死に逃げる翔馬たちを救った村人に案内され、ある村へたどり着く。 その村は男しかおらず、翔馬たちが異変に気づく頃には、すでに囚われの身になってしまう。 果たして翔馬たちは、抱かれてしまう前に、村から脱出できるのだろうか?

趣味で乳首開発をしたらなぜか同僚(男)が近づいてきました

ねこみ
BL
タイトルそのまんまです。

罰ゲームでパパ活したら美丈夫が釣れました

田中 乃那加
BL
エロです 考えるな、感じるんだ 罰ゲームでパパ活垢つくってオッサン引っ掛けようとしたら、めちゃくちゃイケメンでどこか浮世離れした美丈夫(オッサン)来ちゃった!? あの手この手で気がつけば――。 美丈夫×男子高校生 のアホエロ

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

転生したら同性の婚約者に毛嫌いされていた俺の話

鳴海
BL
前世を思い出した俺には、驚くことに同性の婚約者がいた。 この世界では同性同士での恋愛や結婚は普通に認められていて、なんと出産だってできるという。 俺は婚約者に毛嫌いされているけれど、それは前世を思い出す前の俺の性格が最悪だったからだ。 我儘で傲慢な俺は、学園でも嫌われ者。 そんな主人公が前世を思い出したことで自分の行動を反省し、行動を改め、友達を作り、婚約者とも仲直りして愛されて幸せになるまでの話。

処理中です...