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第一 最初の勇者達と賢者の亡霊
04 対賢亡霊
しおりを挟む日が明けて。目を覚まして最初に見る顔がカーリーという生活は悪くない。今日は私が先に目覚めたらしく、カーリーの可愛らしく愛しい無防備な寝顔を眺める。
「イチャつくのは良いんだけどさ、思考ダダ漏れ」
「静かに! カーリーを愛でるのに私は忙しいの」
「はいはい。アンタらがそんな無防備な姿晒すのは街中かつ相方がいる時だけなのはよく知ってるし」
揶揄するように言われるが、事実なので特に言うことはない。
レティシアさんの方に目を向けると、物騒な機械の手入れをしていた。古代遺跡でときたま見かけるような魔導機械だったのだけども、何をやってるのか朧げにしか分からない。
「なに、それ」
「何って……奥の手? ほら、私ってば火力低いから」
レティシアさんの普段の火力は低い。たしかに低いと言える。Aランク高火力型魔法使いとしては。だけども、本業はバフデバフな訳で……。
「こっちはドローン。近接砲撃型4機、密接攻撃機3機、遠距離砲撃機12機、罠敷設機3機と、中継機4機が現在持ってる奴。下手に使うと魔石とかで財布が滅ぶからあまり使いたくはないけど」
そう言いながらも、ドローンのギミックを作動させ、動くか確認し、接触が悪い魔導回路は繋ぎ直し引き直し、物理的なギミックには油を塗り、魔力タンクのチェックをする。
ドローンの整備は割と早々に終わったらしく、今度は物々しい……糞機械って言いたくなるような連中の持ってる主砲に酷似した武器を取り出して弄り始める。ぶっちゃけ凄く器用なんだけども、どこでそんな技術を学んだのか……。
「言ってなかったっけ? 私エクゼキア魔導工科大学出身」
「え……。エリートコースなのになんで冒険者やってんの?」
「そのまま残るのが面白くなさそうだったから」
そう言う間にも、手は止まらずに整備し続ける。ホントに器用である。
「その腕前があったら、薬師や医者にもなれそうだけど」
「やる気がない。魔法と魔導機械を弄るだけでお腹いっぱいだから」
とか言ってると、私の腕の中の眠り姫が目醒めた。
◇
ぼやぼやして、日が高くなり始める頃にやっと、ギルドに辿り着いた。
「おはようございます、キーラさん」
「ええ、おはようございます。配達系の依頼をお探しですか?」
用事までバレてる、移動するついでになんか仕事をこなしておこうと思ったら。とは言え、話が早いのは助かる。もうここに留まる理由もないし、早く去りたいのだが。
「リッチが出た!」
男が走り込んできて開口一番にそれを叫ぶ。ギルドの職員の人が事情聴取に入る。漏れ聞こえてくる声が、割とやばい奴が出てきたことを示していて、どうにも動きにくい。私らが去った直後にこの街が被害を受けられても困るし。
そうこうしてるうちに、支部長が出張ってきた。
「先程、伝令だけではなく、警報装置も作動した。詳しい戦力は不明だが、魔法型のアンデッドかつ、魔力量がA上位クラスなのは確かだ」
ギルドの緊急依頼に成り上がった。それも、受注要件がB以上である。Bでも結構少ないし、Aになるとホントに人員が限られている
「それから、すまないがカーリー・クインテッド、クリア・クラン、レティシア・ラルフィール・クロウリーの3人は指名で参加を依頼する」
「ふうん。んー、消耗品補填と補償、別々に出ますの?
