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第1章 美少年の来訪
8、バチバチ、のち(★)
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「嘘じゃないよ! 飲みに行くつもりはあったんだけど……友達が誰もつかまらなくて……」
「だったら家に帰ってくればいいでしょ」
「その通りなんだけど……今日はそんな気分になれなくて……」
「なんで」
「……だってさ」
百花はぎゅっとカイリの手を握って「……家帰ってもカイリ、勉強してるでしょ。それ見てると、応援したいって思うのと同じくらい寂しくなるんだよ」と、これまで秘めてきた想いを告げる。
「カイリは自分の国に帰ってから役立てるために薬学を勉強してるんでしょ? てことは、つまり、わたしと別れるのも織り込み済みな感じに見えて……離れたくないのはわたしだけかと思うと嫌になっちゃったというか……」
淀んだ気持ちを吐き出して、百花自身はスッキリした。
けれどそれをぶつけられたカイリはたまったものじゃないだろう。百花はカイリの手を離して立ち上がった。カイリは不意をつかれたようで少し目を見開き、再度百花に手を伸ばしてくる。
それを避けるように一歩後ずさって「いやほんと面倒なこと言ってごめん! カイリの勉強を応援してるっていうのも本当だから、そこは誤解しないでね!」と百花は両手を合わせた。
「ちょっと仕切り直しにシャワー浴びてくる!」
「まって」
この場を離れようという目論見は淡くも崩れ去り、百花はカイリに腕を引かれ、その中におさまった。
「離れたくないのは僕も一緒だから」
「あ……うん」
そうなんだ、とつぶやきながらゆっくりとカイリの背中に手をまわそうとすると、瞬時に引き剥がされて「信じてないでしょ」とにらまれた。
「い、いやいや、信じてるよ」
「嘘だ」
「嘘じゃないって」
「じゃあなんで泣きそうなの」
指摘されて、百花は「別にそんな顔してないつもりだけど……」と目をそらした。自分がどんな顔をしているかはわからないけれど、カイリの言うように全面的に彼の言葉を信じられていないのは図星だった。
理由は自分でもよくわからない。
カイリの言葉に嘘はないと思っているのだけれど、心のどこかで(でもなぁ……)なんて醒めた目をしている自分がいた。
「泣かないで」
カイリがささやいて、百花の目尻にキスを落とす。だから泣いてないって、と言いたかったけれど、唇はすぐにふさがれた。ついばむような軽いキスを何度も繰り返して、そのまま首筋に吸い付かれる。チクリ、と甘いしびれが走って、キスマークをつけられたのがわかった。
「まって……シャワー……浴びてないし……」
カイリの胸の前に手を置いてやんわり押し返そうとするも、カイリは意に介した様子もなく行為をすすめていく。服の中に潜り込んだ手がブラのホックを外し、少し汗ばんだ胸に直に触れた。
「汗っ……気になるからっ……」
「僕は気にならない」
(違う! 気にして欲しいのはこっちの乙女心だっての!)
こうなったらカイリは止まらない。触れられた部分から熱を持っていくようだ。熱い吐息を吐きながら、せめて電気だけは消したいと懇願したものの聞き入れられず、ベッドへと手を引かれる。
「明るいのやだって……」
「なんで」
「恥ずかしいの! わかってるでしょ!」
憤慨しながら百花は逃げるようにスイッチのもとへ行こうとしたが、背後から強引に引っ張られてベッドに倒されてしまった。
「──明るければ、よく見えるでしょ」
低い囁きにびくりと身体が反応する。カイリは口の端をかすかに上げて「言葉でわかってもらえないなら、行動で示すだけだと思わない?」と百花の肌を煌煌と明るい室内にさらした。
「ぎゃーーーーっ!!」
あっというまに百花は身にまとうもの全てをはぎとられた。同時にカイリ自身もTシャツを脱ぎ捨てる。早業といってもいいレベルの手際が良さと容赦のなさに、百花は焦るばかりだ。
「う、うそうそっ! 待ってってば!!」
肌掛け布団を引っ張ろうと伸ばした手は、待ち構えていたかのようにカイリに指先から握り込まれてしまう。間髪入れずに首筋にキスを落とされ、柔らかな髪が首筋から鎖骨をなぞっていった。
「わ、わかった! カイリの気持ちはちゃんとっ……!!」
弁明している最中に胸の頂がカイリの口に含まれて、百花はひゅっと息をのんだ。「わかってない」とそのままの状態でカイリが言うから、思わぬ刺激に震えてしまう。
(息がかかるのだめっ……! そこでしゃべらないでーーっ!)
