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第一章
悲しき婚礼の鐘
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撥ね上がる水しぶきは、私の体をただその水底に飲み込もうと、激しく渦巻く。
船から投げ出された体は、海原の強い力の前では塵芥にも等しい。
あぁ、私はここで終わる。
あぁ、なんと儚い人生であったか。
私は己の務めも果たせぬまま。
名も無き骸と成り果てるのか。
けれど私は波間の中で、確かにそれを見た。
揺蕩う銀色の輝き。
まるで夜明けの月のよう。
それは私を、もう一度空の下へと救い出した。
私はその輝きに、己が運命を無意識の内に感じ取っていたのかもしれない。
その深い輝きは冷酷さを持って、私を運命と宿命の巻き起こす渦へと誘うのだと。
その深い輝きは慈悲を持って、私の全てを浚っていくのだと。
ネレウス王国の首都。
今日はいつになく色とりどりの花が飾られ、掲げられた国旗が海風に靡いている。
そんな色づく街に、一台の馬車が駆け抜けていった。
隣国の商人のものだ。
馬車は街の酒場に横付けると、中から恰幅のよい商人がその酒場の扉を開いた。
「らっしゃい」
「いつものを頼む」
酒場の店主は、常連らしい商人の顔を見るや、すぐに彼の前に発泡酒を注いだ。
「それにしたって、この仕事をもう30年はやってるが、こんなに富も文化も栄えた王国はなかなか見つからなんだ」
商人は発泡酒を呑みながら、窓の外の景色に目をすがめた。
「そうかい。そりゃ嬉しい限りだがね……」
「どうかしたかい大将? いつになく辛気臭いじゃねぇか」
商人は出された発泡酒の半分ほどを、喉の奥に流し込んだ。
「ルースから硝石を輸入しているのは知っているな。火薬の原料だ。最近はこの国が発展するにつれ加速度的に必要な量が増えていてね」
店主はグラスを磨きながらため息交じりで言った。
「ははぁ、成る程な。とはいえ、一庶民はそんなこと関係なかろうよ。硝石なんて持っていても仕方ないものさ。大砲を用意しなきゃいけないお偉いさん方にゃ頭の痛い話だろうけどよ。旨い飯が食べられるならそんな心配二の次三の次じゃあないのか?」
「まぁ、そうさ。硝石の存在自体、庶民にとっちゃ取るに足らないことさ。硝石自体はよ」
店主は窓がくり貫いた空を見上げた。
それと同時に何かが爆発する音と、高らかな教会の鐘の音が酒屋に流れ込む。
「おや、花火に鐘の音か。今日は貴族様か王族様におめでたいことでもあったのかい?」
店主は空から目を離すと、また何度目かのため息を吐いた。
「その花火の材料のために、うちの国の姫様が売られるのさ。文化も風習も違う、遠い海の彼方へ」
馬車は城から港へと続く緩い坂を降っていく。
四頭立ての、金細工の施された豪奢な馬車だ。
白い壁の家々が軒を列ねる石畳の道を、その馬車は車輪と蹄鉄で大きな音を立てながら進む。
やがて馬車は、港へとたどり着いた。
大国らしい、雄大な海原を臨む立派な港である。
港には外の国へと嫁入りをする我が国の姫を一目見ようと人の山が出来上がっている。
そんな人々の上に降り注ぐのは、祝福の鐘の音と花火の弾ける音。
けれどその群衆は誰一人として、笑顔を見せてはいない。
一人は嘆き、一人は怒り、一人は哀しみの表情を浮かべている。
思い思いに絶望を湛えた人だかりが作った道の中。
その只中に止まった馬車から、白いドレスを着た一人の女性が姿を現した。
まだあどけなさの残る翡翠の瞳を、柔らかな金色の髪が縁取っている。
彼女こそが、ここネレウス王国の姫君・モルガーナである。
現国王の一人娘である彼女は、これからネレウス王国の交易国である、ルースの国王に嫁ぎに行くのである。
しかしながらモルガーナもまた、集まった群衆同様にその心の中はまるで婚礼前とは思えないほどに、暗く沈んでいるのである。
けれど彼女は気高き姫君。
その感情は心の内だけに留め、あくまでも凛々しく、悠然と歩を進めるのだった。
その決意が揺らいだのは、自分を見知らぬ国へと届ける船に乗り込もうとした矢先のことだった。
タラップの脇に整列した国の兵士達。
皆、揃いの軍服をきっちりと着込んでいる。
その一番前に立ち、雄壮たる立ち姿で彼女を見送る人物の前を通りすぎた時、モルガーナは振り返りたい衝動をぐっと堪えた。
(オズヴァルド様……! )
モルガーナはその人物の名前を、悲痛な胸の内で叫んだ。
きっと見送る彼もその毅然とした表情の下で、同じように彼女の名前を叫んでいたに違いない。
もしも二人が、国も地位も投げ捨てることができたのなら……その腕を伸ばすこともできたであろう。
しかし二人は、自分の役目を果たすことを選んだ。
それが国の……お互いのためであるということを、信じて。
モルガーナはタラップを登りきり、甲板の上へと足を下ろした。
船はそんな彼女を乗せ、海原へと進み始める。
モルガーナは、二度と祖国を振り返ることはなかった。
今の自分には、国民、国王、そして元許嫁に対して『姫君』の表情を向けられることが出来ない──それは自分を送り出す人々に対して最大限の非礼であると、知っていたからである。
モルガーナの運命が大きく変わったのは、今から半年程前のことことである。
「姫様! オズヴァルド将軍が国へ戻られたそうですね!」
「えぇ、そうなの! だから私、居ても立ってもいられなくなってしまったの!」
その頃のモルガーナは、いずれ自分が哀しみの中、他国に嫁ぎに行く際に降る坂道を、供や馬車の準備を待つことも儘ならないほど胸を踊らせながら走っていた。
その手には一本のフルートが握られていた。
彼女のお気に入りのものだった。
その様子はとても大国の姫君であるようには思えない、溌剌としたものだった。
けれどその姿こそが、また彼女の魅力でもあったのだ。
朗らかで純真、けれど姫君としての品位や威厳を損なわぬ凛とした眼差しは、ただそれだけで民の希望にすらなりえるのだ。
まるで爽やかな初夏の朝日のような彼女は、この国の象徴と言っても過言ではない。
白い壁が立ち並ぶ道の脇では、空と海の色を溶かしたような勿忘草の花弁が海風を受けてそよいでいる。
そしてその姿を見守る国民たちもまた、温かい笑顔を湛えている。
モルガーナは通りを歩く人々から、優しくも快活な言葉を受けながら、港へと辿り着いた。
港へ辿り着いた彼女は、船着き場へと駆けつける。
そこには既に、雄壮ながらも気品を宿したガレオン船の一群が停泊していた。
モルガーナは特に装飾の豊かな船のタラップを降りる人物に気がつくと、飛び上がらんばかりの勢いでその足元へと駆けつけた。
「オズヴァルド様! お待ちしておりました!」
まるで子供のように無邪気にオズヴァルドへと駆け寄るモルガーナ。
彼こそ、ネレウス王国の将軍でありモルガーナの許嫁でもある人物・オズヴァルドである。
