【完結】蒼海の王は朝の陽射しに恋焦がれ~冷徹な王の慈愛に溺れて~

奈波実璃

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第二章

ルース国へ

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 モルガーナの長い髪と薄い衣を潮風が優しく撫でていく。
 断崖絶壁の上に建つ白亜の城のバルコニーに、彼女は立っていた。
 真下を眺めれば、崖面を白波が濡らしている。
 彼女が初めてルース国の王・カルロスに出会ってから一ヶ月。
 モルガーナは海を眺めながら、その時のことを思い返した。
 ルース国の文化や風習、しきたりを休むことなく学び続けている彼女であるが、ネレウスのそれとの違いに毎日が驚きと辟易に満ちていた。
 例えば服がそうだ。
 ネレウスにいた頃はパニエをふんだんに使い、コルセットで胴をきっちり締め上げるようなドレスを着ていた。
 しかしルースでは一枚の布を体に巻き付けて紐やピンで留めるという簡単なものであった。
 海に囲まれ海と生きる民にとっては、海中に転落した際に簡単に脱ぎやすい服が重宝されるそう。
 何より、暑く海に囲まれたルースで過ごすには快適なものではあった。
 王家や貴族が着る服も、材質が違ったり装飾が華美になる程度で、モルガーナからしてみれば大して違うものには見えなかったけれど。
 ──ネレウスの皆にこんな格好を見られたら、きっと卒倒してしまうわね。
 彼女は水平線の向こうを、じっと見つめた。
 ルースの城には大きなバルコニーは二つある。
 一つは大広間から出られる、ルース国の王都を見下ろすことができる、国の行事に使うもの。
 もう一つはその裏側にある、王と妃の寝室に誂えられたものだ。
 そのバルコニーから臨めるものは、群青の海と薄縹の空が穏やかに交わっている様子ばかりだった。
 日に一度か二度、崖下に穿たれた城内に直結する洞窟に船が進む以外、これといった大きな変化はない。
 けれど彼女は、時間が空きさえすれば無意識の内にそこへと足を運んでしまう。
 こちらのバルコニーが面する方角、ネレウスがある方向とは反対だ。
 けれど無意識の内に、その海の向こうに見えもしない故郷を探してしまうのだった。
 そうやってモルガーナは、ルースで暮らす自分の身に起こったことを、消化していくのだった。
 
 モルガーナを乗せた船が沈没してから、数日が経った。
 モルガーナの体力が回復するのを見計らうい、彼女を乗せた船が改めてルース国の本島へと出立した。
 彼女を運ぶのは、ルースの船である。
 本来なら本島まで、ネレウスの船で向かう予定であったが当の船が沈没したための予定変更だ。
 ……モルガーナとネレウスとの別れが、数日早まってしまった。
「あそこはルース最東端の砦にだったんです。先々代の王が建てたものなのですが、今でも充分快適に使えますよ。ルース本島まで、もうすぐです。ほら、あちらにうっすら見える島が本島です」
 カルロスの側に控えていた、栗毛の髪を持つ少年・セシリオは出発したばかりの船の甲板で、モルガーナを案内していた。
 彼はカルロスの側仕えをしている少年らしく、同時にモルガーナの世話も仰せつかっているらしい。
「そう……でも、どうしてその……カルロス様はこちらにいらしたの? わざわざ王都を離れるなんて……」
 そんなモルガーナは、毛布を一枚拝借して服の上からそれを羽織っている。
 失礼だとは分かっていても、ルースの薄く露出の多い服を堂々と着ることに抵抗を感じてしまったからだ。
 そんなセシリオは、モルガーナの質問に明らかに目を泳がせている。
「それは……ですね……」
「何か答えにくい理由があるのですか?」
「……申し訳ございません」
 モルガーナはこれ以上、深く追及はしなかった。
 政治的な話は、常に自分の預かり知らぬところでいつも動いている。
 ネレウスではずっとそうしてきたし、それは多分、ルースでも同じだろう。
(今はとにかく、ルース国の習わしに慣れるように努力しなくちゃ)
 モルガーナはそう、自分に言い聞かせた。
 けれど──。
 モルガーナはそれとなく自分の唇に指を這わせた。
(初めての、キス……)
 撫でられた頬、強く掴まれた顎先、そして強引に奪われた唇、彼女に触れた感触の全てが、未だにモルガーナの体に焼き付いている。
 婚約者に捧げると決めていたものである。
 結局のところそれは叶ったけれど、心は未だネレウスに残っている彼女である。
 モルガーナの内心の不安は、より裾野を広げて彼女を蝕むのだった。
 そんなモルガーナをセシリオは、船室へと通した。
 一番奥まった場所に誂えられた船室。
 そこにいる人物はもちろん──。
 セシリオはモルガーナだけを部屋に通し、外から扉を閉めた。
 太陽光が遮られ、部屋が僅かに暗くなる。
 それがモルガーナの緊張をより強くしていった。
「大事はないか?」
 部屋の扉が開かれた途端、低い声が彼女を包んだ。
 モルガーナはその聞き覚えのある声に、反射的に体を竦めさせた。
 月光を思わせる銀色の髪を持つ精悍な男が、部屋に誂えられたベッドの端に腰をかけていた。