嫌じゃないし、気持ちいい。でも恥ずかしい。
丹念に舌でつつかれて、乳首はもうたちあがっているし、カイリのしっとりとした息遣いがやけに響いて、耳は侵されているよう。
百花も最初は身をよじってカイリをいさめてみたりしたが、彼の方は全く気にせず思うがままに愛撫を続けていく。
(も、だめだ……止まらない……。これは、止まらない……)
じっくりと柔らかく愛された胸は、カイリの唇が離れてもツンと疼き、いつのまにかほどかれた手が太ももに触れたとき、電流が走ったかのような過敏な反応をしてしまった。
止まらない、止まれないのは、百花も同じだった。
「──顔、真っ赤」
カイリが、少しだけ体を起こした。不埒な手は百花の太ももを撫で上げて、百花の反応を大いに楽しんでいるのがわかった。
「だ、だから、恥ずかしいってさっきから……!」
「モモカはかわいいよ」
ぴたり、とカイリの手が止まった。ゆったりと弧を描く唇は濡れて艶めいているけれど、視線はまっすぐ真面目に百花を向けられている。そのアンバランスな表情に少し驚いていると、カイリは気の抜けたような笑みを見せた。
「笑ってる顔も、泣いてる顔も、怒ってる顔も、かわいい」
そっと頬に指先がかかる。一瞬前までの淫らさがすっかり抜け落ちたかのような、素朴な触れ方だった。
「コロコロと表情が変わるところも、すごく好きだなって思う」
「……カ、カイリ……?」
そんなふうに褒められたことなんて初めてだ。今までの彼氏からはもちろん、カイリだってここまではっきりと言ってくれたことはなかったと思う。
戸惑っているのはわかっているだろうに、カイリは百花のリアクションを待たずに「もちろん体も好きだよ」と続けた。
「すごくきれいだ」
「ちょ、ちょっと待って、カイリ、ど、どどどど、どうしたの!?」
さっきから、かけられる言葉の全てが未知の体験すぎて、心拍数が急上昇だ。カイリが大真面目な顔だから、冗談にもできない。
(ある意味、体にさわられてるよりも恥ずかしいかも!)
あわてて百花も体を起こして、カイリの肩口に自分の顔を押し付けた。あのまま顔を見つめられていたら、色々もたない。
腕を背中にまわして力をこめると、同じだけの力でカイリに抱き返された。お互いの肌が少し汗ばんでいて、ひたりと触れ合うところが吸い付くようだった。
「──好きだよ。……多分、モモカが思うよりもずっと、本当に」
ぐっとカイリの腕に力がこもる。半分締め付けられているような気もしたけれど、百花はそれを今言う気にはなれなかった。
「君の優しさと柔らかさにふれて、僕は初めて……」
カイリが、ここで深く息を吐き出した。数秒間の、言うのをためらっているかのような間のあとで「誰かに、そばにいてほしいって思ったんだ」と呟いた。
その響きは、愛の告白というよりも懺悔のように深く沈んだものだった。
彼の境遇を思えば、あの病気を思えば。
これまでの人生で、彼が他人に心を向けることは少なかったのかもしれない。
たまたまカイリが百花の部屋にいたから繋がった絆。それは奇跡のような偶然で、終わりがくるとどこかで感じているからこそ、こうして必死に──。
そこまできて、百花はその考え自体を打ち消した。
(これ以上考えても、何の意味もない。大事なのは──今、わたしがカイリを想っている気持ち)
「うん……ありがとう。わたしも好きだよ。本当に好き」
泣かないで、と言いたかったけれど、多分カイリだって少し前の百花と同じように否定するんだろう。
だから、今はただ抱き合えばいい。きっとそれがお互いにとって必要なことで、言葉より雄弁に心をあらわせるから。
沈黙を味わいながら、百花は目を閉じてカイリに身を委ねた。小さな身じろぎに気づいて再び目を開けると、潤んだ青い瞳が自分を見つめている。
(やっぱり、泣いてる……)
きれいすぎて、泣けてくる。
この輝きを、永遠に閉じ込められたらいいのに。
柄にもないことを考えて、百花はそれを隠すかのように微笑んだ。対してカイリの方は、少しバツが悪そうに目をそらす。
「どうしたの?」
