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第3章

第22話 クギナとトオマス①

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「ヤマネくん!」

見知った顔の中からクルチアがチョイスしたのはヤマネくんだった。

「よおイナギリ」

ヤマネくんはクルチアのクラスメイト。 剣術部に所属。

「ヤマネくんもラットリング退治?」

「おう、部活でな。 それにしても凄い数だぜ」

剣術部では学校公認で、希望者が週に1度フィールドに出てラットリング退治を行う。 ヤマネくんと一緒にいる5人は剣術部の部員だ。

「ここで眺めてて大丈夫? 一斉に襲いかかられたらひとたまりもないわよ」

「大丈夫さ。 ネズミどもは亀裂しか目に入ってねえ。 壁が破れたら町中に殺到するし、どのみちオレたちは安全だ」

「壁が破れたらって、大変じゃない。 町に知らせなきゃ」

「連れがもう伝えに向かってるよ。 ここに来る途中で会わなかったか?」

ヤマネくんとお話しながら、クルチアは左手に視線を向ける。 そちらでは先ほどからオウリン・クギナがトオマス・キングズブリッジと口論している。

「無理だ」

「無理じゃない!」

「君は全然わかってない」

「言い訳をするな! 行けオラ、私への忠誠の証として!」

「行ったら死んでしまう!」

オウリン・クギナもクルチアのクラスメイト。 ハーフ・オークを父に持つクォーター・オークだ。 1/4ともなるとオークの血は薄まり、容姿は人間と変わらない。 浅黒い肌の色と、後ろで束ねられたカールする黒髪にオークの特徴を残すのみ。 人間である祖母と母が美人だったのだろう、彼女の目鼻立ちは上品とさえ言える。 ゲータレード市立高校に入学した当初、クギナは校内で話題になった。 エリート校たる同校にオークの混血児が入学するのは前代未聞だから。 一説によると、ゲータレード市の裏社会を牛耳る伯父がコネを駆使してクギナを名門校にじ込んだ。

口論のもう一方の当事者トオマス・キングズブリッジはクルチアたちの上級生。 2年生だ。 種族は妖精ナイトリング。 ナイトリングの例に漏れず長身で端正な顔立ちの彼は女子生徒に大人気。 さいきん彼はナイトリングの忠誠を欲するクギナに付きまとわれていると、もっぱらの噂。

「あっちの2人は何を揉めてるの? ラットリングを刺激しないかしら」

クルチアの問いにヤマネくんが答える。

「オウリンがキングズブリッジ先輩に命令してるんだよ。 忠誠の証としてラットリングの群れに突撃しろって」

ミツキがクルチアにしがみついて来た。

「クルチア、ちょっとナップサック貸して」

クルチアは背負っていたナップサックをミツキに渡し、ヤマネくんと会話を続ける。

「先輩の様子を見ると忠誠心は無さそうだけど」

ヤマネくんがクスクスと笑う。

「忠誠心はゼロさ。 オウリンが先輩に忠誠を強要してるだけ」

クォーター・オークであるクギナはヒトの1.5倍の膂力りょりょくを誇り、オークの特殊能力〈恫喝〉を受け継ぐ。〈恫喝〉はターゲットの性格も境遇も無視し、彼我ひがの戦闘力のみに基づき相手をビビらせる能力。 ビビった者は思考停止し、屈従か逃走かの二択に陥る。 他の行動の選択肢を検討できない。 トオマスは先日クギナに絡まれたクギナにビビった。 自分がクギナより弱いと心の中で認め、クギナとの対決を恐れた。 ゆえに今、彼はクギナに滅多なことでは逆らえない。

           ◇◆◇

「トオマス、ちょっとそこに座れ。 違う! 正座だ。 せ・い・ざ」

トオマスは言われるままに足を組み替え、正座に座り直した。 同じ学校の生徒が他にもいる中で奴婢ぬひのように扱われ屈辱に頬を赤く染めるが、不平は一言も漏らさない。

「もう一度確認だ。 ナイトリングは忠誠心で強くなるんだよな?」

「そうです」

「オマエ、私に忠誠を捧げたよな?」

「クッ 捧げました」

「つまり私はオマエの主君だよな?」

「そうです」

「だったら、今オマエは強いはずだよな? 私への忠誠心で」

「それは...」

トオマスは返答に困った。 クギナに忠誠を誓ってからも彼は強くなっていない。 クギナに1片の忠誠心も抱いていないから。 クギナは混同しているのだ。 "忠誠心" と "忠誠の誓い" を。 でも、それを指摘するわけにはいかなかった。 指摘すればクギナがトオマスに "忠誠心" を持てと要求するのは明らかだから。 持とうと思って持てるものではないのに。

「強いはずだよな?」 アァン?

「そのはずです」

「その "はず" だぁ~? ビっと断言しろよ」コノ野郎。

クギナは地面を乱暴に蹴り飛ばした。 砂礫されきはトオマスにも飛び散った。 トオマスは砂礫に顔をしかめながらクギナの要請に従う。

「強いです」

「ならば! な・ら・ば! 突撃できるだろうが!」

クギナはラットリングの大群を指差した。 ビシッ!
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