モルガーナがまだ自分が何者かさえ分からぬ幼子であった頃に、オズヴァルドとの婚約が成された。
彼女より一回り年上のオズヴァルドは、そんな許嫁を何よりも大切にし、気にかけていたのだった。
そんな彼女に気がついたオズヴァルドは、脇に控えていた部下達を下がらせると、彼女の元へと急いで駆け降りた。
「あぁ、モルガーナ殿! わざわざご足労頂き、恐悦至極と存じます」
「何をおっしゃるの? 私達は婚約者ですのよ。このくらいさせてくださいな」
モルガーナは婚約者を見上げ、にっこりと微笑んだ。
「それは誠に光栄でございます。……ですが、供も付けずに城の外を出歩くことだけはいただけませんな。国王様の心配の種を増やしてはなりませんよ」
「あ……それは……。その……どうしても、オズヴァルド様に聴いていただきたい曲があるのです。また一つ、新しい曲が弾けるようになったのです」
モルガーナは手に持ったフルートをオズヴァルドに差し出した。
そんなモルガーナのいじらしさに、オズヴァルドは嘆息をした。
「本当に、貴女には敵わない。そんな風に言われてしまえば、私はもう何も言えなくなってしまいます」
「……もう、オズヴァルド様ったら」
モルガーナはオズヴァルドの優しい言葉に、頬を赤く染めた。
そんな二人の元に、オズヴァルドの部下がやって来た。
彼はオズヴァルドに耳打ちをして返事を聞くと、またすぐに踵を返していった。
「モルガーナ殿、申し訳ないがまだやることが山積みでしてね。もう暫し、私はこの港に留まります。馬車を用意する故、先に城へ戻ってください」
「えぇ、それが貴方の務めですから」
モルガーナは優しくオズヴァルドを見つめた。
「……それと、ですね」
ふと、オズヴァルドが懐に手を入れた。
「どうか貴女に、これを受け取っていただきたく」
オズヴァルドはモルガーナに、小さな箱を手渡した。
モルガーナはそれをおずおずと開ける。
中身はペンダントであった。
青銅製の土台に、まるでモルガーナの瞳の色のような美しい輝きを湛える翡翠が嵌め込まれているものだ。
「まぁ、嬉しい。でも、どうなさったのです?」
「特別に作らせたのです。もしも私が無事にこのネレウスの地へ降り立つことができたなら、貴女に渡そうと決めていたのです」
オズヴァルドはモルガーナの手の中の小箱からペンダントを取り上げると、それを彼女の首へと回した。
モルガーナはオズヴァルドのたくましい腕が、自分の体に回ることに、少しばかり体を硬くした。
まるで鳥籠の無垢な小鳥の如く育てられたモルガーナは、例えそれが許嫁であったとしても、また彼女が一国の姫君としては些か奔放な性格であったとしても、やはり男性の手が自分の体を触れることに、抵抗を覚えないわけではない。
オズヴァルドの腕が彼女の肩越しにペンダントを留める。
「あぁ、やはり。すごく似合っている」
オズヴァルドのうっとりと自分を見下ろす眼差しが、嬉しくも気恥ずかしかった。
ふと、オズヴァルドはモルガーナの白く柔らかい頬に掌を置いた。
慈しむようなその手つきであったけれど、モルガーナの笑顔はぎこちないものになってしまった。
ふとオズヴァルドの瞳に、真剣な色が灯った。
モルガーナはその変化に、戸惑いながら首をかしげた。
そして徐々に、オズヴァルドの唇がモルガーナのものへと近づいていく。
瞳を閉じるオズヴァルド。
ここまで来れば、いくらうぶなモルガーナでも何が起ころうとしているか予想がつく。
そんな彼女の唇は、まるで磨かれた宝石のように怪しく照り輝いており……。
「だ、だめ……!」
モルガーナはほとんど反射的に、オズヴァルドの体を押し退けた。
彼女の心臓が、うるさいくらいに高鳴る。
その高鳴りは慕う相手に対してのときめき……というよりも、恐怖めいた感情から起因するものであった。
けれど彼女は、それを到底認めることができない。
(オスヴァルド様に対して、そんな……)
彼女の心に、そんな感情を持ってしまった罪悪感がじわじわと湧いてきたのだ。
「こ、これは申し訳ない! 貴女があまりにも魅力的だったのでつい……。婚礼前の者がすることではごさいませんでした」
オズヴァルドはそんなモルガーナを見て気まずそうに頭を掻いた。
モルガーナも自分がそんな空気にしてしまったことに、更に申し訳なさを覚えた。
その時、モルガーナの背後より騒がしく止まる馬車の音が聞こえてきた。
馬車は豪華な装飾を施されており、一目で身分の高い人物の馬車であるということが伺える。
そちらに振り返ったモルガーナは、馬車から降りる従者の姿にあっと声にあげた。
「ごめんなさい! 私、勝手に飛び出して来たのだったわ! もう戻らないと……」
「あ、あぁ、そうでしたな。それでは、また後で城に伺いさせていただきます」
モルガーナはその場を取り繕うように言ってから、慌ててオズヴァルドに頭を下げた。
オズヴァルドもつられて頭を垂れる。
早足で馬車に向かうモルガーナは、胸の内に抱える鼓動をうるさく感じながら、馬車に乗り込んだ。
「えぇ、城まで戻ってくださるかしら。ごめんなさいね、お説教なら後でたっぷり聞きますから」
モルガーナは従者にそれを悟られぬよう、努めて平静を装った。
再び馬車は、石畳の道を引き返して行く。
その中のモルガーナは、窓の外へと目をやった。
海の中に今まさに沈もうとする太陽が逆行となり、景色はほとんど見ることはできない。
けれどモルガーナは、気がかりとなっている許嫁の姿を探すのであった。
そんなモルガーナが父に呼ばれたのは、それから一月ほど後のことであった。
「そんな……それではあまりにモルガーナ殿が不憫ではありませぬか!?」
「しかし国のためだ。相手がそれを望んでいるのならば、それに従う他なかろう」
モルガーナが自分の父である、ネレウス王国の現国王の執務部屋にやってきた時に、その会話が彼女の耳に入ってきた。
オズヴァルドと国王が、何か重い話をしているようだ。
扉越しでながらも、その緊迫した空気は痛いほど伝わってきた。
それ故にモルガーナはノックをする手を一瞬止めたものの、意を決してその扉を傍らに控えていた侍女に開かせた。
「モルガーナ、ここに馳せ参じました。父上、お話があると伺いました」
モルガーナは父の前に進み出て、恭しく頭を下げた。
彼女の父を見上げる瞳は、不安の色が宿っていた。
「来たか、モルガーナよ」
国王は執務机の椅子に座ったまま、低く響く声でモルガーナを迎えた。
国王らしい威厳に満ちた容姿も、この時ばかりは一回り小さく見えるようであった。
その様子を脇に控えたオズヴァルドが、悲痛な面持ちで見下ろしていた。
「単刀直入に申そう。モルガーナよ、お前はルースの地へと嫁ぎに行くこととなった。双方の準備が出来次第、すぐにでも婚礼の儀を執り行うつもりだ。心せよ」
モルガーナの瞳が、驚きで大きく見開かれた。
あまりに簡単に放たれた、父の言葉。
すぐに頭の整理などつくはずがなかった。
──ルースへ、嫁ぐ?
