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番外編
王子の惚れ薬 2(★)
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「どう?」
「うーん? ……特に、何もない」
薬を飲んでしばらく。いつもしているように、お茶をいれて二人で飲んでいる。
百花の体も心も、普段と同じだ。カイリが興味深そうな視線を向けてくるけれど、残念ながら変化はないような気がする。
「やっぱり元々好きだからかなぁ?」
「──でも、理論上は……」
ぶつぶつとカイリがつぶやきながら、棚から紙と羽ペンを持ってきた。ペン先にたっぷりとインクを含ませて、何事か書き出していく。おそらく今回の配合した薬草と分量みたいなものだろう。
「これをもっと多くした方が? ……いやでも……」
これが始まると長い。
それがわかっていたから、百花はお茶を飲み干して立ち上がった。自分の調子には気をつけつつも、明日のパンの仕込みをしようと思ったのだ。
(……あれ)
ダイニングテーブルを離れて、かまどの方へ。そう思っているし、立ち上がるところまではできた。
でもその先への一歩が踏み出せない。
そして、カイリから目を離した瞬間から、百花の動悸が激しくなった。
「え? ええ?」
ドキドキと脈打つ胸を押さえて、熱心に何か計算をしているカイリのつむじを見つめる。そうすると、不思議なことに動悸はおさまった。
「カ、カイリ! 効果あった! あったよ!」
「ええ?」
カイリが百花の言葉に顔を上げた。
「離れられない!」
口にすると、もうそうするしかないみたいな気持ちになって、百花はテーブルをまわりこんでカイリの元へと向かった。こういうことにならば足は簡単に動いた。いまだ座っているカイリを後ろから抱きしめる。
彼のあたたかさと香りを感じて、心底ほっとした。
「カイリから離れたところに行こうとしても、足が止まって動かないの。でもこうして近づくためなら全然動ける。カイリが視界から外れると、ドキドキして不安になる。──多分、これ、薬の効果だよね?」
カイリは百花の方に向いて、その顔を確かめるようにのぞきこんでくる。その青い瞳に見つめられると、今度はさっきとは別の意味合いをもった胸の高鳴りを感じた。
それはまるで、カイリに恋をし始めたばかりの、彼の行動に一喜一憂していた自分の反応だ。
「効いてる! 効いてるよ、これ! 絶対!!」
興奮気味に百花は叫んで、ぎゅっとすがりつくように抱きしめる腕に力を込めた。喉元をしめられた形になって、ぐえとカイリが小さく呻いた。
「あっ、ごめん!」
少しだけ力をゆるめて、改めて自分の中の感覚を確かめてみる。触れあったところから幸せと興奮がごちゃまぜになったような感覚がせり上がってくる感じ。
「どんな感じ? 具体的に教えてよ」
カイリは冷静な表情のままだ。百花の言葉を聞いて、うなずきながらメモをとっている。
「うーん……そばにいたいっていう感情が強まるのかな。心の結びつきっていうよりは、物理的な……」
「う……ん、そうかも。今もこの手、離せないもん」
「なるほど」
カイリは一度ペンを置いて、百花の手首をつかんだ。ドキッとしたところで、その手を無理矢理に離されてしまう。
「こうすると、どんな感じがする?」
「……す、すごく悲しい……」
言いながら、ポロリと勝手に涙がこぼれた。振り向きざまにそんな顔を見せられて、カイリは目を見開いた。けれど、百花もまったくもって同じ気持ちだ。
(涙腺までおかしくなってる!)