「カルロス……様……」
 モルガーナは後退りしそうになる足に、ぐっと力を込めてその場に留まった。
 そこにいたのは、ルース国の王・カルロスだった。
 彼と顔を合わせるのは、随分久しぶりのように思えた。
 それでもモルガーナの記憶には、確かに彼の行為が焼き付けられていた。
「お久しぶりでございます、カルロス様。この度は我がネレウスの民を、そして私をお救いくださり感謝の言葉もございません」
 モルガーナは頭から爪先まで神経を張り巡らせた、一国の姫たる丁寧なお辞儀をした。
「『我がネレウス』、か」
 ぎしりと、ベッドが軋む音にモルガーナは恐る恐る頭を上げた。
「……!」
 いつの間にかカルロスが、彼女の眼前に迫っていたのだ。
「カ、カルロス、様……あ、あの……」
 自分を見下ろすカルロスの目に、モルガーナは体を氷で射抜かれたように感じた。
 彼女は自分に迫る体躯を恐る恐る見上げるばかりだった。
「私、何かお気に障るようなことを……」
 困惑と恐怖に今にも崩れ落ちてしまいそうな程、彼女の足は震えていた。
 けれど次の瞬間、そんなモルガーナの足がふわりと宙へ浮く。
 彼女の体が、カルロスに横抱きにされたのだった。
「あ、あの……!?」
 戸惑いながら見上げたモルガーナの瞳が、カルロスの横顔を捕らえた。
 そのルースの王の、なんと美しいこと。
 静謐さすら覚える彼の横顔に、モルガーナは先ほどまで覚えていた恐怖すらも忘れて、時が止まったようにその表情を見上げていた。
 そうして気がつくと、モルガーナはカルロスの手によりベッドに横たわらせられていた。
「未だ心は故郷に残っているようだな。まぁ、今は良しとしよう。いずれルースの女王としての自覚を嫌と言うほど植え付けられよう」
 カルロスに見据えられたモルガーナは、彼の行動が何を意味するか理解することに時間を有した。
 それが分かったのは、カルロスの指がモルガーナの服の留め具に伸びた時だった。
「……! カルロス様……! お止め、お止めください……!」
 モルガーナは自分に伸びた手首を掴んで、それを制しようとした。
「まだ婚礼の儀も終わっておりません! 天罰が下ってしまいます!」
「天罰……確か、ネレウスではそう考えられているようだな」
 しかしモルガーナの言葉は、カルロスを止めることができなかった。
「先にルースについて一つ教授してやろう。ルースとネレウスの信仰する神は違うものだ。ネレウスは婚礼前のまぐわいをきつく戒められているそうだが、ルースではネレウウス程厳しく戒められるものではない。婚礼の儀と前後する程度なら、神も民も誰一人とて文句は言わぬさ」
 カルロスは彼女が羽織っていた毛布を取り払い、モルガーナの服の留め具にも手をかけた。
 それはいとも容易く外されてしまった。
 一枚布はモルガーナの体をあっさりと滑り落ちていき、彼女の隠されていた柔肌が、カルロスの前に露になる。
「い、いや!」
 モルガーナはカルロスの眼前に露になった、柔らかい膨らみを隠そうと両腕を交差させ身を捩った。
 強引な口づけ、そして暴かれた素肌。
 モルガーナの身の上に降りかかった数々の出来事は、彼女の身を恐怖ですくませた。
「モルガーナ」
 しかしカルロスは、低く優しい声音でモルガーナの名を呼んだ。
 それがあまりに優しいものだったから、モルガーナは縮みこませた体を僅かに解いて、彼を見上げるのだった。
 カルロスの掌が、モルガーナの頭を撫でる。  
 優しく頭を撫でられれば、さっきまで恐怖の念を抱いていた相手だということを、忘れてしまいそうになる。
 ──何故、彼は私の頭を撫でてくれるのだろう。
モルガーナは色々な感情がない交ぜになって、混乱してしまう。
「無理強いするつもりはない。今のところはな」
 頭を撫でるカルロスの掌が、自身の体を隠すモルガーナの腕を掴んだ。
 片腕で簡単にそれを取り払うと、モルガーナの両の乳房が彼の眼前に無防備に晒されてしまう。
 カルロスは反対の手で、徐にモルガーナの大きな膨らみへ触れた。
「っ……」
 カルロスの逞しい指が、モルガーナの白い肌に食い込む。
 そうして余すことなく、カルロスはその柔らかさを堪能するのだった。
 カルロスの指先に翻弄され、モルガーナの胸はされるがままに蹂躙されるばかりだった。
 それを見下ろすモルガーナは、沸き上がる羞恥に顔が熱くなるのを感じた。
 しかし彼女は薄々、それが羞恥のみから生じたものではないことにも気づいていた。
 次第にカルロスの指先が、モルガーナの乳房の先端を掠め始める。
「ひゃっ……!」
「どうした? 何かしてほしそうな表情をしているぞ」
 カルロスの指先は、モルガーナの乳輪を軽く擦るように触れ始めた。
「そっ、こはぁっ……んっ……」
 やめて──。
 そう声を発しかけて、モルガーナは声を飲んだ。
 それがはしたないことだと分かっていても、次に与えられるものを期待している自分に気がついたからだ。
「そこは、なんだ?」
 ふと、カルロスがモルガーナの耳元に再び囁いた。
 その声音の優しさ、彼の体にふわりと漂う薫り、彼の体を流れる血潮の気配、そして自分に覆い被さる逞しい体に、モルガーナは頭が甘くとろけるような感覚を覚えた。
