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第5章
第59話 サホウ vs. カエデガリ①
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第3グループの選手8名が試合場に移動した。 サホウの試合は第1試合場。 相手はトイレ行列で一緒になった巨漢カエデガリ。
サホウもカエデガリも、装備は盾と剣。 ただ、サホウの装備がエテルニウム製で華やかな金色に輝くのに対し、カエデガリの装備は鈍い灰色。
クルチアはベンチからサホウに応援の声を飛ばす。
「頑張れー、コミカグラさん!」
クルチアはごく自然にサホウを応援していた。 サホウが勝ち残りミツキとの交渉権を獲得すればクルチアがミツキと一緒に名門事業所に入所できるから。 そして本人が自覚しない、いま1つ理由。 サホウの対戦相手がカエデガリだから。 トイレ行列での一件はクルチアの乙女心に深い爪痕を残していた
「始めっ!」
4つの試合場で審判が同時に試合開始を宣言し、一斉に試合が始まった。
「この勝負も問題なかろう。 能力も装備もサホウが上じゃ」
この試合、サクラはサホウのセコンドに付かない。 ミツキをアリスから保護するのを優先する。
サクラの発言をアリスは鼻で笑う。
「フフン そう簡単に行くかしら。 カエデガリさんの盾はアダマンティウム製よ?」 気付いてないようだけど。
アダマンティウムはエテルニウムに準じる硬さを誇る。
「アダマンティウムがどうした? エテルニウムのほうが格上じゃ」
アダマンティウムは戦闘重金属。 だからとても重いし、価格において戦闘貴金属エテルニウムに遠く及ばない。
「格上? ハッ、バッカじゃないの? カエデガリさんの狙いが分からないのね。 まあ、仕方ないか。 サクラさんは水使いだから」
アリスの言葉に、クルチアは人知れず耳を ピク つかせる。
(カエデガリさんの狙い? 展開しだいじゃコミカグラさんが負ける可能性も?)
クルチアの疑問をサクラが音声化する。
「ほう、カエデガリの狙いとな? 聞かせてみよ」
(私も知りた~い!)
アリスがクルチアをジロリと可愛く睨む。
「イナギリ」
「はい」 なあに、アリスちゃん?
「あんた〈気〉が漏れてるわよ」
「え? 漏れてる?」
「カエデガリさんの狙いを知りたいんでしょ?」
胸中を言い当てられた驚きに、クルチアは押し黙る。
「...」
「〈気〉のアマチュアにありがちなのよね。 あんた〈気〉を練習してるでしょう? 我流で」
クルチアの頬が羞恥に赤くなる。〈気〉の練習に励んでいることは、ミツキ以外の誰にも知られたくない。 天賦の才で〈気〉の能力が自然に身についたことにしたい。
「れ、練習というか、自然に身についたというか」
アリスはクルチアの言葉を一笑に付す。
「ハン 今みたいな〈気〉が自然に身に付くわけないじゃん」
「いや私の場合は天...」
「通信講座か何か? ほら、あの教材が定期的に送られて来るやつ」
「っ!」 やだ、それ ビンゴ!
恥ずかしさに耐えられず、とうとうクルチアは顔を両手で覆ってしまった。 学習方法まで言い当てられては、もう人前に顔を出せない。
クルチアの反応に、アリスはちょっぴり気が咎めた。
「えっと、まあ。 だから、〈気〉の使い手にはダダ漏れだから気をつけなさいってコト」 なんでそんなに恥ずかしいの?
両手で顔を覆ったままコクコクと頷くクルチアは、耳たぶまで赤かった。
◇
サクラが話題を戻す。
「で、カエデガリの狙いとは?」
(カエデガリさんの狙いとは?)
クルチアはもはや両手で顔を覆っていない。 気持ちの切り替えが早いタイプなのだ。 彼女の中で、さっきの会話は無かったことになっている。
アリスはクルチアをちらりと見たが何も言わず、サクラの問いに答える。
「バッシュ勝負よ」
(バッシュ? というと盾で...)
