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第五章
出港①
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その知らせはモルガーナ、いやルース国にとってもまさに晴天の霹靂だった。
「お父様……が……?」
ルースの玉座の間。
玉座に座るカルロスと、その脇に控えるモルガーナ。
相対するのはネレウスからの使者であった。
モルガーナが故郷を思い起こさせる風体の使者であったがしかし、それを懐かしむ余裕は全くなかった。
その使者がルースにもたらしたものは、ネレウスの国王……すなわちモルガーナの父が亡くなったという報せであったから。
もしも人前でなければ、彼女はその場で卒倒していたに違いない。
モルガーナは勿論のこと、カルロスも玉座に腰を掛けながら沈痛な面持ちでいた。
そんな二人を前にしたネレウスの使者は、至って静かに淡々とネレウスの次期国王からの書簡を読み上げた。
「次期国王・オズヴァルド様よりご要望がございました。前国王様の葬儀には是非モルガーナ様にもご出席をしていただきたいとのことでございます」
「……オズヴァルド……様?」
モルガーナの心臓がどきりと跳ね上がった。
久しく聞いていなかった名前は、彼女を動揺させるのだった。
(オズヴァルド様は……いかがお過ごしなのでしょうか……)
思い出すのはモルガーナがルースへ輿入れが伝えられた日のこと。
自分の身を案じて心を砕く、かつての婚約者。
悲しみを圧し殺しながら、毅然と自分を送る姿……。
「しばし二人で話合いを致す故、席を外させてもらう」
広間に響くカルロスの声が、モルガーナを現実に戻した。
モルガーナが気づいた時には、カルロスは既に控えの部屋に向かって歩き出していた。
彼女は慌ててその後ろを追ってカルロスに続いた。
「俺はお前を帰すことには反対だ」
控えの部屋の飛び入りを閉めたと同時、カルロスはそう言った。
「ネレウスは今恐らく混乱状態にあるだろう。ルースとの関係も不安定にある。そんな折りに前王の娘が……お前が帰ってくるとあっては、どんな刺激になり得るか分からぬ。民心に降る不安が、どのような形で押し寄せてくるか、俺には分からぬ。……とはいえ」
カルロスは深く息を吐きながら、深く目を閉じた。
事が事だけに、強く引き留めることも叶わない。
そんなカルロスに、モルガーナは優しく微笑んだ。
「ありがとうございます。私のことを案じてくださって」
モルガーナはカルロスの手を取って、握りしめた。
ふと瞳を見開いたカルロス。
モルガーナの翡翠色の瞳とぶつかった。
優しく微笑んでいる瞳には、しかしながら凛とした輝きも湛えている。
「父と最後の別れをさせてください。そして私は、この目で自分の生まれ育った国をもう一度見たいのです。何故あのようなことをしたのか、何を思ってその決断をしたのか、私は見たいのです」
カルロスは黙ってただただモルガーナを見つめた。
彼女を引き留める言葉を探して、思考を巡らす。
けれどカルロスにはそれ以上、彼女を引き留めることはできなかった。
彼女の大切な人との別れを、そして彼女自身の決意を無下にするわけにはいかなかったから。
「心配しないでください、私の故郷です。皆さんには良くしていただけました。悪いようにはなりません」
純真に笑うモルガーナ。
カルロスはその笑顔に、心がほどけるような心地を覚えた。
「……セシリオを供に付ける。それから葬儀が終わり次第すぐにルースに帰ることが条件だ。それでいいな」
「……! はい!」
モルガーナは決意を胸に、頷いた。
自分を見下ろすカルロスは、物憂げな色を瞳に湛えている。
モルガーナはそれに、少しばかり後ろ髪が引かれる思いがした。
彼に心配させるようなことを、自分は望んでいるのだから。
「大丈夫です、私の故郷ですから。」
(それでも、私は……)
自分の決意がその憂いを晴らすと信じ、モルガーナは故郷へ帰る準備に取りかかった。
モルガーナの船出は、その日の夕方。
彼女が乗るのは、ネレウスの船だった。
使者を乗せルースに入港した船は、彼女を乗せて帰路へとついたのだ。
船はネレウスまでの四日間。
モルガーナは甲板の上から、日の光を反射して煌めく海面を眺めて過ごしていた。
故郷へ戻れるというのに、モルガーナの心は暗澹としていた。
かつて楽しく過ごしていた故郷の実情。
まだどこかで、何かの間違いだと思いたい気持ちがあった。
もしかすると、カルロスやルースの国民は何か大きな思い違いをしているのではないか……そんなことを考えては、しかし彼を信じたい気持ちがその考えを吹き飛ばしてしまう。
まるでルースに嫁いだばかりの頃と、そっくりな気持ちで過ごすモルガーナだった。
少しだけ違うことと言えば。
「僕、ルースを出るのは初めてなんです。ずっと王宮で仕えていましたから。ネレウスって、どんな国なんですか?」
船上で過ごしていた、ある日のこと。
海を見渡すばかりのモルガーナの側に寄ってきたのは、セシリオだった。
それに気がついたモルガーナは、はたとそちらを振り返る。
モルガーナと同じように、海を見下ろすセシリオ。
その瞳にはモルガーナとは違い、希望に満ちた面持ちで海面を眺めている。
この船の行き先に、胸の鼓動を昂らせている様子だった。
「ルースよりも、大きな国だと聞きました」
「えぇ、路は全て煉瓦で舗装されていて、それからお城も大きくて広くて……でも太陽はルースの方が眩しいわね。冬もきっと、ルースより冷えるでしょう。それから……それから……」
少しずつ、ネレウスの記憶を辿るモルガーナ。
そうしている内に、自然と表情が和らいでくる。
暗く沈んだ気持ちも晴れていく。
──あれこれ悩んでたって、仕方ないわ。
──気をしっかり持たないと。
そう気持ちを切り替えられたのは、一重にセシリオのお陰だった。
そうしている内に船は、ついにネレウスの港へと寄港した。