カイリはそれには答えなかった。どこかきまずそうな様子を見せながら、再び百花をベッドに押し倒してくる。もうここまできたら、百花も覚悟を決めていた。今日は明るいまま、頑張ろうと。だからこそ、ここにきてのカイリの態度が不思議でしかたない。
カイリは無言で百花の体のラインをなぞると、太ももでその手を止めた。すっと筆をすべらせるように、その内側へと指がすすんでくる。
「──っ……」
そのあわいの中心に、指が到達した。
ぬるり、と指先が滑ったのがわかり、ほうとお互い息を吐く。
「よかった……まだ濡れてる」
カイリの素直なつぶやきに、百花は思わず吹き出した。当然、それを見咎められる。
「何」
「いやだって……なんかかわいくて」
「うるさいな」
口を尖らせたカイリが、ぐっと指を押し込んでくる。百花の余裕は一瞬で消えて、下腹部に灯された淫らな熱に息をのんだ。
「間をあけるつもりなんてなかったのに……」
「カイリが急に話し出したんじゃない!」
「そうだけど」
「あっ……ちょっ……急すぎっ……」
膣の内側を探るような動きに、百花は思わずカイリの腕をつかんだ。カイリはそれを見て微笑むと、指をもう一本増やしてくる。急な圧迫感に「ひゃっ」と百花は上ずった声をあげた。
「待たせた分、取り戻さないと」
「い、言ってる意味がっ……」
「わかんないなら、それでいいから」
そこからのカイリは、怒涛の勢いがあった。百花は必死で快感の波にのまれないように、カイリにしがみつくばかり。翻弄されて、愛されて、その一晩で百花はカイリの想いを、いやというほどに実感させられたのだった。
「だったら家に帰ってくればいいでしょ」
「その通りなんだけど……今日はそんな気分になれなくて……」
「なんで」
「……だってさ」
百花はぎゅっとカイリの手を握って「……家帰ってもカイリ、勉強してるでしょ。それ見てると、応援したいって思うのと同じくらい寂しくなるんだよ」と、これまで秘めてきた想いを告げる。
「カイリは自分の国に帰ってから役立てるために薬学を勉強してるんでしょ? てことは、つまり、わたしと別れるのも織り込み済みな感じに見えて……離れたくないのはわたしだけかと思うと嫌になっちゃったというか……」
淀んだ気持ちを吐き出して、百花自身はスッキリした。
けれどそれをぶつけられたカイリはたまったものじゃないだろう。百花はカイリの手を離して立ち上がった。カイリは不意をつかれたようで少し目を見開き、再度百花に手を伸ばしてくる。
それを避けるように一歩後ずさって「いやほんと面倒なこと言ってごめん! カイリの勉強を応援してるっていうのも本当だから、そこは誤解しないでね!」と百花は両手を合わせた。
「ちょっと仕切り直しにシャワー浴びてくる!」
「まって」
この場を離れようという目論見は淡くも崩れ去り、百花はカイリに腕を引かれ、その中におさまった。
「離れたくないのは僕も一緒だから」
「あ……うん」
そうなんだ、とつぶやきながらゆっくりとカイリの背中に手をまわそうとすると、瞬時に引き剥がされて「信じてないでしょ」とにらまれた。
「い、いやいや、信じてるよ」
「嘘だ」
「嘘じゃないって」
「じゃあなんで泣きそうなの」
指摘されて、百花は「別にそんな顔してないつもりだけど……」と目をそらした。自分がどんな顔をしているかはわからないけれど、カイリの言うように全面的に彼の言葉を信じられていないのは図星だった。
理由は自分でもよくわからない。
カイリの言葉に嘘はないと思っているのだけれど、心のどこかで(でもなぁ……)なんて醒めた目をしている自分がいた。
「泣かないで」
カイリがささやいて、百花の目尻にキスを落とす。だから泣いてないって、と言いたかったけれど、唇はすぐにふさがれた。ついばむような軽いキスを何度も繰り返して、そのまま首筋に吸い付かれる。チクリ、と甘いしびれが走って、キスマークをつけられたのがわかった。
「まって……シャワー……浴びてないし……」
カイリの胸の前に手を置いてやんわり押し返そうとするも、カイリは意に介した様子もなく行為をすすめていく。服の中に潜り込んだ手がブラのホックを外し、少し汗ばんだ胸に直に触れた。
「汗っ……気になるからっ……」
「僕は気にならない」
(違う! 気にして欲しいのはこっちの乙女心だっての!)
