上 下
42 / 107
第4章

第42話 バリケード①

しおりを挟む
ミツキにKOされた捕獲チームは息を吹き返し、検問チームに連絡を入れていた。

「捕獲に失敗した。 足止めを頼む」

開会式に遅刻させればミツキは出場できず、よって優勝も不可能。 市民権も与えられないはず。 ゆえに足止めにも意義がある。

「...了解した」

連絡を終えた検問チームの隊長は、副長に告げる。

「プランBだ」

副長の顔が落胆に沈んだ。 プランBは捕獲失敗に備えるプラン。 このプランの発動は捕獲の失敗を意味する。

プランBは至ってシンプル。 軍用車を横向きに並べて、午前9時まで道路を全面的に封鎖するだけ。 ポイントは車の鍵。 鍵を全て抜き、絶対にバレない場所に隠す。 消極的な作戦だが、足止めの効果は高い。

しかし副長は隊長に尋ねずにいられない。

「睡眠薬もオーガも失敗したのに、捕獲可能期間を延ばして意味があるんでしょうか?」

隊長は苦い顔になった。

「それは... 我々が考えるべきことではない」

          ◇◆◇◆◇

「あれって、バリケード?」

100mほど先で、横向きに並べられた軍用車が行く手を遮っている。

突撃してもバリケードは破れそうにない。 ミツキを除く3人で討議した結果、ミツキが兵士全員をKOし、道を遮る軍用車を動かして道路封鎖を解除することに決まった。

ところが、さらに進んで明らかになる。 バリケードの手前に一人の軍人が立ち、手に持つ白い何かを振っている。パタパタ

「白旗?」

クルチアの言葉に、クギナが後部座席から身を乗り出す。

「軍が私達に降参ってことか?」

クルチアはブレーキを踏み、停車した。

            ◇

相手が白旗を掲げるなら対話が必要。 でも軍が何を企んでいるか知れたものではないから、安易にミツキを車外に出せない。

「オウリンさん、ちょっと話を聞いてきてくれる?」

クギナは快く応じない。

「なんで私が?」 パシ ろうってのか?

「私は車の運転があるから。 何かあったら、すぐ車を出したいし」

「チッ 仕方ねえな」

クギナは舌打ちを残して車を降り、乱暴にドアを閉めた。 バタン

            ◇

話を終えて戻ってきたクギナにクルチアは尋ねる。

「どうだった?」

「横向きに止めてる車はバリケードだとよ」

「ええ、それで?」

「車の鍵は捨ててしまったので探しても無駄なんだと。 だから "車の鍵を探すため私たちをKOしても無駄" なんだそうだ」

「解除できない道路封鎖なんて、みんな困るでしょうに。 ダレノガレ市に行きたい人は他にもいるのよ?」

「午前9時に新しい鍵が届けられるらしい。 いや、新しい鍵を作る人だったかな」

「午前9時? それって...」

「ああ、ミツキを開会式に遅刻させたいんだ。 ヤツら分かってるぜ。 ミツキが優勝しないと市民権をもらえないことを」

            ◇

「あんた、ここから一人で歩いてダレノガレ市まで行ける?」

クルチアはミツキに尋ねた。

「何kmぐらいあるの?」

「20kmぐらいかしら」

20km!? 無理だ! でもミツキはいちおう尋ねる。

「いま何時?」

クルチアは腕時計を見た。

「7時半過ぎ」

「じゃあ、やっぱり無理だ」

ダレノガレ市内で迷ったりエントリー手続きで手間取ることを考えると、8時半にはダレノガレ市に到着したい。 すると残り時間は1時間。 5倍に加速すれば1時間で20kmを歩ける。 でもミツキは5時間もぶっ通しで歩いたことがない。 歩けそうにない。 ムリだ。

実のところ、ミツキの能力と体力を酷使すれば1時間で20kmを踏破できなくもない。 でも、ミツキにそこまでの覚悟はなかった。 そんなことしなくてもクルチアがなんとかしてくれると信じてた。

            ◇

バリケードは重量感たっぷり。 軍用車6台が横向きに2列に並べられ、強引に突っ込んでも突破できないのは明らか。

軽く握った左手の人差し指の第一関節を唇に押し当て、クルチアは頭をひねる。

「どうすればいいの?」

どうしようもない。 バリケードの突破は無理だし、バリケードを動かす手段は午前9時にならないと到着しない。

後部座席のクギナが、助手席にいるミツキの肩に ポン と手を置く。

「なあミツキ」

ミツキは振り向いた。

「なに?」

「オマエ、9時までに会場に行きたいよな?」

「うん」

「じゃあ私がバリケードを動かしてやろう。 4つ目の貸しだぞ?」いいな?

