チート転生ものなんて嫌いな私がこの世界に産み落とされた理由はなんなんですか!?

文字の大きさ
上 下
8 / 12

再会した少年は。

しおりを挟む
 大泣きした後、様子見ということで授業はお休みとなってしまった。暇を持て余した私は、書庫で勉強することにした。あの後部屋を出ていかなかったハニルもついていくと言ってきたが、彼の侍女を見れば、そんな時間は無いと言うように首を横に振っていたので、書庫まで送ってもらうだけにした。


 向かう途中、窓から見えた広い庭園が見えた。
美しく咲く花々に心奪われた。書庫に行く前に寄りたいなと眺めていたら、私の考えを察したハニルが庭園に誘ってくれた。



 ここにきて一年が経つが、生活に慣れることに必死でなかなか周りを見る余裕がなかったため、庭に入るのは初めてとなる。前世の家にも庭はあったが私が近づこうとすると義母に叩かれ「私の庭に近づくな!汚れてしまうわ!!」と怒鳴られた記憶しかない。



 そんなことを考えているうちに庭に到着した。先程の嫌な思い出を払拭するかのような鮮やかな花々に年甲斐もなく心が躍った。近くで見ると一層綺麗だ。

 
   すると横に立っていたハニルが庭園の端の方を指差した。


   「あそこはね、僕が育てているんだ」

 
 彼の小さな庭園は、見たことのない花々が集まっていてどの花も立派に咲いている。花が好きなのだろうか、我が子を見るような暖かな目で自分の育てた花達を見る彼は普段とは違うものを感じた。


 
  じっと黙って彼の横顔を見つめる私に気づいた彼は
 
   「男なのに花が好きなんて気持ち悪いよね。」

    と言った。




 「好みに性別は関係ないわ。」

  何を当たり前のことを聞くんだと、不思議そうな顔で答えれば彼は驚いた表情になった。


  しかし、彼はすぐにいつもの笑顔に戻り、
「ありがとう」と私の頭を撫でた。そして自分の育てている花の中でも、特に美しい花を一輪折り私に差し出してきた。
 花をもらうなんてロマンチックな出来事につい頬を赤らめるも、ただ純粋にくれただけだと少し自分の勘違いに恥ずかしくなる。
 

 花を受け取り、自分の侍女に渡して私の部屋に生けておくように頼んだ。せっかくもらった花だ。少しでも長く美しく咲かせていたい。
 花を折らないよう丁寧にかつ迅速に走っていく侍女の後ろ姿を見送る。私についているのはその侍女だけだったので、今はハニルと彼の侍女、そして私だけとなった。そろそろ彼の侍女が焦りだしていたので、あとは1人で行くからと言って彼とはそこで別れた。

 


 その後書庫には難なく到着し、私は歴史書について読んでいた。文字は英語に近いものだったので習い始めて1週間ほどで習得出来ていた。授業では習わなかった詳しいことまで載っていて、時間を忘れ本にのめり込んでいった。




 「やぁ、本の虫さん。」

    不意に耳元で声がし思わず叫んでしまった。後ろを振り返れば見知らぬ少年が立っていた。



 「だ、だれ?不審者?」



    驚く私を楽しむかのように意地悪な笑みを浮かべる少年は、よく見ればどこかで見たことのある顔だった。


  「不審者呼ばわりなんて酷いなぁ。一年前まで一緒に居たじゃないか。」



      そう言う彼に、あぁ!と記憶が蘇る。


  「クロなのね?!一瞬誰だかわからなかったわ。ずいぶん大きくなったね。」

  
     昔馴染みについお嬢様言葉が抜けてしまった。
クロは路地裏で生活していた時、よく行動をともにしていて、食べ物にありつけない私を見かねて食料を分けてくれていた頼れるお兄ちゃん的存在だ。しかし、私がティノに拾われる1週間前に姿を消してしまった。…まぁ、彼がいなくなったから食べ物にありつけず、盗みを働いたわけだが。


 
 「なぜ、ここに?まさか、不法侵入して何か盗もうってんじゃ」

    「いやいや、そんなことしねえって!俺、雇われてるんだよ、お前の父親に。」


   ほら!と自分の胸ポケットにつけたネームプレートを見せてくる。……確かに従業員は全員つける決まりとなっていて、プレートも偽造できないよう特殊な加工がされているものとなっている。クロのプレートも同じ加工がされてあり、彼の言葉が嘘ではないと分かる。