薄暮に沈むネレウスの家々は、ランプの明かりで暖かく輝いている。
懐かしさで胸を締め付けられるような思いと、すぐにでもあの街へ駆け出したい衝動に駈られながら、タラップが降ろされるのを待った。
そのタラップが降りると、両脇を囲むようにネレウスの兵が列を作って並んだ。
モルガーナが初めてネレウスを発った時と同じように。
彼らに自分の感情を悟られないよう、しずしずとタラップを下る。
一段一段、故郷へと近づいていく。
そしてついに、彼女の足がネレウスの土地へと降り立った。
その時だった。
突如、タラップの側に並んでいた兵が一斉に剣を抜いたのだった。
「……!?」
驚くモルガーナを余所に、剣の切っ先は彼女の真後ろへと伸びていく。
息を飲み背後を振り返るモルガーナ。
剣先は彼女の背後に立っていた、セシリオを取り囲んでいた。
突然のことにびっくりして目を見開くセシリオ。
徐々に状況を理解し始めた彼の顔色が、みるみる青くなっていく。
ジリジリと後退りをするも、剣先もそれに合わせて進んでいく。
「な、何をしているのです!? 彼はルース国王の臣下の者です。無礼な真似はお辞めなさい!」
目の前の出来事が、にわかに信じられなかった。
けれどその異常な出来事は止めなければならないという焦りが、彼女を動かした。
「モルガーナ……様……これは……」
「何をしているのです!? 剣を納めなさい!」
恐怖におののくセシリオと、焦りながらも毅然と声を張るモルガーナ。
そんな彼女の後ろで、低い声がした。
「あぁ、やっと帰って来られたのですね、モルガーナ様。貴女のお帰りをお待ちしておりました。私も国民も……ずっと待っておりました」
モルガーナはゆっくりと後ろを振り返る。
果たしてそこには、オズヴァルドが立っていた。
暗い夜空の下で見上げたオズヴァルドの顔は、最後に会った時よりも窶れた印象が伺えた。
「オズヴァルド……貴方……いいえ、とにかく兵に剣を下ろさせなさい。他国の客人に無礼を働いているのですよ!?」
「いいえ、モルガーナ様。あれは国王の命にて振るわれる剣でございますよ。ネレウスに敵対する国を討つための剣にて……」
「ネレウスの敵……? どういうことですか、それに国王って……」
あまりの出来事と、沸いてくる疑問の数々。
そんな中、モルガーナは一つのことに思い至った。
自分の父が亡くなれば、次の王が立てられる。
そして継承順位第一位だった人物が今、目の前にいる。
オズヴァルドは混乱と動揺を覚えるモルガーナとは対照的に、悠然としているばかりだった。
「モルガーナ様、今日はもう遅いですからお休みくだされ。明日になれば全てお見せ致します。私の統治する、ネレウスのことを」
目の前にいるよく知る人物。
彼がいずれ国王になることも、分かっていた。
それなのに彼の存在が、その事実が怖くて堪らなかった。
夜が明けた。
モルガーナはルースに出立する日まで使っていた自分の部屋で、一晩を過ごしていた。
上陸してからというもの、彼女は疑問や疑念を払拭する間もなく、かつて住んでいたネレウスの城へと連れていかれた。
ルースから着てきたドレスは脱がされ、厚手の夜着を着せられ半ば閉じ込められるように部屋へと連れて来られたのだ。
馴染んだはずの部屋なのに、どうにも居心地が悪い。
モルガーナは寝付くことなく、ベッドの端に座り続けていた。
そうして、一夜が明けた。
朝日が昇り城下が朝市で賑やかになる頃になり、モルガーナの部屋に侍女がやってきた。
そして彼女の身支度を整える。
久々に着用した、コルセットと幾重にも生地が重ねられたスカートには、もはや懐かしさすら覚えていた。
再び部屋の扉が開かれたのは、侍女が去って彼女が部屋に一人になった時だった。
まるで推し測ったかのように彼はモルガーナの部屋へとやってきた。
「どうやら、一睡もできていないご様子。さぞや不安が貯まっていたことでしょう。心中お察し致します」
そちらの方を見やると、オズヴァルドが慈愛に満ちた微笑みを浮かべて立っていた。
「……セシリオはどこ? 無事なのでしょうね?」
モルガーナはすっくと立ち上がってオズヴァルドへと詰め寄った。
「ご心配なく。捕虜に危害を与えることは禁じられております故、丁重に扱っておりますとも。……モルガーナ様はやはり変わらずお優しくあられる。他国の、それも下卑た扱いをしてきた者だというのに」
オズヴァルドは彼女の頬に指差で触れた。
柔らかい肌に、剣の稽古で分厚くなった指が僅かに沈む。
あくまでも優しくも凛々しいその声音は、モルガーナのよく知るオズヴァルドだった。
けれどモルガーナは、むしろそれが怖かった。
剣先をセシリオに向ける兵士、そしてそれを指揮していたオズヴァルド。
未だに信じられない自分がいた。
「ねぇオズヴァルド。貴方は何か誤解をしているわ。ルースでは貴方の考えているような扱いをされた覚えは無いもの。だからセシリオを解放して。彼を捕らえていても、何にもならないわ」
「何をおっしゃる。あのように肌ばかりら露出させたはしたない服を着せられ、肌も日に焼けているではないですか。私には分かります。ですから……」
「やめて!」
モルガーナは思わずオズヴァルドの言葉を遮るように立ち上がった。
変わらずベッドの端に座るオズヴァルドを見下ろしながら、必死に叫ぶ。
「あれはルースの伝統的なドレスです! それに日に焼けてるのはバルコニーに出て過ごしていたからよ! それ以上の侮辱は許しません! ……私はただ、お父様のお見送りに帰ってきただけ。だから早くセシリオを解放してお葬式を始めて。……それ以上、ルースのことを悪く言わないで」
「……えぇ、式はすぐに行いますとも。ルースに攻め入り彼の地の支配を手土産に!」
ふいに瞳と瞳がぶつかった。
モルガーナは自分を見返す瞳は、爛々と輝いているように見えた。
まるで狡猾な獣を思わせるような瞳。
以前よりいくらか窶れた風体と、くっきりと上がった口角のせいで、それが嫌に際立って見えた。
