【完結】未来を編む少年〜男爵家を追放された少年、実は運命を操作出来る「神の子」でした。没落したから助けて欲しいと言われても、今更遅いです〜

アキ・スマイリー

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第3話 逆境に立ち向かう。

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「とりあえず売れそうな物は、全部売っちゃおう」

 エレインは笑顔で身支度を始め、街へと繰り出した。シャムは彼女に手を引かれ、後をついて行く。

「何、これが純金? 嘘をつけ。お前のような貧乏人がそんな物を持っている訳がないだろう」

 貴金属を取り扱う質屋に交渉を始めたエレインだったが、ほとんど相手にされていなかった。

「あの、私は錬金術師で......この金は鉄を錬成して作った本物の純金なんです! 信じてください!」

 エレインは必死に訴えた。

「ああ!? 錬金術だぁ!? そんなギルドも無いような怪しい魔術なんざ信じられるか! とっとと失せろ!」

 質屋の主人は汚物を見るような目でエレインを睨み、シッシッと手で彼女を追い払う仕草をした。

「錬金術は魔術じゃありません! れっきとした古代の技術で......!」

「そんなもんどうでもいい! 早く消えろ! それからこれも買い取れねぇぞ! お前の着てた服や道具なんざ、気持ち悪くって売り物に出来るか!」

 エレインが差し出した衣類や雑貨を投げつけて来る主人。エレインは涙を堪えながらも、投げられた物がシャムに当たらないように彼を抱きしめ、静かに守った。

「お姉ちゃん......」

「大丈夫。お姉ちゃんは平気だよ。さぁ、次のお店に行こう」

 エレインは無理やり笑顔を作って立ち上がり、衣類や雑貨を拾い集めた。そして罵倒を受けながら質屋を出て、次の店に向かう。

 そこは薬屋だった。錬金術師は貴金属の錬成の他に、通常の薬剤師では調合出来ないような特殊な薬品を作成する技術を持っていた。エレインはそれを売り込む気なのである。

「飲むだけで傷が治る? そんなインチキまがいの薬、ウチに置ける訳がないでしょう!」

 薬剤師長の女がエレインの差し出した薬瓶を平手で叩き落とす。薬瓶は割れ、中の液体が水溜りを作る。

「これはポーションと言って、王都の薬屋では普通に売られているんです。希少なものには違いありませんが、インチキなどではありません」

 エレインは食い下がったが、女は白い目を向けて来るだけだった。

「そんな事はもちろん知っているわ。あなたが持ってきたソレがインチキだと言っているの! わかったらさっさと出て行って! そこの散らばったガラスと液体はちゃんと片付けてよ!」

 女が立ち去った後、エレインはガラスをかき集めて持ってきていた衣服で包んだ。溢れてしまったポーションも、彼女は自分の服で拭き取った。その間、カウンター内で忙しそうにしている薬剤師達はずっと白い目を彼女に向け続けていた。

「ごめんねシャム、もう大丈夫。行こう」

 エレインはシャムに右手を差し出した。だがシャムはモジモジとして、手を後ろに隠したままだ。

「どうしたのシャム。さぁ、お姉ちゃんと手を繋ごう?」

 するとシャムは意を決したように左手を出した。彼の手には傷が付いていた。そこからは赤い血がポタポタと流れ落ちている。

「シャム! その傷......!」

 そこまで言いかけてエレインは気がついた。さっきのガラスだ。薬剤師長が叩き落としたガラス瓶の破片が飛び散り、シャムの左手を傷つけたのだ。

「くっ......! 許せない......!」

 エレインの目に涙が溢れ、怒りがこもる。

「待って、お姉ちゃん! 僕なら平気だよ! 今怒ったって何にもならない。もっと酷い目にあうだけだよ。だから、もう行こう!」

「ううっ......! ごめんねシャム! ごめんねぇ!」

 エレインは大粒の涙を流してシャムを抱きしめた。そして薬剤師達には目もくれず、静かに店を出た。

「シャム、これを飲んで。そしたらすぐに傷が治るよ」

 エレインがシャムに差し出したのは、先程薬屋に売ろうとしたポーションと同じものだった。

「ありがとう、お姉ちゃん」

 シャムは一切疑う事なく、それを飲み干した。すると彼の左手の傷は、たちどころに消えて無くなった。右手で血を拭うと、もうすっかり元通りに見えた。

「すごいやお姉ちゃん! まるで魔術だね!」

 シャムは目を輝かせてエレインを見上げた。

「ありがとう。そう言ってくれるのはシャムだけだよ」

 エレインは微笑んで、シャムの髪を優しく撫でた。

「さぁ、行こう」

「うん!」

 シャムはポーションの効能を見て興奮していたが、エレインは落ち込んでいる様子だった。彼女は項垂れたまま、ゆっくりとした足取りで歩き続けた。たどり着いたのは公園だった。

 エレインは木製のベンチに腰掛け、深いため息を吐く。

「どうしよう......もう、自分以外に売れるものがないや......」

 それはエレインが初めて漏らした泣き言だった。だが、涙は流さない。少し悲しげな笑顔だった。

「だけど娼館に売られるなんて絶対にいや。シャムと離れ離れになっちゃうもの。シャムを、守れなくなっちゃう。だからね、昔の仲間をあたってみようと思うの。私、昔【冒険者】だったんだ。一緒にパーティーを組んでた仲間に、お金を貸してもらえないか頼んでみるよ」

 エレインは笑顔だったが、どこか辛そうだった。それは、まだわずか六歳の子供であるシャムにも良くわかった。

 シャムの両親も貧しさゆえに、よく金を借りに出かけていた。だがその時の表情は、やはり辛そうだったと思い出す。

「あのね、お姉ちゃん......僕、もう一度【編み物】を試してみたい。もしかしたら、お姉ちゃんの運命を変える事が出来るかも知れないから。男爵様の家では失敗しちゃったけど、何故か今なら出来る気がするんだ」

 シャムはそう言って、金色の編み棒を取り出した。だが所々金箔が剥がれ、黒い鉄が見えている。エレインはすぐにその事に気がついた。

「シャム、その編み棒ちょっと貸してもらえる?」

「うん。はい」

 エレインの申し出に、シャムは素直に編み棒を差し出す。

「ありがとう。うーん、やっぱりそうだ。あのね、シャム。この編み棒は純金じゃない。鉄の棒に金箔を張っただけの偽物だよ。本物は、きっとコリンズがどこかに売ってしまったんだ。本当に酷いやつだね」

「え、そんな......!」

 シャムは愕然とした。

「だけど安心して。私は錬金術師。鉄を金に変える事が出来る。朝飯前、とは行かないけどね。少し時間をくれたら、きっとその編み棒を純金に変えて見せるよ」

「本当!? ありがとうお姉ちゃん!」

 シャムはパァッと顔を輝かせる。

「ふふっ、お礼を言うのはまだ早いよ、シャム。それに運命を変えてもらうのは私なんだし。編み棒が純金になれば、きっと【編み物】はうまく行く。だからよろしくね、シャム!」

 エレインはそう言って、シャムの髪をクシャクシャと撫で、そして抱きしめた。

「ねぇシャム! お姉ちゃん、なんだか元気が出てきたよ! さぁ、家に帰ろう!」

「うん!」

 エレインは軽快な足取りで、シャムの手を引いて歩き始めた。それを見たシャムは嬉しくなって、同じように軽い足取りでエレインの後をついて行った。

 
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