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第一 最初の勇者達と賢者の亡霊
03 合流
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◇その頃、勇者パーティー
クリアとクランを追放した後、勇者アランの率いるパーティーは、『伏罠隠毒の地下』という迷宮に突入していた。二人の置き土産である、現在分かっている範囲の地図と、「透明な気体で出来たガスに注意」というアドバイスを携えて。
「はっ。やっぱりあの二人なんか居なくてもどうにでもなるな!」
「おうよ!」
勇者アランと、盾職グラントが宣う。実際、快調に敵の攻撃を捌いており、ダメージを負ってもユリアが癒し、罠はローラが解除して、かなり好調な展開であった。言い換えれば、行軍ペースが速いのである。
攻略し始めて既に3日ではあるが、クリア達が追い出されてからは1週間。その間、毎度毎度毎日毎日出てくるクリア&カーリー叩きに、レティシアはすっかり呆れていた。
と言うのも、進行ペースが速いのは戦闘ばかりであり、この迷宮の攻略ではない。カーリー達が事前に集めて、纏めていた情報を見る限り、何らかのギミックの解除がより中枢近くに潜るのに必要なのである。
一方で、その条件は判然としない為、前例を踏まえつつ現地で確定させる、という事にしていたはずなのだが、彼らはお構いなしに歩き回っているだけなのである。レティシアはあることを決心した。
「そろそろ、一旦退却すべき」
レティシアは進言する。勿論不満の声が上がる。
「何故? こんなに快調に進んでいるのに!」
「……はあ……。魔力回復薬の手持ち本数と、ここまでの使用回数は? ここにはクリアが居ないから、緊急補給は出来ない」
ここまで明言して、初めて理解したらしい。渋々、と言った風情で帰途に着く。来た道と同じ道を、罠は無いものとして歩いていく。であるが故に、移動速度は速い。速いことに大した意味はないのだけども。
◇視点戻しーの
アラン達がギルドに入ってくるのが見える。少々不貞腐れた雰囲気からして、迷宮途中撤退だと思う。正直見つかりたくないから、ほんの少しの認識阻害魔法を掛ける。私達を意識している人には意味ないし、魔法に敏感な人にはむしろ怪しまれるが。
その証左に、レティシアはこっちに意識を向けている。我らがお姉様たるレティシアは、ちらっと気付かれないようにこっちを見るなんてお手の物。
ギルドの受付は人力の食堂。つまり出来上がった順に番号札での呼び出しが行われる建前。その建前を使って、勇者パーティーの査定を先に終わらせるのは割にある話。何故か勇者パーティーの人は驕り易い。やっぱり勇者(候補)パーティーは国の強力な後ろ盾や、初期段階からの優遇が悪さしてるのかな。
正直、手の打ちようはないけど。何せ私ら一介の冒険者、国や教会に意見を言える立場ではない。Sランクや実績の多いAランクならいざ知らず、まだAに上がって2年では不可能も良いところ。経歴の長いレティシアさんなら行けそうだけども。
一銭の価値もないことを考えながら、納品用の札を作成ーー魔力を込めて線を引き文言を綴るーーしていると、アラン達のパーティーの査定が終わったらしく、私らの座っている卓の近くを陣取った。なお、目と鼻の先なのにも関わらず、彼方さんは気付かない。
「じゃあ、私はこのパーティーを抜ける」
「な! そんな勝手があるかよ!」
席についた第一声はレティシアの脱退宣言。他の面々は寝耳に水と驚いている。今となっては部外者な私たちは出歯亀に話を聞くが、何を今さらといった感じである。元から、レティシアは『白銀の風』に入るにあたって、このパーティーがまともでなくなったら抜けると言い切っていた。
で、レティシア曰く、まともじゃなくなってから、苦労して更正したなら残留するが、苦労の原因にも気付かぬようなら本気で脱退するつもりだったらしい。つまりは役満。