「攻め入る……? 支配……?」
おののくモルガーナを余所に、オズヴァルドは続けた。
「たかが知れた小国の分際で我がネレウスの要求を跳ね退けたのだ。身の程を知らぬ者は制裁を受けるべきだ。……前国王は甘過ぎた。あんな小国の言い分に熱心に耳を傾け、少々威嚇がてらにルースへ船を向かわせた私に、お怒りさえ覚えられたのだ。その上我がネレウスの一番の宝すら差し出す始末。だが私が王になれば、そんなことなど許しはしない。この手で、奴らに立場を分からせてやるのです!」
オズヴァルドはすっくと立ち上がった。
モルガーナは苦い顔を浮かべて、そんな彼を見上げた。
「……貴方だったのね、ルースの島を滅茶苦茶にしたのは」
モルガーナの目に浮かぶのは、荒れたルースの最東端の島。
そしてそこから避難をしてきた子供達。
「貴方のせいでどれ程ルースの方々が脅かされたか……!」
「あぁ、そんな艱難辛苦も最早これまで。貴女が私の元へと帰って来てくださった。ルースを調伏し喪が明け次第改めて婚約の申し入れをしましょう。どうかそれまで、もう少し辛抱なさってくだされ」
最早オズヴァルドに自分の声は届いていないのではないか。
彼の目に映る自分は、彼に駆け寄ることを必死に堪えながら船に乗り込んだあの時の姿のままなのではないか。
最早正気かすらも疑えるオズヴァルドに、けれどモルガーナは毅然と言い放った。
「婚約の申し入れはお断りします! 私はルース国国王カルロスの王妃モルガーナです! 貴方の数々の言葉、我がルースに向けての侮辱とみなします! そして侵攻など言語道断です、今すぐ撤回してください!」
そう、自分はルースの、カルロスの妃だ。
例え故郷であろうとも、その平和を脅かされる道理はない。
そして故郷が道を誤ろうとするのであれば、それを止めるのも自分の使命だ。
そんな思いが、彼女の叫びには乗せられていた。
オズヴァルドはこんなにも声を荒げたモルガーナを、彼女がルースへと嫁ぐまでついぞ見たことはなかった。
それ故かオズヴァルドは、そんな彼女を息を飲んで見返すばかりだった。
しかしその表情が、たちまちの内に変化していく。
「……つまり貴方はルースへ、あの蛮国に寝返るということですか」
怒りとそしてほんの少しの侮蔑的な色を抱えた視線がモルガーナを捉える。
「寝返るなんて……変な言い方をしないで。私は正式に嫁いだのよ。そして私は……」
言いかけたモルガーナの言葉はしかし、オズヴァルドに遮られてしまった。
ぬらりと立ち上がるオズヴァルド。
彼の大きな体が、モルガーナのすぐ目の前にまで迫っている。
その威圧感に、彼女はびくりと体を震わせてそれを見上げるばかりだった。
「オズ……」
一歩、オズヴァルドがモルガーナへと歩み寄った。
その一歩が酷く大きく、酷く重いもののようにモルガーナには感じられた。
男の大きな体が、今はとにかく怖かった。
突然、彼はモルガーナの手首を掴まえて、彼女を自分の方へと引き寄せた。
モルガーナが気づいた時には、彼女はベッドの上に引き倒されていた。
「……! やめて、何をするの!?」
オズヴァルドは自分の腕を振りほどこうとするモルガーナを、まるで意に介していない様子だった。
彼はもがくモルガーナの両手首を片手だけで束ねると、ベッドに縫い付けるようにして押さえつけた。
オズヴァルドの怒りに満ちた顔が、すぐそこまで迫っている。
「貴女は何も分かっていなかったのですね……。私がどんな気持ちで貴女を送り出したか……私がどんな気持ちで貴女を想っていたかを……!」
「やめて! 酷いことはしないで!」
抵抗を試みるも力の差は歴然、振りほどくどころではない。
オズヴァルドはモルガーナの腰の上に乗るように膝立ちになった。
そうして彼女の頬を空いている掌で、自分の方へと顔を向けさせる。
変わらず怒りを湛え続けるその瞳に、最早自分のことなど映っていないようにも思えた。
「その柔らかい肌、潤む瞳、満開の薔薇を思わせる唇……ずっと焦がれていた……触れたかった……。貴女に嫌われまいと堪えていたのに……もういい……それも今日までです……」
否やモルガーナの頬に触れていたオズヴァルドの掌が、彼女のコルセットを緩め始めた。
モルガーナはこの先に行われることに思い至り、その頬から血の気が引いていく。
「お願い止めて! こんな、こんなの……!」
そんな震える声は、オズヴァルドには届いていないようだった。
自分に襲い来るオズヴァルドを、彼女のか細い腕では押し退けることも叶わない。
そんなオズヴァルドはそのまま、苛立ち紛れに襟首を掴むと強引に開かせる。
絹が裂け、装飾が飛び散る。
途端に露になった、モルガーナの素肌。
陶器のように滑らかな乳房にその頂きに実る桃色の尖り、いとも容易く折れてしまいそうな腰つきも、全てがオズヴァルドの眼前に晒される。
「あぁやはり……そこらの女達とは大違いだ。まるで赤子のように無垢な肌、それなのにたおやかな肢体は男を誘うようにすらりと伸び……」
そんなオズヴァルドの声や視線は、徐々に淫欲に濡れ始めていく。
ずっと優しくしてくれたオズヴァルド。
そんな彼が、自分に対してそのような感情を覚えることも、ましてやそれを原動力にこんな行為を働くことも、何もかもが信じられないものだった。
「ずっとこうしてしまいたかったのを、私は耐えてきた……。それなのにあの国が全てを奪ったのだ……貴女も、貴女の純潔も……! 全て私の物になるはずだったのに……! ならば相応の罰を与えねばなるまいなぁ……。あぁ、あの下劣な国が血の海に沈む様子が、今からでも目に浮かぶ……」
モルガーナの目に映るオズヴァルドの姿は、ただ己の淫欲を満たし報復を与えるための、一匹の獣と成り下がったように見えた。
オズヴァルドの視線が、モルガーナの大きな膨らみへと狙いが定められる。
彼女の肌を這うようにして、オズヴァルドの無骨な掌がそこを目指して伸ばされた。
