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お、王宮・・・

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「ん・・・」

頭に感じる、優しい感触に、意識が浮上していきます。
誰かが、私の頭を撫でている・・・?
けれど、ゆっくりと瞼を持ち上げた瞬間、慌てたようにその手を引いていきました。

「ア、レン、様・・・?」
「おはようございます、エリン様。」

柔らかな声で挨拶をされ、私は戸惑います。
さっきまで頭を撫でてくれていたのは、彼なのでしょうか?
・・・それとも、私が寝ぼけて夢と現実を混ぜてしまっていただけ?

「あの、さっき・・・」
「はい?」

私のこと、撫でていましたか?
問いが漏れそうになって、私はあわてて言葉を飲み込みました。
聞いてどうするのか、ですよね。
アレン様も急にこんなことを聞かれたら困ってしまうでしょう。
きっと、気のせいですね。

「何でもありません。」

そっと上体を起こします。

「ご気分はいかがですか?」

気分・・・
さっきよりも、ずいぶんと良いです。
その、熱・・・とやらももうない気がします。

「もう大丈夫です。心配おかけしてしまって、すみませんでした。」

そう言うと、アレン様はほっとしたように瞳を細めました。

「いえ、よかったです。」

レオン様もずいぶんと心配されていらっしゃたので、と言葉を付け加えられて、私は先ほどのひと悶着を思い出しました。
大神官様の件は、どうなったのでしょうか・・・?
私のもの言いたげな視線に気づいたアレン様は、ふっと微笑みました。

「先ほどのことに関しましては、後程レオン様が。」

コクリ、と頷きました。

「それから、エリン様に報告が。」

堅苦しい、事務的な口調になったアレン様に何事かと目を向けると、彼は私をまっすぐに見つめていました。

「失礼ながら、エリン様のことを調べさせていただきました。」
「え・・・」

私の、ことを・・・?
ヒュッと息を呑みます。
私が天使であることは分からないにしても、一年前に突然現れた私は奇妙な存在でしょう。

「一年前、神殿の前で倒れていたエリン様は神殿に迎え入れられ、その歌声で多くの人を癒していた、と。そして、それに目を付けた人身売買を生業とする輩がリリーという神殿の娘を使ってエリン様のことをさらったようですね。」

リリー・・・
その名を聞いて、キュッと胸が痛みました。
裏切られた・・・そのことが、とても悲しくて。
でも、私にはとても信じられないのです。
一年間、関わってきたリリーは、とても優しくしてくれて。
そのすべてが『フリ』だったとは、思いたくないのです。

「エリン様をさらった集団は、先ほどレオン様がとらえられ、城の牢屋につながれております。後ほど罪が確定するかと。」

まあ、それ相応の処置が施されるかと思います。
サラリと口にされた言葉に、ドクン、と嫌な音をたてて胸が軋みました。

「リリー、は?」

かすれた声。

「彼女も、牢屋に。」

アレン様の言葉を聞くや否や、私は立ち上がっていました。

「エ、エリン様!?お待ちください!」

慌てたようなアレン様の叫びを聞きながらも、どうしても足を止めようとは思えないのです。
愚かなことを、しているかもしれないとは分かっています。
アレン様もレオン様も、私にそんな行動を望んでいるわけではないと、分かっています。

でも・・・

「リリー!」

どうしても、知らないフリはできないのです。
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