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第4章
第42話 バリケード①
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ミツキにKOされた捕獲チームは息を吹き返し、検問チームに連絡を入れていた。
「捕獲に失敗した。 足止めを頼む」
開会式に遅刻させればミツキは出場できず、よって優勝も不可能。 市民権も与えられないはず。 ゆえに足止めにも意義がある。
「...了解した」
連絡を終えた検問チームの隊長は、副長に告げる。
「プランBだ」
副長の顔が落胆に沈んだ。 プランBは捕獲失敗に備えるプラン。 このプランの発動は捕獲の失敗を意味する。
プランBは至ってシンプル。 軍用車を横向きに並べて、午前9時まで道路を全面的に封鎖するだけ。 ポイントは車の鍵。 鍵を全て抜き、絶対にバレない場所に隠す。 消極的な作戦だが、足止めの効果は高い。
しかし副長は隊長に尋ねずにいられない。
「睡眠薬もオーガも失敗したのに、捕獲可能期間を延ばして意味があるんでしょうか?」
隊長は苦い顔になった。
「それは... 我々が考えるべきことではない」
◇◆◇◆◇
「あれって、バリケード?」
100mほど先で、横向きに並べられた軍用車が行く手を遮っている。
突撃してもバリケードは破れそうにない。 ミツキを除く3人で討議した結果、ミツキが兵士全員をKOし、道を遮る軍用車を動かして道路封鎖を解除することに決まった。
ところが、さらに進んで明らかになる。 バリケードの手前に一人の軍人が立ち、手に持つ白い何かを振っている。パタパタ
「白旗?」
クルチアの言葉に、クギナが後部座席から身を乗り出す。
「軍が私達に降参ってことか?」
クルチアはブレーキを踏み、停車した。
◇
相手が白旗を掲げるなら対話が必要。 でも軍が何を企んでいるか知れたものではないから、安易にミツキを車外に出せない。
「オウリンさん、ちょっと話を聞いてきてくれる?」
クギナは快く応じない。
「なんで私が?」 パシ ろうってのか?
「私は車の運転があるから。 何かあったら、すぐ車を出したいし」
「チッ 仕方ねえな」
クギナは舌打ちを残して車を降り、乱暴にドアを閉めた。 バタン
◇
話を終えて戻ってきたクギナにクルチアは尋ねる。
「どうだった?」
「横向きに止めてる車はバリケードだとよ」
「ええ、それで?」
「車の鍵は捨ててしまったので探しても無駄なんだと。 だから "車の鍵を探すため私たちをKOしても無駄" なんだそうだ」
「解除できない道路封鎖なんて、みんな困るでしょうに。 ダレノガレ市に行きたい人は他にもいるのよ?」
「午前9時に新しい鍵が届けられるらしい。 いや、新しい鍵を作る人だったかな」
「午前9時? それって...」
「ああ、ミツキを開会式に遅刻させたいんだ。 ヤツら分かってるぜ。 ミツキが優勝しないと市民権をもらえないことを」
◇
「あんた、ここから一人で歩いてダレノガレ市まで行ける?」
クルチアはミツキに尋ねた。
「何kmぐらいあるの?」
「20kmぐらいかしら」
20km!? 無理だ! でもミツキはいちおう尋ねる。
「いま何時?」
クルチアは腕時計を見た。
「7時半過ぎ」
「じゃあ、やっぱり無理だ」
ダレノガレ市内で迷ったりエントリー手続きで手間取ることを考えると、8時半にはダレノガレ市に到着したい。 すると残り時間は1時間。 5倍に加速すれば1時間で20kmを歩ける。 でもミツキは5時間もぶっ通しで歩いたことがない。 歩けそうにない。 ムリだ。
実のところ、ミツキの能力と体力を酷使すれば1時間で20kmを踏破できなくもない。 でも、ミツキにそこまでの覚悟はなかった。 そんなことしなくてもクルチアがなんとかしてくれると信じてた。
◇
バリケードは重量感たっぷり。 軍用車6台が横向きに2列に並べられ、強引に突っ込んでも突破できないのは明らか。
軽く握った左手の人差し指の第一関節を唇に押し当て、クルチアは頭をひねる。
「どうすればいいの?」
どうしようもない。 バリケードの突破は無理だし、バリケードを動かす手段は午前9時にならないと到着しない。
後部座席のクギナが、助手席にいるミツキの肩に ポン と手を置く。
「なあミツキ」
ミツキは振り向いた。
「なに?」
「オマエ、9時までに会場に行きたいよな?」
「うん」
「じゃあ私がバリケードを動かしてやろう。 4つ目の貸しだぞ?」いいな?