オズヴァルドの指が、荒々しくその柔肉の中に沈み込む。
「あぁ、貴女の体は素晴らしい……あんな男にげ汚されても尚、こんなにも温かい。それももう、過去のこと。これからはずっと私の手元に置いておける……」
オズヴァルドの指先が沈み込む度、モルガーナの肌に赤い楔のような跡が残る。
「オズヴァルド様……! お止め、ください……!」
モルガーナが痛みに悶えようとも、オズヴァルドは気にも止めることはなかった。
むしろそんな彼女の反応を、悦楽に溺れているものと錯覚しているのかのよう。
ここがいいのかと、もみくちゃにするばかりだ。
最早抵抗することも叶わなくなったモルガーナの目尻から、遂に一筋の涙が溢れた。
(カルロス……様……申し訳ございません……)
彼女が自責の念に苛まれながら、最愛の人を想ったその時だった。
部屋ノックの音が響いた。
「……なんだ、何用だ」
苛立ちそのままに、カルロスはドアに向かって低く唸った。
「し、失礼致しました。軍備について至急ご確認頂きたいことがありまして、こちらにオズヴァルド様がいらっしゃると案内を受けたのですが……」
扉の向こうにいたのは、武官のようだった。
武官はオズヴァルドのいつになく苛立った声に、たじろいでいるようだった。
「今参る。先に行っておれ」
オズヴァルドが短く指示すると、武官はそれに従った。
部屋が再び静かになる。
ふと、オズヴァルドはモルガーナの上から退いくと、乱れた袖口を直しながら、ベッドの脇に降り立つ。
「続きはいずれ……貴女も時期に分かるでしょう。貴女が誰の物であるか、貴女が愛するべき国はどこか。私が目を覚まさせてしんぜましょう」
茫然とベッドに仰向けになるモルガーナを、冷ややかに見下ろしながら言い放つ。
そして彼は何事もなかったかのようにキビキビと部屋を後にするのだった。
それから、どれ程時間が経っただろう。
ベッドの上に倒れたモルガーナは、ようやと自分の頭をもたげることが出来た。
見下ろした先にあったのは、無惨に引き裂かれたドレスと無理矢理暴かれた自分の体。
オズヴァルドに掴まれた跡がくっきりと浮かぶ手首。
そしてオズヴァルドがルースに放った言葉と仕打ちを思い出す。
ただただ、悲しかった。
あぁ、もうここには自分の知るオズヴァルドがいないのだと。
いいや、ともすれば最初からオズヴァルドのことを誤解していたのかもしれない。
ネレウスで穏やかに過ごした日々は、まやかしだったのではないかとすら思える。
──それでも、だからこそ。
モルガーナはかつてカルロスが自分に言った言葉を思い出した。
──モルガーナ、お前には……そんな二国の架け橋になって欲しかった。
彼の声を思い出したモルガーナの瞳に、徐々に生気が戻ってきた。
そして彼女は、自分が成すべきことを思い描き始める。
二つの愛する国のため、愛する人のために。
それから一週間程経った、夕刻頃。
モルガーナは自分の部屋で、窓の外を眺めて立っていた。
彼女の眼下には、夕日に染まったネレウスの街並みが広がっている。
オズヴァルドに襲われて以来の彼女の行動は、城に仕える者全てが目を丸くするものだった。
彼女は主だった重臣達に『一刻も早く父を弔ってほしい』『ルースへの侵攻を今すぐに取り止めてほしい』と訴えて回ったのだ。
いつも穏やかで周囲を和ませていたばかり彼女の、こんな姿は今まで誰も見たことがない。
しかしながらその成果は芳しいものではなかった。
対面する重臣達は皆一様に困惑の色を浮かべるばかりだ。
こと政治に関して何ら権限を持ち合わせていない、ましてや他国に嫁いだ身分のモルガーナの言葉よりも、やはりオズヴァルドからの命が絶対なのだから。
その気持ちに同情の余地は十二分にあるものの、神妙な顔をして言葉を濁すばかりだった。
しかしそんな中でも、モルガーナには気づけたことがあった。
「……モルガーナ様のおっしゃる通りでございます」
前王の頃から仕えている、ある重臣はポツリと溢した。
通された応接室は、その重臣とモルガーナ。
そして二人の付き人のみがいて、静かなものだった。
しかし廊下の方は、突然の王族の来訪に右往左往していることだろう。
そのことばかりは、モルガーナも申し訳なく思っている。
それでも、火急のこととなのだからと自分の我を通す。
「それなら今からでも遅くないわ! 今からでも出兵の取り止めをしましょう!」
光明が見えたと思い、すかさず自身の主張を繰り返すモルガーナ。
しかし相手は、苦い顔をするばかり。
「議会でも、あまりに強硬すぎるといった声は上がっておりました。前王の葬儀についてもです。しかし、オズヴァルド様の意向は変わらなかったのです。ご自身に同調しない者に圧力をかけ始められ、次第に諫言を上げるものはいなくなってしまったのです」
「そんなことが……」
オズヴァルドの苛烈さに、モルガーナは絶句するばかりだ。
「恐らく、この出兵には疑問を持っている民は少なくないでしょう。しかし……そう、貴女様をルースの王に奪われたことを恨みに思っていたり、資源を手に入れて国を発展させるためなら已む無しと考えている民も少なくありません。王の意向が変わらない以上、出兵の取り止めにはならないでしょう」
申し訳なさそうに頭を下げた重臣に、けれどモルガーナは考えを巡らす。
(やっぱり、出兵を良く思っていない人だっているんだわ……)
それならばこの愚挙を何としても止めなければ。
モルガーナは胸の前で指を組みながら、何か思案するように目を閉じるのだった。
モルガーナの見下ろす城下の市場は、沢山の人でごった返していた。
聞くところによれば、モルガーナが嫁いだ後しばらくはすっかり活気の枯れた街になっていたという。
そして賑わいが以前と同じくらいにまで戻ったのは、彼女が帰ってきてからということらしい。
──そんなにまで深く自分を愛してくれた国なのだ。尚のこと戦などに明け暮れさせるわけにはいかない。
モルガーナはクローゼットの奥に隠していた、フード付きの地味な外套取り出した。