この国名なら、彼女も聞いたことがある。
海の向こうにある、小さな島々が集まって出来た国で、最近は双方とも積極的に交易を重ねていると……。
しかし彼女のショックは、遠い異国の名が出てきたことに起因するのではない。
「お、お言葉ですが父上! 私はオズヴァルド様と……何故そんな話になったのです!?」
戸惑いながらも、モルガーナは傍らのオズヴァルドを見上げた。
オズヴァルドは固く拳を握りしめ、唇を噛み締めていた。
「ルースの民から、我が国は火薬の原料である硝石を輸入しはじめた。そのための条約を結ぼうとしているのだが、その条約締結に先方が出した条件、それは『王の娘を嫁に差し出せ』というものだった。硝石は我が国の発展には必要不可欠。もしも断れば、国交に亀裂が入るやも知れぬ。それゆえ、わしはそれに従うことにした」
その時、オズヴァルドが国王とモルガーナの間に割って入った。
オズヴァルドはそこで膝をつき頭を垂れた。
「陛下、僭越ながら申し上げます。そのお話、今一度お考え直しください。ルースは遠く西方の絶海に位置する小国でございます。文化の水準も文明の発展具合も、ネレウスに遠く及びません! そのような場所にモルガーナ殿を送るなど、私には到底考えられません。それに何より、この国はどうするのです? モルガーナ殿は国王の唯一のご子息にございます!」
「確かに、そなたがモルガーナと結婚していれば、そなたが次期国王候補になっていたな。その件も案ずるでない、オズヴァルド将軍。そなたが国王候補に残るように、わしが取り計らっておこう」
「そのような問題ではございません! 私は……! 私は……」
オズヴァルドは悔しげに、俯いた。
「……もう、決まったことだ。オズヴァルド将軍、そなたには苦労をかける。二人とも、今日はもう下がってもよい」
国王の言葉に、二人は黙って従うしかなかった。
民衆達はその知らせを、すぐに耳にすることとなった。
モルガーナは、オズヴァルドは、いやネレウスの国民全てがどれ程嘆いたかは想像に難くない。
しかし誰がどれ程嘆いていようと、モルガーナが旅立つ準備は粛々と進んでいく。
「姫様がルースに……」
「何とおいたわしい」
「ルースなんて、ほとんど何もない土地だって聞いたぜ」
「そんな遠い場所に嫁いで行くなんて、かわいそうに……」
中にはルースへ戦争を仕掛けようと提案する意見までもあった。
しかしながら民衆はほとんど例外なく、モルガーナが遠い土地へと出ていってしまうことへの悲しみと、しかしどうにもできないことへの嘆きを抱えるばかりだった。。
モルガーナは出立までの間、ほとんど自分の部屋で過ごしていた。
生まれ故郷を離れ、突然遠い場所へ嫁ぎに行く悲しみ。
愛しい許嫁と引き裂かれる悲しみ。
そして──。
(カルロス様……。一体どのような方なのでしょう……?)
まだ見ぬ夫に対する不安が、彼女の肩に重くのしかかってくるのだ。
これまで国交どころか、他国の文化や情報を学ぶ機会のほとんどなかったモルガーナにとっては、まるで知らない場所・知らない人物のところへ嫁ぐのである。
そんな彼女が出立までの僅かな期間に聞いた話によると、ルースの現国王・カルロスの政治手腕は目を見張るものがあるという。
近年ルースは急速に発展しており、それは現国王であるカルロスのおかげであるという。
とはいえ、そんな情報はモルガーナにとって有益なものではなかった。
モルガーナは夫となる人物の、定まらない輪郭を追いかけては消えない未練に苛まれる日々を送るのであった。
モルガーナはオズヴァルドから貰った、翡翠のペンダントを握りしめながら、自室の窓を見上げた。
青い空は、なんの迷いもなく透き通っている。
それが悲しくて、モルガーナは深く目を閉じて大きなため息を吐くのだった。
そんなモルガーナは、出立のその日までついにオズヴァルドと顔を合わせることはなかった。
どんな顔で会えばいいのか、どんな言葉をかければいいのか──。
もしも会ってしまえば、お互いの決意が揺らいでしまうだろう──。
そう思って。
そして今、モルガーナはネレウス王国の港を出た船で、海風を受けている。
彼女は甲板の手すりに体を預けながら、水平線の彼方へと消えた故郷を見つめていた。
故郷から離れた今となっては、心残りばかりが募っていく。
首にかけた翡翠のペンダントを握りしめながら、今はただ故郷のことを──そしてかつての許嫁のことを一心に考えていた。
婚礼の儀が済めば、それすらも許されなくなっていくのだから。
そんなモルガーナを乗せた船は、三日三晩海をかき分け進んでいった。
その日の夜も、モルガーナは相変わらず甲板の手すりに掴まり、ただ船に揺られるがまま無為の時間を過ごしていた。
この辺りの海域は岩礁地帯だからと早めに停泊を始めたため、船員達はいつもよりも賑やかに夕食を取っているようで、喧騒はモルガーナの耳にまで届いた。
それが彼女の寂しさを、余計に引き立たせる。
モルガーナはそれを圧し殺すように、手すりをぎゅっと握り締めるのだった。
その最中、それはあまりに唐突に起こった。
突然、静かな海に爆音が轟いたのだ。
船が大きく揺れ、手すりに掴まっていなければ今頃彼女は甲板に叩きつけられているところだっただろう。
しかし安心する間もなく、船に明らかな異変が生じ始めていた。
船が大きく傾きながら、波の間に沈もうとしているのだった。
モルガーナはしかし、何が起こったか分からぬまま、手すりにしがみつく他になかった。
彼女や対処すべく走り回る船員達に飲み込もうとうねる波。
帆を張るロープは大きくたわみ、帆の支柱が激しく軋む。
──沈没。
轟音と喧騒に取り巻かれる彼女の頭の中に、その言葉が過った。
モルガーナは自分の真下に広がる海を見下ろした。
渦を巻き轟く波が、モルガーナを拐いにその腕をどんどん伸ばしていく。
(あの波に巻き込まれてしまえば、私はひとたまりも──! )
そう思えば、手すりに掴まる腕に力が入る。
しかしいつかはそれにも限界がくるだろう。
絶望がモルガーナの頭によぎった、その時だった。
「海に飛び込め!」
ひしめき合う人々と渦巻く波の音の間を裂くように、その声が聞こえてきた。
彼女は声の主を探して辺りを見渡した。
甲板の上は慌ただしく船員が走り回っている。
誰も彼も、おおよそ彼女の身を案じている暇などなさそうだった。
その声を発したと思われる人物の姿を、モルガーナはついぞ見つけることができなかった。
しかしながらその声は、真っ直ぐにモルガーナの耳へと滑り込んできたのだ。
迷っている暇はない。
モルガーナは一瞬の躊躇の後、その言葉に従った。
今の彼女にとって、唯一すがれるものであったからだ。
モルガーナは手すりから手を離し甲板を蹴ると、渦巻く波の間へと一直線に落ちていった。
青く狂う水の中。
モルガーナの髪やドレスは水のうねりに揉まれ、翻弄されていく。
沈没する船が生む渦が、徐々に彼女を深い闇の奥へと引きずりこもうとする。
彼女は海面に顔を出そうと、必死にもがいた。
けれど泳法の一つとして知らない彼女の力など、あまりに些末なものである。
さらに彼女の豪奢なドレスが水を吸い、錘となる。
海中のモルガーナは、やがて息が続かずその肺に海水を飲み込んでしまった。
彼女の意識が、遂に薄れようとしていく。
暗い波間に、彼女の体は落ちていくのであった。
(あぁ……私は……これで……)
モルガーナは、その波の中で自分の死期を悟った。
悲しい別離を享受することになってしまっても、それでも尚自分の身一つで故郷が助かるのならと、遠い場所へ旅立って……。
けれど自分はその役割を果たせぬまま、こうして海の底へと骸を落としてしまう。
そんな自分を諦念したモルガーナは、薄れ行く意識の中でしかし、そんなことをどこか他人事のように考えていた。
その時、彼女の閉じかけた眼差しが一筋の光を捕らえた。
(月の……光……?)
