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前世を思い出した死に際
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私を助けた男は、ティノというらしい。
近道をしようと路地裏を通った際、倒れていた私を偶然見つけたという。
危険な路地裏を近道だからと1人歩くなんて命知らずなやつだと思いながらも、助けてくれた彼にそんなことを言えるはずもなく、黙って話を聞いていた。
暖かなスープをもらい心に余裕のできた私は、自分のことを少しずつ思い出していった。
私は親の顔も知らない孤児だ。路地裏での生活は当たり前で物乞いなんかもしていたが、周りの子供が市場の食べ物を盗んでいるのを見様見真似で果物を盗って見たのが失敗だった。
「おいっ!そこの泥棒を捕まえろ!!」
すぐに店主に見つかり、警備員に捕まった。体に縄を巻かれ連行されそうになるのを隙を見て逃げ出し、なんとか路地裏に入ったものの、何日も空腹の状態だった私はそこで力が尽きてしまった。
意識を失いかけたとき走馬灯のように流れたのは自分ではない誰かの記憶。こことは様子の違う世界に懐かしさも感じていた。
ーあぁ、これは私の前世の記憶か。
異世界転生なんてものの本を友人に勧められ、読んだことはあるが、似たようなものだな。
しかし、チート転生なんてものではなくてつくづく良かったと思う。前世の私は、引きこもりのニートがチート転生なんて甘ったれた夢を見ている、そんな世界に飽き飽きしていた。
こんな孤児にどんな力があるというのだろう。何も持たない今の自分に前世が重なって見えた。
ーまだ、死ねない。いや、死なない。
私は、閉じかけた目を開け、最後の力を振り絞り光へと手を伸ばした。その先に、彼はいた。
今、私に微笑む彼をじっと見つめる。
不意に私を殺した、あの男の姿が頭をチラついた。
なぜ彼は、と思うと乾いた目から涙がこぼれそうになる。
もう一度生きれば、理由がわかるかもしれない。
『死ぬのは諦めた負け犬』
どこかで懐かしい声が聞こえた。
同時に、私の中で小さな火が灯った。
近道をしようと路地裏を通った際、倒れていた私を偶然見つけたという。
危険な路地裏を近道だからと1人歩くなんて命知らずなやつだと思いながらも、助けてくれた彼にそんなことを言えるはずもなく、黙って話を聞いていた。
暖かなスープをもらい心に余裕のできた私は、自分のことを少しずつ思い出していった。
私は親の顔も知らない孤児だ。路地裏での生活は当たり前で物乞いなんかもしていたが、周りの子供が市場の食べ物を盗んでいるのを見様見真似で果物を盗って見たのが失敗だった。
「おいっ!そこの泥棒を捕まえろ!!」
すぐに店主に見つかり、警備員に捕まった。体に縄を巻かれ連行されそうになるのを隙を見て逃げ出し、なんとか路地裏に入ったものの、何日も空腹の状態だった私はそこで力が尽きてしまった。
意識を失いかけたとき走馬灯のように流れたのは自分ではない誰かの記憶。こことは様子の違う世界に懐かしさも感じていた。
ーあぁ、これは私の前世の記憶か。
異世界転生なんてものの本を友人に勧められ、読んだことはあるが、似たようなものだな。
しかし、チート転生なんてものではなくてつくづく良かったと思う。前世の私は、引きこもりのニートがチート転生なんて甘ったれた夢を見ている、そんな世界に飽き飽きしていた。
こんな孤児にどんな力があるというのだろう。何も持たない今の自分に前世が重なって見えた。
ーまだ、死ねない。いや、死なない。
私は、閉じかけた目を開け、最後の力を振り絞り光へと手を伸ばした。その先に、彼はいた。
今、私に微笑む彼をじっと見つめる。
不意に私を殺した、あの男の姿が頭をチラついた。
なぜ彼は、と思うと乾いた目から涙がこぼれそうになる。
もう一度生きれば、理由がわかるかもしれない。
『死ぬのは諦めた負け犬』
どこかで懐かしい声が聞こえた。
同時に、私の中で小さな火が灯った。
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