普段、こんなくらいじゃ泣かない。なんなら悲しい気持ちにだってならない。
やっぱり薬の効果だと確信したし、カイリも「ちょっとこれは……まずいかもなぁ」と難しい顔になる。
「感情的になるような成分が多すぎたのかも。──となると……」
カイリが手を離して、再び紙に向き直る。百花は即座にさっきと同じように背中から抱きつくと、ふうと息をついた。
(落ち着いた……。やっぱり触れてると、安心する。っていうか、安定するっていうか)
うなじからカイリのにおいを思い切り吸い込むと、心が満たされる。触れている部分のあたたかさと相まって、ドキドキして甘い気分になってくる。
しばらくはそんな自分を観察する余裕があったけれど、カイリが紙の半分以上を小難しいメモで埋めた頃。
甘い気持ちが深みを増して、百花の中で何かの炎が燃え始めていた。
「あ……なんかだめ。だめかも」
「だめって何が?」
ゆるゆると百花が首をふると、カイリが振り向いた。まだカイリは平静な顔だ。百花の変化を注意深く観察している。その視線にさえ、百花の心は大きく震えてしまう。
「カイリ……これ……媚薬の成分はないんだよね?」
触れて欲しい。触れたい。
好きだという気持ちが盛り上がった先の帰結に、百花も自分のことながら戸惑っていた。どこかで残る理性が、急速に燃え始める自分の体と心を困ったように見つめている。
「──そんな成分は入れてない、けど……」
戸惑うようにカイリは呟いて百花の頬に手をあてた。彼の手が冷たく感じる。──それはつまり、自分の体は火照っているということ。
「……つらい?」
おそるおそるたずねられた言葉に、百花は一も二もなくうなずいた。まだカイリの手に握られているペンをそっと抜き取って、テーブルに置く。そのあとで自分から口付けた。
触れた部分から新しい熱が生まれて、百花の中に広がっていく。
ただ触れているだけなのに、やけに甘く感じられて、百花はそれに酔いしれた。
(舌をいれたら……どんな感覚なんだろう)
想像するだけで、きゅっと胸がつまる。してみたい、と素直に思って、百花はそれを実行に移した。
カイリの唇を舌先でつつくと、彼はその意図をすぐにくみとってくれた。薄く開かれた唇に招かれるようにして、百花の舌はそちらへすべりこむ。
待ち構えていたカイリの舌に自分のそれをからめとられて、百花のさっそくの嬌声が鼻の奥から抜けた。
がたんと椅子がなる音とともに、カイリが立ち上がった。顔が自然と上向いたけれど、その間も唇同士が離れることはない。カイリの両手が百花の頬を包み、グッと力がこめられる。それがそのままキスの深さに直結して、百花もカイリの胸元にすがりついた。
「……ん……もっと……」
唇だけだともどかしい。洋服がじゃまだ。
百花はカイリの手を自分の胸元へと導いて、その内側へと誘った。いまだひやりとしたカイリの指が肌をなでる。ぞくりと駆け上がるのはまぎれもない快感。その先を拾おうと、百花は自分でシャツのボタンを外して前をくつろげた。そこから先はカイリの手によってシャツが床へと落とされる。
「カイリも……」
「……わかってるっ」
(もうだめ。本当にだめ)
何に対して焦っているのかわからないまま、百花はカイリの衣服を脱がせにかかった。そうして同じことをカイリにも促す。カイリはカイリで性急な手つきで百花を一糸まとわぬ姿へと変貌させた。
ほんの少しだけ残っている理性が「ベッドに行かないの!?」と叫んでいる気がするけれど、もうそんなことはどうでもよかった。
早く、早く。
きつく抱きしめると、びくりとカイリの体が揺れて、彼の分身が少しだけかたくなっている感触がした。
「モモカ……どんな感じ……?」
カイリは百花の首筋に舌をはわせたり、チュッと吸い付いたりしながら、たずねてくる。いまだ彼の方は興奮半分、確認半分といったところ。やわらかく体のラインをなぞりながら、カイリの指先は百花の胸へと向かってくる。
「んっ……い、つもよりっ……」
撫でられているだけで、ぞくっとする。触れるか触れないかの繊細なタッチで、しかもいつもよりゆっくりに感じて、百花は体を震わせた。
「ゆっくり……しないでっ……!」
百花の反応を試すような動きがもどかしすぎて、ついに百花はカイリの指先が胸の先端をかすめるように、体をずらしてしまう。待ちに待った刺激に「あっ……そこっ……」と声がもれた。
「──聞いたの、そういうことじゃないんだけど……」
「ごっ……ごめんっ、だって……」
頭の中がふわふわとしてしまって言葉にならない。口からもれる吐息で全てを物語るのも無理だ。
それでも何か役に立つことを言わないとと思う百花に、カイリは小さく吹き出した。
「うそだよ、大丈夫。モモカの反応でなんとなくわかる。──いつもより、感じるんだね?」
耳元でささやかれて、百花は一も二もなくうなずいた。胸のあたりにあった手が内腿に移動して、ゆるゆると上がってくる。
「……何がこんな作用になっちゃったんだろう……」
くちゅりと音がして、いまや熱をもったカイリの指先が秘所にふれた。じっとりと濡れぼそったそこは、ぬかるんだ音をもって彼を受け入れる。
「わかっ……わかんない!」
内側をさぐる指の動きに合わせて腰が揺れてしまう。カイリがかがんで百花の胸の先を口に含んだ時、ぶわっと快感が駆け抜けてとろりと内側から蜜があふれた。それをかきだすようにされて「あっ、あっ……やだっ……そんなのっ……」と百花の口からは弱気なつぶやきがもれる。
(あ、足に力はいんないっ……!)