モルガーナは薄れ行く意識の中で、その光に手を伸ばした。
モルガーナはぼんやりとした視界でそれを捉えた。
(きれい……まるで天使のようね……)
こんな美しい天使に迎えに来てもらえるとは、なんと幸福なことだろう。
モルガーナは安心したように微笑んだ。
月の光を背負う人物はモルガーナの体を抱えると、上へ上へと泳ぎ始めた。
冷たい海の中でありながら、不思議とその逞しい腕の温もりはしっかりと感じることができる。
彼女はその温もりに安らぎを感じながら、ゆっくりと瞳を閉じた。
「……わかった。先方への説明は任せた。無論、姫の無事は先方にいち早く伝えろ」
モルガーナの意識は、火がはぜる音と誰かの話し声によって引っ張りあげられた。
(ここは……?)
彼女は簡素なベッドに横たえられた自分の体を見下ろした。
石造りの床や壁が、装飾も無しに剥き出しになった部屋。
その見知らぬ場所に、モルガーナはいた。
ふと、彼女は自分の着衣に違和感を持って毛布の下を覗いた。
極薄い布地一枚でできた服を着た自分の体が、そこにあった。
寝間着ですら、こんなに薄い服は着たことがない。
彼女は慌てて毛布の中に再び体をくるませた。
そうして辺りに、自分のこんなあられもない姿を見た者はいないかと警戒を露にさせる。
その時、彼女のいる部屋の木製の重い扉が開いた。
その音にモルガーナは身を固くして、そちらの方を凝視した。
男が一人、部屋の中へ入ってくるのが見てとれた。
廊下の灯りが逆光となって、その容貌までは判別することはできなかったけれど。
「な、何者です……!?」
モルガーナはそんな状況の中でも、王家の人間らしく気丈に振る舞った。
けれど彼女を苛む心中こ不安と恐怖は、僅かに彼女の声を震わせた。
「目が覚めたか。何よりだ」
男の低い声が、足音が、徐々に彼女の方へと近づいていく。
そして男が、石造りの壁に穿たれた小窓の下に差し掛かった時、暖炉の火が彼の姿をモルガーナの瞳に浮かび上がらせた。
(銀の……髪……)
紫水晶の切れ長の目と、それを縁取る長い銀の髪。
それらが暖炉の火の光を浴びて、照り輝いている。
その輝きは、まるで……それ自体が月光のようにも見えた。
「あ、あなたは……?」
戸惑いを覚えたモルガーナは、おずおずと彼を見上げた。
しかし男はそんな彼女の纏う毛布を、容赦なく剥ぎ取るのだった。
「きゃあっ……!」
モルガーナはその衝撃でバランスを崩して、ベッドの上に倒れこむ。
すかさず男はモルガーナの体に跨がると、彼女の細い顎を掴み、無理矢理自分の方に視線を向けさせた。
「……!」
それもつかの間、男の指先が彼女の頬を撫で、顎に触れる。
その直後、モルガーナの唇が柔らかい感触に包まれた。
それが何を意味するかは、検討がつかないはずはない。
「んんっ……! ん……」
モルガーナを強引に捕らえる男の口づけ。
彼女は精一杯の力でそれを押し退けようと男の胸を押した。
けれどモルガーナの細腕など男の強靭な体の前にはそよ風も同然。
モルガーナの肩を掴んだ腕が、彼女を逃しはしないとばかりに捕らえて話さない。
一頻りモルガーナの唇を堪能した男は、そうして再びモルガーナを見下ろした。
「口づけ程度でこの有り様か……とはいえ、嫁ぎに来た姫が手慣れているというのも考えものではあるが……」
モルガーナは頭の中を真っ白にしながら、その言葉を遠くに聞いていた。
(初めての……口づけ……)
それは自分の婚約者に捧げると──今や彼女の望んだ相手ではなくなってしまったとはいえ──決めているものだった。
見知らぬ男を前に、ほとんど裸に近い格好を晒しているにも関わらず、彼女は体を硬直させる他にできることはなかった。
その時、扉をノックする音が聞こえた。
モルガーナは呆然とする意識を、無理矢理そちらの方へ向けさせた。
男が入室を促すと、ゆっくりと扉が開いた。
扉の向こうから姿を現したのは、モルガーナより五つか六つほど年下の、栗色の髪を揺らす少年だった。
彼は自分の側に歩み寄った男に頭を垂れた。
「カルロス様、今しがたネレウスの方々全員の無事が確認されました。こちらの砦にて養生次第、ネレウスまでお送りいたします」
「そうか。この辺りの海域に不慣れな者達故、もっと被害が出るかと思ったが。何、僥倖ではないか」
──全員無事。
モルガーナはショックを受けた頭で、ようやとその言葉を飲み下す。
しかしモルガーナは、それよりも引っ掛かったものがあった。
「カル……ロス……? 今、カルロスって……」
モルガーナは恐る恐る男を見上げた。
ふいにモルガーナの視線が、彼女を見下ろす視線とぶつかった。
「モルガーナ様、お目覚めになりましたか。こちら、我がルースを統治する王・カルロス様でございます」
モルガーナはただただ呆気に取られて、男──カルロスを見上げるばかりだった。
月光と同じ色の髪に縁取られた端正な顔が、冷たく微笑んでいた。
船から投げ出された体は、海原の強い力の前では塵芥にも等しい。
あぁ、私はここで終わる。
あぁ、なんと儚い人生であったか。
私は己の務めも果たせぬまま。
名も無き骸と成り果てるのか。
けれど私は波間の中で、確かにそれを見た。
揺蕩う銀色の輝き。
まるで夜明けの月のよう。
それは私を、もう一度空の下へと救い出した。
私はその輝きに、己が運命を無意識の内に感じ取っていたのかもしれない。
その深い輝きは冷酷さを持って、私を運命と宿命の巻き起こす渦へと誘うのだと。
その深い輝きは慈悲を持って、私の全てを浚っていくのだと。
ネレウス王国の首都。
今日はいつになく色とりどりの花が飾られ、掲げられた国旗が海風に靡いている。
そんな色づく街に、一台の馬車が駆け抜けていった。
隣国の商人のものだ。
馬車は街の酒場に横付けると、中から恰幅のよい商人がその酒場の扉を開いた。
「らっしゃい」
「いつものを頼む」
酒場の店主は、常連らしい商人の顔を見るや、すぐに彼の前に発泡酒を注いだ。
「それにしたって、この仕事をもう30年はやってるが、こんなに富も文化も栄えた王国はなかなか見つからなんだ」
商人は発泡酒を呑みながら、窓の外の景色に目をすがめた。
