【完結】TS聖女は因果を操る〜陰ながら「運命操作」で仲間を守ってきた僕。無能と罵られ、幼馴染を寝取られ追放されました。お前らなどもう知らん〜

アキ・スマイリー

文字の大きさ
上 下
13 / 14

第12話 呪いの正体

しおりを挟む
 アントレイアの街外れからしばらく歩くと、やがてダンジョンの入り口が見えてきた。

 ダンジョン(地下迷宮)とは言っても、一階は宮殿のような造りになっている。

 だがすべてが漆黒で彩られた禍々しいその外観は、普通の建物ではない事を見る者に感じさせる。

 夜闇の中、アデルと僕が持っている二つのランタンの明かりを手掛かりに進んで行く。

 タラスクが肩に担いでいる勇者セレスティンはすっかり大人しくなり、現在はただの荷物袋になっていた。

 やがてダンジョンの入り口に到着。ここから先の案内は「探索士」である僕の役目だ。

「いつも通り、ダンジョン一階の構造を調べてパターンを見るね。危険があればすぐに伝えるから安心して。じゃあ行こう。アデル、先頭をお願い」

「ああ、任せてくれ」

 アデルは僕を見て頷き、入り口の扉を開けて中に入って行く。僕達も後に続いた。

 ダンジョンの中は、外とは違って明るい。壁や天井が不思議な光を放ち、全域を照らしているのだ。

 僕達はランタンを消してリュックにしまい、先へ進む。

 いくつもの扉をあけ、分かれ道を選択し、探索して行く。モンスターは水棲生物に類する姿の者が多い。このダンジョン固有の特徴かも知れない。


 モンスターを倒しつつ、一階の探索を終える。これでこのダンジョンの構造はほぼ把握した。一階の特徴を知る事で、僕はダンジョンのパターンを見抜く事が出来る。探索士としては優秀な部類に入ると思う。

 トラップの類は僕の予知で全て回避し、モンスターはアデルとルカ、そしてユティファの見事な連携プレイで撃破していく。

 途中、宝箱も発見したが、全て無視した。今は先を急ぐ。呪いが完全になる前に石像を破壊しなくてはならないのだ。

 紆余曲折あって、ようやく最下層まで到達した。

 呪いを解く条件は、石像を破壊した後でセレスティンを殺す事。だがボスモンスターである
デアヌス・ヴォテプを先に倒すのは必須だ。

 何故なら人々にとっての厄災であるダンジョンを滅ぼす為には、ボスの持つ宝玉の破壊が必須。だがそれを行えるのはセレスティンだけ。

 ボスを倒すのはセレスティン抜きでやるとして、宝珠を手に入れたら、セレスティンに働いてもらわなきゃ。

「みんな! まずはボスを倒そう。このタラスクも協力するから」

「なんだと? 俺はそんな話聞いてねぇぞ。俺はマルコを守る為にいるんだ。戦闘には参加しない」

「そんな事言わないでさ。やってくれるでしょ、タラスク。マルファ様は、マルコの言う事聞いてって、言ってたでしょ?」

「うっ...チッ、わかったよ」

「ありがとう」

 タラスクは渋々ボス戦を引き受けてくれた。

「仕方ねぇ! テメェら足手纏いになんなよ! 行くぞ!」

「はい!」

 タラスクが戦闘に立ち、ボス部屋に突入していく。タラスクの強さは半端ではない。多分、本気の彼と戦えば僕もタダでは済まないだろう。彼は聖女マルファをエッチな目で見ていたので、油断が生じて敗北しただけだ。