「宣言したはず。パーティーがまともではなくなったら抜けると」
「どこがまともじゃないのよ! 足手纏いも居なくなって寧ろ快調じゃない!」
「その通りだぞ。護衛対象もないし、移動速度殲滅速度共に上がってるだろ」
レティシアさんの表情が一段とキレてくる。
「そういうとこだってば……。私と、あの二人が出来ることも認識していない。ねえ、それぞれが何が出来るか、知ってる?」
半ば煽る様に、レティシアは誰何する。
「は? クリアは薬作る他には雑用程度だろ?」
「カーリーだってちょっと偵察して罠解除するだけじゃない」
祈り虚しく、ダメな答えをポロポロ出す。
「まあ、どうせ戻らないけど……。私も、カーリーもクリアも、貴方達がこっちの話も聞かず役割を要求したからやっただけ。私は広域殲滅や高火力系の魔法よりも、バフデバフの方が得意。火力を出したい時は魔導機械を使う。カーリーは斥候及び前衛回避盾、エレメンタルブラッディベアの硬めの奴をコンスタントに一撃で殺せる火力も揃えている。極め付けは、クリア。戦闘では強靭な盾として機能する」
「は、ふざけて……」
「巫山戯てるはこっちの台詞。人の話を聞かず、何も見ずに勇者なんて反吐が出る。だから抜けさせて貰う」
それだけ言い捨てると、キーラさんのところに向かうレティシア。普段見ないレベルでの強い言い回しに唖然とする面々。さっさと手続きをやって出て行く。私たちに目配せをした後で。
私たちも、バレない様に席を立ち、気配を消したまま、表に出る。後ろ姿だけを見せているので着いていって、路地裏から屋蓋の上へと登る。
「随分手荒な抜け方だね、レティシアさん」
「いい。あれでもなお分からないならホントにどうしようもないし。それより私の事情で待たせて、悪いね」
「……丁度良い足。生魚を食べに行きたいので」
レティシアさんが私たち二人を、幼児を見るような目で見つめてくる。
「取り敢えず明日ってことで、今日は……宿ある?」
「ないけど。そっちに居候する」
二人部屋を3人で使用。まあ、追加一人分金払えばセーフだから問題なかった。
クリアとクランを追放した後、勇者アランの率いるパーティーは、『伏罠隠毒の地下』という迷宮に突入していた。二人の置き土産である、現在分かっている範囲の地図と、「透明な気体で出来たガスに注意」というアドバイスを携えて。
「はっ。やっぱりあの二人なんか居なくてもどうにでもなるな!」
「おうよ!」
勇者アランと、盾職グラントが宣う。実際、快調に敵の攻撃を捌いており、ダメージを負ってもユリアが癒し、罠はローラが解除して、かなり好調な展開であった。言い換えれば、行軍ペースが速いのである。
攻略し始めて既に3日ではあるが、クリア達が追い出されてからは1週間。その間、毎度毎度毎日毎日出てくるクリア&カーリー叩きに、レティシアはすっかり呆れていた。
と言うのも、進行ペースが速いのは戦闘ばかりであり、この迷宮の攻略ではない。カーリー達が事前に集めて、纏めていた情報を見る限り、何らかのギミックの解除がより中枢近くに潜るのに必要なのである。
一方で、その条件は判然としない為、前例を踏まえつつ現地で確定させる、という事にしていたはずなのだが、彼らはお構いなしに歩き回っているだけなのである。レティシアはあることを決心した。
「そろそろ、一旦退却すべき」
レティシアは進言する。勿論不満の声が上がる。
「何故? こんなに快調に進んでいるのに!」
「……はあ……。魔力回復薬の手持ち本数と、ここまでの使用回数は? ここにはクリアが居ないから、緊急補給は出来ない」
ここまで明言して、初めて理解したらしい。渋々、と言った風情で帰途に着く。来た道と同じ道を、罠は無いものとして歩いていく。であるが故に、移動速度は速い。速いことに大した意味はないのだけども。
◇視点戻しーの
