チート転生ものなんて嫌いな私がこの世界に産み落とされた理由はなんなんですか！？

灰被りの少女と名もなき男

　「あなたはだれ？」


   ぼんやりとした意識の中、目の前にいる男に問いかける。
　
　返事をせず微笑むだけの彼は、知らない顔のはずなのにその目にはどこか懐かしさを感じた。
　ここがどこかもわからないそんな恐怖も忘れ、ただ彼から目が離せなかった。


 

 ～～～～～～～～～

　時は遡る。


　庭園にて走り回る子供たちを屋根裏の小窓から覗く少女の瞳には、鮮やかな景色も全てモノクロの世界が映し出される。

　
　少女は自分に問いかける。
　ーーー自分は何故ここにいるのだろう。なぜ、ここにいなければならないのか。


　あぁ、つかれた。
　義母の癇癪、兄弟の嫌がらせ、血の繋がりだけの父親。空気のような扱いにはそろそろ慣れてしまいそうだ。

　　
　
　虚ろな目で窓から下を見れば、落ちれば即死だろう高さだとわかる。見ているほど下に広がる地面へと誘惑されたように引っ張られていく。



　
　体が半分以上窓から出た時、誰かに体を掴まれ、部屋の中へと引き戻されてしまった。後ろを振り返れば、自分の倍の背丈もあるだろう男が焦った表情でこちらを見ている。





　「あなたはだれ？」

　
　そう問えば、男はどこか哀しげな目で開きかけた口を閉ざしまった。




　「あなたが私を楽にしてくれるの？」
  

 

　ぽつりと呟いた言葉に、耐えきれなくなったように彼の頰には一筋の雫がつたう。そのまま彼に抱きしめられ、耳元で絞り出された声に耳を疑った。


　

　「…君が悪いんじゃない。あいつらが悪いんだ。」


　
　　理由を尋ねても、それ以上なにも返ってこなかった。

　　
　　抱きしめられたまま立ち尽くしている間に、外が何やら騒がしくなっていることに気づいた。庭にいた子供たちも姿が見えない。


　

            抱きしめていた腕を緩め少女の肩に手を置き、真っ直ぐに目を見つめる。

　「どうやら、もういかないと行けないみたいだ。私は君を絶対に救ってみせると誓おう。もし、私を少しでも信じてくれるなら…………君は立ち向かう壁に向き合いなさい。そして、自分を守る術を手に入れなさい。」



     一言一言に力を込めて、諭すように話していく。

　

　「諦めてはいけない。……死ぬのは諦めた負け犬だよ。」


　　そう言うと、男は少女を背に去っていった。



　　暗闇に取り残された少女は小さな頭で言葉を繰り返す。
　
　　なぜだか男の口から出た、言われ慣れたはずの『負け犬』と言う言葉が、いつもより深く心に刺さった。


　　その言葉が少女の目に小さな、そしていずれは森を焼き尽くすような火を灯したのだった。