ただでさえ最初からおぼつかない感じだったのに、カイリの愛撫がすすんでしまった今はもう無理だった。かくりと力が抜けて膝をついてしまった百花を、カイリも膝立ちになって、空いている方の手を使って支えてくれる。
「……一回、楽になっておく?」
そう言いながら、カイリが指を増やしてくる。ぐっと圧迫感が増えて、また百花の内側が喜びにふるえた。こくこくと勢い良くうなずくと、カイリが微笑んだ気配がした。
「きっ……」
「き?」
「キス……して……」
「うん」
すぐにカイリの唇が、百花のそれに触れた。当たり前のように舌が入ってきて、百花の舌にちょっかいをかけてくる。下に埋められた指の動きの性急さも相まって、かけのぼるのはすぐだった。
「んんんっ……はぁっ……んーーーー!」
達する直前で顔を離したせいで、百花の嬌声が甲高く響いた。がくがくと腰をふるわせ、カイリの肩に爪をたてながら、百花は絶頂した。どくどくと自分の内側から愛液があふれている感覚がする。
「──すごい。……たくさん出た」
カイリは心底驚いた声で、いまだ百花の中にある指を確認するかのように動かした。敏感になっている百花としては、たまったものじゃない。
「ひゃぁっ! やだ! まだやだっ……!」
「待って。だって、この濡れようは……」
「言わなくていいんだってばー!!」
「もしかしたら……あの実の作用かもしれない。それか──」
「原因究明はあとにしてっ!」
カイリのいれたどの材料がどんな効果をもたらすかなんて関係ない。
好きだという愛情なのか、はたまた高ぶった性欲なのか。
到底、百花には分析できそうにもない。
今は……とにかく一つになりたい。
「カイリの……ばかっ……」
腰をがくがくとふるわせながらも、百花は必死でカイリの逸物に手を伸ばした。触れてみれば、彼だって十分にかたくなって、反り立っている。そっと先走りを指にからめとると「んっ」と耳元で艶やかな声がした。
「っ……モモカ……」
「もうだめ……がまんできないの……」
手のひらを使って優しくそれを擦ると、カイリはかすれた声をあげた。色気のあるその声を聞くだけで、百花の下腹部も再びじくじくとした反応を示す。
カイリは濡れたため息をもらすと、急に百花の内側から指を抜いた。その刺激にも百花からは、甘い声が出てしまう。カイリが小さく微笑み、百花を立たせた。そのままテーブルに押し倒される。
「──これは、かなり改良が必要だね」
こつん、と額同士を触れ合わせながら、カイリがぽそりと呟いた。まだそんな冷静なこと言って……と百花は文句を言おうと口を開いたけれど、次の瞬間一気に貫かれて「ああんっ……」と正反対の声をあげてしまう。
全てのことが頭から抜け去って、感じるのは多幸感。
想いが通じた幸せが不意によみがえって、体も心もつながったことが、普段の何倍も価値を持つ。
「好きっ……大好き!」
ぎゅっと抱きしめて引き寄せると、ふるりと自分の内側にあるものが震えた。目の前で吐息を震わせるカイリが愛しい。早く動いて欲しいとゆするように腰を揺らすと、カイリは喘ぐような吐息をもらして、がつがつと動き始めた。
「もっと……強くしてっ!」
「してるっ……もう……これ以上は……」
荒い呼吸をしながら、夢中になってお互いを貪った。それこそ何度も、何度も。
求めても、与えられても、足りない。
どんどん欲しくなる。そして、あげたくなる。
