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第六章

エピローグ

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 その後のネレウス国は、混迷を極めたという。
 新たに立てた国王も亡くなり、ルースへの進軍の大義の是非について他国からの非難と制裁を望む声も高まることとなっていた。
 それを収めたのは、カルロスとモルガーナだった。
 ネレウスの行いの数々を不問にするとし、出来る限りの援助を申し出るとした。
 これには非難を示した他国も、一旦は矛を収めることとなった──これは、もう少し先の話。 

 モルガーナは夕暮れに染まるルースの城内を歩いていた。
 向かった先は、城内の神殿。
 青い色のステンドグラスを通した夕日の光は、暗く深く揺蕩っている。
 モルガーナはその一角に新たに誂えられた石碑の前に立った。
 先の戦で出た、戦死者を弔うために建てられた石碑だ。
 彼女はその前に膝をつくと、手の中に握りしめていたペンダント──青銅と翡翠の、オズヴァルドから贈られたものだ──をそっとその前に捧げた。
 深く暗い光の中、翡翠のペンダントは凛と輝いている。
 モルガーナはそうして、祈りを捧げた。
 双方の国のために戦った人々のため、そして、かつて愛した人のために。

 モルガーナはそれを終えると、自分の寝室へと戻っていった。
 扉を開けると、ベッドの中で眠るカルロスがいた。
 そんな彼を、モルガーナはしばし見下ろした。
 先の戦でできた傷はすっかり治っていたものの、体力はまだ完全には元通りではなかった。
 モルガーナはそんな彼の側に、四六時中寄り添い続けている。
 ふと、彼女は思い出したように寝室の一角にあるチェストの中から、フルートを取り出した。
 何度か伏せる彼に頼まれて奏でたフルートの音。
 この音に包まれて眠るのが心地いいと言っていた。
 それを思い出して、彼女はそれを奏でだしたのだ。
 フルートの音が、ルースの白亜の城から濃紺へと変わった空へ優しく流れている。
 そんな折、扉をノックする音が部屋に転がった。
「失礼いたします。お水をお持ちしました」
 朗らかな声も、部屋の中に転がった。
 セシリオだった。
「カルロス様の体調はいかがですか?」
「穏やかそうよ。さっき眠られたわ」
 セシリオが水差しをベッドの脇に置いた。
 そしてカルロスの顔を覗き込むと、安心したように微笑んだ。
 一時よりも顔色はよくなり、痛みも少なくなっている様子。
 あとは体力の回復を待つのみといったところだ。
 セシリオはモルガーナに一礼すると、部屋を後にしようとした。
「ちょっと待って」
 それを止めたのはモルガーナだった。
「ずっと貴方に、謝らなければいけないと思っていて……」
 モルガーナは沈痛な面持ちで彼と向き合った。
 そうして恭しく、頭を下げる。
「先のネレウスの貴方への非礼、お詫びいたします。ネレウスが貴方を監禁理由は、正当なものではありませんでした。ですから、ネレウスに代わってお詫びを……」
 そんなモルガーナの姿に、セシリオは彼女の言葉を遮らんばかりにそれを制した。
「あ、謝らないでください! モルガーナ様は何も悪くないのですから! それに、捕虜といってもネレウスの皆様は悪い扱いをされたわけではありませんし! ご飯も寝床も用意してくださいましたし、何より……」
 セシリオは優しく微笑んで、モルガーナを見つめた。
「頭をあげてください。僕は誰のことも嫌ったりだとか、恨んだりとかしてないですから。そうやって禍根を残すことだって、カルロス様の本意ではないですから」
 モルガーナはセシリオをゆっくり見上げた。
 彼は困ったように、微笑んでいる。
「だから、もういいんです。ルースはネレウスを許しました。だからもう、謝らないでください。お願いです」
 そう言われれば、その言葉を受け入れる他にないだろう。
「……ありがとう」
 ただ胸一杯になりながら、モルガーナはセシリオに言った。
 今度こそ、セシリオは寝室を後にした。
 再び部屋にはモルガーナとカルロスだけとなった。
 モルガーナはベッドの端に横座りになりながら、カルロスの顔を見下ろした。
「貴方のお陰で、どれだけの人が助けられたか……」
 ルースもネレウスも、そしてモルガーナ自身も。彼の勇気や優しさに救われた。
 色々な想いが溢れるけれど、ただ今は愛おしいばかりだった。
 モルガーナはカルロスの頬を、指先で軽くつついた。
 彼の温もりが指先から伝わって、自ずとうっとりしてしまう。
「寝込みを襲うとは、随分度胸がついたではないか」
 だから突然彼に声をかけられた時は、飛び上がらんばかりに驚いてしまった。
「カ、カルロス様……! いつから起きていらっしゃったのですか……!?」
 おどおどするモルガーナを、カルロスの紫水晶の瞳が見つめていた。
「昼間から眠りこけるのは性に合わん。お前が吹くフルートの音も、一音足りとも聞き逃さなかったとも。……いい音だった」
「あ、ありがとうございます……さっきのは特に得意な曲でして……」
 大切な人に褒められることは、どうしてこんなに嬉しいのだろう。
 頬が弛むのを止められない。
「だが……そろそろ刺激が欲しいところだな」
「……?」
 カルロスの言葉の意味が分からなくて、モルガーナは怪訝そうに彼を見つめた。
 が、次の瞬間彼女は慌てることとなる。
 カルロスの手が、モルガーナの服を留めていた紐をするりとほどいた。
「あっ、待って……!」
 肌から滑り落ちるぬ服を、モルガーナは咄嗟に抱き止めた。
「も、もう! 突然おやめください! ……それに、お体に障ります。まだ万全ではないのでしょう?」
「このまま一日眠っていた方が、おかしくなってしまう。そんなに心配なら、お前がよくしてくれるか?」
「よく……って……」
 カルロスの言っていることが、いまいち分からなくて、小首を傾げる。
「お前が俺の上に乗って、リードをする……といえば分かるか?」
 カルロスの言ってることを想像するモルガーナ。
 途端に顔から火が出る。
「そんな恥ずかしいこと、できません……!」
 そう言いながらも、モルガーナの体はカルロスにいいようにされる空想で、じわじわ熱をおびだしていた。
「嫌か……?」
 残念そうに眉を寄せるカルロス。
 モルガーナは僅かの逡巡の後、体に抱き止めていた服から手を離した。
