能力者は正体を隠す

ユーリ

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高校生編 5月

別れ

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光陰祭「武」が終わり、クタクタに疲れきっていても修行はしなければならない。

カイお兄ちゃんの家に来てから、毎日欠かさずに朝晩一時間ずつ行っていた修行。
内容は瞑想ももちろんするけど、変化して大分応用的な内容もするようになった。
今日の修行では、属性の違う力二つをうまく組み合わせて使う練習をする予定だった。

今も十分使えるけど、力の消費が激しい。
もっと効率よく力を使えるようになりたい。
だって、力を混ぜ合わせて使えるっていうのは私だけの特性だから、もっと伸ばしたい。
自分の部屋を出て、修行部屋に向かった。

そういえば、カイお兄ちゃんは大丈夫かな。
夕食の時、カイお兄ちゃんは部屋から出てこなかった。
ダイによると、カイお兄ちゃんは具合が悪くなってしまったらしい。
部屋で食事をとったみたい。

昼話したときは、元気そうに見えたのに。
心配に思いながら、修行部屋に入った。

「・・・え。」

先客がいた。
瞑想のために閉じていたその瞳をゆっくりと開くと憂いを帯びた青い目が私を捉えた。

「ソラ。」
なんだか、嫌な予感がした。

「僕はしばらく、本家に戻るよ。使用人たちはみんな置いていくから、安心して。」

その瞬間、私はガン、と頭を殴られたような衝撃を覚えた。

「本家に戻るって、どうして?」

やっとのことで出したのは、掠れて、震える声だった。

「たまには顔を出さないとだからね。」

行ってくるよ、と私に告げたカイお兄ちゃんの表情は悲しげで、私はとっさに嘘だと思った。
でも、それを指摘したところでどうなるのだろう。

カイお兄ちゃんは、何が原因かは分からないけど、私と離れることを望んでいるんだ。
カイお兄ちゃんは優しいから、直接そう言わずに嘘をついてくれているだけ。

何か悲しげな瞳には、確かに拒否の感情が宿っていた。

私、何が悪かったんだろうか。
何をしてしまったんだろう。
グルグルと暗い気持ちが体中を巡る。

ギュッと、手を握りしめた。
爪が肌に食い込んで、痛い。
その痛みが私を冷静にさせた。

スウッと息を吸い込んで、無理矢理笑顔を作った。
何だか、笑っていなくてはいけない気分になったから。

「分かった。体には気をつけてね。」

そう言うと彼は頷いた。

「今夜、出発するから。」
「う、ん・・・」

唇を噛んだ。
口の中に広がった鉄の味には気付かないふりをした。

「じゃあ。」

そう言ってカイお兄ちゃんは立ち上がった。
そのまま扉を開けて・・・

「カイお兄ちゃん!」

黙って見送るべきだったのに、思わず声をかけてしまった。
ピタリとカイお兄ちゃんの足が止まる。
でも、こちらを振り返ってはくれない。

「待ってるから、カイお兄ちゃんが帰ってくるの。」

カイお兄ちゃんが向こうを向いてくれていて、良かった。
私の頬には、涙が伝っていたから。
カイお兄ちゃんはそのまま、何も言わずに部屋を出て行った。
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