当然クルチアは口を挟む。

「ちょっとオウリンさん」

「なんだ?」

「そもそもどうして、さっき貸しが3つだったの?」

「投網を防いだぶんと、右手の手錠を切ったぶんと、左手の手錠を切ったぶんだが?」

クギナの返答はクルチアを面食らわせた。

「あぅ... そ、そうだったのね」

クギナの理不尽を大いに指摘するつもりでいたのに、思いがけず筋が通っていた。 2つの手錠を別々にカウントするのがセコいものの、筋は通っている。

「何か文句があるか?」

「ありません」

クルチアは伏し目がちに答えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

クラス転移したひきこもり、僕だけシステムがゲームと同じなんですが・・・ログアウトしたら地球に帰れるみたいです

こたろう文庫
ファンタジー
学校をズル休みしてオンラインゲームをプレイするクオンこと斉藤悠人は、登校していなかったのにも関わらずクラス転移させられた。 異世界に来たはずなのに、ステータス画面はさっきやっていたゲームそのもので…。

転生初日に妖精さんと双子のドラゴンと家族になりました

ひより のどか
ファンタジー
ただいま女神様に『行ってらっしゃ~い』と、突き落とされ空を落下中の幼女(2歳)です。お腹には可愛いピンクと水色の双子の赤ちゃんドラゴン抱えてます。どうしようと思っていたら妖精さんたちに助けてあげるから契約しようと誘われました。転生初日に一気に妖精さんと赤ちゃんドラゴンと家族になりました。これからまだまだ仲間を増やしてスローライフするぞー!もふもふとも仲良くなるぞー! 初めて小説書いてます。完全な見切り発進です。基本ほのぼのを目指してます。生暖かい目で見て貰えらると嬉しいです。 ※主人公、赤ちゃん言葉強めです。通訳役が少ない初めの数話ですが、少しルビを振りました。 ※なろう様と、ツギクル様でも投稿始めました。よろしくお願い致します。 ※カクヨム様と、ノベルアップ様とでも、投稿始めました。よろしくお願いしますm(_ _)m

逆行した公爵令嬢!2度目の人生は絶対に失敗しないことを誓う

Karamimi
恋愛
婚約者で第二王子のユーグラテスの策略で、家族は国家反逆罪で捕まり、自身も投獄されてしまった公爵令嬢のミシェル。 地下牢で泣き崩れるミシェルの元に現れたのは、いつも喧嘩ばかりしている幼馴染の公爵令息、レオだった。 レオは何とか看守の目を盗み脱獄に成功。2人で逃げる途中、第二王子に見つかり、レオは切り付けられ瀕死の状態に。 「レオ、お願い、死なないで!」 「ミシェル、お前だけでも…逃げろ…」 「イヤーーーー」 泣き叫ぶミシェルに、無情にも第二王子の魔の手が… 「大丈夫だ。お前もすぐに後を追わせてやる」 死を覚悟し、目を閉じた瞬間、意識を失った。 次に目が覚めたのは、なんと公爵家の自分の部屋。さらに8歳の姿に戻っていたのだ。 どうやら逆行したことを理解したミシェルは、大切な家族を守る為、そして命を懸けて自分を守ってくれた大切な幼馴染、レオを死なせない為に、2度目の人生は絶対に失敗しないと誓った。 1度目の失敗を生かし、必死で努力するミシェル。そんなミシェルに第二王子と幼馴染は… 物心ついた頃からずっとミシェルだけを思い続けて来た幼馴染レオと、異常なまでの執着を見せる第二王子ユーグラテスに翻弄される公爵令嬢ミシェルのお話です。

悪役令嬢のサラは溺愛に気づかないし慣れてもいない

玄未マオ
ファンタジー
「ヒロインの鈍さは天然か?それとも悪役令嬢としての自制か?」 公爵令嬢のサラは王太子との婚約が決まったとき、乙女ゲームの断罪シーンを思い出す。 自分はある乙女ゲームのパート2の悪役令嬢だった。 家族まで巻き添えになってしまう転落ストーリーを座して受け入れるわけにはいかない。 逃亡手段の確保し、婚約者である王太子との友情を築き、そしてパート1の悪役令嬢フェリシアをかばい、ゲームのフラグを折っていく。 破滅を回避するため日々奮闘するサラ。 やがて、サラと周囲の人々の前に、乙女ゲームに似た王国の歴史の暗部の意外な秘密が明かされてゆく。 『婚約破棄された公爵令嬢ですが、魔女によって王太子の浮気相手と赤ん坊のころ取り換えられていたそうです』 https://www.alphapolis.co.jp/novel/886367481/638794694 こちらはヒロインのご先祖たちが活躍する同じ世界線の話です。 カクヨムやなろうでも掲載しています。

休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使う事でスキルを強化、更に新スキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった… それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく… ※小説家になろう、カクヨムでも掲載しております。

転生姫様の最強学園ライフ! 〜異世界魔王のやりなおし〜

灰色キャット
ファンタジー
別世界で魔王として君臨していた女の子――センデリア・エンシャスは当時最強の勇者に敗れ、その命を終えた。 人の温もりに終ぞ触れることなかったセンデリアだったが、最後に彼女が考えていた事を汲み取った神様に、なんの断りもなく異世界に存在する一国家の姫へと生まれ変わらせてしまった!? 「……あたし、なんでまた――」 魔王にならざるを得なかった絶望。恐怖とは遠い世界で、新たな生を受け、今まで無縁だった暖かい生活に戸惑いながら……世界一の学園を決める祭り――『魔導学園王者決闘祭(通称:魔王祭)』に巻き込まれていく!?

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

処理中です...