モルガーナはそれを羽織ると、部屋をこっそりと後にした。
先程まで見下ろしていた街と港の景色が、宵に沈もうとしている。
今夜、ルースに向けてネレウスの戦船が出立する。
もう自分ができることは少ない。
モルガーナは決意を胸に、城を飛び出して行った。
「お父様……が……?」
ルースの玉座の間。
玉座に座るカルロスと、その脇に控えるモルガーナ。
相対するのはネレウスからの使者であった。
モルガーナが故郷を思い起こさせる風体の使者であったがしかし、それを懐かしむ余裕は全くなかった。
その使者がルースにもたらしたものは、ネレウスの国王……すなわちモルガーナの父が亡くなったという報せであったから。
もしも人前でなければ、彼女はその場で卒倒していたに違いない。
モルガーナは勿論のこと、カルロスも玉座に腰を掛けながら沈痛な面持ちでいた。
そんな二人を前にしたネレウスの使者は、至って静かに淡々とネレウスの次期国王からの書簡を読み上げた。
「次期国王・オズヴァルド様よりご要望がございました。前国王様の葬儀には是非モルガーナ様にもご出席をしていただきたいとのことでございます」
「……オズヴァルド……様?」
モルガーナの心臓がどきりと跳ね上がった。
久しく聞いていなかった名前は、彼女を動揺させるのだった。
(オズヴァルド様は……いかがお過ごしなのでしょうか……)
思い出すのはモルガーナがルースへ輿入れが伝えられた日のこと。
自分の身を案じて心を砕く、かつての婚約者。
悲しみを圧し殺しながら、毅然と自分を送る姿……。
「しばし二人で話合いを致す故、席を外させてもらう」
広間に響くカルロスの声が、モルガーナを現実に戻した。
モルガーナが気づいた時には、カルロスは既に控えの部屋に向かって歩き出していた。
彼女は慌ててその後ろを追ってカルロスに続いた。
「俺はお前を帰すことには反対だ」
控えの部屋の飛び入りを閉めたと同時、カルロスはそう言った。
「ネレウスは今恐らく混乱状態にあるだろう。ルースとの関係も不安定にある。そんな折りに前王の娘が……お前が帰ってくるとあっては、どんな刺激になり得るか分からぬ。民心に降る不安が、どのような形で押し寄せてくるか、俺には分からぬ。……とはいえ」
カルロスは深く息を吐きながら、深く目を閉じた。
事が事だけに、強く引き留めることも叶わない。
そんなカルロスに、モルガーナは優しく微笑んだ。
「ありがとうございます。私のことを案じてくださって」
モルガーナはカルロスの手を取って、握りしめた。
ふと瞳を見開いたカルロス。
モルガーナの翡翠色の瞳とぶつかった。
優しく微笑んでいる瞳には、しかしながら凛とした輝きも湛えている。
「父と最後の別れをさせてください。そして私は、この目で自分の生まれ育った国をもう一度見たいのです。何故あのようなことをしたのか、何を思ってその決断をしたのか、私は見たいのです」
カルロスは黙ってただただモルガーナを見つめた。
彼女を引き留める言葉を探して、思考を巡らす。
けれどカルロスにはそれ以上、彼女を引き留めることはできなかった。
彼女の大切な人との別れを、そして彼女自身の決意を無下にするわけにはいかなかったから。
「心配しないでください、私の故郷です。皆さんには良くしていただけました。悪いようにはなりません」
純真に笑うモルガーナ。
カルロスはその笑顔に、心がほどけるような心地を覚えた。
「……セシリオを供に付ける。それから葬儀が終わり次第すぐにルースに帰ることが条件だ。それでいいな」
「……! はい!」
モルガーナは決意を胸に、頷いた。
自分を見下ろすカルロスは、物憂げな色を瞳に湛えている。
モルガーナはそれに、少しばかり後ろ髪が引かれる思いがした。
彼に心配させるようなことを、自分は望んでいるのだから。
「大丈夫です、私の故郷ですから。」
(それでも、私は……)
自分の決意がその憂いを晴らすと信じ、モルガーナは故郷へ帰る準備に取りかかった。
モルガーナの船出は、その日の夕方。
彼女が乗るのは、ネレウスの船だった。
使者を乗せルースに入港した船は、彼女を乗せて帰路へとついたのだ。
船はネレウスまでの四日間。
モルガーナは甲板の上から、日の光を反射して煌めく海面を眺めて過ごしていた。
故郷へ戻れるというのに、モルガーナの心は暗澹としていた。
かつて楽しく過ごしていた故郷の実情。
まだどこかで、何かの間違いだと思いたい気持ちがあった。
もしかすると、カルロスやルースの国民は何か大きな思い違いをしているのではないか……そんなことを考えては、しかし彼を信じたい気持ちがその考えを吹き飛ばしてしまう。
まるでルースに嫁いだばかりの頃と、そっくりな気持ちで過ごすモルガーナだった。
少しだけ違うことと言えば。
「僕、ルースを出るのは初めてなんです。ずっと王宮で仕えていましたから。ネレウスって、どんな国なんですか?」
船上で過ごしていた、ある日のこと。
海を見渡すばかりのモルガーナの側に寄ってきたのは、セシリオだった。
それに気がついたモルガーナは、はたとそちらを振り返る。
モルガーナと同じように、海を見下ろすセシリオ。
その瞳にはモルガーナとは違い、希望に満ちた面持ちで海面を眺めている。
この船の行き先に、胸の鼓動を昂らせている様子だった。
「ルースよりも、大きな国だと聞きました」
「えぇ、路は全て煉瓦で舗装されていて、それからお城も大きくて広くて……でも太陽はルースの方が眩しいわね。冬もきっと、ルースより冷えるでしょう。それから……それから……」
少しずつ、ネレウスの記憶を辿るモルガーナ。
そうしている内に、自然と表情が和らいでくる。
暗く沈んだ気持ちも晴れていく。
──あれこれ悩んでたって、仕方ないわ。
──気をしっかり持たないと。
そう気持ちを切り替えられたのは、一重にセシリオのお陰だった。
そうしている内に船は、ついにネレウスの港へと寄港した。
