クイックリングちゃんドロップキック!

好きな言葉はタナボタ

文字の大きさ
22 / 107
第3章

第22話 クギナとトオマス①

しおりを挟む
「ヤマネくん!」

見知った顔の中からクルチアがチョイスしたのはヤマネくんだった。

「よおイナギリ」

ヤマネくんはクルチアのクラスメイト。 剣術部に所属。

「ヤマネくんもラットリング退治?」

「おう、部活でな。 それにしても凄い数だぜ」

剣術部では学校公認で、希望者が週に1度フィールドに出てラットリング退治を行う。 ヤマネくんと一緒にいる5人は剣術部の部員だ。

「ここで眺めてて大丈夫? 一斉に襲いかかられたらひとたまりもないわよ」

「大丈夫さ。 ネズミどもは亀裂しか目に入ってねえ。 壁が破れたら町中に殺到するし、どのみちオレたちは安全だ」

「壁が破れたらって、大変じゃない。 町に知らせなきゃ」

「連れがもう伝えに向かってるよ。 ここに来る途中で会わなかったか?」

ヤマネくんとお話しながら、クルチアは左手に視線を向ける。 そちらでは先ほどからオウリン・クギナがトオマス・キングズブリッジと口論している。

「無理だ」

「無理じゃない!」

「君は全然わかってない」

「言い訳をするな! 行けオラ、私への忠誠の証として!」

「行ったら死んでしまう!」

オウリン・クギナもクルチアのクラスメイト。 ハーフ・オークを父に持つクォーター・オークだ。 1/4ともなるとオークの血は薄まり、容姿は人間と変わらない。 浅黒い肌の色と、後ろで束ねられたカールする黒髪にオークの特徴を残すのみ。 人間である祖母と母が美人だったのだろう、彼女の目鼻立ちは上品とさえ言える。 ゲータレード市立高校に入学した当初、クギナは校内で話題になった。 エリート校たる同校にオークの混血児が入学するのは前代未聞だから。 一説によると、ゲータレード市の裏社会を牛耳る伯父がコネを駆使してクギナを名門校にじ込んだ。

口論のもう一方の当事者トオマス・キングズブリッジはクルチアたちの上級生。 2年生だ。 種族は妖精ナイトリング。 ナイトリングの例に漏れず長身で端正な顔立ちの彼は女子生徒に大人気。 さいきん彼はナイトリングの忠誠を欲するクギナに付きまとわれていると、もっぱらの噂。

「あっちの2人は何を揉めてるの? ラットリングを刺激しないかしら」

クルチアの問いにヤマネくんが答える。

「オウリンがキングズブリッジ先輩に命令してるんだよ。 忠誠の証としてラットリングの群れに突撃しろって」

ミツキがクルチアにしがみついて来た。

「クルチア、ちょっとナップサック貸して」

クルチアは背負っていたナップサックをミツキに渡し、ヤマネくんと会話を続ける。

「先輩の様子を見ると忠誠心は無さそうだけど」

ヤマネくんがクスクスと笑う。

「忠誠心はゼロさ。 オウリンが先輩に忠誠を強要してるだけ」

クォーター・オークであるクギナはヒトの1.5倍の膂力りょりょくを誇り、オークの特殊能力〈恫喝〉を受け継ぐ。〈恫喝〉はターゲットの性格も境遇も無視し、彼我ひがの戦闘力のみに基づき相手をビビらせる能力。 ビビった者は思考停止し、屈従か逃走かの二択に陥る。 他の行動の選択肢を検討できない。 トオマスは先日クギナに絡まれたクギナにビビった。 自分がクギナより弱いと心の中で認め、クギナとの対決を恐れた。 ゆえに今、彼はクギナに滅多なことでは逆らえない。

           ◇◆◇

「トオマス、ちょっとそこに座れ。 違う! 正座だ。 せ・い・ざ」

トオマスは言われるままに足を組み替え、正座に座り直した。 同じ学校の生徒が他にもいる中で奴婢ぬひのように扱われ屈辱に頬を赤く染めるが、不平は一言も漏らさない。

「もう一度確認だ。 ナイトリングは忠誠心で強くなるんだよな?」

「そうです」

「オマエ、私に忠誠を捧げたよな?」

「クッ 捧げました」

「つまり私はオマエの主君だよな?」

「そうです」

「だったら、今オマエは強いはずだよな? 私への忠誠心で」

「それは...」

トオマスは返答に困った。 クギナに忠誠を誓ってからも彼は強くなっていない。 クギナに1片の忠誠心も抱いていないから。 クギナは混同しているのだ。 "忠誠心" と "忠誠の誓い" を。 でも、それを指摘するわけにはいかなかった。 指摘すればクギナがトオマスに "忠誠心" を持てと要求するのは明らかだから。 持とうと思って持てるものではないのに。

「強いはずだよな?」 アァン?

「そのはずです」

「その "はず" だぁ~? ビっと断言しろよ」コノ野郎。

クギナは地面を乱暴に蹴り飛ばした。 砂礫されきはトオマスにも飛び散った。 トオマスは砂礫に顔をしかめながらクギナの要請に従う。

「強いです」

「ならば! な・ら・ば! 突撃できるだろうが!」

クギナはラットリングの大群を指差した。 ビシッ!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

処理中です...