車輪になった妹

奈波実璃

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私の五歳下の妹・未知子は、二歳にして小児癌を患った。
お医者様曰く、小児癌は決して治らない病気ではないらしいけど、私達一家においては涙を堪え続ける日々が続いた。
未知子自身も、辛い治療に耐えなければならず、我が家は常に暗雲立ち込めるといった風だった。
私も夜遅くまで話し込み、時に涙を流す両親を毎日のように見てきたし、たまに未知子を見舞ってはほんの少し前まで走り回っていた未知子が治療の副作用でぐったりしている様子に幼心を痛めていた。
何時かに聞いた、副作用の辛さにより発せられた擘くような泣き声叫び声は、今でも私の耳に残っている。

そんな未知子の苦しみを和らげようと、私は彼女に沢山の贈り物をした。
贈り物といっても、殆ど私の、そして未知子がいずれ読む予定であった本を運ぶというものだった。
毎日家で未知子の喜びそうな本を選び、両親に連れられて病院へ行くのだ。
未知子はそんな私を見るたび、はしゃぎながら迎えてくれた。
私も嬉しくなって、未知子に読み聞かせたりもした。
未知子は私を通して、世界を知った。
『パンダに会いたい』
『アメリカに行きたい』
『大きな船に乗りたい』
『お腹いっぱいホットケーキが食べたい』
未知子の『やりたい』は日増しに増えていった。
今にして思えば、それが彼女にとっていいことだったかは分からない。
彼女の外の世界に対する思いを、ただ募らせさせただけだったのではないか。
けれど私はただ、未知子を笑顔にしたい。
その一心で彼女に寄り添っていたのだ。

しかしそんな日々も、無事に終わりを告げた。
未知子や両親の艱難辛苦も遂には報われたのだ。
未知子の五歳の誕生日が少し過ぎた頃に、彼女の癌治療が終わった。
両親の涙を浮かべた笑みと、未知子の無垢な笑顔は束の間の私の救いになった 。

本当に、それは束の間だった。
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