チート転生ものなんて嫌いな私がこの世界に産み落とされた理由はなんなんですか!?

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忍び寄る影、我儘王子

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 1人残された少年は、自分の仕事に戻ろうと書庫の扉を閉めた。

 ーくそっ!なんであんなやつに……
いや、そもそも俺がヘマして捕まったのが悪い。だが……!


 1人葛藤の中、黒い気持ちに支配される。その後ろに嫌な笑いを浮かべる影が忍び寄る。少年の背中に伸ばされた手があとちょっとというところで引っ込む。

 両腕に大きな荷物を抱える青年が、クロを見つけるや否や大声で呼びかけた。

 「おい、クロ!おせーよ!今日は人手が足りないんだからのんびりできねーんだぞ!」


 「すいません、すぐ行きます!」
 
   焦ったように青年の方へ走る少年を悔しそうに見つめるその人は、その後すぐ音もなく消えた。

 少年は嫌な視線に気づき、後ろを振り返ったが何もないその空間に、気のせいだと考える。

 
 「おい!まだ怒鳴られテェんか?!」

   急に立ち止まった少年に声を張り上げる青年の眉間には皺がより、整っているが目つきの悪い顔がさらに怖くなる。


 「すいません!急ぎます!!」

     心の中で舌打ちをしながら、嫌な顔一つせず走っていった。




ーーーーーーー

 一方その頃。

 「失礼します。お父様、遅れて申し訳ありません。」

      少女は綺麗なお辞儀で、机に向かって書類を眺めているティノに声をかける。

 
  「大丈夫だよ。それじゃあ、話を始めるとしようか。」

     ティノは先程眺めていた書類を彼女の前に出し、真剣な面持ちになった。

 少女は突然の真面目な雰囲気に戸惑いながらも、目の前の書類に目を通す。しかし、ある一点で目が止まる。


 『貴族は、養子の入学は許可されるが男子に限る。養子が女子である場合、貴族枠では入学することは不可とする。』


   「……え?お父様、これは一体……」
   
  額に手を当てため息を吐くティノは、苦い顔で話を始めた。


 「お前の行く学校は伝統ある名門校で王族の息がかかっているんだが、今年、第二王子が入学することになっているんだ。」

     ー驚くことだが、それの何が今の話に関係するのだろう?


  「その第二王子が『私は平民と通うなんて考えたくもない!』と言って我儘を言って聞かないらしい。
で、学校側も王族の機嫌を損ねることはしたくない。
その結果、家督を引き継ぐ男子を除き、平民から養子になった者の入学を禁じたんだ。」



     ーなんだそれ。ばっかじゃないの?!去年までは養子でもなんでも貴族であれば通えたはずなのに、馬鹿王子のせいで私学校通えないの?!


   抑えきれない怒りが、顔を引き攣らせる。
横で控えていたハニルも顔こそ笑っているものの目が笑っていない。

 
 「……お父様、私はそのば…いえ、その第二王子の我儘でハニル兄様と同じ学校には通えないんでしょうか。」

   危うく馬鹿王子と言いそうになったが、なんとか理性で抑えた自分を褒めたい。
 学校はそこ以外にもあるが、辺境伯という高い爵位を持つ私は、世間体的にそこしか通えるところがない。学校に通わせてもらえない貴族の子供はいるにいるが、社交界での教養のない価値が相当低い者となってしまう。それだけはなんとか避けたい。


   真剣な表情に戻ったティノは私の目を見つめ、こう告げた。

 「普通であれば、無理としか言いようがない。
……ただ、お前の力ならば『特待生枠』を狙えると思う。」 


   『特待生枠』
 身分関係なく、入試で9割、いや、ほぼ満点を取ったものが入れる。

 「しかし、お父様。一般がダメならば特待生枠での入学も禁止されるはずでは?」

      
 「規定変更に貴族達の反対の声も多くてな。妥協してそれだけは残されたらしい。」


    眉間に皺よったティノはおそらくその貴族達の1人なのだろう。

  貴族で養子を取る者は少なくない。それに子供の出世は親の評価に直結するため、なんとしても入れたいものが多い。ということは、今年の特待生枠はいつもより厳くなるのは必然だ。


 「分かりました。自分のためにも家のためにも特待生枠絶対に勝ち取って見せましょう。」

     そう言う少女の凛とした姿勢にティノもハニルも心奪われる。と、同時にこんな小さい子に苦労をかける己の無力さを悔いる2人の男は、こんなことが二度とないよう、誰にも負けない力を欲した。

 

     その様子に気づくことのない少女は、来月に控えた入試の為、1秒も無駄にはできないと執務室を去る。それに続いて退出しようとするハニルにティノは声をかける。

 「ハニルはここに残ってくれ。頼みたいことがある。」


    その言葉を予想していたかのようにハニルはティノの言葉を受け入れた。


  




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