チート転生ものなんて嫌いな私がこの世界に産み落とされた理由はなんなんですか!?

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可愛い婚約

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 男は考えていた。目の前の答案は本当に8歳の子供が書いたのかと。しかし、自分ではどうにも点数がつけられないと何人かの教師を集め、審議をすることにした。そこでもまた、皆が耳を疑った。
 
  わずか8歳でこれを……?

 特待生試験、最終問題。
【0の概念】


 この入試の最終問題は満点を取らせないために出したものだった。今年は第二王子の我儘で貴族以外入れないようにと言われ、妥協した特待生枠も試験はやるものの誰も入れないつもりでいた。そのため、最終問題の配点を15点とし、学者も未だ解明できていない解くことの不可能な難問を出した。


 しかし、目の前の答案は非の打ちどころのない完璧なものだ。さらに8歳の子供が書いたときた。他の問題も合っている。つまり、満点である。これを見て誰が不合格に出来ようか。将来立派な学者ないしは官僚、宰相になるだろう天才的な頭脳の持ち主を学校としても入学させたい。


- [ ]  学校中の教師、校長、さらには理事長までを緊急招集し、会議を開いた。
 
 結果、入学させることに満場一致で決まった。


 ー一体、どんな子なのか。

 皆、口々にその話をし、学校中、社交界にまで広がるのは時間の問題だった。

 当然、辺境の地と言えど王都の情報に敏感な伯爵の耳にも届いていた。

 彼にとって嬉しいことには変わらないが、驚きもあった。


  「まさかーーー」



   >>>>>>>>>

   入学式当日

 真新しい制服に身を包み、艶やかな黒髪を靡かせながら嬉しさを隠しきれない少女は、同じく制服を着た兄と共に馬車へと乗り込んだ。

 「楽しみだね。クラスが一緒だといいな。」

   柔らかな笑みを浮かべる少年に終始笑顔の私は頷き返す。

 「本当に受かって良かった。制服も可愛いし、それに知らないことを学べるって本当に楽しみなの!」


   興奮気味の私は、座ったまま足をバタバタさせる。
しかし、勢い余って靴が脱げ、ハニルの顔に直撃してしまった。突然のことに私もハニルも呆然としていたが意識が戻ったハニルが大声で笑い出したことで恥ずかしさが込み上げてきて顔を手で覆う。

 すると、脱げた方の足を掴まれ、映画のワンシーンのように靴をはかされた。

   「お転婆ですね、うちのお姫様は。」

  顔を上げそう言いながら笑うハニルのカッコ良さにさっきとは違う意味で頬を染める。その様子を楽しむように悪戯な笑みで「僕に見惚れちゃったかな?」と揶揄うハニルが憎たらしくて「お父様には負けるけどね!」と言い返してしまった。

 すると、突然黙り込み何か考えてごとを始めたハニルを心配した私だったが、すぐにいつも通りに戻り安心した。

 「僕はお父様に負けないくらいカッコ良くなるから、そしたら結婚してくれる?」

     普段の大人びた雰囲気の彼だが、小さい子同士の結婚しよう?みたいなことも言うのだなと顔が緩む。

  「考えておきますわ、ハニル兄様。私、結婚する人は慎重に選びたいので。」

      まあ、こんな感じに返しておけば大丈夫だろう。少し残念そうに口を尖らせるハニルには申し訳ないが変に口約束してややこしい事態を招くのだけは避けたいからな。

  そんなやりとりをしている間に学校が見えてきた。校門には多くの馬車が入っていっている。その中でも一際大きな馬車を見つけた。家紋は……王家のものだ。学校に入れるのは生徒のみ。つまり……第二王子のものか。

 朝から嫌なものを見てしまったと、肩を落とすがハニルが「僕がいるから何も心配しなくていい」なんてかっこいい事言うから、気分は良くなった。


 ーよし、いっちょがんばりますか!

 
 目を輝かせて外を眺める少女はこれから待ち受ける様々な出会いが自分の人生を大きく変えるとは夢にも思っていなかった。
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