 それらはまるで、海のようだった。
 彼女を飲み込まんと荒れ狂う波ではない。
 故郷ネレウスで、彼女を優しく包んでいた広大な海を彷彿させるものだった。
 モルガーナは自分の強張る体から、ゆっくり力を抜いた。
「ん……」
 自分の肌に絡まる、カルロスの指先の感触がより濃厚なものになっているのを感じた。
 自然、モルガーナの吐息が熱く濡れ出す。
 そんなモルガーナ、カルロスは面白そうに見下ろしていた。
 ふと、カルロスは自分の体をモルガーナから離し、胸の辺りにまで顔を近づいていく。
 モルガーナがそれを怪訝に思う間もなく、カルロスはすぐさま色づくモルガーナの先端を唇で包むのだった。
 その瞬間、モルガーナの体が先程以上にピクリと大きく跳ねた。
「やっ、そんな、ところっ……!」
 身悶えるモルガーナを余所に、カルロスはモルガーナの感じる場所を責め立てた。
 始めは唇で優しく挟み込み、軽くつつくような甘い愛撫をモルガーナに与える。
 その最中も、カルロスの掌はモルガーナの双球を堪能すべく、彼女の胸を揉みしだく。
「ひゃうっ、ん、もっ……」
 無垢なその場所は、カルロスにされるがままだ。
 次第にカルロスは自身の舌を唇から溢すと、嬲るように硬く尖った場所を転がし始めた。
(な、に……これは……)
 モルガーナは自分の口から溢れる蕩けた声を、どこか遠くに聞いていた。
 そうしてそんな、はしたない自分を晒してしまわぬようにとそれを押さえようと努めた。
 しかしそんなモルガーナのいじらしい姿は、むしろカルロスを掻き立てるのだった。
 一頻り彼女を攻め続けたカルロスは、モルガーナを見下ろすように首をもたげさせた。
 そして自身の唾液で光るモルガーナの乳房を愛しげに撫でながら、口角を上げるのだった。
「こんなに色づき始めている……こんな風になるのは始めてか?」
「そんなっ、ことぉ……ぅ、ん……」
 モルガーナはカルロスの言葉を遮ろうとするも、彼女の濡れた小さな声は、再びカルロスから与えられ始めた刺激に掻き消された。
 カルロスはモルガーナの先端を弄びながらも、そんなモルガーナの様子が愛しいかのように、小さな笑い声を上げた。
 次々と襲う初めて知る快楽に、モルガーナは自身でも知らぬ間に、内腿を擦り合わせていた。
 そこがたまらなく熱く湿っていくことに、モルガーナは気づいていた。
 それをどうにかしたくて、でもできないもどかしさにどうにかなってしまいそうだった。
 そんなモルガーナを他所に、カルロスの掌は彼女の腿を伝いながら、下腹部へと指先を差し込むのだった。
 カルロスの指先が、モルガーナの茂みをかき分け、彼女の秘められた場所を暴こうと伸ばされる。
「カ、カルロス、様……」
 モルガーナはすがるような目付きでそれを追った。
 熱でぼんやりする意識では、それが精一杯だったのだ。
 くちゅり。
「あぁっ、なっ、そこ……はぁ……!」
 その水音が聞こえた途端、モルガーナはまるで下腿の痺れるような感覚を覚えて身を悶えさせた。
 カルロスの指は、彼女の膨らんだ芽をつつくようにして弄ぶ。
「もうすっかり水浸しだ。もっとよくしてやる」
 カルロスはそう言うと、モルガーナの敏感な芽を人差し指と中指で挟み込み、しごくように擦った。
「いやっ……ぁあっ、もっ、んん……カルロス、さまぁ……」
 カルロスから与えられるものにより、モルガーナは否応なしに昂らされ、吐息を漏らす。
 初めて知る快感。
 下腹部が淫らにすぼみ、物欲しげに波打っている。
 そこからせり上がってくる脈動が、どんなも意味を持っているかすら彼女には見当がつかない。
「んんっ、あっ、だめっ……んんん!」
「我慢をするな、身を委ねてみろ」
 ──身を、委ねる?
「ん……! これ、なに……あっ、いやぁ!」
 人差し指と中指は、彼女の無防備な芽をもみくちゃにしていく。
 絶え間なく送られる悦楽に、この先自分がどうなってしまうのか、わからない。
 けれど下腹部に集まる熱が、すっかり彼女の中で膨れ上がり最早我慢の限界だった。
 ついにそれは、弾けてしまった。
「ひゃあはああんんん!」
 頭の中で火花が弾け、下腹部の泉から大量の愛液が流れ落ちる。
 彼女の下肢に流れる愛液さ、カルロスの指を伝い落ちる。
「初めてにしては上出来だ、モルガーナ」
 その言葉が皮肉なのか真意より誉めているのか、今のモルガーナにはそれを判断出来ないほどであった。
 そんなモルガーナの姿を前に、カルロスは手を止めることはしなかった。
 それどころか、更に奥まった場所へと指を差し入れる。
 愛液が溢れた、泉がある場所へ。
 カルロスは人差し指を、モルガーナの硬く閉まった場所に押し込んだ。
 今で何も受け入れて来なかったモルガーナのその場所は、カルロスの指の行く手を阻むようにより強く中を閉ざす。
 カルロスの侵入は、爪の先程で止まってしまった。
「モルガーナ、力を抜け。でなければ余計、辛いものになる」
 カルロスはモルガーナに囁いた。
 けれどモルガーナは、沸き上がる羞恥と初めて知る感覚に押し流されまいと、身を硬くするばかりだ。
