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第6章

第70話 コンテスト申し込み③

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「ナイトリングって全員ナイトリングの領地で暮らすんじゃないの?」

アリスが尋ね、トオマスが答える。

「僕は父が変わり者でね。 だから僕は生まれも育ちもエクレア小国だ」

「ふ~ん、ナイトリングって忠誠で強くなるんでしょ? ちょっとそこで試合してみよっか」

アリスはトオマスの腕を取り、空いてる試合場へ連れてゆこうとする。『マキハタヤ・マリカの魔法堂』は、割り当てられた試合場の半分しか使っていない。

しかし―

「お?」

アリスは意外そうにトオマスの顔を見上げた。 トオマスはアリスが引く手に抵抗を示したのだ。

「どうしたの?」

「断る」

トオマスはさっきから密かに、アリスの態度にイラついていた。 歯に衣を着せぬ発言も、初対面なのに馴れ馴れしいのも、彼の性格と相容れなかった。

「どうして?」

アリスが気に食わない。 でも、それを面と向かって言う強さはトオマスに無い。 だから建前的な理屈を提示する。

「空いてる試合場とはいえ、勝手に使っちゃダメだ」

「ちゃんとマリカさんに頼むから大丈夫。 さ、行きましょ」

トオマスの腕をグイグイ引っ張るアリス。 しかしトオマスは、その場を動こうとしない。

「どおしたのよ?」

トオマスは答えない。 そして動かない。 もはや理屈は尽きたが、アリスの言いなりになるのは癪だ。

アリスはトオマスの顔を見上げ、彼の仏頂面から心境の方向性を理解した。 えっと... 私に反抗したい感じ?

アリスは不敵な笑みを浮かべる。 面白いじゃない。 あんたの反抗心を打ち砕いたげる。

「動きたくないなら、ムリヤリ動かすけど?」 準備はいい?

アリスの挑戦はトオマスにとって望むところ。 こみあげる笑みを抑えられない。

「フフン、できるものならやってみればいい」 準備はOKだ。 礼儀知らずの君に世の中の厳しさを教えよう。 いわおのごとき重さでな!

アリスより2回り以上大きな体格に、ナイトリングの怪力。 トオマスがアリスに力負けする要素はない。

            ◇

「オッケー」

アリスは小さな手で、トオマスの腕を掴み直した。

その握力にトオマスはおののく。

(くっ、これは...)

握力は全身のパワーの指標。 人の筋力は握力に表れる。 敗北の予感が心をよぎったときには、もう遅い。 有無を言わせぬ強大な力にトオマスは地面から引っこ抜かれていた。

「うおっ」 力だけじゃない!  重い?

「前を空けてくださーい」

アリスは、トオマスを引きずり人混みの中を歩き出した。

女の子にしても小柄なアリスにいいように扱われるトオマスに、周囲のコンテスト参加者から好奇の視線が集中する。 おっ、なんだなんだ?  何事だ?

トオマスの白皙はくせきが羞恥に染まる。

(くそっ、恥ずかしい)

可憐な少女に手玉に取られては、男子としての沽券こけんに関わる。 トオマスはナイトリングの怪力で抵抗を試みる。

(イナギリさんマイ・レディー、僕に力を!)

トオマスは足に力を込め、めいっぱい体重を後ろに傾け、腕を振ってアリスの手を振りほどこうとする。 その様は、散歩に行きたがらない飼い犬のごとし。 だがそれも効果なし。 アリスはそれまでに増して強い力でトオマスを引きずり、目的地たる試合場へ着実に接近する。

           ◇

進むにつれアリスとトオマスに集まる好奇の視線は雪だるま式に数を増し、2人の後をぞろぞろと見物人が付いて回る。

(くっ、こうなったら)

トオマスはアリスを担ぎ上げることにした。 アリスの馬力も足が地を離れれば意味を為さない。 引っ張り合い勝負から逃げることになるが、事ここに至ってはやむなし。 アリスの体重は何故かトオマスより遥かに重い様子だが、ナイトリングの怪力なら持ち上げられるだろう。

「御免っ!」

アリスに声を掛けざま、トオマスはアリスの小ぶりなボディーめがけてチャージを敢行。 たくましい腕で、アリスを抱き上げんとする。

だがアリスはそれを悠々ゆうゆうと回避。 掴んでいたトオマスの手首を利用して、トオマスの片腕を背中側でねじり上げた。

「引っ張り合い勝負じゃなかったの?」

力・重さ・技の全てにおいて上回られ、とうとうトオマスはアリスに屈服する。

「クッ、認める。 僕の負けだ」
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