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ナストとフラストとヴァルア

1話【ナストとフラストとヴァルア】

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 インキュバス・テールに淫紋を付けられ、そしてフラスト様のおかげで消えたあの日から一週間が経った。その翌日に一日中一緒に過ごしてから、また僕はヴァルア様と会えていない。あの日仕事を放り投げて城に戻って来た(あまつさえ一日中僕を抱いた)せいで、仕事がさらに溜まってしまったようだ。あと一週間は帰れないだろうと、数日前にヴァルア様から手紙が届いた。

「ねえ、アリス。お願いだから僕のペニスを楽にしてよ」
「いけません。私がナスト様に快感を与えるなんて、そんな恐れ多いことはとても」
「そんなこと言わずに、僕のためだと思ってさ。そうじゃないと僕どうにかなっちゃうよ」

 いくらお願いしても、アリスは頑なに首を横に振った。ほんのり頬を赤らめている。

「で、でしたら、ナスト様ご自身でなさってください! あなたはもうご自身の体に触れていいのですよ」
「それができないから困ってるんだよ。できるならやってる」

 長年触れてはいけないと言いつけられてきた体は、未だにその掟を破ることを拒絶する。
 アリスが部屋を去ったあと、僕はベッドに腰掛け寝衣をめくり上げた。何もしていないのにペニスが勃起している。カウパーまで垂らしているのに、誰も僕に触れてくれない。

 僕は、今日こそ自慰をするぞと意気込んだ。これからもきっと、ヴァルア様と会えない日の方が多いのだから、自分で性欲の処理くらいできるようにならねば。
 ペニスに手を伸ばす。ペニスが快感を期待してぴくりと動いた。あと数ミリで握れるというところまではいけるのだが――

「やっぱりダメ!!」

 どうしても、自身のペニスを握ることができない。

「辛い……」

 ヴァルア様。早く帰って来てください。僕のペニスはもう限界です。自分ではまだどうしようもできないんです。

「うぅぅ……」

 いや、ダメだ。ヴァルア様に甘えてばかりでは、僕はいつまで経っても成長できない。
 自慰を。自慰をできるようにならねば。自慰を!
 反り返っているペニスを握ろうと四苦八苦している最中に、ノックもなしにドアが開いた。

「ナスト。父上からお前に――」
「……」

 贈り物を抱えるフラスト様が入って来た。勃起したペニスを丸出しにしている僕と目が合うや否や、彼は何も言わずにドアを閉めた。

「フラスト様! お待ちください!!」
「……なんだ。俺は忙しいんだ」

 呼び止めると、ドアをほんの少し開けた隙間からめんどくさそうな声が返ってきた。

「フラスト様! お、お願いがあります……」
「断る」
「まだ何も言っていません」
「そのペニスをどうにかしろとでも言うのだろうこの淫乱め」
「うっ……。で、でも、お願いできる人がフラスト様しかいなくて……」
「どうして俺になら頼めるんだ。頼めると思うんじゃない」

 僕はドアをもう少し開けた。フラスト様の片目がやっと見えるくらいの狭い隙間だ。
 僕と目が合ったフラスト様は、憎々しげに僕を睨んだ。

「だからそんな目で俺を見るな」
「ぼ、僕ってどんな目でフラスト様を見ているんでしょうか……。いつもそうやって叱られます」
「……」
「フラスト様にそういったことを言われると、悲しくなります。嫌われているんじゃないかと……」
「……嫌いたいんだと言っているだろう」
「嫌わないでください……」

 ドアの奥で深いため息が聞こえた。それからまた少しドアが開く。今度はフラスト様の顔がしっかり見えた。とても苛立っているような表情をしている。

「お前は俺の気も知らずにそんなことを言う」
「す、すみません……」
「何も分かっていないのに謝るな」
「……」

 フラスト様は難しい。何を考えているのか、何を思っているのかを言葉には出してくれない。口から出るのは、思ってもいないことか、皮肉か、遠回しすぎてよく分からない言葉だ。
 でもあの日、僕はフラスト様の優しさを知ってしまった。本当は僕のことを大切に想ってくれていることや、僕に好意を抱いてくれていることも。

「僕はあなたに嫌われたくありません」
「まだ言うのか」
「……」
「だからそんな目で……」

 と言いかけて、フラスト様は口を噤んだ。僕が言われたくないと言ったから途中で止めてくれたんだ。やはりフラスト様は優しい。

「……僕、ずっと毎日性行為をしていました。だからその行為は、排泄と同じくらい、毎日して当たり前のことだったんです。それをここのところあまりできていないから、とても苦しくて……。でも、自分では触れられないし、アリスにも断られるしで……。お願いできるのがフラスト様しか……」
「俺じゃなくとも、そこらへんの使用人に頼んだら喜んでしてくれるだろう。親父だって乗り気でしてくれるはずだ。それなのになぜ俺にしか頼めないんだ」
「……触れられたいと思えるのが、あなたしかいないんです」

 ドアが勢いよく開いた。フラスト様は僕の手を引いてズカズカとベッドまで進み、僕をベッドに放り投げた。

「うっ」
「俺にそんな文句、よく言えたものだな」
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