「そうかい。そりゃ嬉しい限りだがね……」
「どうかしたかい大将? いつになく辛気臭いじゃねぇか」
商人は出された発泡酒の半分ほどを、喉の奥に流し込んだ。
「ルースから硝石を輸入しているのは知っているな。火薬の原料だ。最近はこの国が発展するにつれ加速度的に必要な量が増えていてね」
店主はグラスを磨きながらため息交じりで言った。
「ははぁ、成る程な。とはいえ、一庶民はそんなこと関係なかろうよ。硝石なんて持っていても仕方ないものさ。大砲を用意しなきゃいけないお偉いさん方にゃ頭の痛い話だろうけどよ。旨い飯が食べられるならそんな心配二の次三の次じゃあないのか?」
「まぁ、そうさ。硝石の存在自体、庶民にとっちゃ取るに足らないことさ。硝石自体はよ」
店主は窓がくり貫いた空を見上げた。
それと同時に何かが爆発する音と、高らかな教会の鐘の音が酒屋に流れ込む。
「おや、花火に鐘の音か。今日は貴族様か王族様におめでたいことでもあったのかい?」
店主は空から目を離すと、また何度目かのため息を吐いた。
「その花火の材料のために、うちの国の姫様が売られるのさ。文化も風習も違う、遠い海の彼方へ」
馬車は城から港へと続く緩い坂を降っていく。
四頭立ての、金細工の施された豪奢な馬車だ。
白い壁の家々が軒を列ねる石畳の道を、その馬車は車輪と蹄鉄で大きな音を立てながら進む。
やがて馬車は、港へとたどり着いた。
大国らしい、雄大な海原を臨む立派な港である。
港には外の国へと嫁入りをする我が国の姫を一目見ようと人の山が出来上がっている。
そんな人々の上に降り注ぐのは、祝福の鐘の音と花火の弾ける音。
けれどその群衆は誰一人として、笑顔を見せてはいない。
一人は嘆き、一人は怒り、一人は哀しみの表情を浮かべている。
思い思いに絶望を湛えた人だかりが作った道の中。
その只中に止まった馬車から、白いドレスを着た一人の女性が姿を現した。
まだあどけなさの残る翡翠の瞳を、柔らかな金色の髪が縁取っている。
彼女こそが、ここネレウス王国の姫君・モルガーナである。
現国王の一人娘である彼女は、これからネレウス王国の交易国である、ルースの国王に嫁ぎに行くのである。
しかしながらモルガーナもまた、集まった群衆同様にその心の中はまるで婚礼前とは思えないほどに、暗く沈んでいるのである。
けれど彼女は気高き姫君。
その感情は心の内だけに留め、あくまでも凛々しく、悠然と歩を進めるのだった。
その決意が揺らいだのは、自分を見知らぬ国へと届ける船に乗り込もうとした矢先のことだった。
タラップの脇に整列した国の兵士達。
皆、揃いの軍服をきっちりと着込んでいる。
その一番前に立ち、雄壮たる立ち姿で彼女を見送る人物の前を通りすぎた時、モルガーナは振り返りたい衝動をぐっと堪えた。
(オズヴァルド様……! )
モルガーナはその人物の名前を、悲痛な胸の内で叫んだ。
きっと見送る彼もその毅然とした表情の下で、同じように彼女の名前を叫んでいたに違いない。
もしも二人が、国も地位も投げ捨てることができたのなら……その腕を伸ばすこともできたであろう。
しかし二人は、自分の役目を果たすことを選んだ。
それが国の……お互いのためであるということを、信じて。
モルガーナはタラップを登りきり、甲板の上へと足を下ろした。
船はそんな彼女を乗せ、海原へと進み始める。
モルガーナは、二度と祖国を振り返ることはなかった。
今の自分には、国民、国王、そして元許嫁に対して『姫君』の表情を向けられることが出来ない──それは自分を送り出す人々に対して最大限の非礼であると、知っていたからである。
モルガーナの運命が大きく変わったのは、今から半年程前のことことである。
「姫様! オズヴァルド将軍が国へ戻られたそうですね!」
「えぇ、そうなの! だから私、居ても立ってもいられなくなってしまったの!」
その頃のモルガーナは、いずれ自分が哀しみの中、他国に嫁ぎに行く際に降る坂道を、供や馬車の準備を待つことも儘ならないほど胸を踊らせながら走っていた。
その手には一本のフルートが握られていた。
彼女のお気に入りのものだった。
その様子はとても大国の姫君であるようには思えない、溌剌としたものだった。
けれどその姿こそが、また彼女の魅力でもあったのだ。
朗らかで純真、けれど姫君としての品位や威厳を損なわぬ凛とした眼差しは、ただそれだけで民の希望にすらなりえるのだ。
まるで爽やかな初夏の朝日のような彼女は、この国の象徴と言っても過言ではない。
白い壁が立ち並ぶ道の脇では、空と海の色を溶かしたような勿忘草の花弁が海風を受けてそよいでいる。
そしてその姿を見守る国民たちもまた、温かい笑顔を湛えている。
モルガーナは通りを歩く人々から、優しくも快活な言葉を受けながら、港へと辿り着いた。
港へ辿り着いた彼女は、船着き場へと駆けつける。
そこには既に、雄壮ながらも気品を宿したガレオン船の一群が停泊していた。
モルガーナは特に装飾の豊かな船のタラップを降りる人物に気がつくと、飛び上がらんばかりの勢いでその足元へと駆けつけた。
「オズヴァルド様! お待ちしておりました!」
まるで子供のように無邪気にオズヴァルドへと駆け寄るモルガーナ。
彼こそ、ネレウス王国の将軍でありモルガーナの許嫁でもある人物・オズヴァルドである。
モルガーナがまだ自分が何者かさえ分からぬ幼子であった頃に、オズヴァルドとの婚約が成された。
彼女より一回り年上のオズヴァルドは、そんな許嫁を何よりも大切にし、気にかけていたのだった。
そんな彼女に気がついたオズヴァルドは、脇に控えていた部下達を下がらせると、彼女の元へと急いで駆け降りた。
「あぁ、モルガーナ殿! わざわざご足労頂き、恐悦至極と存じます」
「何をおっしゃるの? 私達は婚約者ですのよ。このくらいさせてくださいな」
モルガーナは婚約者を見上げ、にっこりと微笑んだ。
「それは誠に光栄でございます。……ですが、供も付けずに城の外を出歩くことだけはいただけませんな。国王様の心配の種を増やしてはなりませんよ」