当然クルチアは口を挟む。
「ちょっとオウリンさん」
「なんだ?」
「そもそもどうして、さっき貸しが3つだったの?」
「投網を防いだぶんと、右手の手錠を切ったぶんと、左手の手錠を切ったぶんだが?」
クギナの返答はクルチアを面食らわせた。
「あぅ... そ、そうだったのね」
クギナの理不尽を大いに指摘するつもりでいたのに、思いがけず筋が通っていた。 2つの手錠を別々にカウントするのがセコいものの、筋は通っている。
「何か文句があるか?」
「ありません」
クルチアは伏し目がちに答えた。
「捕獲に失敗した。 足止めを頼む」
開会式に遅刻させればミツキは出場できず、よって優勝も不可能。 市民権も与えられないはず。 ゆえに足止めにも意義がある。
「...了解した」
連絡を終えた検問チームの隊長は、副長に告げる。
「プランBだ」
副長の顔が落胆に沈んだ。 プランBは捕獲失敗に備えるプラン。 このプランの発動は捕獲の失敗を意味する。
プランBは至ってシンプル。 軍用車を横向きに並べて、午前9時まで道路を全面的に封鎖するだけ。 ポイントは車の鍵。 鍵を全て抜き、絶対にバレない場所に隠す。 消極的な作戦だが、足止めの効果は高い。
しかし副長は隊長に尋ねずにいられない。
「睡眠薬もオーガも失敗したのに、捕獲可能期間を延ばして意味があるんでしょうか?」
隊長は苦い顔になった。
「それは... 我々が考えるべきことではない」
◇◆◇◆◇
「あれって、バリケード?」
100mほど先で、横向きに並べられた軍用車が行く手を遮っている。
突撃してもバリケードは破れそうにない。 ミツキを除く3人で討議した結果、ミツキが兵士全員をKOし、道を遮る軍用車を動かして道路封鎖を解除することに決まった。
ところが、さらに進んで明らかになる。 バリケードの手前に一人の軍人が立ち、手に持つ白い何かを振っている。パタパタ
「白旗?」
クルチアの言葉に、クギナが後部座席から身を乗り出す。
「軍が私達に降参ってことか?」
クルチアはブレーキを踏み、停車した。
◇
相手が白旗を掲げるなら対話が必要。 でも軍が何を企んでいるか知れたものではないから、安易にミツキを車外に出せない。
「オウリンさん、ちょっと話を聞いてきてくれる?」
クギナは快く応じない。
「なんで私が?」 パシ ろうってのか?
「私は車の運転があるから。 何かあったら、すぐ車を出したいし」
「チッ 仕方ねえな」
クギナは舌打ちを残して車を降り、乱暴にドアを閉めた。 バタン
◇
話を終えて戻ってきたクギナにクルチアは尋ねる。
「どうだった?」
「横向きに止めてる車はバリケードだとよ」
「ええ、それで?」
「車の鍵は捨ててしまったので探しても無駄なんだと。 だから "車の鍵を探すため私たちをKOしても無駄" なんだそうだ」
「解除できない道路封鎖なんて、みんな困るでしょうに。 ダレノガレ市に行きたい人は他にもいるのよ?」
「午前9時に新しい鍵が届けられるらしい。 いや、新しい鍵を作る人だったかな」
「午前9時? それって...」
「ああ、ミツキを開会式に遅刻させたいんだ。 ヤツら分かってるぜ。 ミツキが優勝しないと市民権をもらえないことを」
◇
「あんた、ここから一人で歩いてダレノガレ市まで行ける?」
クルチアはミツキに尋ねた。
「何kmぐらいあるの?」
「20kmぐらいかしら」
20km!? 無理だ! でもミツキはいちおう尋ねる。
「いま何時?」
クルチアは腕時計を見た。
「7時半過ぎ」
「じゃあ、やっぱり無理だ」
ダレノガレ市内で迷ったりエントリー手続きで手間取ることを考えると、8時半にはダレノガレ市に到着したい。 すると残り時間は1時間。 5倍に加速すれば1時間で20kmを歩ける。 でもミツキは5時間もぶっ通しで歩いたことがない。 歩けそうにない。 ムリだ。
実のところ、ミツキの能力と体力を酷使すれば1時間で20kmを踏破できなくもない。 でも、ミツキにそこまでの覚悟はなかった。 そんなことしなくてもクルチアがなんとかしてくれると信じてた。
◇
バリケードは重量感たっぷり。 軍用車6台が横向きに2列に並べられ、強引に突っ込んでも突破できないのは明らか。
軽く握った左手の人差し指の第一関節を唇に押し当て、クルチアは頭をひねる。
「どうすればいいの?」
どうしようもない。 バリケードの突破は無理だし、バリケードを動かす手段は午前9時にならないと到着しない。
後部座席のクギナが、助手席にいるミツキの肩に ポン と手を置く。
「なあミツキ」
ミツキは振り向いた。
「なに?」
「オマエ、9時までに会場に行きたいよな?」
「うん」
「じゃあ私がバリケードを動かしてやろう。 4つ目の貸しだぞ?」いいな?
当然クルチアは口を挟む。
「ちょっとオウリンさん」
「なんだ?」
「そもそもどうして、さっき貸しが3つだったの?」
「投網を防いだぶんと、右手の手錠を切ったぶんと、左手の手錠を切ったぶんだが?」
クギナの返答はクルチアを面食らわせた。
「あぅ... そ、そうだったのね」
クギナの理不尽を大いに指摘するつもりでいたのに、思いがけず筋が通っていた。 2つの手錠を別々にカウントするのがセコいものの、筋は通っている。
「何か文句があるか?」
「ありません」
クルチアは伏し目がちに答えた。
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