 カルロスはそんなモルガーナの様子に、ため息を吐いた。
 彼はモルガーナの膣口を押し広げながら、ゆっくりと指を差し入れる。
「うっ……くっ、んっ! 痛……いっ」
 モルガーナの唇から時折漏れる呻き声は、その度に彼の侵入を止めさせる。
 そうしてカルロスは、徐々に徐々に、モルガーナに自分の指を馴染ませながら秘密の場所を進むのだった。
「そら、全て飲み込んだ。指一本でこれとは……中々難儀なものだ」
(ぜん……ぶ……)
 モルガーナは自分の内で、存在感を放つものから意識を反らすことが出来なかった。
 頭に思い浮かぶのは、自分を愛撫し、快楽にまで責め立てた、太い指だった。
 それが今、自分の中にある……。
 絶望にも似た感情が、胸の底からせり上がってくるような感覚を覚えるのだった。
 しかしそれも束の間、モルガーナの中に潜り込んだカルロスの指が、その中で暴れだしたのだった。
「っあ、なっ、に……あっあぁっ……!」
 モルガーナの無垢であった場所に、カルロスは新たな悦楽を与えようと動くのだった。
「あっそこっ、やめぇっ……!」
 ふと、モルガーナの白い肢体が大きく弓なりに反れた。
 臍の奥を押しつけるように蠢く指は、ふとモルガーナの深く感じる場所を捉えたのだった。
 彼女のそんな様子に、カルロスの口角が自然と上がった。
 カルロスはモルガーナの中に、もう一本、もう一本と指を差し入れはじめた。
 そうして三本の指を使い、モルガーナの最奥を責め立てるのだった。
「カルロス、さまっ、もう許し……てっぁうっ……!」
 圧迫感を覚えていたはずのモルガーナの中は、いつの間にか別の感覚──快感を彼女に教えていた。
 モルガーナの膣壁は、カルロスの指にギチギチと絡み付くように締め付けるのだった。
 カルロスはそれを面白がるように、更に抽送を続ける。
「あ、あぁ……! もっ、んん!」
 一際強くカルロスの指を締め付けたと同時、モルガーナの背が弓なりにしなる。
 頭の中で再び、火花が散った。
 そして愛液が垂れてカルロスの指を汚す。
 カルロスがそれを認めると、ゆっくり指をモルガーナから引き抜いた。
 そうしてモルガーナに覆い被さっていたカルロスは、彼女の体から身を起こした。
「これ以上のことをして塞ぎ込まれても、こちらに利はない。今回はここまでとしてやろう」
 モルガーナは怪訝そうに、カルロスの姿を目で追った。
(終わっ……たの……?)
 最初に彼女を襲ったのは、行為から解放からの安堵。
 けれど同時に、素肌に寒々とした空気が触れたような感じがして、どこか寂しさも覚えるのだった。
 モルガーナはそんな自分の体を、抱き締めるようにしてベッドの中に収まっていた。
そんな彼女を残して、船室を後にしようとしたカルロス。
 その足がふと、扉の前で止まった。
 がらんとした室内で小さく震えるのは、まだ少女と呼んでも差し支えないような、か細い体。
 震えるモルガーナの肢体が、再び逞しい体に包まれたのはその直後だった。
(カルロス……様……)
 モルガーナは伏せていた顔を上げた。
 彼女の視界に、薄い布に包まれたカルロスの体があった。
 カルロスの腕の中に収まっているせいで、モルガーナは彼の表情をまでを伺うことはできなかった。
 彼の体から漂う潮の香り。
 心地よかった。
 その心地よさが、倦怠感に苛まれるモルガーナを優しく癒す。
 モルガーナは瞼を閉じて、その安寧を受け入れるのだった。
 
 モルガーナを乗せた船がルースへ着いたのは、次の日の早朝だった。
 カルロスの意思か、それとも偶然か、不思議なことにモルガーナは狭い船の上でも彼とあの出来事以来顔を合わせることはなかった。
 今、船はルースに辿り着こうとしているはずなのに、甲板に立つのは船員以外ではモルガーナとセシリオだけ。
 そんな船は、いよいよルースの姿をモルガーナへと見せた。
 朝ぼらけの中に、その白い島は立っていた。
 船が徐々にその島に近づくにつれ、モルガーナは建物の細部まで視認できるようになっていく。
 島が白く見えたのは、そこに建つ家々のせいだった。
 ルースの家々の壁は、全てまっ晒な白色をしていたのだ。
 それが太陽の光を反射させて、浮かび上がっているのだ。
「雲一つない真昼間に訪れれば、燦々と降り注ぐ日光のおかげで、まるで島全体が光輝いているように見えるんですよ」
 その島を見つめるモルガーナの側にはセシリオが立っていた。
 そうして彼女の感情を汲み取ったかのように、自ら愛する国のことを説明する。
「……」
 モルガーナはしばし、その景色の虜になっていた。
(……きれい)
 凡庸な感想だけれど、その景色を例える言葉をモルガーナは持ち合わせていなかった。
 自分の故郷を離れた悲しみや、自身の身の上のことなど一時忘れ、静かな心でその景色を眺めている。
 あの美しい景色の中に、自分も加わることにむしろ内心高揚している程に。
 しかしモルガーナの乗る船は、その港に横付けされることはなかった。
 船は島を大きく迂回すると、島の反対側へと進む。
 港の裏側は、高い崖がそびえ立っていた。
 その縁には、港の家々よりも勇壮な造りの城が建っている。