 「………会いたかった。あの後探したのよ?でも、見つからなくて。こんなとこで働いてたなんて。置き去りにされた私のことをちょっとでも考えてほしかった…。」


      俯く私の頭を昔と同じようにわしゃわしゃと撫でる。


 「…ごめんな。俺も戻りたかったんだけど。実はお前と最後に会ったあの日、港から珍しい果物が沢山運ばれてきててよ。お前喜ぶかなって盗もうとしたんだが、ヘマやっちまって捕まったんだ。で、捕まった相手が悪くて奴隷商に売られちまってな。色んなところで買われて使われてたんだが1ヶ月くらい前にここの当主が俺を買って今に至ると言うわけ。」



    クロの話を聞いて、捨てられたと勝手に被害妄想していた自分が酷く恥ずかしく感じた。。彼は奴隷になったことを笑いながら話していたが、話の途中で時折影を落とす場面もあり、これまでの人生が辛いものだったのだと思い知らされた。

 
 さらにティノが奴隷を買ったと言う話は信じられなかった。この国では奴隷制度は法律上禁止されているので、法を犯してまで奴隷を買う彼を想像できなかった。



 「ティノが……本当にあなたを買ったの?」

    
 暗い気持ちになるのを抑えなんとか尋ねる。
私の姿を見て、慌てたようにクロが言葉を返す。

 「買われたっつっても、奴隷としてじゃなくってあいつは俺を1人の人として雇ってくれたんだよ!
奴隷を物のように使う奴じゃないって、お前も知ってるんじゃないか?」



    クロの言葉に顔を上げ、彼の目を見る。真剣そのものの目をした彼を疑うまでもない。

 私の知るティノは心の優しい人だ。恐らく、奴隷として売られている子供を放っておけなくて買ったのだろう。思えば、屋敷で働くメイドの中には幼い子供もいて貴族でない身分のものもいる。もしかしたら彼らも奴隷だった子供なのかもしれない。


  
 「クロは……ここで働いてて幸せ?」



    そう問えば、満面の笑みで笑う彼は、路地裏にいた時よりも何倍も輝いて見えた。
 

 

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あなたが「消えてくれたらいいのに」と言ったから

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
「消えてくれたらいいのに」 結婚式を終えたばかりの新郎の呟きに妻となった王女は…… 短いお話です。 新郎→のち王女に視点を変えての数話予定。 4/16 一話目訂正しました。『一人娘』→『第一王女』

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

真実の愛は、誰のもの?

ふまさ
恋愛
「……悪いと思っているのなら、く、口付け、してください」  妹のコーリーばかり優先する婚約者のエディに、ミアは震える声で、思い切って願いを口に出してみた。顔を赤くし、目をぎゅっと閉じる。  だが、温かいそれがそっと触れたのは、ミアの額だった。  ミアがまぶたを開け、自分の額に触れた。しゅんと肩を落とし「……また、額」と、ぼやいた。エディはそんなミアの頭を撫でながら、柔やかに笑った。 「はじめての口付けは、もっと、ロマンチックなところでしたいんだ」 「……ロマンチック、ですか……?」 「そう。二人ともに、想い出に残るような」  それは、二人が婚約してから、六年が経とうとしていたときのことだった。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

家族と移住した先で隠しキャラ拾いました

狭山ひびき@バカふり200万部突破
恋愛
「はい、ちゅーもーっく! 本日わたしは、とうとう王太子殿下から婚約破棄をされました! これがその証拠です!」  ヴィルヘルミーネ・フェルゼンシュタインは、そう言って家族に王太子から届いた手紙を見せた。  「「「やっぱりかー」」」  すぐさま合いの手を入れる家族は、前世から家族である。  日本で死んで、この世界――前世でヴィルヘルミーネがはまっていた乙女ゲームの世界に転生したのだ。  しかも、ヴィルヘルミーネは悪役令嬢、そして家族は当然悪役令嬢の家族として。  ゆえに、王太子から婚約破棄を突きつけられることもわかっていた。  前世の記憶を取り戻した一年前から準備に準備を重ね、婚約破棄後の身の振り方を決めていたヴィルヘルミーネたちは慌てず、こう宣言した。 「船に乗ってシュティリエ国へ逃亡するぞー!」「「「おー!」」」  前世も今も、実に能天気な家族たちは、こうして断罪される前にそそくさと海を挟んだ隣国シュティリエ国へ逃亡したのである。  そして、シュティリエ国へ逃亡し、新しい生活をはじめた矢先、ヴィルヘルミーネは庭先で真っ黒い兎を見つけて保護をする。  まさかこの兎が、乙女ゲームのラスボスであるとは気づかづに――

侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています

猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。 しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。 本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。 盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。

処理中です...