「あ……それは……。その……どうしても、オズヴァルド様に聴いていただきたい曲があるのです。また一つ、新しい曲が弾けるようになったのです」
モルガーナは手に持ったフルートをオズヴァルドに差し出した。
そんなモルガーナのいじらしさに、オズヴァルドは嘆息をした。
「本当に、貴女には敵わない。そんな風に言われてしまえば、私はもう何も言えなくなってしまいます」
「……もう、オズヴァルド様ったら」
モルガーナはオズヴァルドの優しい言葉に、頬を赤く染めた。
そんな二人の元に、オズヴァルドの部下がやって来た。
彼はオズヴァルドに耳打ちをして返事を聞くと、またすぐに踵を返していった。
「モルガーナ殿、申し訳ないがまだやることが山積みでしてね。もう暫し、私はこの港に留まります。馬車を用意する故、先に城へ戻ってください」
「えぇ、それが貴方の務めですから」
モルガーナは優しくオズヴァルドを見つめた。
「……それと、ですね」
ふと、オズヴァルドが懐に手を入れた。
「どうか貴女に、これを受け取っていただきたく」
オズヴァルドはモルガーナに、小さな箱を手渡した。
モルガーナはそれをおずおずと開ける。
中身はペンダントであった。
青銅製の土台に、まるでモルガーナの瞳の色のような美しい輝きを湛える翡翠が嵌め込まれているものだ。
「まぁ、嬉しい。でも、どうなさったのです?」
「特別に作らせたのです。もしも私が無事にこのネレウスの地へ降り立つことができたなら、貴女に渡そうと決めていたのです」
オズヴァルドはモルガーナの手の中の小箱からペンダントを取り上げると、それを彼女の首へと回した。
モルガーナはオズヴァルドのたくましい腕が、自分の体に回ることに、少しばかり体を硬くした。
まるで鳥籠の無垢な小鳥の如く育てられたモルガーナは、例えそれが許嫁であったとしても、また彼女が一国の姫君としては些か奔放な性格であったとしても、やはり男性の手が自分の体を触れることに、抵抗を覚えないわけではない。
オズヴァルドの腕が彼女の肩越しにペンダントを留める。
「あぁ、やはり。すごく似合っている」
オズヴァルドのうっとりと自分を見下ろす眼差しが、嬉しくも気恥ずかしかった。
ふと、オズヴァルドはモルガーナの白く柔らかい頬に掌を置いた。
慈しむようなその手つきであったけれど、モルガーナの笑顔はぎこちないものになってしまった。
ふとオズヴァルドの瞳に、真剣な色が灯った。
モルガーナはその変化に、戸惑いながら首をかしげた。
そして徐々に、オズヴァルドの唇がモルガーナのものへと近づいていく。
瞳を閉じるオズヴァルド。
ここまで来れば、いくらうぶなモルガーナでも何が起ころうとしているか予想がつく。
そんな彼女の唇は、まるで磨かれた宝石のように怪しく照り輝いており……。
「だ、だめ……!」
モルガーナはほとんど反射的に、オズヴァルドの体を押し退けた。
彼女の心臓が、うるさいくらいに高鳴る。
その高鳴りは慕う相手に対してのときめき……というよりも、恐怖めいた感情から起因するものであった。
けれど彼女は、それを到底認めることができない。
(オスヴァルド様に対して、そんな……)
彼女の心に、そんな感情を持ってしまった罪悪感がじわじわと湧いてきたのだ。
「こ、これは申し訳ない! 貴女があまりにも魅力的だったのでつい……。婚礼前の者がすることではごさいませんでした」
オズヴァルドはそんなモルガーナを見て気まずそうに頭を掻いた。
モルガーナも自分がそんな空気にしてしまったことに、更に申し訳なさを覚えた。
その時、モルガーナの背後より騒がしく止まる馬車の音が聞こえてきた。
馬車は豪華な装飾を施されており、一目で身分の高い人物の馬車であるということが伺える。
そちらに振り返ったモルガーナは、馬車から降りる従者の姿にあっと声にあげた。
「ごめんなさい! 私、勝手に飛び出して来たのだったわ! もう戻らないと……」
「あ、あぁ、そうでしたな。それでは、また後で城に伺いさせていただきます」
モルガーナはその場を取り繕うように言ってから、慌ててオズヴァルドに頭を下げた。
オズヴァルドもつられて頭を垂れる。
早足で馬車に向かうモルガーナは、胸の内に抱える鼓動をうるさく感じながら、馬車に乗り込んだ。
「えぇ、城まで戻ってくださるかしら。ごめんなさいね、お説教なら後でたっぷり聞きますから」
モルガーナは従者にそれを悟られぬよう、努めて平静を装った。
再び馬車は、石畳の道を引き返して行く。
その中のモルガーナは、窓の外へと目をやった。
海の中に今まさに沈もうとする太陽が逆行となり、景色はほとんど見ることはできない。
けれどモルガーナは、気がかりとなっている許嫁の姿を探すのであった。
そんなモルガーナが父に呼ばれたのは、それから一月ほど後のことであった。
「そんな……それではあまりにモルガーナ殿が不憫ではありませぬか!?」
「しかし国のためだ。相手がそれを望んでいるのならば、それに従う他なかろう」
モルガーナが自分の父である、ネレウス王国の現国王の執務部屋にやってきた時に、その会話が彼女の耳に入ってきた。
オズヴァルドと国王が、何か重い話をしているようだ。
扉越しでながらも、その緊迫した空気は痛いほど伝わってきた。
それ故にモルガーナはノックをする手を一瞬止めたものの、意を決してその扉を傍らに控えていた侍女に開かせた。
「モルガーナ、ここに馳せ参じました。父上、お話があると伺いました」
モルガーナは父の前に進み出て、恭しく頭を下げた。
彼女の父を見上げる瞳は、不安の色が宿っていた。
「来たか、モルガーナよ」
国王は執務机の椅子に座ったまま、低く響く声でモルガーナを迎えた。
国王らしい威厳に満ちた容姿も、この時ばかりは一回り小さく見えるようであった。
その様子を脇に控えたオズヴァルドが、悲痛な面持ちで見下ろしていた。
「単刀直入に申そう。モルガーナよ、お前はルースの地へと嫁ぎに行くこととなった。双方の準備が出来次第、すぐにでも婚礼の儀を執り行うつもりだ。心せよ」
モルガーナの瞳が、驚きで大きく見開かれた。
あまりに簡単に放たれた、父の言葉。
すぐに頭の整理などつくはずがなかった。
──ルースへ、嫁ぐ?