愛しさは募るばかりで果てがなく、その夜二人は何度も心と体を繋げた。
──初めての「惚れ薬」は絶大な効果をもたらして、二人の夜を侵したのだった。
「うーん? ……特に、何もない」
薬を飲んでしばらく。いつもしているように、お茶をいれて二人で飲んでいる。
百花の体も心も、普段と同じだ。カイリが興味深そうな視線を向けてくるけれど、残念ながら変化はないような気がする。
「やっぱり元々好きだからかなぁ?」
「──でも、理論上は……」
ぶつぶつとカイリがつぶやきながら、棚から紙と羽ペンを持ってきた。ペン先にたっぷりとインクを含ませて、何事か書き出していく。おそらく今回の配合した薬草と分量みたいなものだろう。
「これをもっと多くした方が? ……いやでも……」
これが始まると長い。
それがわかっていたから、百花はお茶を飲み干して立ち上がった。自分の調子には気をつけつつも、明日のパンの仕込みをしようと思ったのだ。
(……あれ)
ダイニングテーブルを離れて、かまどの方へ。そう思っているし、立ち上がるところまではできた。
でもその先への一歩が踏み出せない。
そして、カイリから目を離した瞬間から、百花の動悸が激しくなった。
「え? ええ?」
ドキドキと脈打つ胸を押さえて、熱心に何か計算をしているカイリのつむじを見つめる。そうすると、不思議なことに動悸はおさまった。
「カ、カイリ! 効果あった! あったよ!」
「ええ?」
カイリが百花の言葉に顔を上げた。
「離れられない!」
口にすると、もうそうするしかないみたいな気持ちになって、百花はテーブルをまわりこんでカイリの元へと向かった。こういうことにならば足は簡単に動いた。いまだ座っているカイリを後ろから抱きしめる。
彼のあたたかさと香りを感じて、心底ほっとした。
「カイリから離れたところに行こうとしても、足が止まって動かないの。でもこうして近づくためなら全然動ける。カイリが視界から外れると、ドキドキして不安になる。──多分、これ、薬の効果だよね?」
カイリは百花の方に向いて、その顔を確かめるようにのぞきこんでくる。その青い瞳に見つめられると、今度はさっきとは別の意味合いをもった胸の高鳴りを感じた。
それはまるで、カイリに恋をし始めたばかりの、彼の行動に一喜一憂していた自分の反応だ。
「効いてる! 効いてるよ、これ! 絶対!!」
興奮気味に百花は叫んで、ぎゅっとすがりつくように抱きしめる腕に力を込めた。喉元をしめられた形になって、ぐえとカイリが小さく呻いた。
「あっ、ごめん!」
少しだけ力をゆるめて、改めて自分の中の感覚を確かめてみる。触れあったところから幸せと興奮がごちゃまぜになったような感覚がせり上がってくる感じ。
「どんな感じ? 具体的に教えてよ」
カイリは冷静な表情のままだ。百花の言葉を聞いて、うなずきながらメモをとっている。
「うーん……そばにいたいっていう感情が強まるのかな。心の結びつきっていうよりは、物理的な……」
「う……ん、そうかも。今もこの手、離せないもん」
「なるほど」
カイリは一度ペンを置いて、百花の手首をつかんだ。ドキッとしたところで、その手を無理矢理に離されてしまう。
「こうすると、どんな感じがする?」
「……す、すごく悲しい……」
言いながら、ポロリと勝手に涙がこぼれた。振り向きざまにそんな顔を見せられて、カイリは目を見開いた。けれど、百花もまったくもって同じ気持ちだ。
(涙腺までおかしくなってる!)
