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誰かに、呼ばれています。

「エリン、エリン・・・」

これは・・・シン?
シンです、懐かしい・・・この声。

「必ず・・・必ず迎えに行くから。待っていてくれ。必ず、迎えに行く。」
「本当に?迎えに、来てくれますか?」

これは夢なのだと、ボンヤリと分かっていたのですが、思わず返事をしてしまいます。
それほどシンの声が、記憶にあるものに近かったのです。
すると、シンの声だけでなく、姿も見えました。
別れてしまった時から、少し大人びて見えるその姿。

思わずホッと安心してしまって・・・そして、気づいたのです。
やっぱり私は、天界に戻りたい。
私の居場所は、そこにしかないのだと。

聖女と呼ばれて、持ち上げられようとされています。
攫われて、逃げようとして、今度は城に連れて行かれて・・・
自分の意思がほとんど無視されているこの状況で、やっぱり私は心のどこかで反発を覚えているのです。

帰りたい・・・と。

「ああ、必ず。」

私を安心させるように微笑んだシンに、思わず涙が一筋、流れ落ちました。

涙で視界がぼやけて・・・そのまま、シンの姿が見えなくなります。

待って、行かないで。
置いていかないで。

涙がポロポロとあふれて、やみません。

「泣かないで、泣いちゃダメ。」

シンの声ではない、優しげな女性の声がします。
聞いたこともないはずなのに、なぜか安心できるような声。

「エリン。可哀想に。私の力を受け継いでしまった。」

悲しげな声。
あなたは何がそんなに悲しいの?
力を受け継いでしまったって、何のこと?

「あなたは特別な子。無闇に人に気を許してはいけないわ。あなたの力を、人に見せてはいけない。信頼できる人を探しなさい。」

特別な子・・・?
私の何が、特別なんですか?
信頼できる人って・・・見つかるわけないに決まってるじゃないですか。

周りは私の意思を無視する人ばかり。
知らない人ばかり。
どうやって信頼しろというのですか?

「まず一人、あなたの絶対的な味方がそう遠くない未来に現れるでしょう。そして他にも、あなたが信頼できる人は必ずいます。今からあなたが行く城で、彼らに出会うでしょう。味方につければ心強い、そんな仲間に必ず出会える。あとは、あなたが気づけるかどうかです。」

予言めいた言葉。
あなたは、誰なのですか?
なぜあなたはそんなことを知っているのですか?

「人間界にいる以上、天界で生まれ育ったあなたは定期的に体調を崩すでしょう。体調が崩れる予兆があったら、無理はしないように。下手に無理をすれば、命にも関わります。ゆっくりと休めば、大丈夫ですから。」

熱、というのは、体調不良のことなんですね、きっと。
私が今まで体調を崩したことがなかったのは、天界にいたから・・・?

「そろそろ、あなたも戻らなくてはいけないようですね・・・では最後に一つ、目覚めてから最初にあなたに声をかけた二人を味方につけなさい。きっとあなたの力になってくれます。・・・ごめんなさいね、こんな運命をあなたに背負わせてしまって。いつでも、見守っているわ、哀れな・・・私の、愛しい子。」

彼女の最後の言葉だけが、私の頭をこだました。
・・・もしかして。
ある予感が頭をかすめるけど、彼女の姿がどんどん遠ざかっていく。

「待って!待って下さい!・・・母さま!」

母さまに向かって伸ばした手。
誰かに、つかまれました。

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