チート転生ものなんて嫌いな私がこの世界に産み落とされた理由はなんなんですか!?

文字の大きさ
上 下
2 / 12

冷血と裏切り者

しおりを挟む
  夜が明けたばかりだというのに、忙しない足音は鳴り止む気配すら感じさせない。


 「あぁ、この後のスケジュールを頼む。」

    「今朝はーーー」

      軽い朝食を取りながら、手元の書類を片付けていく。無機質な空間で、脇に控える秘書は淡々と仕事をこなす。


 これが彼女の日常であり、そこには何の感情もない。




 
 あの思いもよらない爆弾が落とされるまで……は。



      バタバタといつもとは違う足音に不快感を覚える。勢いよく開けられた扉を睨めば、顔を真っ青にした社員が代表取締役、つまり彼女の父親の訃報を告げた。聞いた時には驚きを隠せない様子だったが、葬式納骨等を彼女は顔色一つ変えることなく全ての段取りを終わらせた。その姿を見た人は血も涙もない恩知らずの娘だと口々に噂した。




  それから、次期社長に任命されていた彼女が代表となるまでに時間は掛からなかった。


  目まぐるしく過ぎる日々と今まで以上の重役にも関わらず数々の業績を上げる彼女に、周囲は称賛の声をあげた。同時に、業績だけを考えた彼女の政策に対し、反感を覚えるものも少なくはなかった。


  そしてデモ、抗議の数々は、会社の成長とともに増えていった。


 
 
  遂に世界市場にまで進出一歩手前という時、彼女の元をある人物が訪れた。



 「君が本当にやりたかったのは、これなのかい?」

   
     
     数年ぶりに現れた人物を目にし狼狽えた彼女を尻目に、男はその言葉を残しまた消えてしまった。

 


  彼女はその言葉の真意を一生懸命に考えた。
しかし、いくら考えても分からないその問いは忘れ去られ、さらに仕事に没頭するようになった。


 
  世界有数の貿易会社の社長との会談が迫った前日、これが上手くいけば世界市場に上場できるだろうと力を入れていた彼女はとてつもない疲労に襲われていた。


  息抜きをしようと部屋のソファに腰掛け、入れてあったコーヒーを手に、眩しいくらいの夕焼けを眺めていた。するとガラスに映る男の影が見え、後ろを振り返れば彼がそこにはいた。

 
 「君には申し訳ないがー」

     全てを聞き終わる前に、突如喉の焼けるような痛みに苦しむ。毒だと気づく頃には手遅れで、彼に縋るように見つめることしか叶わなかった。



 ーなぜ、あなたが。私を助けたあなたがこんな仕打ちを。



  声にならない言葉は意識とともに泡のように消えていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あなたが「消えてくれたらいいのに」と言ったから

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
「消えてくれたらいいのに」 結婚式を終えたばかりの新郎の呟きに妻となった王女は…… 短いお話です。 新郎→のち王女に視点を変えての数話予定。 4/16 一話目訂正しました。『一人娘』→『第一王女』

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

真実の愛は、誰のもの?

ふまさ
恋愛
「……悪いと思っているのなら、く、口付け、してください」  妹のコーリーばかり優先する婚約者のエディに、ミアは震える声で、思い切って願いを口に出してみた。顔を赤くし、目をぎゅっと閉じる。  だが、温かいそれがそっと触れたのは、ミアの額だった。  ミアがまぶたを開け、自分の額に触れた。しゅんと肩を落とし「……また、額」と、ぼやいた。エディはそんなミアの頭を撫でながら、柔やかに笑った。 「はじめての口付けは、もっと、ロマンチックなところでしたいんだ」 「……ロマンチック、ですか……?」 「そう。二人ともに、想い出に残るような」  それは、二人が婚約してから、六年が経とうとしていたときのことだった。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

家族と移住した先で隠しキャラ拾いました

狭山ひびき@バカふり200万部突破
恋愛
「はい、ちゅーもーっく! 本日わたしは、とうとう王太子殿下から婚約破棄をされました! これがその証拠です!」  ヴィルヘルミーネ・フェルゼンシュタインは、そう言って家族に王太子から届いた手紙を見せた。  「「「やっぱりかー」」」  すぐさま合いの手を入れる家族は、前世から家族である。  日本で死んで、この世界――前世でヴィルヘルミーネがはまっていた乙女ゲームの世界に転生したのだ。  しかも、ヴィルヘルミーネは悪役令嬢、そして家族は当然悪役令嬢の家族として。  ゆえに、王太子から婚約破棄を突きつけられることもわかっていた。  前世の記憶を取り戻した一年前から準備に準備を重ね、婚約破棄後の身の振り方を決めていたヴィルヘルミーネたちは慌てず、こう宣言した。 「船に乗ってシュティリエ国へ逃亡するぞー!」「「「おー!」」」  前世も今も、実に能天気な家族たちは、こうして断罪される前にそそくさと海を挟んだ隣国シュティリエ国へ逃亡したのである。  そして、シュティリエ国へ逃亡し、新しい生活をはじめた矢先、ヴィルヘルミーネは庭先で真っ黒い兎を見つけて保護をする。  まさかこの兎が、乙女ゲームのラスボスであるとは気づかづに――

侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています

猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。 しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。 本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。 盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。

処理中です...