普段、こんなくらいじゃ泣かない。なんなら悲しい気持ちにだってならない。
やっぱり薬の効果だと確信したし、カイリも「ちょっとこれは……まずいかもなぁ」と難しい顔になる。
「感情的になるような成分が多すぎたのかも。──となると……」
カイリが手を離して、再び紙に向き直る。百花は即座にさっきと同じように背中から抱きつくと、ふうと息をついた。
(落ち着いた……。やっぱり触れてると、安心する。っていうか、安定するっていうか)
うなじからカイリのにおいを思い切り吸い込むと、心が満たされる。触れている部分のあたたかさと相まって、ドキドキして甘い気分になってくる。
しばらくはそんな自分を観察する余裕があったけれど、カイリが紙の半分以上を小難しいメモで埋めた頃。
甘い気持ちが深みを増して、百花の中で何かの炎が燃え始めていた。
「あ……なんかだめ。だめかも」
「だめって何が?」
ゆるゆると百花が首をふると、カイリが振り向いた。まだカイリは平静な顔だ。百花の変化を注意深く観察している。その視線にさえ、百花の心は大きく震えてしまう。
「カイリ……これ……媚薬の成分はないんだよね?」
触れて欲しい。触れたい。
好きだという気持ちが盛り上がった先の帰結に、百花も自分のことながら戸惑っていた。どこかで残る理性が、急速に燃え始める自分の体と心を困ったように見つめている。
「──そんな成分は入れてない、けど……」
戸惑うようにカイリは呟いて百花の頬に手をあてた。彼の手が冷たく感じる。──それはつまり、自分の体は火照っているということ。
「……つらい?」
おそるおそるたずねられた言葉に、百花は一も二もなくうなずいた。まだカイリの手に握られているペンをそっと抜き取って、テーブルに置く。そのあとで自分から口付けた。
触れた部分から新しい熱が生まれて、百花の中に広がっていく。
ただ触れているだけなのに、やけに甘く感じられて、百花はそれに酔いしれた。
(舌をいれたら……どんな感覚なんだろう)
想像するだけで、きゅっと胸がつまる。してみたい、と素直に思って、百花はそれを実行に移した。
カイリの唇を舌先でつつくと、彼はその意図をすぐにくみとってくれた。薄く開かれた唇に招かれるようにして、百花の舌はそちらへすべりこむ。
待ち構えていたカイリの舌に自分のそれをからめとられて、百花のさっそくの嬌声が鼻の奥から抜けた。
がたんと椅子がなる音とともに、カイリが立ち上がった。顔が自然と上向いたけれど、その間も唇同士が離れることはない。カイリの両手が百花の頬を包み、グッと力がこめられる。それがそのままキスの深さに直結して、百花もカイリの胸元にすがりついた。
「……ん……もっと……」
唇だけだともどかしい。洋服がじゃまだ。
百花はカイリの手を自分の胸元へと導いて、その内側へと誘った。いまだひやりとしたカイリの指が肌をなでる。ぞくりと駆け上がるのはまぎれもない快感。その先を拾おうと、百花は自分でシャツのボタンを外して前をくつろげた。そこから先はカイリの手によってシャツが床へと落とされる。
「カイリも……」
「……わかってるっ」
(もうだめ。本当にだめ)
何に対して焦っているのかわからないまま、百花はカイリの衣服を脱がせにかかった。そうして同じことをカイリにも促す。カイリはカイリで性急な手つきで百花を一糸まとわぬ姿へと変貌させた。
ほんの少しだけ残っている理性が「ベッドに行かないの!?」と叫んでいる気がするけれど、もうそんなことはどうでもよかった。
早く、早く。
きつく抱きしめると、びくりとカイリの体が揺れて、彼の分身が少しだけかたくなっている感触がした。
「モモカ……どんな感じ……?」
カイリは百花の首筋に舌をはわせたり、チュッと吸い付いたりしながら、たずねてくる。いまだ彼の方は興奮半分、確認半分といったところ。やわらかく体のラインをなぞりながら、カイリの指先は百花の胸へと向かってくる。
「んっ……い、つもよりっ……」
撫でられているだけで、ぞくっとする。触れるか触れないかの繊細なタッチで、しかもいつもよりゆっくりに感じて、百花は体を震わせた。
「ゆっくり……しないでっ……!」
百花の反応を試すような動きがもどかしすぎて、ついに百花はカイリの指先が胸の先端をかすめるように、体をずらしてしまう。待ちに待った刺激に「あっ……そこっ……」と声がもれた。
「──聞いたの、そういうことじゃないんだけど……」
「ごっ……ごめんっ、だって……」
頭の中がふわふわとしてしまって言葉にならない。口からもれる吐息で全てを物語るのも無理だ。
それでも何か役に立つことを言わないとと思う百花に、カイリは小さく吹き出した。
「うそだよ、大丈夫。モモカの反応でなんとなくわかる。──いつもより、感じるんだね?」
耳元でささやかれて、百花は一も二もなくうなずいた。胸のあたりにあった手が内腿に移動して、ゆるゆると上がってくる。
「……何がこんな作用になっちゃったんだろう……」
くちゅりと音がして、いまや熱をもったカイリの指先が秘所にふれた。じっとりと濡れぼそったそこは、ぬかるんだ音をもって彼を受け入れる。
「わかっ……わかんない!」
内側をさぐる指の動きに合わせて腰が揺れてしまう。カイリがかがんで百花の胸の先を口に含んだ時、ぶわっと快感が駆け抜けてとろりと内側から蜜があふれた。それをかきだすようにされて「あっ、あっ……やだっ……そんなのっ……」と百花の口からは弱気なつぶやきがもれる。
(あ、足に力はいんないっ……!)
