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第3章
第25話 逆走
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防壁に目を向けると、無数のラットリングがクルチアたちのほうへ殺到して来る。 どうした訳か亀裂への情熱を失いクルチアたちの存在に目を付けた。
「どうして私たちのほうへ?」
だが疑問は後回しだ。 ラットリングと人間の走力は同程度。 一刻も早く逃げ出さねば命が危ない。
クルチアはトオマスの注意を促す。
「先輩、ラットリングが押し寄せて来ます! 逃げましょう」
トオマスは対峙中のクギナに向けて言う。
「聞いたかオウリン。 勝負はお預けだ」
◇◆◇
クルチアはトオマスと共に撤退を開始。 忠誠により強くなったトオマスは走力もアップしたが、敬愛するクルチアのペースに合わせて走る。 未だクルチアと君臣の誓いを交わしていないが、心の中ではすでにクルチアを主と定めていた。 安全なところまで逃げたらすぐにでもクルチアに臣従を申し込むつもり。
クルチアとトオマスを嘲笑うように、クギナは身体能力を遺憾なく発揮し遥か先へ走り去っていた。 周囲では、他のハンターもそれぞれに撤退を始めている。 しかしミツキの姿は見当たらない。
(たぶん、こっそり後を付いて来てると思うけど...)
ミツキが姿を現さない理由の見当も付く。
(私が先輩と一緒に行動し始めたもんだから、出て来れないんじゃないかしら。 あの子、人見知りだから)
◇◆◇
クルチアの推測は正しかった。
(くそっ、誰だあいつ。 ずっとクルチアと一緒にいる気か?)
今ミツキは岩陰・草陰・木陰を利用して、クルチアに察知されぬようクルチアの近くを移動している。 歩幅が小さいミツキだが、時おり加速して息も切らさず平然とクルチアのペースに付いて行く。
クギナと対峙するクルチアの背後をミツキが去ったのは、クルチアに対クギナ用の御守りとして利用されるのを嫌ったため。 アイテムのように利用されるのも嫌だったが、それだけではない。 御守りとして利用されピンチが未然に防がれたなら、クルチアはミツキに有り難みを感じない。 なるほどミツキが求めればクルチアは感謝の言葉を述べるだろう。 でもそれって本物の感謝? 未然に阻止されたピンチで、果たして本物の感謝が生まれるのかな? ゆえにミツキはクルチアの背後を去り、物陰からクルチアを見守っていた。 クルチアの危機を救い心の底から感謝されるチャンスを窺っていた。 クギナがクルチアに攻撃を仕掛けたときも彼は、クルチアのすぐ背後まで来ていた。 クルチアを華麗に転ばせてクルチアの危機を救うつもりだった。 それなのに...
(あいつめ、オレの出番を横取りしやがって。 ちくしょう。 久しぶりにクルチアに会えたのに。 どうして、こんな風にコソコソしなきゃならない!)
◇◆◇◆◇
全力疾走のクルチア。 その背後でヤマネくんが悲痛な声を放つ。
「タケシマ!」
振り返ったクルチアの目に写ったのは、逆走中のヤマネくん。 ラットリングの群れへ向かって激走している。 彼の行く手には地面に転ぶ人の姿。 タケシマくんだ。 転んだタケシマくんを救おうと、ヤマネくんは決死の逆走を開始したのだ。
タケシマくんは立ち上がったが、ラットリングの先頭集団に追いつかれ交戦開始。 そこにヤマネくんが加勢する。 だがラットリングの数が多すぎる! このままでは2人はラットリングの波に飲み込まれ骨まで齧り尽くされる。 されど戦闘の最中に敵に背を向け逃げ出すのは至難の業。 退却の機会を掴みあぐねる2人のもとへ新手のラットリングが次々と到来。 ヤマネくんとタケシマくんはラットリングに包囲されかけていた。
「ヤマネくん!」
クルチアは頭の中が真っ白になった。 クラスメートが私の目の前で死んじゃう!? うそ。 そんなのダメ! 気づけばクルチアは逆走を開始していた。
「イナギリさん、無謀だぞっ!」
トオマスもクルチアの後を追って逆走を開始。 大地を埋め尽くすラットリングの群れに突撃するなど自殺行為、愚の骨頂。 しかしトオマスの心はクルチアを称賛する気持ちで一杯だ。
(クソっ、なんて面倒見の良い人なんだ。 彼女を死なせるものか。 僕の命に代えても)
◇◆◇
立て続けに生じた逆走劇。 逆走に次ぐ逆走。 それをミツキは木陰から覗いていた。
(ようやくオレにも運が向いてきたか シメシメ)
クルチアと一緒にいる男が何者か知らないが、おびただしい数のラットリングを倒せるわけがない。 クルチアが危機に陥ったところで助けに入れば、ミツキは極めて自然にクルチアの隣のポジションに復帰できる。
(クルチアが叫ぶのが理想的だな。 "ミツキ助けて!" って。 呼んでくれると登場しやすい)
ミツキも逆走を開始した。
「どうして私たちのほうへ?」
だが疑問は後回しだ。 ラットリングと人間の走力は同程度。 一刻も早く逃げ出さねば命が危ない。
クルチアはトオマスの注意を促す。
「先輩、ラットリングが押し寄せて来ます! 逃げましょう」
トオマスは対峙中のクギナに向けて言う。
「聞いたかオウリン。 勝負はお預けだ」
◇◆◇
クルチアはトオマスと共に撤退を開始。 忠誠により強くなったトオマスは走力もアップしたが、敬愛するクルチアのペースに合わせて走る。 未だクルチアと君臣の誓いを交わしていないが、心の中ではすでにクルチアを主と定めていた。 安全なところまで逃げたらすぐにでもクルチアに臣従を申し込むつもり。
クルチアとトオマスを嘲笑うように、クギナは身体能力を遺憾なく発揮し遥か先へ走り去っていた。 周囲では、他のハンターもそれぞれに撤退を始めている。 しかしミツキの姿は見当たらない。
(たぶん、こっそり後を付いて来てると思うけど...)