 勝負はほとんど一瞬だった。タラスクは邪龍に変身する事もなく、人の姿のままでデアヌス・ヴォテプを八つ裂きにした。

「す、すごい......」

 みんなが驚愕と尊敬の眼差しでタラスクを見つめる。

「まぁざっとこんなもんよ。さて、あとは宝玉の破壊、だよなマルコ」

「うん。セレスティンにやらせて、タラスク」

「ああ、任せろ。オラ出てこい! クズ勇者!」

 タラスクは荷物袋をひっくり返して、セレスティンを床に落とした。

「いてぇ......!」

 セレスティンはタラスクをジロリと睨んだが、タラスクは圧倒的な迫力で睨み返す。その眼力は、見るもの全てを恐怖に陥れそうだ。


「こいつを聖剣で壊せ。出来なきゃお前をこの場で殺す」

 タラスクはそう言って、セレスティンの前に宝珠を置いた。

「ケッ。都合のいいように利用しやがって。わ、わかったよ! やるよ!」

 悪態をつくセレスティンに、再び脅しをかけるタラスク。セレスティンは怯えながら聖剣を出現させ、宝珠を破壊した。

「これでいいんだろ!」

「ありがとうセレスティン! みんな、これでこのダンジョンは崩壊を始める。急いで石像を破壊しよう」

 僕は先頭に立ち、みんなを誘導する。場所の目星はおおよそついている。

 タラスクは再びセレスティンを荷物袋に詰め込んで、僕の横を歩く。セレスティンはもはや、抵抗する気力もないようだ。

「ここだよ!」

 僕は巨大な扉の前で立ち止まった。まるでボス部屋のような威圧感が、その部屋からは漂っている

「マルコ下がれ。俺が開ける」

 タラスクが荷物袋を下にゴスンと置き、両手で扉を押し開ける。

「おいみろマルコ。あれだろ、石像って」

 だだっ広い部屋の中央に、不気味な怪物の姿をした石像がある。


「うん! あれだ! タラスクお願い!」

「任せろ! オラァ!」

 タラスクは大きく振りかぶり、拳の一撃で石像を破壊した。

「よし、これでいいんだな!」

「あ、うん!」

 あとはセレスティンを......殺さなきゃならない。

「これで俺たちは救われたんだな!」

「やりましたね!」

「ありがとう、マルコ! それにタラスクさん!」

 アデルとルカ、ユティファが僕とタラスクを囲む。

「あ、うん。あのね、実は......」

 僕がセレスティンの事を話そうとすると、セレスティンを入れていた荷物袋が不気味にグニョグニョと蠢いた。どう見ても人間の動きじゃない。

「なんだ!?」

 アデルがそう叫んだ瞬間、荷物袋が裂けて怪物が飛び出した。

「よくも石像を破壊してくれたな! せっかく勇者の体を使って、ケイオス様の望む混沌の世界に変えようとしてたのによぉ!」

 基本の姿はセレスティンだが、顔は醜く歪み、全身から触手が伸びている。

「ケイオスの手下が、セレスティンを乗っ取っていたのか...」

 僕は今までのセレスティンの悪行を振り返り、その理由に納得した。きっと石像が、この怪物の力を安定させていたんだ。デアヌス・ヴォテプの呪いだと思っていたのは、実はこいつの仕業だったんだ。

「ケイオスの手下なら、聖女の力で浄化出来る!」

 みんなの呪いを解く方法。石像を壊してセレスティンを殺すって言うのは、セレスティンを乗っ取ったこの怪物を殺すって事なんだ!

 みんなに僕が聖女だと知られてしまうけど......仕方ない。

「聖転換!」

 僕の姿が光に包まれ、聖女マルファに変身していく。

「ええっ! マルコが、マルファ様!?」

 ユティファが両手で口をおさえる。

「ロストレス・アルフォ! 聖換装!」

 服装も聖女の服に変化させ、僕はみんなに微笑んだ。

「黙っててごめん。僕が聖女マルファなんだ。みんな、あいつは僕に任せて。タラスク、みんなを守って」

「チッ。お前の言いつけなら仕方ねぇな」

 タラスクが渋々、三人の前に立つ。それを見届けた僕は、改めてセレスティンを乗っ取った怪物に向き合う。

「いくよ!」





しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん
ファンタジー
皆さまの応援のお陰でなんと【書籍化】しました。 応援本当に有難うございました。 イラストはサクミチ様で、アイシャにアリス他美少女キャラクターが絵になりましたのでそれを見るだけでも面白いかも知れません。 書籍化に伴い、旧タイトル「パーティーを追放された挙句、幼馴染も全部取られたけど「ざまぁ」なんてしない!だって俺の方が幸せ確定だからな!」 から新タイトル「勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!」にタイトルが変更になりました。 書籍化に伴いまして設定や内容が一部変わっています。 WEB版と異なった世界が楽しめるかも知れません。 この作品を愛して下さった方、長きにわたり、私を応援をし続けて下さった方...本当に感謝です。 本当にありがとうございました。 【以下あらすじ】 パーティーでお荷物扱いされていた魔法戦士のケインは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことを悟った彼は、一人さった... ここから、彼は何をするのか? 何もしないで普通に生活するだけだ「ざまぁ」なんて必要ない、ただ生活するだけで幸せなんだ...俺にとって勇者パーティーも幼馴染も離れるだけで幸せになれるんだから... 第13回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作品。 何と!『現在3巻まで書籍化されています』 そして書籍も堂々完結...ケインとは何者か此処で正体が解ります。 応援、本当にありがとうございました!

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

勇者の国~行き過ぎた主義の結果~【短編】

キョウキョウ
ファンタジー
ある時代に、勇者至上主義にしている王国があった。 そんな国で冒険者として働いていた男が居た。 彼のもとに、勇者の補佐という仕事を依頼しに4名の騎士が来る。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...