薄暮に沈むネレウスの家々は、ランプの明かりで暖かく輝いている。
懐かしさで胸を締め付けられるような思いと、すぐにでもあの街へ駆け出したい衝動に駈られながら、タラップが降ろされるのを待った。
そのタラップが降りると、両脇を囲むようにネレウスの兵が列を作って並んだ。
モルガーナが初めてネレウスを発った時と同じように。
彼らに自分の感情を悟られないよう、しずしずとタラップを下る。
一段一段、故郷へと近づいていく。
そしてついに、彼女の足がネレウスの土地へと降り立った。
その時だった。
突如、タラップの側に並んでいた兵が一斉に剣を抜いたのだった。
「……!?」
驚くモルガーナを余所に、剣の切っ先は彼女の真後ろへと伸びていく。
息を飲み背後を振り返るモルガーナ。
剣先は彼女の背後に立っていた、セシリオを取り囲んでいた。
突然のことにびっくりして目を見開くセシリオ。
徐々に状況を理解し始めた彼の顔色が、みるみる青くなっていく。
ジリジリと後退りをするも、剣先もそれに合わせて進んでいく。
「な、何をしているのです!? 彼はルース国王の臣下の者です。無礼な真似はお辞めなさい!」
目の前の出来事が、にわかに信じられなかった。
けれどその異常な出来事は止めなければならないという焦りが、彼女を動かした。
「モルガーナ……様……これは……」
「何をしているのです!? 剣を納めなさい!」
恐怖におののくセシリオと、焦りながらも毅然と声を張るモルガーナ。
そんな彼女の後ろで、低い声がした。
「あぁ、やっと帰って来られたのですね、モルガーナ様。貴女のお帰りをお待ちしておりました。私も国民も……ずっと待っておりました」
モルガーナはゆっくりと後ろを振り返る。
果たしてそこには、オズヴァルドが立っていた。
暗い夜空の下で見上げたオズヴァルドの顔は、最後に会った時よりも窶れた印象が伺えた。
「オズヴァルド……貴方……いいえ、とにかく兵に剣を下ろさせなさい。他国の客人に無礼を働いているのですよ!?」
「いいえ、モルガーナ様。あれは国王の命にて振るわれる剣でございますよ。ネレウスに敵対する国を討つための剣にて……」
「ネレウスの敵……? どういうことですか、それに国王って……」
あまりの出来事と、沸いてくる疑問の数々。
そんな中、モルガーナは一つのことに思い至った。
自分の父が亡くなれば、次の王が立てられる。
そして継承順位第一位だった人物が今、目の前にいる。
オズヴァルドは混乱と動揺を覚えるモルガーナとは対照的に、悠然としているばかりだった。
「モルガーナ様、今日はもう遅いですからお休みくだされ。明日になれば全てお見せ致します。私の統治する、ネレウスのことを」
目の前にいるよく知る人物。
彼がいずれ国王になることも、分かっていた。
それなのに彼の存在が、その事実が怖くて堪らなかった。
夜が明けた。
モルガーナはルースに出立する日まで使っていた自分の部屋で、一晩を過ごしていた。
上陸してからというもの、彼女は疑問や疑念を払拭する間もなく、かつて住んでいたネレウスの城へと連れていかれた。
ルースから着てきたドレスは脱がされ、厚手の夜着を着せられ半ば閉じ込められるように部屋へと連れて来られたのだ。
馴染んだはずの部屋なのに、どうにも居心地が悪い。
モルガーナは寝付くことなく、ベッドの端に座り続けていた。
そうして、一夜が明けた。
朝日が昇り城下が朝市で賑やかになる頃になり、モルガーナの部屋に侍女がやってきた。
そして彼女の身支度を整える。
久々に着用した、コルセットと幾重にも生地が重ねられたスカートには、もはや懐かしさすら覚えていた。
再び部屋の扉が開かれたのは、侍女が去って彼女が部屋に一人になった時だった。
まるで推し測ったかのように彼はモルガーナの部屋へとやってきた。
「どうやら、一睡もできていないご様子。さぞや不安が貯まっていたことでしょう。心中お察し致します」
そちらの方を見やると、オズヴァルドが慈愛に満ちた微笑みを浮かべて立っていた。
「……セシリオはどこ? 無事なのでしょうね?」
モルガーナはすっくと立ち上がってオズヴァルドへと詰め寄った。
「ご心配なく。捕虜に危害を与えることは禁じられております故、丁重に扱っておりますとも。……モルガーナ様はやはり変わらずお優しくあられる。他国の、それも下卑た扱いをしてきた者だというのに」
オズヴァルドは彼女の頬に指差で触れた。
柔らかい肌に、剣の稽古で分厚くなった指が僅かに沈む。
あくまでも優しくも凛々しいその声音は、モルガーナのよく知るオズヴァルドだった。
けれどモルガーナは、むしろそれが怖かった。
剣先をセシリオに向ける兵士、そしてそれを指揮していたオズヴァルド。
未だに信じられない自分がいた。
「ねぇオズヴァルド。貴方は何か誤解をしているわ。ルースでは貴方の考えているような扱いをされた覚えは無いもの。だからセシリオを解放して。彼を捕らえていても、何にもならないわ」
「何をおっしゃる。あのように肌ばかりら露出させたはしたない服を着せられ、肌も日に焼けているではないですか。私には分かります。ですから……」
「やめて!」
モルガーナは思わずオズヴァルドの言葉を遮るように立ち上がった。
変わらずベッドの端に座るオズヴァルドを見下ろしながら、必死に叫ぶ。
「あれはルースの伝統的なドレスです! それに日に焼けてるのはバルコニーに出て過ごしていたからよ! それ以上の侮辱は許しません! ……私はただ、お父様のお見送りに帰ってきただけ。だから早くセシリオを解放してお葬式を始めて。……それ以上、ルースのことを悪く言わないで」
「……えぇ、式はすぐに行いますとも。ルースに攻め入り彼の地の支配を手土産に!」
ふいに瞳と瞳がぶつかった。
モルガーナは自分を見返す瞳は、爛々と輝いているように見えた。
まるで狡猾な獣を思わせるような瞳。
以前よりいくらか窶れた風体と、くっきりと上がった口角のせいで、それが嫌に際立って見えた。