「勿論」
いきなりこっちに回ってきたけど、まあ居合わせた以上仕方ない、適当に片付けますか。
「Bランク以上で、我こそはと思う斥候、居るー? 取り敢えず相手の戦力のチェックに行きたいんだけど」
カーリーが壇上に上がって聞く。勇者アランのとこのローラ含めて4人ほど手が上がる。
「じゃあ、その人達は着いてきて!」
カーリーが発見されたと思しき地域へちゃっちゃと走っていく。負けじと他の人も追いかけて行く。
「なんで! 俺もAランクなのになんで指名されない!」
支部長に食ってかかる勇者殿。とは言え、この流れで指名されないのは単なる実力不足が齎したものなんだけどねえ。サシの喧嘩なら私の方が多分強い。
「実力不足だ。お前はAランク全体で見たら弱い部類だ」
「まさか、勇者の俺が? 単なる薬師のクリアより弱いだって?」
「ああ、そう言ってる。そもそも薬師と剣士を同じ物差しで測る事自体がナンセンスだがな、お前の舞台に立ってなお、クリアの方が上だよ」
そこでアランが、私に気づいたらしく、こっちにつかつかと歩み寄って来る。
「俺と決闘しろ!」
「そういうとこだぞ……」
支部長も支部長で呆れた声を出している。さて、私はどうしようか。ぶっちゃけ面倒くさいし、やばいの相手する前にリソース削りたくはないが、指揮までこっちに一任してきやがった以上、コイツも使わないといけない。
わんころの躾は結構体力使うんだよなあ……。
「はあ……。審判判断で最初に一撃クリーンヒット入れた人の勝利って事で、ほらさっさと歩く。支部長、判定宜しく」
面白がってるギャラリー含めてぞろぞろ移動する。木剣を1本借り、相対して構える。
「始め!」
まず一歩踏み込み、単なる体術としての縮地を組み合わせて10mを1秒足らずで詰める。剣を構えて突き込む様に見せかけて、剣を途中で落とし、素手でグーパンを叩き込む。一発じゃあ流石に沈まない為、相手の左足を刈り、押し倒す。そして、首を絞める体勢を確保し、手を掛ける。
「そこまで!」
「はぁ。奇襲でもそれは無いと思うんだけど」
「あの距離を半秒で詰められると結構キツイ」
レティシアさんは擁護するが、何にせよダメダメである。仮にも勇者が、それもAランクの近接型の勇者が、この程度の不意打ちにも対応出来ないのは……?
「支部長、どうしました?」
「いや、ああ、いや。ただ……その速度に着いていける奴はA上位に限られるぞ」
ふーん。まあ、どうでも良い話ではある。
暇な事をしながらも、レティシアさんには聖水を調達して貰う。
「ただいま。情報取ってきた」
カーリーも帰還し、情報が増え、作戦を立案する。100m圏での魔法発動に対する自動カウンター攻撃、魔法吸収能力、魔力を含んだ攻撃に対する高い耐性、高火力の炎系魔法と雷系魔法、そこそこの腕前の格闘術。朗報は聖水は有効ってことと、魔力そのものを食うわけじゃあ無いってとこくらい。
「悪いけど、今回は魔法しか手段のない魔法使いと、さっきの私の不意打ちに対応できない人はお留守番よ」
という訳で、動けるメンバーが支部長と私たち3人だけになってしまった。
◇
「ここを、野営地とする!」
私の持ってる魔剣が一つ、外地野営要塞杖フォトレシアを久々に使う。普段はフォトレシアの亜空間に入れている要塞なり野営地なりを設置する訳だが、今回は新築の要塞である。要塞と言っても、迎え撃つというよりは囲い込む目的の。
フォトレシアの亜空間に木材を大量に突っ込み、格子状に組み上げて貰う。地上には穴を開けて聖水を流し込む。因みに、要塞の各所にはレティシア砲が積まれている。
『こっちの準備は終わったわ』
『あいよ。じゃあ、連れて来るわ』
ほいほいとカーリーが連れて来る。連れて来ると言うより、蹴りと爆弾で吹っ飛ばしてる、という方が合ってるが。
「どっせい!」
ようやく届いた。蹴りと爆発を至近距離で複数喰らったはずなのに、アンデッドは大したダメージを負ってるようには見えない。表面に擦り傷が少々ある程度。
目論見通り、格子状の三次元戦闘領域に入ってきてくれたアンデッド。偽装工作はしたとは言え、聖水のありかは分かってるらしく、蒸発狙いで火系統の魔法を発動しようとする。
「『魔法破壊弾』 これ高いからあんま使いたくないけど」
レティシアさんが発動しそうな攻撃魔法は片っ端から破壊する。
その間に私とカーリーが忍び寄り、蹴りを入れて聖水の泉に叩き落とす。あとは移動させないだけの簡単なお仕事。よじ登ろうとしたら蹴落とし、魔法は先にキャンセルする。ただひたすら蹴落とし続けると、亡霊としてこの世に留まらせていた執着が全て浄化されたらしく、肉体が滅びた。
◇
ギルドに遺留品共々帰る。消耗品のチェックを行い、報奨金も貰う。これによって一件落着であり、やっと街を出れる。一番厄介な勇者どもも完璧に精神的に叩き潰したし。
「車の中で……元気ね」
「まるでいかがわしい事をしているかのような物言い……酷い!」
「実際に乳繰り合っといてそりゃ無い。まあ、別にやってても良いけどね」
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これで第一章は終わりとなります。続きは……いつになるかな……?
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