アラン達がギルドに入ってくるのが見える。少々不貞腐れた雰囲気からして、迷宮途中撤退だと思う。正直見つかりたくないから、ほんの少しの認識阻害魔法を掛ける。私達を意識している人には意味ないし、魔法に敏感な人にはむしろ怪しまれるが。
その証左に、レティシアはこっちに意識を向けている。我らがお姉様たるレティシアは、ちらっと気付かれないようにこっちを見るなんてお手の物。
ギルドの受付は人力の食堂。つまり出来上がった順に番号札での呼び出しが行われる建前。その建前を使って、勇者パーティーの査定を先に終わらせるのは割にある話。何故か勇者パーティーの人は驕り易い。やっぱり勇者(候補)パーティーは国の強力な後ろ盾や、初期段階からの優遇が悪さしてるのかな。
正直、手の打ちようはないけど。何せ私ら一介の冒険者、国や教会に意見を言える立場ではない。Sランクや実績の多いAランクならいざ知らず、まだAに上がって2年では不可能も良いところ。経歴の長いレティシアさんなら行けそうだけども。
一銭の価値もないことを考えながら、納品用の札を作成ーー魔力を込めて線を引き文言を綴るーーしていると、アラン達のパーティーの査定が終わったらしく、私らの座っている卓の近くを陣取った。なお、目と鼻の先なのにも関わらず、彼方さんは気付かない。
「じゃあ、私はこのパーティーを抜ける」
「な! そんな勝手があるかよ!」
席についた第一声はレティシアの脱退宣言。他の面々は寝耳に水と驚いている。今となっては部外者な私たちは出歯亀に話を聞くが、何を今さらといった感じである。元から、レティシアは『白銀の風』に入るにあたって、このパーティーがまともでなくなったら抜けると言い切っていた。
で、レティシア曰く、まともじゃなくなってから、苦労して更正したなら残留するが、苦労の原因にも気付かぬようなら本気で脱退するつもりだったらしい。つまりは役満。
「宣言したはず。パーティーがまともではなくなったら抜けると」
「どこがまともじゃないのよ! 足手纏いも居なくなって寧ろ快調じゃない!」
「その通りだぞ。護衛対象もないし、移動速度殲滅速度共に上がってるだろ」
レティシアさんの表情が一段とキレてくる。
「そういうとこだってば……。私と、あの二人が出来ることも認識していない。ねえ、それぞれが何が出来るか、知ってる?」
半ば煽る様に、レティシアは誰何する。
「は? クリアは薬作る他には雑用程度だろ?」
「カーリーだってちょっと偵察して罠解除するだけじゃない」
祈り虚しく、ダメな答えをポロポロ出す。
「まあ、どうせ戻らないけど……。私も、カーリーもクリアも、貴方達がこっちの話も聞かず役割を要求したからやっただけ。私は広域殲滅や高火力系の魔法よりも、バフデバフの方が得意。火力を出したい時は魔導機械を使う。カーリーは斥候及び前衛回避盾、エレメンタルブラッディベアの硬めの奴をコンスタントに一撃で殺せる火力も揃えている。極め付けは、クリア。戦闘では強靭な盾として機能する」
「は、ふざけて……」
「巫山戯てるはこっちの台詞。人の話を聞かず、何も見ずに勇者なんて反吐が出る。だから抜けさせて貰う」
それだけ言い捨てると、キーラさんのところに向かうレティシア。普段見ないレベルでの強い言い回しに唖然とする面々。さっさと手続きをやって出て行く。私たちに目配せをした後で。
私たちも、バレない様に席を立ち、気配を消したまま、表に出る。後ろ姿だけを見せているので着いていって、路地裏から屋蓋の上へと登る。
「随分手荒な抜け方だね、レティシアさん」
「いい。あれでもなお分からないならホントにどうしようもないし。それより私の事情で待たせて、悪いね」
「……丁度良い足。生魚を食べに行きたいので」
レティシアさんが私たち二人を、幼児を見るような目で見つめてくる。
「取り敢えず明日ってことで、今日は……宿ある?」
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