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ファガスとアレン

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「よう!ファガス!」

「ん?ああ、アレンか。どうした、日中にこちらに来るなど珍しいな。」

「まぁな。今日はこちらで演習でな。先程まで騎士団候補生を指導していた。」

アレンと珍しく食堂で会った。アレンが遠くから先生を見つけて駆け寄ってきたのだ。

まったく…。
3.4日に一度は夜に訪ねてくるのに、そんな犬みたいに駆け寄ってこなくても、と思ってしまった。

なぜなら、アレンのクソでかい声は、他の生徒の注目を集めてしまい、すぐさま女子生徒達がアレン見たさに集まってくるのだ。

それは今日も例外ではなく…

「きゃー、軍神アレン様よ♡!」

「アレン様~♡こっち向いて~♡!!」

「よお!レディ達!邪魔してるぜ!」

「「きゃ~~~!」」

アレンが声援に応えるように声を掛ければ、周りの女生徒はメロメロだ。

4英雄の中でも、アレンはその甘いマスクと漢らしい肉体で群を抜いて人気なのだ。

まぁ、顔もいい、性格も気さく。モテない訳がないのである。

その男が食堂のランチを手にして、ドカンとファガス先生の横に座ったのだ。…恐らく、前に座る僕の事など眼中にはないのだろう。先生の方ばっかり見て、全く目が合わない。

それにしても四英雄の2人が並ぶと絵になる。女子生徒でなくとも、つい見惚れてしまう。

爽やかな金髪をかき揚げ、銀の甲冑に身を包む逞しいアレン騎士団長。肌は日頃の警護で浅黒く、無精髭さえその精悍さに拍車をかけている。魔王の戦闘で失われた片目が痛々しいが、正面から魔王に向かい差し違えた傷として戦士として名誉ある傷なのだ。

方や、四英雄の頭脳と称えられる、魔法学校名誉教授のファガス先生。黒髪を撫で付けて、纏う濃紺のローブ姿と白い肌とのコントラストが息をのむほどに優美だ。厳しいが聡明でもの静かなお人柄に、男女共に熱狂的な隠れファンが多いのだ。

そんな2人が肩を並べて座り、まるで戯れあっているかのように仲良く談笑している。

「ファガス、お前それ残すのか?俺にくれよ。」

「こら、行儀が悪いぞ、アレン。生徒の前で示しがつかん…」

「堅いこと言うなよ。別に誰も見てない。」

アレンはひょいっと先生のステーキの一切れを頬張った。

(いやいや…周り全員あんた達に大注目だよ!この人たち、四英雄の自覚ないのかな?!)

おそらく僕以外の全員が同じツッコミを入れただろう。


いや、そうじゃなくても距離が近すぎる。事情を知らない者でも邪推してしまう近さだ。

普通成人男性はこの距離でくっつかない!!

実際、魔法学校で時折見られるこのツーショットに、腐な妄想を抱く生徒は少なくない。裏で2人の妄想を書き綴った本が出回る程だ。

少し自重して頂きたい…。


「…あー、ところで、アレン。晩の予定はどうだ?偶には部屋で酒でもどうだ?」

先生は、食べ終わった器に目を落としながら、さり気なさを装った風にアレンに尋ねた。

暗にベットの誘いである。

流石に生徒の前で「今夜やらないか?」とは聞けないので、酒に誘うのが先生の常套手段なのだ。自分からはめったり誘わないが、やはりせっかく学校にアレンが来ているのに、そのまま帰られてしまうのは避けたいようだ。

誘うのに慣れない為か、少し顔を赤くしてる先生が大変に可愛らしい。僕が言われたら、全ての予定をキャンセルして今すぐ先生の部屋にいく!

しかし、なんと、その誘いをアレンは断ったのだ!!

「わ、悪い…。今夜は王主催の騎士団の慰労会なのだ。どうしても参加せねば…。クソッ、せっかくのお前からの誘いなのに!」

心底悔しいという風で、どかんと机に伏せてしまう。確かに王主催では優先せざるを得ない予定だ。

「…いや、それは慰労会を優先しろ。騎士団長が居なくては士気が下がるであろう。」

「う、うう…。つ、次の演習の後は、絶対夜あけておくからな…。」

そんな感じて2人でイチャイチャしているので、周りも2人の一挙一動に注目している。アレンが少しでも先生の肩に触れようものなら、女子生徒達が静かに色めき立つ。

また、学園内に変な噂が立つからやめて欲しいのに…。




ざわ…、ざわざわ…。

おや?なにやら向こうが騒がしい。

奥に視線を走らせると、生徒達がささっと避け道を作っている。その奥から来たのは、なんと我が魔法学園の校長セオドア先生だ。

「おや、四英雄の2人が揃っているとは珍しい。アレン、国王は元気であるか?」

「ええ、セオドア校長。国王陛下は相変わらず精力的でございますよ。先生によろしくとの仰せつかっております。」

アレンすら敬語になるのは、セオドア校長が元老院の1人であり、アレンとファガス先生の恩師でもあるからだ。

この学園を作り、四英雄を指導した偉大な大魔法使いだ。御年75才とはいえ、腰は曲がっていないし、銀のローブが立派な白い鬚に映え若々しく見える。

ファガス先生から、若い頃はとてもハンサムでかっこよかったと聞いたことがある。


「うむ。…それはそうと、…ファガスよ、今晩ワシの部屋に来なさい。話したい事がある。」

「ええ。承知しました。…後程伺います。」

校長は、先生の返事を聞くと、満足気に頷き、来た道を再び帰っていった。


(あっ!ファガス先生の顔が赤い!)

先生は校長を尊敬し慕っている。なんでも、魔王との対戦の後の傷を治療してくれたのも、本当は宮殿に仕える筈だったのを、この学校に居場所を作ってくれたのもセオドア校長らしい。

それ故、校長もファガス先生の秘密を知る数少ない人物の1人で、夜呼ばれると言う事はそういうことなのだ。

そんな先生の様子をアレンは面白く無さそうな様子で見ていた。

「お前、あんなじぃさんがいいの…?そういや、学生時代から憧れてたもんな。」

「…じぃさん?貴様、セオドア先生をじぃさん呼ばわりしたな!!貴様のような脳内筋肉野郎より、よっぽど魅力的だ!」

「はっ?脳内筋肉野郎はないだろ!!」

「そうじゃないか。何でも力で押し込めば何とかなると思っているだろう?」

「いやいや、ちゃんと戦術も立ててだろ?」

2人は言い合いを始めてしまった。一応、周りを気にして小声でやりとりしているが、皆耳を澄ましているので、丸聞こえだろう。

「大体、夜だって毎回毎回猿のように…」

「な、なんだよ…、俺のどこが猿なんだよ!」

やばい!ここらでお止めしなくては!先生達の夜の情事が全校生徒にバレてしまう!

「…あの、先生!そろそろ次の授業が」

「…ん?…ああ、ピート。すまん。そうだった。ふぅ、…アレン、私には校長の力が必要なんだ。お前ま分かっているだろ?」

「…ふん。分かっているさ。ただ面白くないだけだ。まぁ、いい。俺も城に戻る時間だ。ファガス、また来る。」

アレンは赤いマントをはためかせ、食堂から去って行った。

(なんだよ。アイツも先生の事、大好きじゃんかよ…)

密かにファガス先生をお慕いする僕としても、先生の校長に対する熱い視線には少々妬ける。先生ったら、本当に何であんなおじいちゃんが良いんだろう??

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