ミツキが姿を現さない理由の見当も付く。
(私が先輩と一緒に行動し始めたもんだから、出て来れないんじゃないかしら。 あの子、人見知りだから)
◇◆◇
クルチアの推測は正しかった。
(くそっ、誰だあいつ。 ずっとクルチアと一緒にいる気か?)
今ミツキは岩陰・草陰・木陰を利用して、クルチアに察知されぬようクルチアの近くを移動している。 歩幅が小さいミツキだが、時おり加速して息も切らさず平然とクルチアのペースに付いて行く。
クギナと対峙するクルチアの背後をミツキが去ったのは、クルチアに対クギナ用の御守りとして利用されるのを嫌ったため。 アイテムのように利用されるのも嫌だったが、それだけではない。 御守りとして利用されピンチが未然に防がれたなら、クルチアはミツキに有り難みを感じない。 なるほどミツキが求めればクルチアは感謝の言葉を述べるだろう。 でもそれって本物の感謝? 未然に阻止されたピンチで、果たして本物の感謝が生まれるのかな? ゆえにミツキはクルチアの背後を去り、物陰からクルチアを見守っていた。 クルチアの危機を救い心の底から感謝されるチャンスを窺っていた。 クギナがクルチアに攻撃を仕掛けたときも彼は、クルチアのすぐ背後まで来ていた。 クルチアを華麗に転ばせてクルチアの危機を救うつもりだった。 それなのに...
(あいつめ、オレの出番を横取りしやがって。 ちくしょう。 久しぶりにクルチアに会えたのに。 どうして、こんな風にコソコソしなきゃならない!)
◇◆◇◆◇
全力疾走のクルチア。 その背後でヤマネくんが悲痛な声を放つ。
「タケシマ!」
振り返ったクルチアの目に写ったのは、逆走中のヤマネくん。 ラットリングの群れへ向かって激走している。 彼の行く手には地面に転ぶ人の姿。 タケシマくんだ。 転んだタケシマくんを救おうと、ヤマネくんは決死の逆走を開始したのだ。
タケシマくんは立ち上がったが、ラットリングの先頭集団に追いつかれ交戦開始。 そこにヤマネくんが加勢する。 だがラットリングの数が多すぎる! このままでは2人はラットリングの波に飲み込まれ骨まで齧り尽くされる。 されど戦闘の最中に敵に背を向け逃げ出すのは至難の業。 退却の機会を掴みあぐねる2人のもとへ新手のラットリングが次々と到来。 ヤマネくんとタケシマくんはラットリングに包囲されかけていた。
「ヤマネくん!」
クルチアは頭の中が真っ白になった。 クラスメートが私の目の前で死んじゃう!? うそ。 そんなのダメ! 気づけばクルチアは逆走を開始していた。
「イナギリさん、無謀だぞっ!」
トオマスもクルチアの後を追って逆走を開始。 大地を埋め尽くすラットリングの群れに突撃するなど自殺行為、愚の骨頂。 しかしトオマスの心はクルチアを称賛する気持ちで一杯だ。
(クソっ、なんて面倒見の良い人なんだ。 彼女を死なせるものか。 僕の命に代えても)
◇◆◇
立て続けに生じた逆走劇。 逆走に次ぐ逆走。 それをミツキは木陰から覗いていた。
(ようやくオレにも運が向いてきたか シメシメ)
クルチアと一緒にいる男が何者か知らないが、おびただしい数のラットリングを倒せるわけがない。 クルチアが危機に陥ったところで助けに入れば、ミツキは極めて自然にクルチアの隣のポジションに復帰できる。
(クルチアが叫ぶのが理想的だな。 "ミツキ助けて!" って。 呼んでくれると登場しやすい)
ミツキも逆走を開始した。
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