 はらりと、モルガーナの肌を伝いベッドの端にモルガーナの服が落ちていく。
 モルガーナの柔い肌が容易くカルロスの眼前へと晒されることとなった。
 大きく実った乳房や、ほっそりとしたなだらかな括れカルロスは目を細めた。
 彼を自分が喜ばせているという実感は、こんな状況では悦楽へと変わっていく。
 せり上がる高揚感に後押しされるように、モルガーナはカルロスにかかっていたシーツを取り払う。
 そして彼が自分にそうしたように、カルロスの服を留めていた紐を解き、彼の肌を露にさせる。
 以前より少しばかり細くなった体でありながらも、全身を覆う筋肉は、モルガーナに淫らな空想を掻き立てさせるには充分だった。
 モルガーナは自身の内に静かに沸き上がる劣情に任せ、そんな彼の首筋に唇を寄せた。
 そして肩へ、胸へ、腹へと丁寧に、一つずつ口づけを落としていく。
 次第にカルロスの呼吸が、深く荒いものへと変わっていった。
 自分の手で、彼の情欲を掻き立てている……。
 そう考えると、自ずと秘所が疼きだすのだった。
 やがてモルガーナの唇は、カルロスの下腹部へと到達した。
 モルガーナの眼前に晒される、逞しい肉棒。
 彼女の柔肌に、愛撫に怒張しはじめている。
 モルガーナはそれを、固唾を飲んで見つめた。
(これが……私を……)
 何度となく貫かれたけれど、こうまじまじと見るのは初めてだ。
 何度となく貫かれたけれど、こうまじまじと見るのは初めてだ。
「どうした、モルガーナ。続きはないのか?」
 カルロスに促され、モルガーナはそれをそっと掌の中に包んだ。
 剛直が柔らかな掌に包まれ、より熱をそこに集中させようとする。
 モルガーナはその掌で、ゆっくりとそれを扱きだした。
 最初こそ戸惑いがちだったその動作は、次第にはっきりとした意思を持ち始めた。
 よくしてあげたい──。自分の手で──。
 好奇心にも似た情動が、彼女を突き動かす。
 もっとほしい──。
 熱に浮かされ始めたモルガーナは──少なくとも、彼女からしてみれば──突拍子もない行動へと移っていた。
 彼女の淡い色の唇が、カルロスの張りつめ出した亀頭に触れた。
 口づけを落とすように、そっと。
 しかしモルガーナは、それだけでは我慢ができなくなっていた。
 その唇から次第に、かわいらしい舌が覗き出す。
 彼の先端を、モルガーナの舌がチロチロと這う。
 やがてその口づけは、より深いものとなっていった。
 彼女の小さな唇が、ぷっくり膨らんだ先端を覆うようにしてそれを挟み込んだ。
(ん……大きい……)
 呼吸が上手く出来なくなって、僅かにくぐもった声が漏れる。
 けれど今は、その息苦しさすら愛おしかった。
 そうしてゆっくり頭を前後に動かして、抽送を始めた。
 モルガーナの舌が、その先端に自ずと絡まる。
 淫猥な水音も、彼女の口腔内から漏れ出ていく。
 モルガーナの舌が絡まるたび、頬の粘膜に擦れるたび、カルロスの肉棒が主張を強くしていく。
「ずいぶん愛らしいことを覚えたではないか。だがそろそろ、お前も欲しいところだろう」
 カルロスは上体を起こすと、モルガーナを抱き寄せた。
 モルガーナはカルロスの両腿の上に股がる形となった。
 二人の目線が同じ高さになって、視線がふいにぶつかる。
「起きられても、大丈夫なのですか?」
「言っただろう。ずっと眠っている方がおかしくなると」
 カルロスの紫水晶色の瞳と、モルガーナの翡翠がぶつかった。
 たったそれだけのことで、胸の奥が熱くなっていく。
 その昂りを、カルロスが見逃すはずはなかった。
 彼の指がモルガーナの腿の間へと伸びていく。
「ひゃぅっ……」
 カルロスの指先が、モルガーナの恥球の間に沈みこんだ。
 骨張った指がの感触が、彼女の敏感で淡い場所を掻き分けて進んでいく。
 それがモルガーナを掻き分けて奥底を暴こうと、ゆっくりと突き進む。
「あっ……んんっ、んんん……!」
 優しい手つきで、モルガーナの泉の底をゆっくりと押し広げていくカルロス。
 それをもっと求めるように、モルガーナの腰が自ずと揺らされる。
 それがいじらしくて、カルロスは目を細めて彼女を見下ろした。
「カルロス……さまぁっ……!」
 そんな彼を、縋るように見上げるモルガーナ。
 ひどい痴態を晒している。
 けれどそんな自分を見つめる瞳の中に、情欲の火種がはぜるのを見つけて、モルガーナの漏らす嬌声が一層熱を帯びていく。
カルロスはそんなモルガーナの頬を一撫でしながら、彼女の中に差し入れていた指を抜き、彼女を自身の猛りの上へと跨がせた。
モルガーナの溢れきった泉にそれが宛がわれる。
「モルガーナ」
 カルロスは耳元で妻の名を呼ぶ。
 モルガーナの耳にかかる甘い吐息と、自身に今まさに与えられようとする猛りがモルガーナの期待を膨らませる。
 そして彼女はそれを堪えることなく、ゆっくり腰を下ろしていった。
「んっ……んんぅんっ……あっ、んん……!」
 一息に猛りを飲み込んだモルガーナ。
 悩ましげに眉を潜めて、カルロスの胸にすがりつくばかりだった。
 けれどその最中でも、モルガーナは弛く腰を揺らした。
 カルロスに負担をかけまいと、代わりに自分が彼をよくしてあげようと考えて。
 そんなモルガーナの幼気な様は、カルロスを昂らせるばかりだった。
「モルガーナ……いい子だ……ん……」
「んんっ、カルロスさまぁ……! もっ、私っ……わたし、ぁうっ……」
 抽送が激しくなり、彼女を責め立てる猛りはますます強く脈打ち出す。
 自分の奥に響くそれを、モルガーナは強く捕らえ続けた。
 カルロスの鼓動、匂い、そして深い深い繋がりにモルガーナの全身には甘美な情動が迸っていく。
 モルガーナはその急流に身を任せた。
 彼女がいよいよ深く強く、カルロスの昂りを自分の中に納めたその時。
「あっああ、あっ……ひゃああん……!」
 甘美な情動は荒波となって、彼女を包み込んだ。
 それと同時、モルガーナは自分の中にカルロスからの愛の証が注がれる。
 しばし二人は、お互いの乱れた心音と呼吸の音に包まれた。
 二人きり、凪いだ海の上にいるかのよう。
 モルガーナは未だ多幸感で痺れる頭を、カルロスの胸へと埋めた。
 潮の香り、打ち寄せる波のような鼓動の音。
 モルガーナはそれに包まれているだけで、幸せだった。
 そんな彼女の頭を、カルロスはそっと抱き寄せ撫でる。
 そんな二人は次第に、しばしの微睡みに溺れ始めるのだった。