 まるで崖が、白亜の王冠を被っているように。
「あの、港には停泊しないのかしら?」
 モルガーナは傍らのセシリオに訊ねた。
「えぇ、そうです。ほら、崖下に洞穴が見えるでしょう? あれはお城に直結していて、船ごと直接乗り入れられるんですよ。街を横切るよりも安全ですから」
 セシリオの説明は納得のいくものだったけれど、モルガーナの心は晴れなかった。
 モルガーナはさっき見つめていたルースの街を思い出す。
 ルースの街にも、ネレウスの街と同じように港から城へ伸びる大通りが見受けられた。
 ──もしもあの道を進んで城へ向かうとしたら、どんな気分で登っていったのだろうか。
 詮のないことと分かっていながらも、モルガーナはぼんやりとそんなことを考えるのだった。 
 
 船が城の内部へ続くという洞穴の中をくぐる。
 暗い洞穴の中は、ぼんやりと灯っていたランプの光で辛うじて照らされていた。
 船一艘が通れるように掘削された洞穴。
 その両脇には人が歩いたり作業したりする程度の足場が設けられている。
 梁も巡らされ、造りは頑強であることが伺える。
 けれもモルガーナにとっては、その剥き出しの岩場や梁、そして明かりを与えるランプの光にすらも未知の恐怖を覚えるのだった。
 少なくともネレウスの城て暮らしているだけでは、到底目にかかれないものであったから。
 船が停止して、タラップが洞穴の足場に落ちる。
 タラップを一歩一歩下るモルガーナ。
 その足が縺れたのは、彼女の片足が洞穴の均されていない足場についた時だった。
 踵の高い靴が、岩場の隙間に挟まってしまったのだった。
(あっ……! )
 とモルガーナが思った頃には、彼女の体は地面に落ちていっていた。
 しかしそんな彼女を抱き止める腕があった。
 その腕のおかげで、モルガーナは怪我を免れたのだった。
 モルガーナは自分を抱き止めた人物を見上げた。
「怪我はないか?」
 カルロスだった。
「あっ……! いいえ、怪我はございません」
 カルロスはモルガーナから返事を聞くと、彼女がしっかりと立てるように支えた。
 そうしてそのまま、モルガーナはカルロスに半ば支えらるように歩を進まされた。
「……! お、お離しくださ……」
「また転ばれては困る。……そこの昇降機に乗るまでの辛抱だ」
 カルロスにそう言われて、モルガーナは我慢する他になく。
 モルガーナの脳裏に浮かぶのは、船上で行われた……。
(……! いけないわ、そんなこと……)
 カルロスのたくましい腕が、薫りが、思い出させる。
 それを頭の中から取り払おうと、モルガーナは深呼吸をする。
 そんな自分を、カルロスはどう思うだろうか……。
 少しばかり、それを気にしつつ。 
 
 昇降機に乗り込み、モルガーナはいよいよルースの城へと辿り着いた。
 カルロスはそこで、ようやとモルガーナを解放する。
 城の中では数人の使用人や臣官が待ち構えていた。
 カルロスはすぐさま臣官に囲まれてしまい、モルガーナと離ればなれとなる。
 その姿を、モルガーナはどこか寂しい気持ちで見ていた。
 けれどモルガーナもまた、侍女に囲まれてしまい彼の姿を目で追うことはできなくなってしまった。 
 
 そんなモルガーナは、城の一室へと導かれる。
 沢山の侍女に囲まれて彼女が連れて来られたのは、ドレスルーム。
「モルガーナ様、お疲れではございますでしょうが、こちらにお着替えくださいますよう」
「これって……」
 侍女の一人が捧げ持っていたのは、真っ白なドレスだった。
 今モルガーナが着ている服と比べると、繊細な刺繍が施されていたり、生地も明らかに上等なものが使われているようだ。
「ウェディングドレス……よね?」
「はい、これより婚約の儀式が執り行われる予定でございます」
「これから? 随分性急じゃないかしら?」
「国王様のご希望でございます。ここはどうか、従いください」
 カルロス様が……。
 モルガーナの頭の中は、好悪といった感情よりも、何故といった疑問で埋まった。
 果たして国民に、臣下に、この婚礼の儀のことをしっかり告知されているのだろうか。
 祝いの準備は済んでいるのだろうか。
 しかしその疑問を解消する間もなく、モルガーナはそんな味気ないウェディングドレスを身につけることとなった。
 婚礼の儀式が行われるのは、城内の神殿の間だった。
 城の一画に誂えられた、この国の神を奉るための部屋であると、道すがら侍女から訊いた。
(こんな話も、ゆっくり訊けないだなんて……)
 何か事情があるのだろうか。
 しかしそれを訊ねる余裕は自分にないし、城の者にもなさそうに見受けられる。
 ドレスの裾を侍女に持たせながら、モルガーナはドレスルームから直接、神殿の間へ向かう。
 いい加減、旅の疲労と相まって暗く重い感情に苛まれ始めている。
 けれどそうも言ってられないのが、今のモルガーナの立場だ。
 彼女は神殿の間の扉を前にして、心を落ち着かせようと努めるのだった。
 ふと、城の窓からルースの街を見下ろしてみた。
 天頂に昇ろうとする太陽が、ルースの街並みを照らしている。
 しかしその光景に、彼女は違和感を覚えた。
(人通りが少ない……ような?)