この国名なら、彼女も聞いたことがある。
海の向こうにある、小さな島々が集まって出来た国で、最近は双方とも積極的に交易を重ねていると……。
しかし彼女のショックは、遠い異国の名が出てきたことに起因するのではない。
「お、お言葉ですが父上! 私はオズヴァルド様と……何故そんな話になったのです!?」
戸惑いながらも、モルガーナは傍らのオズヴァルドを見上げた。
オズヴァルドは固く拳を握りしめ、唇を噛み締めていた。
「ルースの民から、我が国は火薬の原料である硝石を輸入しはじめた。そのための条約を結ぼうとしているのだが、その条約締結に先方が出した条件、それは『王の娘を嫁に差し出せ』というものだった。硝石は我が国の発展には必要不可欠。もしも断れば、国交に亀裂が入るやも知れぬ。それゆえ、わしはそれに従うことにした」
その時、オズヴァルドが国王とモルガーナの間に割って入った。
オズヴァルドはそこで膝をつき頭を垂れた。
「陛下、僭越ながら申し上げます。そのお話、今一度お考え直しください。ルースは遠く西方の絶海に位置する小国でございます。文化の水準も文明の発展具合も、ネレウスに遠く及びません! そのような場所にモルガーナ殿を送るなど、私には到底考えられません。それに何より、この国はどうするのです? モルガーナ殿は国王の唯一のご子息にございます!」
「確かに、そなたがモルガーナと結婚していれば、そなたが次期国王候補になっていたな。その件も案ずるでない、オズヴァルド将軍。そなたが国王候補に残るように、わしが取り計らっておこう」
「そのような問題ではございません! 私は……! 私は……」
オズヴァルドは悔しげに、俯いた。
「……もう、決まったことだ。オズヴァルド将軍、そなたには苦労をかける。二人とも、今日はもう下がってもよい」
国王の言葉に、二人は黙って従うしかなかった。
民衆達はその知らせを、すぐに耳にすることとなった。
モルガーナは、オズヴァルドは、いやネレウスの国民全てがどれ程嘆いたかは想像に難くない。
しかし誰がどれ程嘆いていようと、モルガーナが旅立つ準備は粛々と進んでいく。
「姫様がルースに……」
「何とおいたわしい」
「ルースなんて、ほとんど何もない土地だって聞いたぜ」
「そんな遠い場所に嫁いで行くなんて、かわいそうに……」
中にはルースへ戦争を仕掛けようと提案する意見までもあった。
しかしながら民衆はほとんど例外なく、モルガーナが遠い土地へと出ていってしまうことへの悲しみと、しかしどうにもできないことへの嘆きを抱えるばかりだった。。
モルガーナは出立までの間、ほとんど自分の部屋で過ごしていた。
生まれ故郷を離れ、突然遠い場所へ嫁ぎに行く悲しみ。
愛しい許嫁と引き裂かれる悲しみ。
そして──。
(カルロス様……。一体どのような方なのでしょう……?)
まだ見ぬ夫に対する不安が、彼女の肩に重くのしかかってくるのだ。
これまで国交どころか、他国の文化や情報を学ぶ機会のほとんどなかったモルガーナにとっては、まるで知らない場所・知らない人物のところへ嫁ぐのである。
そんな彼女が出立までの僅かな期間に聞いた話によると、ルースの現国王・カルロスの政治手腕は目を見張るものがあるという。
近年ルースは急速に発展しており、それは現国王であるカルロスのおかげであるという。
とはいえ、そんな情報はモルガーナにとって有益なものではなかった。
モルガーナは夫となる人物の、定まらない輪郭を追いかけては消えない未練に苛まれる日々を送るのであった。
モルガーナはオズヴァルドから貰った、翡翠のペンダントを握りしめながら、自室の窓を見上げた。
青い空は、なんの迷いもなく透き通っている。
それが悲しくて、モルガーナは深く目を閉じて大きなため息を吐くのだった。
そんなモルガーナは、出立のその日までついにオズヴァルドと顔を合わせることはなかった。
どんな顔で会えばいいのか、どんな言葉をかければいいのか──。
もしも会ってしまえば、お互いの決意が揺らいでしまうだろう──。
そう思って。
そして今、モルガーナはネレウス王国の港を出た船で、海風を受けている。
彼女は甲板の手すりに体を預けながら、水平線の彼方へと消えた故郷を見つめていた。
故郷から離れた今となっては、心残りばかりが募っていく。
首にかけた翡翠のペンダントを握りしめながら、今はただ故郷のことを──そしてかつての許嫁のことを一心に考えていた。
婚礼の儀が済めば、それすらも許されなくなっていくのだから。
そんなモルガーナを乗せた船は、三日三晩海をかき分け進んでいった。
その日の夜も、モルガーナは相変わらず甲板の手すりに掴まり、ただ船に揺られるがまま無為の時間を過ごしていた。
この辺りの海域は岩礁地帯だからと早めに停泊を始めたため、船員達はいつもよりも賑やかに夕食を取っているようで、喧騒はモルガーナの耳にまで届いた。
それが彼女の寂しさを、余計に引き立たせる。
モルガーナはそれを圧し殺すように、手すりをぎゅっと握り締めるのだった。
その最中、それはあまりに唐突に起こった。
突然、静かな海に爆音が轟いたのだ。
船が大きく揺れ、手すりに掴まっていなければ今頃彼女は甲板に叩きつけられているところだっただろう。
しかし安心する間もなく、船に明らかな異変が生じ始めていた。
船が大きく傾きながら、波の間に沈もうとしているのだった。
モルガーナはしかし、何が起こったか分からぬまま、手すりにしがみつく他になかった。
彼女や対処すべく走り回る船員達に飲み込もうとうねる波。
帆を張るロープは大きくたわみ、帆の支柱が激しく軋む。
──沈没。
轟音と喧騒に取り巻かれる彼女の頭の中に、その言葉が過った。
モルガーナは自分の真下に広がる海を見下ろした。
渦を巻き轟く波が、モルガーナを拐いにその腕をどんどん伸ばしていく。
(あの波に巻き込まれてしまえば、私はひとたまりも──! )
そう思えば、手すりに掴まる腕に力が入る。
しかしいつかはそれにも限界がくるだろう。
絶望がモルガーナの頭によぎった、その時だった。
「海に飛び込め!」
ひしめき合う人々と渦巻く波の音の間を裂くように、その声が聞こえてきた。
彼女は声の主を探して辺りを見渡した。
甲板の上は慌ただしく船員が走り回っている。
誰も彼も、おおよそ彼女の身を案じている暇などなさそうだった。
その声を発したと思われる人物の姿を、モルガーナはついぞ見つけることができなかった。
しかしながらその声は、真っ直ぐにモルガーナの耳へと滑り込んできたのだ。
迷っている暇はない。
モルガーナは一瞬の躊躇の後、その言葉に従った。
今の彼女にとって、唯一すがれるものであったからだ。
モルガーナは手すりから手を離し甲板を蹴ると、渦巻く波の間へと一直線に落ちていった。
青く狂う水の中。
モルガーナの髪やドレスは水のうねりに揉まれ、翻弄されていく。
沈没する船が生む渦が、徐々に彼女を深い闇の奥へと引きずりこもうとする。
彼女は海面に顔を出そうと、必死にもがいた。
けれど泳法の一つとして知らない彼女の力など、あまりに些末なものである。
さらに彼女の豪奢なドレスが水を吸い、錘となる。
海中のモルガーナは、やがて息が続かずその肺に海水を飲み込んでしまった。
彼女の意識が、遂に薄れようとしていく。
暗い波間に、彼女の体は落ちていくのであった。
(あぁ……私は……これで……)
モルガーナは、その波の中で自分の死期を悟った。
悲しい別離を享受することになってしまっても、それでも尚自分の身一つで故郷が助かるのならと、遠い場所へ旅立って……。
けれど自分はその役割を果たせぬまま、こうして海の底へと骸を落としてしまう。
そんな自分を諦念したモルガーナは、薄れ行く意識の中でしかし、そんなことをどこか他人事のように考えていた。
その時、彼女の閉じかけた眼差しが一筋の光を捕らえた。
(月の……光……?)