「攻め入る……? 支配……?」
おののくモルガーナを余所に、オズヴァルドは続けた。
「たかが知れた小国の分際で我がネレウスの要求を跳ね退けたのだ。身の程を知らぬ者は制裁を受けるべきだ。……前国王は甘過ぎた。あんな小国の言い分に熱心に耳を傾け、少々威嚇がてらにルースへ船を向かわせた私に、お怒りさえ覚えられたのだ。その上我がネレウスの一番の宝すら差し出す始末。だが私が王になれば、そんなことなど許しはしない。この手で、奴らに立場を分からせてやるのです!」
オズヴァルドはすっくと立ち上がった。
モルガーナは苦い顔を浮かべて、そんな彼を見上げた。
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モルガーナの目に浮かぶのは、荒れたルースの最東端の島。
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「貴方のせいでどれ程ルースの方々が脅かされたか……!」
「あぁ、そんな艱難辛苦も最早これまで。貴女が私の元へと帰って来てくださった。ルースを調伏し喪が明け次第改めて婚約の申し入れをしましょう。どうかそれまで、もう少し辛抱なさってくだされ」
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そう、自分はルースの、カルロスの妃だ。
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オズヴァルドはこんなにも声を荒げたモルガーナを、彼女がルースへと嫁ぐまでついぞ見たことはなかった。
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怒りとそしてほんの少しの侮蔑的な色を抱えた視線がモルガーナを捉える。
「寝返るなんて……変な言い方をしないで。私は正式に嫁いだのよ。そして私は……」
言いかけたモルガーナの言葉はしかし、オズヴァルドに遮られてしまった。
ぬらりと立ち上がるオズヴァルド。
彼の大きな体が、モルガーナのすぐ目の前にまで迫っている。
その威圧感に、彼女はびくりと体を震わせてそれを見上げるばかりだった。
「オズ……」
一歩、オズヴァルドがモルガーナへと歩み寄った。
その一歩が酷く大きく、酷く重いもののようにモルガーナには感じられた。
男の大きな体が、今はとにかく怖かった。
突然、彼はモルガーナの手首を掴まえて、彼女を自分の方へと引き寄せた。
モルガーナが気づいた時には、彼女はベッドの上に引き倒されていた。
「……! やめて、何をするの!?」
オズヴァルドは自分の腕を振りほどこうとするモルガーナを、まるで意に介していない様子だった。
彼はもがくモルガーナの両手首を片手だけで束ねると、ベッドに縫い付けるようにして押さえつけた。
オズヴァルドの怒りに満ちた顔が、すぐそこまで迫っている。
「貴女は何も分かっていなかったのですね……。私がどんな気持ちで貴女を送り出したか……私がどんな気持ちで貴女を想っていたかを……!」
「やめて! 酷いことはしないで!」
抵抗を試みるも力の差は歴然、振りほどくどころではない。
オズヴァルドはモルガーナの腰の上に乗るように膝立ちになった。
そうして彼女の頬を空いている掌で、自分の方へと顔を向けさせる。
変わらず怒りを湛え続けるその瞳に、最早自分のことなど映っていないようにも思えた。
「その柔らかい肌、潤む瞳、満開の薔薇を思わせる唇……ずっと焦がれていた……触れたかった……。貴女に嫌われまいと堪えていたのに……もういい……それも今日までです……」
否やモルガーナの頬に触れていたオズヴァルドの掌が、彼女のコルセットを緩め始めた。
モルガーナはこの先に行われることに思い至り、その頬から血の気が引いていく。
「お願い止めて! こんな、こんなの……!」
そんな震える声は、オズヴァルドには届いていないようだった。
自分に襲い来るオズヴァルドを、彼女のか細い腕では押し退けることも叶わない。
そんなオズヴァルドはそのまま、苛立ち紛れに襟首を掴むと強引に開かせる。
絹が裂け、装飾が飛び散る。
途端に露になった、モルガーナの素肌。
陶器のように滑らかな乳房にその頂きに実る桃色の尖り、いとも容易く折れてしまいそうな腰つきも、全てがオズヴァルドの眼前に晒される。
「あぁやはり……そこらの女達とは大違いだ。まるで赤子のように無垢な肌、それなのにたおやかな肢体は男を誘うようにすらりと伸び……」
そんなオズヴァルドの声や視線は、徐々に淫欲に濡れ始めていく。
ずっと優しくしてくれたオズヴァルド。
そんな彼が、自分に対してそのような感情を覚えることも、ましてやそれを原動力にこんな行為を働くことも、何もかもが信じられないものだった。
「ずっとこうしてしまいたかったのを、私は耐えてきた……。それなのにあの国が全てを奪ったのだ……貴女も、貴女の純潔も……! 全て私の物になるはずだったのに……! ならば相応の罰を与えねばなるまいなぁ……。あぁ、あの下劣な国が血の海に沈む様子が、今からでも目に浮かぶ……」
モルガーナの目に映るオズヴァルドの姿は、ただ己の淫欲を満たし報復を与えるための、一匹の獣と成り下がったように見えた。
オズヴァルドの視線が、モルガーナの大きな膨らみへと狙いが定められる。
彼女の肌を這うようにして、オズヴァルドの無骨な掌がそこを目指して伸ばされた。
オズヴァルドの指が、荒々しくその柔肉の中に沈み込む。
「あぁ、貴女の体は素晴らしい……あんな男にげ汚されても尚、こんなにも温かい。それももう、過去のこと。これからはずっと私の手元に置いておける……」
オズヴァルドの指先が沈み込む度、モルガーナの肌に赤い楔のような跡が残る。
「オズヴァルド様……! お止め、ください……!」
モルガーナが痛みに悶えようとも、オズヴァルドは気にも止めることはなかった。
