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外出権

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無性に散歩に行きたくなったエリカは、シバー少尉に外出の許可を要求することにした。

チン!(シバー少尉!)

「はいっ、ご用でしょうかエリカさん?」

ちん(お外に行きたいんだけど)

「外に何か用事でも?」

チン(特に無いわ。 けれど用事がないと私は外にも出られないのかしら?)

エリカはシバー少尉が相手であれば、かなり込み入った内容を「チン」の音1つで伝えられるようになっていた。 エリカのベル技術の向上はもとより、シバー少尉の側にベル音に対する感受性がはぐくまれているためである。

「うーん」

シバー少尉は頬に右手を添えて考え込んだ。

チン(ザルス共和国は人権の概念も無いような後進国なのかしら?)

「うーん、それは...」

チン(人を家に閉じ込めておいて、利用したいときだけ利用するのかしら?)

エリカの指摘はシバー少尉の良心を刺激したが、エリカに直ちに外出の許可を与えるには至らなかった。

「うーん、ちょっと大佐に問い合わせてみますね」

そう言ってシバー少尉はケータイをどこかから取り出そうとする。

大佐に連絡されると面倒だ。 エリカはベル音の雨あられを少尉に浴びせかけた。 チンチンチンチンチン!

あまりのうるささに、ケータイを操作しようとするシバー少尉の手が止まる。

「エリカさん、うるさ... 音を止めてください」

チン!(シバー少尉! ちょっとお聞きなさい)

「はい。 なんでしょう」

チン?(あなた、私が《支配》から解放された後のことも考えておいたほうがいいんじゃない?)

「エリカさんが... 《支配》から解放?」

そんな事態をシバー少尉は考えてもみなかったらしい。 エリカ本人も《支配》を解く方法を見出だせていないのだから当然かもしれないが。

チン?(あんた、ひょっとしてファントムさんである私がいつまでも《支配》に甘んじると思ってる?)

「そ、それは... そんなことは」

シバー少尉はガブリュー大佐と違ってファントムさんが神秘的な存在だと信じているから、エリカのはったりも効果てきめんである。

チーン(私はやがて《支配》から解放される。 そのとき、大佐は当然ブチ殺すとして、あなたはどんな目にわせてあげようかしら)

非道ひどいことは堪忍してください」

ちん(よろしい。 ではシバー少尉、あなたの上官として命令します。 私を散歩に行かせなさい)

「わかりました。 じゃあ、1時間だけなら。 あと寄り道は」

チンチンチンチンチン!(バカ言ってんじゃないわよ!)

「え...?」

チン!(散歩なんて、それ自体が寄り道みたいなもんじゃないの!)

「そう言えばそうですね。 では、1時間の散歩を」

チンチンチン(ノンノンノン)

「えと、何かご不満でも?」

チン(どこの世界に散歩を1時間で済ます人がいるのよ)

「散歩なんて30分ぐらいじゃないですか?」

チン(私は違うの。 最低でも2時間は散歩するの)

シバー少尉は難色を示す。

「2時間ですかー?」

チン(そう、2時間よ)

「ちょっと長くないですか? 他のスケジュールのこともありますし」

チン(だいじょうぶ)

「わかりました... 指輪発信器はちゃんと持っていってくださいね」

こうしてエリカは毎日2時間を自由に外出できるようになった。
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