 白く輝く街並み、彼女の眼下の隅には街の大通りがあった。
 しかしその大通りはネレウスのそれとは大分印象が違う。
 ネレウスの街は、日の昇る時間であればいつだって人々が行き交っていた。
 しかしルースの大通りは、閑散としている。
 そして時折通りを横切る人も、皆俯きながら早足で去っていくのだった。
 それはモルガーナの瞳に、物悲しい景色として映る。
 モルガーナの僅かな間の感傷を断ち切ったのは、神殿の間の重たい扉が開く音だった。
 蝶番の軋む音に、彼女はその向こうを振り仰ぐ。
 扉が開けきった時、彼女を柔らかな青い光が包んだ。
 神殿の間の祭壇、その真後ろには淡い青色のステンドグラスが、壁一杯に嵌め込まれていた。
 それが太陽の光を通して、神殿の間に降り注いでいる。
 まるで海の中を覗きこんだような、そんな青い景色だった。
 そしてそこに、一人佇むのは。
(カルロス様……)
 彼女はこちらを振り返るルースの国王に目を奪われた。
 ほんの少し顔を見なかっただけのはずなのに、久々に顔を合わせたような気がする。
 勿論、彼女が目を奪われたのはその為ではない。
 ステンドグラスを通った青色の光に染まる銀の髪が、神殿の中で静かに靡いている。
 それはまるで──。
(天使みたい……)
 モルガーナがカルロスに対してそう思ったのは、二度目になる。
 無意識の内に沸き上がった感想だった。
「モルガーナ様、どうぞ前へ」
 ぼんやり見とれそうになるところを、モルガーナは侍女の囁きで踏みとどまる。
 そうして言われた通りに、部屋の真ん中を突き抜ける道を歩くのだった。
 その絨毯の敷かれた道の両脇には、長椅子がずらりと並べられていて、ちょうどネレウス国の教会と似たような造りである。
 婚礼の儀といえば、(少なくともネレウスでは)その長椅子に来賓がずらりと座っているのが常である。
 しかし今、神殿の間にいるのはモルガーナとカルロスの二人きり。
 侍女達も神殿の間に入ろうとすることはないし、それどころか祭司にあたる人物もここにはいない。
 とても静かな場所に、モルガーナの衣擦れと足音だけが響いている。
 ふと、そんなモルガーナに向けて、カルロスの手が差し出される。
 大きな掌に、骨張った指は男性的で目が奪われてしまう。
 そしてそんなカルロスの掌にモルガーナの細い指が重なる。
 その時、モルガーナの体が大きく前に傾いた。
「きゃっ」
 カルロスが彼女の体を引き寄せたのだ。
 モルガーナがそれに気づいたのは、彼女がカルロスの腕の中に抱き締められた時だった。
「あ、あの……」
 神聖な婚礼の儀に、このような行程があるのだろうか……?
 モルガーナは不思議に思いながら、カルロスを見上げようと首を動かした。
 けれど硬い胸に抱きすくめられているモルガーナは、せいぜいその肩口を覗くのが精一杯だった。
「俺の言葉を復唱しろ」
 カルロスはそんなモルガーナの耳元に囁いた。
「──私は神の御名において」
「……私は、神の御名において」
 モルガーナが返事をするよりも早く、カルロスは聖句を唱え始めた。
 モルガーナは言われるがまま、それを復唱する。
「この結婚を永遠のものとすることを誓います」
「この結婚を永遠のものとすることを誓います」
 モルガーナが最後の一音まで言い終わるのをしっかりと聞き届けると、カルロスは腕の中のモルガーナを解放した。
 モルガーナは今度こそ、カルロスの顔を見上げる。
「これで、我らの婚約は成った。お前は正式に私の妻だ。精々、務めを果たすがいい」
「……はい」
 あまりに呆気ない婚礼の儀。
 けれどモルガーナはそれを静かに受け入れた。
 ──精々、務めを果たすがいい。
 カルロスの言葉が胸に響く。
 これが自分の務めであるならば、受け入れよう。
 それができなければ、自分かここへ来た意味も失くなってしまう。
 故郷を離れ、大切な人と離れ、遠くこの地へ来た自分の、その意味が。
 
 婚礼の儀が終わり、自分の世話をする侍女達の挨拶を済ませ、ようやくモルガーナは体を休めることができた。
 あてがわれた部屋でアクセサリーを外され、簡素な部屋着──先のドレスと、やはりあまり変わりのないほど薄い布の露出の多い服であるけれど──に着替えさせられた。
 侍女が部屋を去り、モルガーナは部屋に一人きりとなる。
 その瞬間、彼女はベッドに体を預けた。
 斜陽が横たわる彼女の肢体に降り注ぐ。
 とにかくモルガーナは一刻も早く休みたかったのだ。
 視界がベッドに半分埋もれ、遮られる。
(ここから、私の新しい生活が……)
 ベッドに入った途端に訪れる、微睡み。
 モルガーナはそれを抗うことなく受け入れた。
(少しだけ、少しだけ……)
 モルガーナはそうして、深い眠りについた。
 
 ぎしり、とベッドがたわむ気配でモルガーナは重い瞼を上げた。
 視界の端には、男の腕があった。
 初めはぼんやりとしか見えなかったそれが、徐々にはっきり見えるようになってくると、モルガーナは血の気が引く感覚を覚えてすぐさま体を起こした。
 けれどそれと同時に服を着ていないことも思い出す。
「あ、うそっ……!」
 慌ててその辺りにあった掛け布を引き寄せて体を隠す。
 そんな姿を、彼は可笑しそうに見下ろすのだった。
「随分な慌てぶりだな、モルガーナよ」
「っ、それは」
 完全に落ち度だった。
 ここは夫婦の寝室になるはずの場所で、いずれはカルロスが帰ってくるはずの場所でもある。
 ネレウスにいた頃は、自分一人で部屋を使っていたから自由に使うこともできたけれど、今は二人で使う部屋だ。
 それを失念して、すっかり寝入ってしまった……。
(迂闊だったわ……! )
 モルガーナは赤面しながらすぐさま頭を下げる。
「た、大変申し訳ございません! このようなはしたない姿を晒してしまい……」
 けれどカルロスはそんなモルガーナを、静かに見下ろすばかり。
 カルロスの腕がモルガーナの方へと伸ばされる。
 頭を下げていたモルガーナは、その掌が自分の頭の上に乗せられるまでそれに気がつくことができなかった。
「見ていて中々飽きない姫君だ。気高く振る舞おうとしていたと思ったら、まさかこんな無防備な寝姿を晒すとは。それとも、私の妃として幾らか心を許し始めたのか?」
 頭に乗せられた重みに気がつくと、モルガーナは恐る恐るカルロスを見上げた。
 自分の頭の上に伸ばされる腕が、カルロスの顔を半分隠している。
 残り半分、彼女が見たカルロスの表情は──。
(……?)