むしろそんな彼女の反応を、悦楽に溺れているものと錯覚しているのかのよう。
ここがいいのかと、もみくちゃにするばかりだ。
最早抵抗することも叶わなくなったモルガーナの目尻から、遂に一筋の涙が溢れた。
(カルロス……様……申し訳ございません……)
彼女が自責の念に苛まれながら、最愛の人を想ったその時だった。
部屋ノックの音が響いた。
「……なんだ、何用だ」
苛立ちそのままに、カルロスはドアに向かって低く唸った。
「し、失礼致しました。軍備について至急ご確認頂きたいことがありまして、こちらにオズヴァルド様がいらっしゃると案内を受けたのですが……」
扉の向こうにいたのは、武官のようだった。
武官はオズヴァルドのいつになく苛立った声に、たじろいでいるようだった。
「今参る。先に行っておれ」
オズヴァルドが短く指示すると、武官はそれに従った。
部屋が再び静かになる。
ふと、オズヴァルドはモルガーナの上から退いくと、乱れた袖口を直しながら、ベッドの脇に降り立つ。
「続きはいずれ……貴女も時期に分かるでしょう。貴女が誰の物であるか、貴女が愛するべき国はどこか。私が目を覚まさせてしんぜましょう」
茫然とベッドに仰向けになるモルガーナを、冷ややかに見下ろしながら言い放つ。
そして彼は何事もなかったかのようにキビキビと部屋を後にするのだった。
それから、どれ程時間が経っただろう。
ベッドの上に倒れたモルガーナは、ようやと自分の頭をもたげることが出来た。
見下ろした先にあったのは、無惨に引き裂かれたドレスと無理矢理暴かれた自分の体。
オズヴァルドに掴まれた跡がくっきりと浮かぶ手首。
そしてオズヴァルドがルースに放った言葉と仕打ちを思い出す。
ただただ、悲しかった。
あぁ、もうここには自分の知るオズヴァルドがいないのだと。
いいや、ともすれば最初からオズヴァルドのことを誤解していたのかもしれない。
ネレウスで穏やかに過ごした日々は、まやかしだったのではないかとすら思える。
──それでも、だからこそ。
モルガーナはかつてカルロスが自分に言った言葉を思い出した。
──モルガーナ、お前には……そんな二国の架け橋になって欲しかった。
彼の声を思い出したモルガーナの瞳に、徐々に生気が戻ってきた。
そして彼女は、自分が成すべきことを思い描き始める。
二つの愛する国のため、愛する人のために。
それから一週間程経った、夕刻頃。
モルガーナは自分の部屋で、窓の外を眺めて立っていた。
彼女の眼下には、夕日に染まったネレウスの街並みが広がっている。
オズヴァルドに襲われて以来の彼女の行動は、城に仕える者全てが目を丸くするものだった。
彼女は主だった重臣達に『一刻も早く父を弔ってほしい』『ルースへの侵攻を今すぐに取り止めてほしい』と訴えて回ったのだ。
いつも穏やかで周囲を和ませていたばかり彼女の、こんな姿は今まで誰も見たことがない。
しかしながらその成果は芳しいものではなかった。
対面する重臣達は皆一様に困惑の色を浮かべるばかりだ。
こと政治に関して何ら権限を持ち合わせていない、ましてや他国に嫁いだ身分のモルガーナの言葉よりも、やはりオズヴァルドからの命が絶対なのだから。
その気持ちに同情の余地は十二分にあるものの、神妙な顔をして言葉を濁すばかりだった。
しかしそんな中でも、モルガーナには気づけたことがあった。
「……モルガーナ様のおっしゃる通りでございます」
前王の頃から仕えている、ある重臣はポツリと溢した。
通された応接室は、その重臣とモルガーナ。
そして二人の付き人のみがいて、静かなものだった。
しかし廊下の方は、突然の王族の来訪に右往左往していることだろう。
そのことばかりは、モルガーナも申し訳なく思っている。
それでも、火急のこととなのだからと自分の我を通す。
「それなら今からでも遅くないわ! 今からでも出兵の取り止めをしましょう!」
光明が見えたと思い、すかさず自身の主張を繰り返すモルガーナ。
しかし相手は、苦い顔をするばかり。
「議会でも、あまりに強硬すぎるといった声は上がっておりました。前王の葬儀についてもです。しかし、オズヴァルド様の意向は変わらなかったのです。ご自身に同調しない者に圧力をかけ始められ、次第に諫言を上げるものはいなくなってしまったのです」
「そんなことが……」
オズヴァルドの苛烈さに、モルガーナは絶句するばかりだ。
「恐らく、この出兵には疑問を持っている民は少なくないでしょう。しかし……そう、貴女様をルースの王に奪われたことを恨みに思っていたり、資源を手に入れて国を発展させるためなら已む無しと考えている民も少なくありません。王の意向が変わらない以上、出兵の取り止めにはならないでしょう」
申し訳なさそうに頭を下げた重臣に、けれどモルガーナは考えを巡らす。
(やっぱり、出兵を良く思っていない人だっているんだわ……)
それならばこの愚挙を何としても止めなければ。
モルガーナは胸の前で指を組みながら、何か思案するように目を閉じるのだった。
モルガーナの見下ろす城下の市場は、沢山の人でごった返していた。
聞くところによれば、モルガーナが嫁いだ後しばらくはすっかり活気の枯れた街になっていたという。
そして賑わいが以前と同じくらいにまで戻ったのは、彼女が帰ってきてからということらしい。
──そんなにまで深く自分を愛してくれた国なのだ。尚のこと戦などに明け暮れさせるわけにはいかない。
モルガーナはクローゼットの奥に隠していた、フード付きの地味な外套取り出した。
モルガーナはそれを羽織ると、部屋をこっそりと後にした。
先程まで見下ろしていた街と港の景色が、宵に沈もうとしている。
今夜、ルースに向けてネレウスの戦船が出立する。
もう自分ができることは少ない。
モルガーナは決意を胸に、城を飛び出して行った。
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