こうなったらカイリは止まらない。触れられた部分から熱を持っていくようだ。熱い吐息を吐きながら、せめて電気だけは消したいと懇願したものの聞き入れられず、ベッドへと手を引かれる。
「明るいのやだって……」
「なんで」
「恥ずかしいの! わかってるでしょ!」
憤慨しながら百花は逃げるようにスイッチのもとへ行こうとしたが、背後から強引に引っ張られてベッドに倒されてしまった。
「──明るければ、よく見えるでしょ」
低い囁きにびくりと身体が反応する。カイリは口の端をかすかに上げて「言葉でわかってもらえないなら、行動で示すだけだと思わない?」と百花の肌を煌煌と明るい室内にさらした。
「ぎゃーーーーっ!!」
あっというまに百花は身にまとうもの全てをはぎとられた。同時にカイリ自身もTシャツを脱ぎ捨てる。早業といってもいいレベルの手際が良さと容赦のなさに、百花は焦るばかりだ。
「う、うそうそっ! 待ってってば!!」
肌掛け布団を引っ張ろうと伸ばした手は、待ち構えていたかのようにカイリに指先から握り込まれてしまう。間髪入れずに首筋にキスを落とされ、柔らかな髪が首筋から鎖骨をなぞっていった。
「わ、わかった! カイリの気持ちはちゃんとっ……!!」
弁明している最中に胸の頂がカイリの口に含まれて、百花はひゅっと息をのんだ。「わかってない」とそのままの状態でカイリが言うから、思わぬ刺激に震えてしまう。
(息がかかるのだめっ……! そこでしゃべらないでーーっ!)
嫌じゃないし、気持ちいい。でも恥ずかしい。
丹念に舌でつつかれて、乳首はもうたちあがっているし、カイリのしっとりとした息遣いがやけに響いて、耳は侵されているよう。
百花も最初は身をよじってカイリをいさめてみたりしたが、彼の方は全く気にせず思うがままに愛撫を続けていく。
(も、だめだ……止まらない……。これは、止まらない……)
じっくりと柔らかく愛された胸は、カイリの唇が離れてもツンと疼き、いつのまにかほどかれた手が太ももに触れたとき、電流が走ったかのような過敏な反応をしてしまった。
止まらない、止まれないのは、百花も同じだった。
「──顔、真っ赤」
カイリが、少しだけ体を起こした。不埒な手は百花の太ももを撫で上げて、百花の反応を大いに楽しんでいるのがわかった。
「だ、だから、恥ずかしいってさっきから……!」
「モモカはかわいいよ」
ぴたり、とカイリの手が止まった。ゆったりと弧を描く唇は濡れて艶めいているけれど、視線はまっすぐ真面目に百花を向けられている。そのアンバランスな表情に少し驚いていると、カイリは気の抜けたような笑みを見せた。
「笑ってる顔も、泣いてる顔も、怒ってる顔も、かわいい」
そっと頬に指先がかかる。一瞬前までの淫らさがすっかり抜け落ちたかのような、素朴な触れ方だった。
「コロコロと表情が変わるところも、すごく好きだなって思う」
「……カ、カイリ……?」
そんなふうに褒められたことなんて初めてだ。今までの彼氏からはもちろん、カイリだってここまではっきりと言ってくれたことはなかったと思う。
戸惑っているのはわかっているだろうに、カイリは百花のリアクションを待たずに「もちろん体も好きだよ」と続けた。
「すごくきれいだ」
「ちょ、ちょっと待って、カイリ、ど、どどどど、どうしたの!?」
さっきから、かけられる言葉の全てが未知の体験すぎて、心拍数が急上昇だ。カイリが大真面目な顔だから、冗談にもできない。
(ある意味、体にさわられてるよりも恥ずかしいかも!)
