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第4話 神の編み物。

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 エレインは帰宅するなり作業を始めた。合間に夕食を作ってシャムに食べさせたが、自分は食事を取らずに作業に没頭していた。

 さまざまな薬品を混ぜ合わせたり加熱したりして、鉄の編み棒に加えて行く。シャムにはよくわからなかったが、これが錬成という作業らしい。

「もう少しかかりそうだから、シャムは寝ていいよ。今日もお話しを聞かせてあげる」

「わぁい。嬉しいな」

 一人用のベッドでシャムを抱きしめ、エレインは自分の冒険譚を語った。そしてシャムが静かな寝息を立て始めると、その額にキスをして作業を再開するのだった。

 翌朝。エレインのキスで目覚めたシャムは彼女の笑顔を見て、作業が完了した事を悟った。

「おはようシャム。編み棒、出来たよ」

 エレインはそう言って、シャムに純金となった編み棒を手渡した。それは窓から差し込む朝日によって、キラキラと輝いていた。

「おはようお姉ちゃん! 編み棒、純金に変えてくれてありがとう」

 シャムは満面の笑みでそれを受け取った。エレインは彼の笑顔を見て、とても幸せそうに笑った。

「それじゃあ早速......!」

「待って」

 シャムは【編み物】を開始しようとしたが、エレインがそれを制止する。

「お腹空いたでしょ? まずは朝ごはんを食べよう。準備するから、顔を洗ってきて」

「はぁい!」

 シャムは元気に返事をし、洗面所へと向かった。その間にエレインは小瓶に入った赤い液体を飲み干し、食事の支度を始めた。それから少しして、テーブルにパンやサラダ、スープ、コップに入った牛乳などが並べられた。

「いただきまぁす!」

「はい、どうぞ召し上がれ」

 朝食はささやかなものだったが、これまでの男爵家での生活を考えれば、シャムにとっては充分に贅沢な食事と言えた。

「ごちそうさまでした!」

「はい、お粗末様でした」

 満足そうなシャムを見て、微笑むエレイン。いつもの事なのだが、エレインはあまり食事に手を付けない。

(きっとお金があまりないから、お姉ちゃんは食べるのを我慢してるんだ。僕の為に)

 とシャムは思った。そして早く彼女を幸せに導いてあげたいと思った。

「じゃあ始めるよお姉ちゃん! 【編み物】!」

「うん。お願い」

 手早く食器を片付けたエレインはテーブルを挟んでシャムと向かい合わせに座る。

 シャムはエレインを見てニッコリ微笑むと、編み棒を取り出して目を閉じた。そして編み物をするような動作で、編み棒を動かし始める。

 その動作の事を、シャムの本当の両親は【神の編み物】と呼んでいた。

 彼らによればシャムは「神の子」であり、かつて世界を厄災やモンスターの襲撃から守った「因果の聖女」の生まれ変わりらしい。

 シャムが生まれる前、彼らは神のお告げを聞いたらしいのだ。それにより、シャムが人々を平和に導く存在である事を知った。

「私達の事はいいから。あなたは他の人の為に尽くしなさい」

 そう教わって育った。それが正しい事なのか間違っているのかはわからない。でもシャムは両親の事も幸せにしてあげたかった。彼らが病で死んだと聞いた時、シャムは激しく後悔した。

(だけど......もうどうにもならない。今出来る事をやろう。それは、大好きなお姉ちゃんを幸せにする事だ!)

 人を幸せにするのは、素晴らしい出会いだ。その出会いは、「運命の赤い糸」によって結ばれている。

 だが行動の選択次第で、その糸は簡単に解けてしまう。人生は選択の連続。一度も間違わずに全ての「運命の赤い糸」に出会う事は至難の技である。

 しかしシャムは、そのほどけている「赤い糸」を見つけ、結び直して手繰り寄せる。またはその結びつきを強固にする事で、絶好のタイミングで最高の出会いを演出する事が出来るのだ。

(お姉ちゃんの運命の人......赤い糸は、これだ!)

 シャムは早速一つ、赤い糸を見つけた。あとはそれを手繰り寄せ、エレインの「運命」の糸に編み込むだけだ。

(待っててね、お姉ちゃん! 今、運命の人に合わせてあげるからね!)

 シャムは意気揚々と、運命の糸を編み込んで行った。
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