ただでさえ最初からおぼつかない感じだったのに、カイリの愛撫がすすんでしまった今はもう無理だった。かくりと力が抜けて膝をついてしまった百花を、カイリも膝立ちになって、空いている方の手を使って支えてくれる。
「……一回、楽になっておく?」
そう言いながら、カイリが指を増やしてくる。ぐっと圧迫感が増えて、また百花の内側が喜びにふるえた。こくこくと勢い良くうなずくと、カイリが微笑んだ気配がした。
「きっ……」
「き?」
「キス……して……」
「うん」
すぐにカイリの唇が、百花のそれに触れた。当たり前のように舌が入ってきて、百花の舌にちょっかいをかけてくる。下に埋められた指の動きの性急さも相まって、かけのぼるのはすぐだった。
「んんんっ……はぁっ……んーーーー!」
達する直前で顔を離したせいで、百花の嬌声が甲高く響いた。がくがくと腰をふるわせ、カイリの肩に爪をたてながら、百花は絶頂した。どくどくと自分の内側から愛液があふれている感覚がする。
「──すごい。……たくさん出た」
カイリは心底驚いた声で、いまだ百花の中にある指を確認するかのように動かした。敏感になっている百花としては、たまったものじゃない。
「ひゃぁっ! やだ! まだやだっ……!」
「待って。だって、この濡れようは……」
「言わなくていいんだってばー!!」
「もしかしたら……あの実の作用かもしれない。それか──」
「原因究明はあとにしてっ!」
カイリのいれたどの材料がどんな効果をもたらすかなんて関係ない。
好きだという愛情なのか、はたまた高ぶった性欲なのか。
到底、百花には分析できそうにもない。
今は……とにかく一つになりたい。
「カイリの……ばかっ……」
腰をがくがくとふるわせながらも、百花は必死でカイリの逸物に手を伸ばした。触れてみれば、彼だって十分にかたくなって、反り立っている。そっと先走りを指にからめとると「んっ」と耳元で艶やかな声がした。
「っ……モモカ……」
「もうだめ……がまんできないの……」
手のひらを使って優しくそれを擦ると、カイリはかすれた声をあげた。色気のあるその声を聞くだけで、百花の下腹部も再びじくじくとした反応を示す。
カイリは濡れたため息をもらすと、急に百花の内側から指を抜いた。その刺激にも百花からは、甘い声が出てしまう。カイリが小さく微笑み、百花を立たせた。そのままテーブルに押し倒される。
「──これは、かなり改良が必要だね」
こつん、と額同士を触れ合わせながら、カイリがぽそりと呟いた。まだそんな冷静なこと言って……と百花は文句を言おうと口を開いたけれど、次の瞬間一気に貫かれて「ああんっ……」と正反対の声をあげてしまう。
全てのことが頭から抜け去って、感じるのは多幸感。
想いが通じた幸せが不意によみがえって、体も心もつながったことが、普段の何倍も価値を持つ。
「好きっ……大好き!」
ぎゅっと抱きしめて引き寄せると、ふるりと自分の内側にあるものが震えた。目の前で吐息を震わせるカイリが愛しい。早く動いて欲しいとゆするように腰を揺らすと、カイリは喘ぐような吐息をもらして、がつがつと動き始めた。
「もっと……強くしてっ!」
「してるっ……もう……これ以上は……」
荒い呼吸をしながら、夢中になってお互いを貪った。それこそ何度も、何度も。
求めても、与えられても、足りない。
どんどん欲しくなる。そして、あげたくなる。
愛しさは募るばかりで果てがなく、その夜二人は何度も心と体を繋げた。
──初めての「惚れ薬」は絶大な効果をもたらして、二人の夜を侵したのだった。
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