あわてて百花も体を起こして、カイリの肩口に自分の顔を押し付けた。あのまま顔を見つめられていたら、色々もたない。
腕を背中にまわして力をこめると、同じだけの力でカイリに抱き返された。お互いの肌が少し汗ばんでいて、ひたりと触れ合うところが吸い付くようだった。
「──好きだよ。……多分、モモカが思うよりもずっと、本当に」
ぐっとカイリの腕に力がこもる。半分締め付けられているような気もしたけれど、百花はそれを今言う気にはなれなかった。
「君の優しさと柔らかさにふれて、僕は初めて……」
カイリが、ここで深く息を吐き出した。数秒間の、言うのをためらっているかのような間のあとで「誰かに、そばにいてほしいって思ったんだ」と呟いた。
その響きは、愛の告白というよりも懺悔のように深く沈んだものだった。
彼の境遇を思えば、あの病気を思えば。
これまでの人生で、彼が他人に心を向けることは少なかったのかもしれない。
たまたまカイリが百花の部屋にいたから繋がった絆。それは奇跡のような偶然で、終わりがくるとどこかで感じているからこそ、こうして必死に──。
そこまできて、百花はその考え自体を打ち消した。
(これ以上考えても、何の意味もない。大事なのは──今、わたしがカイリを想っている気持ち)
「うん……ありがとう。わたしも好きだよ。本当に好き」
泣かないで、と言いたかったけれど、多分カイリだって少し前の百花と同じように否定するんだろう。
だから、今はただ抱き合えばいい。きっとそれがお互いにとって必要なことで、言葉より雄弁に心をあらわせるから。
沈黙を味わいながら、百花は目を閉じてカイリに身を委ねた。小さな身じろぎに気づいて再び目を開けると、潤んだ青い瞳が自分を見つめている。
(やっぱり、泣いてる……)
きれいすぎて、泣けてくる。
この輝きを、永遠に閉じ込められたらいいのに。
柄にもないことを考えて、百花はそれを隠すかのように微笑んだ。対してカイリの方は、少しバツが悪そうに目をそらす。
「どうしたの?」
カイリはそれには答えなかった。どこかきまずそうな様子を見せながら、再び百花をベッドに押し倒してくる。もうここまできたら、百花も覚悟を決めていた。今日は明るいまま、頑張ろうと。だからこそ、ここにきてのカイリの態度が不思議でしかたない。
カイリは無言で百花の体のラインをなぞると、太ももでその手を止めた。すっと筆をすべらせるように、その内側へと指がすすんでくる。
「──っ……」
そのあわいの中心に、指が到達した。
ぬるり、と指先が滑ったのがわかり、ほうとお互い息を吐く。
「よかった……まだ濡れてる」
カイリの素直なつぶやきに、百花は思わず吹き出した。当然、それを見咎められる。
「何」
「いやだって……なんかかわいくて」
「うるさいな」
口を尖らせたカイリが、ぐっと指を押し込んでくる。百花の余裕は一瞬で消えて、下腹部に灯された淫らな熱に息をのんだ。
「間をあけるつもりなんてなかったのに……」
「カイリが急に話し出したんじゃない!」
「そうだけど」
「あっ……ちょっ……急すぎっ……」
膣の内側を探るような動きに、百花は思わずカイリの腕をつかんだ。カイリはそれを見て微笑むと、指をもう一本増やしてくる。急な圧迫感に「ひゃっ」と百花は上ずった声をあげた。
「待たせた分、取り戻さないと」
「い、言ってる意味がっ……」
「わかんないなら、それでいいから」
そこからのカイリは、怒涛の勢いがあった。百花は必死で快感の波にのまれないように、カイリにしがみつくばかり。翻弄されて、愛されて、その一晩で百花はカイリの想いを、いやというほどに実感させられたのだった。
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