モルガーナは薄れ行く意識の中で、その光に手を伸ばした。
モルガーナはぼんやりとした視界でそれを捉えた。
(きれい……まるで天使のようね……)
こんな美しい天使に迎えに来てもらえるとは、なんと幸福なことだろう。
モルガーナは安心したように微笑んだ。
月の光を背負う人物はモルガーナの体を抱えると、上へ上へと泳ぎ始めた。
冷たい海の中でありながら、不思議とその逞しい腕の温もりはしっかりと感じることができる。
彼女はその温もりに安らぎを感じながら、ゆっくりと瞳を閉じた。
「……わかった。先方への説明は任せた。無論、姫の無事は先方にいち早く伝えろ」
モルガーナの意識は、火がはぜる音と誰かの話し声によって引っ張りあげられた。
(ここは……?)
彼女は簡素なベッドに横たえられた自分の体を見下ろした。
石造りの床や壁が、装飾も無しに剥き出しになった部屋。
その見知らぬ場所に、モルガーナはいた。
ふと、彼女は自分の着衣に違和感を持って毛布の下を覗いた。
極薄い布地一枚でできた服を着た自分の体が、そこにあった。
寝間着ですら、こんなに薄い服は着たことがない。
彼女は慌てて毛布の中に再び体をくるませた。
そうして辺りに、自分のこんなあられもない姿を見た者はいないかと警戒を露にさせる。
その時、彼女のいる部屋の木製の重い扉が開いた。
その音にモルガーナは身を固くして、そちらの方を凝視した。
男が一人、部屋の中へ入ってくるのが見てとれた。
廊下の灯りが逆光となって、その容貌までは判別することはできなかったけれど。
「な、何者です……!?」
モルガーナはそんな状況の中でも、王家の人間らしく気丈に振る舞った。
けれど彼女を苛む心中こ不安と恐怖は、僅かに彼女の声を震わせた。
「目が覚めたか。何よりだ」
男の低い声が、足音が、徐々に彼女の方へと近づいていく。
そして男が、石造りの壁に穿たれた小窓の下に差し掛かった時、暖炉の火が彼の姿をモルガーナの瞳に浮かび上がらせた。
(銀の……髪……)
紫水晶の切れ長の目と、それを縁取る長い銀の髪。
それらが暖炉の火の光を浴びて、照り輝いている。
その輝きは、まるで……それ自体が月光のようにも見えた。
「あ、あなたは……?」
戸惑いを覚えたモルガーナは、おずおずと彼を見上げた。
しかし男はそんな彼女の纏う毛布を、容赦なく剥ぎ取るのだった。
「きゃあっ……!」
モルガーナはその衝撃でバランスを崩して、ベッドの上に倒れこむ。
すかさず男はモルガーナの体に跨がると、彼女の細い顎を掴み、無理矢理自分の方に視線を向けさせた。
「……!」
それもつかの間、男の指先が彼女の頬を撫で、顎に触れる。
その直後、モルガーナの唇が柔らかい感触に包まれた。
それが何を意味するかは、検討がつかないはずはない。
「んんっ……! ん……」
モルガーナを強引に捕らえる男の口づけ。
彼女は精一杯の力でそれを押し退けようと男の胸を押した。
けれどモルガーナの細腕など男の強靭な体の前にはそよ風も同然。
モルガーナの肩を掴んだ腕が、彼女を逃しはしないとばかりに捕らえて話さない。
一頻りモルガーナの唇を堪能した男は、そうして再びモルガーナを見下ろした。
「口づけ程度でこの有り様か……とはいえ、嫁ぎに来た姫が手慣れているというのも考えものではあるが……」
モルガーナは頭の中を真っ白にしながら、その言葉を遠くに聞いていた。
(初めての……口づけ……)
それは自分の婚約者に捧げると──今や彼女の望んだ相手ではなくなってしまったとはいえ──決めているものだった。
見知らぬ男を前に、ほとんど裸に近い格好を晒しているにも関わらず、彼女は体を硬直させる他にできることはなかった。
その時、扉をノックする音が聞こえた。
モルガーナは呆然とする意識を、無理矢理そちらの方へ向けさせた。
男が入室を促すと、ゆっくりと扉が開いた。
扉の向こうから姿を現したのは、モルガーナより五つか六つほど年下の、栗色の髪を揺らす少年だった。
彼は自分の側に歩み寄った男に頭を垂れた。
「カルロス様、今しがたネレウスの方々全員の無事が確認されました。こちらの砦にて養生次第、ネレウスまでお送りいたします」
「そうか。この辺りの海域に不慣れな者達故、もっと被害が出るかと思ったが。何、僥倖ではないか」
──全員無事。
モルガーナはショックを受けた頭で、ようやとその言葉を飲み下す。
しかしモルガーナは、それよりも引っ掛かったものがあった。
「カル……ロス……? 今、カルロスって……」
モルガーナは恐る恐る男を見上げた。
ふいにモルガーナの視線が、彼女を見下ろす視線とぶつかった。
「モルガーナ様、お目覚めになりましたか。こちら、我がルースを統治する王・カルロス様でございます」
モルガーナはただただ呆気に取られて、男──カルロスを見上げるばかりだった。
月光と同じ色の髪に縁取られた端正な顔が、冷たく微笑んでいた。
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