 見間違いだろうか。
 ほんの一瞬、カルロスの表情が慈愛に満ちた柔らかいものに見えた気がした。
 けれど彼女がそれを幻か現実か、確たるものにすることはできなかった。
 次の瞬間には、いつもの冷酷な眼差しが彼女の前にあった。
「で、あるならば。お前も腹は決めたのだろう。我が国の礎となる意思も固まってきた頃合いだろう?」
「礎……?」
「そうだとも。王に嫁いだからには子を成し次世代に繋げる、それが第一の役割だろう。拒絶は許さぬ。婚礼を済ませてしまった以上はな。王家に生まれた人間が、まさかそんなことも理解していないとは言うまい?」
 カルロスがモルガーナの両の手首を掴むと、そのまま彼女をベッドに張り付けにした。
 そうして彼女の着ていた服を留めていた紐をほどく。
「……!」
 彼女が一生懸命隠そうとしていた白い肌が、カルロスの眼前に晒される。
 大きく膨らんだみずみずしい胸が、カルロスの瞳の中に映る。
「そら、婚礼も済ませたのだからお前の国の神でさえ罰することはできぬぞ。もっとも、その神の意向とやらがこの地まで届くとは到底思えないが」
 モルガーナの脳裏に浮かぶのは、ルースへ向かう船の上で行われた行為。
 秘所を暴くカルロスの指。
 そうしてそれに、淫らに翻弄される自分の姿。
 恥ずかしくて仕方のないはずなのに、彼の指に暴かれる度に未知の感覚に蕩けさせられる。
 その二つが相まって、どうにかなってしまいそうになってしまった、あの瞬間。
「言ったであろう。『塞ぎ込まれても、こちらに利はない』と。そう無理にとはしない」
 カルロスはベッドに倒したモルガーナの体を覆い被さるように抱き締め、耳元で囁いた。
 モルガーナは鼻腔に、海の薫りを感じたような気がしていた。
 カルロスの肩口からそれが香っているような、そんな錯覚を覚える。
(暖かい……?)
 その薫りとカルロスの体温が、モルガーナから緊張感を奪っていく。
 まるで故郷の港にいた時のような、そんな心地を覚えられたから。
 カルロスはモルガーナが体から力を抜いたことを感じると、彼女の体から僅かに離れた。
 モルガーナの表情と上体が、カルロスの視界に全て入っている。
 男の腕の中で、無防備に横たわるモルガーナ。
 瞳だけは固く閉じられているものの、その体はこれからのことを受け入れようとしているかのように、ただ開かれていた。
 カルロスの指先が、白い膨らみの輪郭を撫でる。
 モルガーナの体が軽く捩られる。
 そんなモルガーナを見下ろしているうち、カルロスは何を思ったか、その指を彼女の髪に差し入れた。
 金色の髪が、夕日に染められて燃えるような煌めきを放っている。
 それをカルロスが梳けば、その輝きはシーツの上にまでこぼれ落ちて爆ぜるかのよう。
 カルロスはそんなモルガーナの唇に、自分の唇を重ねた。
 優しい口づけだった。
初めて合った時に交わした時のものと、そんなに違いはないはずなのに、モルガーナは何故かそう思ったのだ。
「ん……」
 重なる唇の間から、モルガーナの吐息が漏れる。
 僅かに開けられたモルガーナの唇を、カルロスの舌がなぞる。
 次第に隙間を抉じ開けるように、彼女の口腔内を侵略していく。
 そうしてモルガーナの口蓋や歯列を、あますところなく堪能するのだった。
 モルガーナも自分の舌を相手の舌に絡ませようとそれを追いはじめた。
 いつしか彼女は、それをもっと奥へ受け入れようとしていたのだった。
 モルガーナの吐息と、二人の舌が絡み合う淫靡な音が広い部屋に響いている。
 それは彼女の息がいよいよ苦しくなったところでようやく途切れた。
 モルガーナを解放したカルロスは、再び腕の中の彼女を見下ろした。
「っはぁっ……はぁ……」
 呼吸を整えようと肩で息をするモルガーナは、口角から流れ落ちる唾液を拭う姿がそこにはあった。
 カルロスはその姿に、どこかそそるものを感じていた。
 彼はモルガーナの上下する肩口に頬を寄せる。
 僅かに汗ばんでいるそこに、噛みつくような口付けを落とした。
「……っ!」
 甘い痺れを覚えて、モルガーナは体を震わせた。
 それに構うことなく、カルロスは更にそこに食らいつく。
 その範囲は次第に、鎖骨を通り、ついには彼女の白い膨らみまで到達した。
「ぁっ、んんっ、」
 カルロスはそのなだらかな稜線を唇でなぞる。
 くすぐったいだけなのに、モルガーナは下腹部が熱くなるのを感じていた。
 思わず両腿を擦り合わせてしまう。
「モルガーナよ、お前は我が王妃にふさわしい。誇りを持つがいい」
 カルロスはそう言うと、その頂を口に含んだ。
「そっ……こはぁ……ん……」
 カルロスがそこを舌で弾くたび、モルガーナの腰が跳ねる。
 カルロスは更に両の掌でそこを揉みしだく。
 白い弾力が、彼の指によって形が変えさせられていく。
 モルガーナはそんな彼を、熱に潤みだした瞳で見下ろしていた。
 自分の体を貪るのは、夫となった人物。
 婚礼も済ませたというのに、彼女は未だその行為に罪悪感を覚えているのだった。
「カ、カルロス、様……このような、っぁ、ことは……」
 それを止めさせたくて、モルガーナはカルロスの肩口をやんわり押し返そうとした。
 けれど蕩け出したか弱い腕では、彼の服をすがるように掴むのが精一杯だった。
 カルロスはそんなモルガーナを見上げた。
 自分の服を掴むモルガーナは、獣の前に差し出された小動物のよう。
「今さら後戻りなどできぬぞ。それとも、早くこちらに触れてほしいというおねだりか?」