「盾でぶちかますのか?」
「見てて。 そろそろのはず」
サホウもカエデガリも、装備は盾と剣。 ただ、サホウの装備がエテルニウム製で華やかな金色に輝くのに対し、カエデガリの装備は鈍い灰色。
クルチアはベンチからサホウに応援の声を飛ばす。
「頑張れー、コミカグラさん!」
クルチアはごく自然にサホウを応援していた。 サホウが勝ち残りミツキとの交渉権を獲得すればクルチアがミツキと一緒に名門事業所に入所できるから。 そして本人が自覚しない、いま1つ理由。 サホウの対戦相手がカエデガリだから。 トイレ行列での一件はクルチアの乙女心に深い爪痕を残していた
「始めっ!」
4つの試合場で審判が同時に試合開始を宣言し、一斉に試合が始まった。
「この勝負も問題なかろう。 能力も装備もサホウが上じゃ」
この試合、サクラはサホウのセコンドに付かない。 ミツキをアリスから保護するのを優先する。
サクラの発言をアリスは鼻で笑う。
「フフン そう簡単に行くかしら。 カエデガリさんの盾はアダマンティウム製よ?」 気付いてないようだけど。
アダマンティウムはエテルニウムに準じる硬さを誇る。
「アダマンティウムがどうした? エテルニウムのほうが格上じゃ」
アダマンティウムは戦闘重金属。 だからとても重いし、価格において戦闘貴金属エテルニウムに遠く及ばない。
「格上? ハッ、バッカじゃないの? カエデガリさんの狙いが分からないのね。 まあ、仕方ないか。 サクラさんは水使いだから」
アリスの言葉に、クルチアは人知れず耳を ピク つかせる。
(カエデガリさんの狙い? 展開しだいじゃコミカグラさんが負ける可能性も?)
クルチアの疑問をサクラが音声化する。
「ほう、カエデガリの狙いとな? 聞かせてみよ」
(私も知りた~い!)
アリスがクルチアをジロリと可愛く睨む。
「イナギリ」
「はい」 なあに、アリスちゃん?
「あんた〈気〉が漏れてるわよ」
「え? 漏れてる?」
「カエデガリさんの狙いを知りたいんでしょ?」
胸中を言い当てられた驚きに、クルチアは押し黙る。
「...」
「〈気〉のアマチュアにありがちなのよね。 あんた〈気〉を練習してるでしょう? 我流で」
クルチアの頬が羞恥に赤くなる。〈気〉の練習に励んでいることは、ミツキ以外の誰にも知られたくない。 天賦の才で〈気〉の能力が自然に身についたことにしたい。
「れ、練習というか、自然に身についたというか」
アリスはクルチアの言葉を一笑に付す。
「ハン 今みたいな〈気〉が自然に身に付くわけないじゃん」
「いや私の場合は天...」
「通信講座か何か? ほら、あの教材が定期的に送られて来るやつ」
「っ!」 やだ、それ ビンゴ!
恥ずかしさに耐えられず、とうとうクルチアは顔を両手で覆ってしまった。 学習方法まで言い当てられては、もう人前に顔を出せない。
クルチアの反応に、アリスはちょっぴり気が咎めた。
「えっと、まあ。 だから、〈気〉の使い手にはダダ漏れだから気をつけなさいってコト」 なんでそんなに恥ずかしいの?
両手で顔を覆ったままコクコクと頷くクルチアは、耳たぶまで赤かった。
◇
サクラが話題を戻す。
「で、カエデガリの狙いとは?」
(カエデガリさんの狙いとは?)
クルチアはもはや両手で顔を覆っていない。 気持ちの切り替えが早いタイプなのだ。 彼女の中で、さっきの会話は無かったことになっている。
アリスはクルチアをちらりと見たが何も言わず、サクラの問いに答える。
「バッシュ勝負よ」
(バッシュ? というと盾で...)
「盾でぶちかますのか?」
「見てて。 そろそろのはず」
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