「婚礼の儀は初めてルースに来た日に執り行いましたが……」
「いいや、形式だけのものじゃない。多くの人々に囲まれ祝福を受けるものを、改めて行わねばなるまい」
 カルロスはモルガーナの頬を撫でた。
 彼女はその掌に甘えるように頬擦りをした。
「この国の王妃を、皆に盛大に広めるのだ。この国のために尽力しようとした、気高き妃を……」
「気高いなんて……私は……ただただ無我夢中で……」
 あまり過大評価をされても困ってしまう。
 モルガーナは少しばかり萎縮をした。
 そんな彼女の様子に、カルロスはくすりと笑った。
「そんなことはない。そんなお前こそが妃で、本当によかった……例えるなら……」
 カルロスは窓の外を見やった。
 ルースの城下白く輝きだしたのは、その時だった。
 カルロスは体を起こして、その景色を見下ろそうとした。
 モルガーナも続いて、彼の横に並ぶ。
「朝日のようだ。闇を払い、希望をもたらす。お前は、そんな存在だ」
 カルロスは傍らのモルガーナを見据えた。
 それを見上げたモルガーナも、静かに笑うのだった。
 
 そうして後に『陽光をもたらした姫』と称されたモルガーナは、彼女が愛した二つの国でその愛を語られたという。
 それはまた、少し先の話である。
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