 そう言ったカルロスは、片方の手を彼女の内腿へ差し入れた。
「ひゃっ……」
 淡い茂みに触れられて、モルガーナは腰を跳ね上がらせた。
 すでにモルガーナの愛液でぐっしょりになったその場所を、カルロスは指でなぞり始める。
「違っ、カルロっ……ん……」
 カルロスの指先が硬くなった芽をを掴むと、そこを優しく摘まむ。
 そうしてクニクニとそこを弄んでいけば、更に質量を増していく。
「んんっ、もっ、そこぉ、」
 拒絶したいのに、体は彼を、彼の指を求めて赤く色づいていくのだった。
 すでにしとどに濡れていたモルガーナは、カルロスに触れられることによってさらに淫らな液を垂れ流す。
 カルロスの指に、モルガーナの愛液が伝い流れていく。
 そんな彼の指が、つっと彼女の入り口を押し広げた。
 甘く痺れた場所は、それを待っていたとばかりにすぼめられる。
「これだけ濡れているなら、もう受け入れられるだろう」
 カルロスの人差し指が、更にその奥へと侵入していく。
「あっ、いやぁ……! っうぁ……!」
 モルガーナは自分の中で、彼の指が確かな存在感を持っていた。
 そんなカルロスの指が、彼女の腟壁を押し広げようと暴れ出す。
「もっ、許して……許してくださっ、ああっ!」
 大きく弓なりになるモルガーナの肢体。
 カルロスがモルガーナの中に入れた指を抽送するたび、モルガーナのたわわな実りが弾む。
「だめっ、これ以上っ、いやぁ……」
 これ以上は、おかしくなってしまう……そんな予感が彼女の口から溢れる。
 けれどもはや言葉一つでカルロスを止めることなど、できはしない。
 指の抽送もそこそこに、カルロスは自分の着衣の裾を持ち上げた。
 すっかり怒張したものが、モルガーナの眼前に姿を現した。
 生娘の彼女にとって、それは最早凶器にも見えるものだ。
 彼女は反射的に目を閉じてそれを視界から消すように努めた。
 カルロスはすぐさま、モルガーナの腟口へそれをあてがった。
 カルロスの手によってすっかり慣らされたそこは、新しく与えられる質量を今か今かと待っているかのようだ。
「いやっいやぁあ!」
 カルロスに貫かれるまでは一瞬だった。
 腟壁を押し広げ、カルロスはモルガーナの奥の奥まで突き進んだ。
 初めて迎えたそれが、胎内で異様な存在感を放つ。
 モルガーナは体を悶えさせてやり過ごそうとする。
 けれどモルガーナの体は、彼女の意思などお構い無しにそれを強く締め付ける。
「……っ!」
 激しく締め付けられて、さしものカルロスも顔を僅かに歪ませた。
 自分を締め付けるその感触に慣れた頃、ゆっくりと抽送を始める。
「ふぁっ、あ、っうん……ひゃうっ、う……」
 モルガーナは抽送されるたび、熱い何かが競り上がってくるのを感じた。
(何、これ、私っ……変になってしまいそう……)
 拒絶しても追ってくるそれを、けれどモルガーナはいつしか無意識の内にそれをむしろ自分から求めていた。
 彼女は腰を上げて、カルロスの先端がもっといいところに当たるよう揺さぶった。
 モルガーナの頭の中で、火花が散るような激しい快楽が突き抜け始める。
 初めてそこをカルロスに触れられた時と、同じように。
「いいっ……ふぁあ……んん……あっ、ぁあっ、やぁあん!」
「ぐっ……!」
 一際その火花が散った時、モルガーナの胎内がより強く収縮して、カルロスを締め上げた。
 その感触で、カルロスはモルガーナの中に自分の精を解き放つ。
 モルガーナは自分の中に、熱いものが流れていくのを感じた。
 初めて注がれた、背徳の味。
 夫のものであっても、何故かそのように感じてしまう。
 ふと、彼女はベッド脇に置かれたアクセサリーが視界を掠めた。
(あれ、は……)
 青銅の土台に翡翠が嵌め込まれたペンダント。
 かつての婚約者から贈られたペンダントだ。
 溺れかけたモルガーナが身につけていたもので、侍女の誰かが気をきかせてここへ置いたのかもしれない。
(オズヴァルド様……)
 思い出すのはありし日々。
 当然、彼に嫁ぐものとばかり思っていたモルガーナにとって、異国の地に嫁ぐのは正に晴天の霹靂だった。
 そしてそんな彼女の心は、未だに故郷、そしてオズヴァルドにあった。
 モルガーナは実感が沸いていなかったのだ。
 まだオズヴァルドの妻にならない自分、異国に嫁いだ自分のことが。
 カルロスはモルガーナの上から退くと、乱れた衣服を整えてベッドから降りた。
「いい加減、今日は疲れただろう? 明日からはルースのしきたりをみっちり叩き込まれることになるだろう」
 扉の開閉する音だけが、カルロスが部屋から出ていったことをモルガーナに教えた。
 彼女は彼の姿を目で追うことすら億劫になっていたのだ。
 モルガーナはオズヴァルドから贈られたペンダントに手を伸ばそうとしたところで、急に抗えない程の睡魔に襲われた。
(そうだ、私、とても疲れていたのだったわ……)
 旅を終え、婚礼の儀や挨拶回りを行ってからの、初めての──。
 モルガーナは重い瞼をくっつけて、微睡みの中へと落ちていった。
「おやすみ」
 優しい声が、モルガーナの耳を掠めた。
 彼女が最後に夢現に感じたものは、落ち着くような海の香り──カルロスの残り香だった。
 モルガーナはそれらに包まれるようにして、深い眠りについた。
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